文献詳細
連載 病態解明・新規治療を目指した神経疾患の患者レジストリシステム・2
文献概要
はじめに
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)は,臨床的に緩徐進行性の下肢痙縮と筋力低下を主徴とし,病理学的に脊髄の錐体路,後索,脊髄小脳路の系統変性を主病変とする神経変性症候群である。家族性痙性対麻痺(familial spastic paraplegia:FSP)やシュトリンペル・ロラン症候群と呼ばれることもある。最近では,「遺伝性」を明示するために,遺伝性痙性対麻痺と呼ばれることが多い。
随伴症状の有無により,純粋型(pure form)と複合型(complicated form)に分けられ,前者は通常,痙性対麻痺のみを呈するが,時に膀胱直腸症状,振動覚低下,上肢の腱反射亢進を伴うことがある。後者はニューロパチー,小脳性運動失調,脳梁の菲薄化,精神発達遅延,痙攣,難聴,網膜色素変性症,魚鱗癬などを伴う1,2)。
遺伝形式からは,常染色体優性(AD-HSP),常染色体劣性(AR-HSP),X連鎖性(XL-HSP)に分けられる。頻度としては,AD-HSPが多く,AR-HSPは少なく,XL-HSPは稀である。純粋型はAD-HSPにおいて一般的であり,複合型はAR-HSPやXL-HSPに認められやすい。
従来はHarding3)が提唱した臨床像と遺伝形式からみた分類法が受け入れられていたが,今日では原因遺伝子座あるいは原因遺伝子そのものが発見された順に,遺伝形式とは関係なくナンバリングされた分子遺伝学的分類(SPG1〜SPG72)がなされている。最近のゲノム解析技術の発達により,今後も新たな原因遺伝子が次々と同定されるものと思われる。
欧米のHSPは,4.3〜9.8/10万人の有病率であるとされている4)。1988年から1989年にかけてのHirayamaら5)の疫学調査によれば,わが国では0.2/10万人の有病率であると推定されている。また,2008年Tsujiら6)は,特定疾患の臨床調査個人票の解析から10,487人の脊髄小脳変性症患者の4.7%をHSPが占めると報告している。しかし,これまで,わが国のHSPの実態は不明であり,希少疾患であるためにHSPにはなかなか光が当てられなかった。
本稿では,わが国のHSPについてその分子疫学と病態の解明,および治療法の開発を目的としたプロジェクトである,Japan Spastic Paraplegia Research Consortium(JASPAC)について紹介する。
遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia:HSP)は,臨床的に緩徐進行性の下肢痙縮と筋力低下を主徴とし,病理学的に脊髄の錐体路,後索,脊髄小脳路の系統変性を主病変とする神経変性症候群である。家族性痙性対麻痺(familial spastic paraplegia:FSP)やシュトリンペル・ロラン症候群と呼ばれることもある。最近では,「遺伝性」を明示するために,遺伝性痙性対麻痺と呼ばれることが多い。
随伴症状の有無により,純粋型(pure form)と複合型(complicated form)に分けられ,前者は通常,痙性対麻痺のみを呈するが,時に膀胱直腸症状,振動覚低下,上肢の腱反射亢進を伴うことがある。後者はニューロパチー,小脳性運動失調,脳梁の菲薄化,精神発達遅延,痙攣,難聴,網膜色素変性症,魚鱗癬などを伴う1,2)。
遺伝形式からは,常染色体優性(AD-HSP),常染色体劣性(AR-HSP),X連鎖性(XL-HSP)に分けられる。頻度としては,AD-HSPが多く,AR-HSPは少なく,XL-HSPは稀である。純粋型はAD-HSPにおいて一般的であり,複合型はAR-HSPやXL-HSPに認められやすい。
従来はHarding3)が提唱した臨床像と遺伝形式からみた分類法が受け入れられていたが,今日では原因遺伝子座あるいは原因遺伝子そのものが発見された順に,遺伝形式とは関係なくナンバリングされた分子遺伝学的分類(SPG1〜SPG72)がなされている。最近のゲノム解析技術の発達により,今後も新たな原因遺伝子が次々と同定されるものと思われる。
欧米のHSPは,4.3〜9.8/10万人の有病率であるとされている4)。1988年から1989年にかけてのHirayamaら5)の疫学調査によれば,わが国では0.2/10万人の有病率であると推定されている。また,2008年Tsujiら6)は,特定疾患の臨床調査個人票の解析から10,487人の脊髄小脳変性症患者の4.7%をHSPが占めると報告している。しかし,これまで,わが国のHSPの実態は不明であり,希少疾患であるためにHSPにはなかなか光が当てられなかった。
本稿では,わが国のHSPについてその分子疫学と病態の解明,および治療法の開発を目的としたプロジェクトである,Japan Spastic Paraplegia Research Consortium(JASPAC)について紹介する。
参考文献
1) McDermott CJ, Shaw PJ: Hereditary spastic paraplegia. Eisen AA, Shaw PJ (eds): Handbook of Clinical Neurology, Vol. 82.Motor neuron disorders and related diseases. Elsevier Science, Amsterdam, 2007, pp327-352
2) 瀧山嘉久: 遺伝性痙性対麻痺. 柳澤信夫, 篠原幸人, 岩田 誠, 清水輝夫, 寺本 明 (編): Annual Review神経. 中外医学社, 東京, 2008, pp198-211
3) Harding AE: Hereditary "pure" spastic paraplegia: a clinical and genetic study of 22 families. J Neurol Neurosurg Psychiatry 44: 871-883, 1981
4) Finsterer J, Löscher W, Quasthoff S, Wanschitz J, Auer-Grumbach M, et al: Hereditary spastic paraplegias with autosomal dominant, recessive, X-linked, or maternal trait of inheritance. J Neurol Sci 318: 1-18, 2012
5) Hirayama K, Takayanagi T, Nakamura R, Yanagisawa N, Hattori T, et al: Spinocerebellar degenerations in Japan: a nationwide epidemiological and clinical study. Acta Neurol Scand 153: 1-22, 1994
6) Tsuji S, Onodera O, Goto J, Nishizawa M; Study Group on Ataxic Diseases: Sporadic ataxias in Japan: a population-based epidemiological study. Cerebellum 7: 189-197, 2008
7) 瀧山嘉久, 辻 省次, 佐々木秀直, 服部孝道, 湯浅龍彦, 他: 痙性対麻痺全国共同研究の提案——JASPAC (Japan Spastic Paraplegia Research Consortium). 厚生労働省難病性疾患克服研究事業 運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究班 平成17年度研究報告書. 厚生労働省, 2006, pp115-118
8) 瀧山嘉久, 嶋崎晴雄, 迫江公己, 欧陽 疑, 滑川道人, 他: 本邦における遺伝性痙性対麻痺の検討——JASPAC一次アンケート調査より. 厚生労働省難病性疾患克服研究事業 運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究班 平成18年度研究報告書. 厚生労働省, 2007, pp101-103
9) 辻 省次, 石浦浩之, 高 紀信, 嶋崎晴雄, 三井 純, 他: 常染色体劣性遺伝が疑われた遺伝性痙性対麻痺88例のexome解析. 厚生労働省難病性疾患克服研究事業 運動失調症の病態解明と治療法開発に関する研究班 平成25年度総括・分担研究報告書. 厚生労働省, 2014, pp83-86
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11) Antonicka H, Ostergaard E, Sasarman F, Weraarpachai W, Wibrand F, et al: Mutations in C12orf65 in patients with encephalomyopathy and a mitochondrial translation defect. Am J Hum Genet 87: 115-122, 2010
12) Tucci A, Liu Y-T, Preza E, Pitceathly RD, Chalasani A, et al: Novel C12orf65 mutations in patients with axonal neuropathy and optic atrophy. J Neurol Neurosurg Psychiatry 85: 486-492, 2014
13) Shimazaki H, Honda J, Naoi T, Namekawa M, Nakano I, et al: Autosomal recessive complicated spastic paraplegia with lysosomal trafficking regulator gene mutation. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2014 Feb 12 [Epub ahead of print]
14) Fink JK: Hereditary spastic paraplegia: clinico-pathologic features and emerging molecular mechanisms. Acta Neuropathol 126: 307-328, 2013
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