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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩66巻11号

2014年11月発行

雑誌目次

増大特集 神経症候学は神経学の“魂”である

フリーアクセス

ページ範囲:P.1246 - P.1247

シャルコー

著者: 作田学

ページ範囲:P.1249 - P.1257

シャルコーは1850年当時まだ混沌の中にあった神経疾患患者を分類し,診断していった。その方法論は患者の家族歴・病歴を聴取し綿密な観察を行い,死後は解剖で病変を確認するというものだった。2つの疾患を比較し,光をあてる。十分に症状が現れている基本型を学んだ後,症状が1つだけ単独で生じているような不全型をも認識できなければならないとした。その過程で彼は多くの新しい神経症候学を明らかにしたのだった。

ジャクソンの運動症候論

著者: 山鳥重

ページ範囲:P.1259 - P.1267

ジャクソンの臨床神経学への貢献は多岐にわたるが,本稿では,その中から一側開始痙攣(いわゆるジャクソンてんかんと痙攣の行進),テタヌス類似発作(いわゆるジャクソン小脳発作),および小脳姿勢(後の除脳硬直)の3種の運動症候に的を絞り,それぞれの症候の特徴および発症メカニズムについての彼の仮説を紹介した。また,大脳運動系と小脳運動系はお互いに「協調対立」関係にあるとする,彼の力動論にも言及した。

ガワーズ—「神経学のバイブル」の著者

著者: 廣瀬源二郎

ページ範囲:P.1269 - P.1277

ウイリアム・ガワーズは臨床神経学の偉大なパイオニアの1人であり,神経学のバイブルとされる教科書『A Manual of Diseases of the Nervous System』の著者でもある。彼の神経学は患者からの詳細な病歴聴取,注意深く細心の診察から得られた徴候,症状の膨大な蓄積をもとに構築され完成されたものである。彼の偉大さは立派な臨床神経科医であることに加えて,その熱心な教育者としての考え方および態度である。彼を深く知ることで神経学の魂に触れることができよう。

バビンスキー—神経症候学への貢献

著者: 古川哲雄

ページ範囲:P.1279 - P.1286

バビンスキーはすぐれた臨床家で,彼についてはアンドレ ブルトンの興味ある記載がある。彼はバビンスキー反射で有名であるが,持続性バビンスキー徴候には気づいていなかった。彼の小脳症候学への貢献は膨大で,小脳性アシネルジー,ディアドコシネジー,測定異常,小脳性カタレプシー,偏奇歩行試験などを含む。ほかに起き上がり試験,広頸筋徴候,病態失認なども彼の記載に始まる。これらの徴候について概観し,それぞれに私見を述べた。

キニア=ウィルソン

著者: 菊池雷太

ページ範囲:P.1287 - P.1292

キニア=ウィルソンは,後にウィルソン病といわれる進行性レンズ核変性症を発表し,錐体外路研究のパイオニアと見なされる。彼の神経症候学は若い頃に見学したマリー,バビンスキー,ジャクソンの臨床観察を基礎としている。現症の本質は何かを考えながら診察することこそ神経症候学であり,神経学の魂である。彼の魂がどのように形成されていったのかを紐解きながらその半生を紹介する。

モンラッド-クローン—ノルウェーの臨床神経学者

著者: 髙橋昭

ページ範囲:P.1293 - P.1299

モンラッド-クローンは20世紀前半に活躍した北欧を代表する臨床神経学者である。彼の神経学領域における畢生の研究はベッドサイドにおける神経徴候の観察・分析・病態解析であった。200に達する論文の多くはノルウェー語で書かれたために,日本人にはやや馴染みが少ない。しかし,背理性表情過多や韻律障害の徴候は,モンラッド-クローンの冠名徴候として知られている。彼が1921年に最初ノルウェー語で著わした『神経系の診察』はその後多くの西欧語版が出版され,版を重ね,広く世界中で愛読された。

ワルテンベルク

著者: 葛原茂樹

ページ範囲:P.1301 - P.1308

ワルテンベルク(1887-1956)は旧リトアニア領グロドノで生まれ,南独のフライブルク大学で活躍したが,1935年にナチスを逃れて米国に渡り,カリフォルニア大学サンフランシスコ校を拠点に活動した。ワルテンベルク反射など反射と徴候に関する多数の論文があり,著書の『反射の検査』と『神経学的診察法』は1950年代に日本語にも翻訳され広く読まれた。高額で時間がかかり侵襲を伴う検査は最小限にとどめ,診察と徴候に依拠して診断と治療を行うという医の真髄を実践した。

クリッチュリー

著者: 本村暁

ページ範囲:P.1309 - P.1315

本論文では,クリッチュリーの略歴と著述を概観した。著作の中で,『鏡像書字(1928)』『失語症学(1970)』を取り上げ,失語観を論じた。『鏡像書字』は鏡像書字の定義,症候,および類似症候を概観したものである。本書は現在もなお,これらの稀な症候の検索に有用である。クリッチュリーは基本的に脳の機能と障害についてジャクソンの考想——進化と解体——を継承してきた。クリッチュリーの全体論的な失語観を述べた。

神経症候学に関するクリッチュリーの思想の核心は,脳と行動,言語の起源を探索する姿勢であろう。

チャールズ ミラー フィッシャー—偉大なる観察者

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.1317 - P.1325

チャールズ ミラー フィッシャーは脳卒中学の創始者である。臨床-病理学的観察から脳梗塞の発症機序のすべてを解明した。すなわち心房細動と塞栓症,一過性単眼盲と内頸動脈疾患,ラクナ梗塞とラクナ症候群。しかも,抗凝固,抗血小板,頸動脈内膜剝離術などの治療に結びつけた。さらに,正常圧水頭症やミラー フィッシャー症候群などGeneral Neurologyにも貢献し,晩年には人間行動の神経学への道筋をも示した。総じて彼は偉大な観察者であった。

ゲシュヴィンド—人と業績

著者: 櫻井靖久

ページ範囲:P.1327 - P.1336

ゲシュヴィンドの経歴と業績について紹介した。ハーバード大学卒業後,ボストン大学,ハーバード大学で活躍した。ゲシュヴィンドの名を有名にした離断症候群について,純粋失読,伝導失語,純粋語聾,言語野孤立症候群,失行を例にとって紹介し,ウェルニッケ・ゲシュヴィンドモデルについても触れ,また側頭葉てんかんの性格変化(ゲシュヴィンド症候群),大脳半球の側性化(ゲシュヴィンド-ガラバルダ仮説を含む)の研究などその他の代表的な業績についても述べた。

マースデン—生理学的基礎知識に基づいた優れた臨床神経学者

著者: 宇川義一

ページ範囲:P.1337 - P.1345

英国留学でお世話になったマースデン教授について,自分の経験を交えて紹介した。一言で言うと,新しいことを発見する目を持った優れた臨床神経内科医であり,臨床のアイデアを研究に結実する能力に長けていた。さらに魅力的な人で,カリスマ性があり,人をまとめて大きく世界を動かすこともできる政治的な手腕も有していた。彼と出会えたことは,私にとって幸運であったと思っている。

ハンス リューダース

著者: 辻貞俊

ページ範囲:P.1346 - P.1354

リューダースは,慢性硬膜下電極によるてんかん焦点の外科治療術前評価法,てんかん領域の決定や大脳皮質機能マッピングを確立し,てんかん学の新概念とてんかん発作症候学に基づいた新てんかん発作分類を提唱している。側頭葉底部言語野(BTLA)を発見し,電気刺激で受容性および表出性失語が惹起されることを示した。純粋失読に関連する視覚性言語野がBTLA後方の紡錘状回にあることも発見した。陰性運動野の部位とその症候を電気刺激で発見し,詳細に解析した。

田邉敬貴—神経精神科医として王道を行く

著者: 橋本衛 ,   福原竜治 ,   池田学

ページ範囲:P.1355 - P.1362

田邉敬貴は昔ながらの神経精神科医であり,認知症,特に前頭側頭型認知症の分野において多大な貢献をした。彼は意味性認知症患者の呈する語義失語に注目し,側頭葉の限局性萎縮により選択的な意味記憶障害が引き起こされることを指摘した。さらに田邉は前頭側頭型認知症の行動障害に注目し,その病態像を整理した。後年田邉は精神医学の実践に神経症候学・神経心理学が重要であると繰り返し訴えた。「神経症候学は神経学と精神医学の両方に関わる学問であり,神経学を実践する際にも精神医学を実践する際にも必要である」,神経精神科医である田邉はまさしくその中心にいた。

ホッジス—神経症候学と神経心理学の融合を目指して

著者: 池田学

ページ範囲:P.1363 - P.1371

ホッジスは,英国人のbehavioral neurologistであり,認知症の症候学的研究に輝かしい足跡を今も遺し続けている。特に意味性認知症と行動異常型前頭側頭型認知症の臨床研究において,20年以上にわたって世界の研究をリードしてきた。ホッジスの研究の特徴は,彼の臨床医としての鋭い観察眼と豊富な神経心理学的視点に基づくものであり,神経画像や神経病理学をも駆使して神経基盤を常に念頭におき,さらには治療やケアをも視野に入れた,極めて広範なものである。それを支えているのは,精神科医,神経放射線科医,神経心理学者,神経病理医,ソーシャルワーカー,作業療法士,看護師,分子生物学者などとの幅広い協働である。傑出した神経心理学者であるKaralyn Pattersonは,特に重要な研究パートナーである。ホッジスは,卓越した臨床医であると同時に巧みに組織化された巨大研究グループの提督のようでもある。

ボグスラブスキー

著者: 山本晴子

ページ範囲:P.1372 - P.1377

ボグスラブスキーは,スイス・ローザンヌ大学中央病院神経内科在籍中にローザンヌ脳卒中レジストリを構築するなど,膨大な業績を築いた。本稿では,神経症候学という観点から,①眼球運動障害など特定の病巣を原因とする特定の神経症状,②特定の脳血管領域の障害に起因する症候学,そして③器質性脳病変に由来する精神症状(または高次脳機能障害)の3つのテーマについて,その業績を紹介する。

総説

認知症とてんかんの交差点

著者: 岩田淳

ページ範囲:P.1379 - P.1384

アルツハイマー病(AD)患者のてんかんの合併は単なる偶発的なものではなく,易凝集性アミロイドβによるシナプス機能不全が関与している可能性がある。てんかん発作はその結果さらに発作を生じやすくする神経回路形成を誘導するが,それは脳の可塑性の関与する現象である。一方で,AD脳での可塑性は低下しており,てんかん発作後に神経回路形成の誘導が生じにくいことが,AD合併てんかんが治療に反応しやすい病理学的背景であろう。

封入体筋炎の病態と原因

著者: 村田顕也 ,   伊東秀文

ページ範囲:P.1385 - P.1394

封入体筋炎は,高齢者に好発する後天性筋疾患である。臨床的には,上肢遠位部と大腿四頭筋の筋萎縮・筋力低下が著明である。封入体筋炎は,多発筋炎や皮膚筋炎などの炎症性筋疾患の要素と,筋線維内への各種蛋白の沈着や空胞形成といった変性疾患の要素を併せ持つユニークな疾患であり,通常の免疫療法には治療抵抗性である。

連載 病態解明・新規治療を目指した神経疾患の患者レジストリシステム・3

筋ジストロフィー:Remudy

著者: 木村円 ,   中村治雅 ,   西野一三

ページ範囲:P.1396 - P.1402

はじめに

 「一日も早く」は,今年51年目を迎えた日本筋ジストロフィー協会会誌のタイトルであり,1日も早く難治性疾患で苦しむ患者・家族に,根治的な治療法を届けることは,難病医療に携わる者,すべての願いである。

 筋ジストロフィーの治療研究は,近年の基礎医学研究の進歩により病態の解明とモデル動物を用いた治療研究がめざましく進展したことで,すみやかな臨床応用が期待されてきた。特に,開発中のエクソンスキッピング薬,リードスルー薬などの遺伝子標的治療薬は病態の根本に対する治療法であり,その開発には大きな期待が集まっている。しかしながら,創薬のスキームに沿った開発を行うためには,その過程で円滑に実施されるべき臨床試験に多くの困難が想定されてきた。疾患の罹患患者数やその実態把握,臨床試験の対象となる患者数,試験参加者のリクルートなどの臨床試験の実行可能性の問題,また試験計画策定時の臨床試験デザイン,エンドポイント設定の問題など,多くの課題が挙げられている。

 すなわち,目の前の患者に治療を届けるためには,希少な患者情報をできるだけ多く収集し,疫学,自然歴,介入によって改善することが予想される臨床的な指標,さらには診断や病態を反映し臨床試験のサロゲートマーカーとなり得るバイオマーカーの探索のために,臨床研究基盤を整備する必要があり,そのうえでグローバル臨床開発研究を推進することの重要性が議論されてきた。

神経学を作った100冊(95)

ペンフィールド『てんかんと大脳局在』(1941)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1412 - P.1413

 ペンフィールド(Wilder Graves Penfield;1891-1976)は外科医の祖父,父のもとに,米国のスポケーンで生まれ,ウィスコンシン州ハドソンで育った。もともとペンフィールド家は英国南西部の端,コーンウォール州の出身であるが,彼の地の人々はケルト系で総じて強情な気質であるという。13歳のときに英国へ渡れるローズ奨学金のことを母が知り,「この奨学金はワイルド,あなたのためにできたようなものよ」と語り,それ以降,ペンフィールドはひたすらローズ奨学金をめざして勉強しプリンストン大学へ進学した。その後,ハーバード大学で人体解剖学の講義を2カ月間受けたのち,ようやくローズ奨学金を得てオックスフォード大学へ留学した。ここで彼はオスラー(William Osler;1849-1919),シェリントン(Charles Scott Sherrington;1857-1952)の知遇を得て彼らの講義を受け,1916年の秋にジョンズ・ホプキンス大学医学部の3年次に編入した。1918年から1919年にかけて,ボストンのピーター・ベント・ブリガム病院で外科のインターンとなったが,同科の主任はクッシング(Harvey Williams Cushing;1869-1939)だった。1920年には再び英国にわたりオックスフォード大学,英国立神経学・神経外科学病院(クイーン・スクエア)に籍を置いた。ここでホームズ(Gordon Morgan Holmes;1876-1975),ウィルソン(Samuel Alexander Kinnier Wilson;1878-1939),グリーンフィールド(Joseph Godwin Greenfield;1884-1958)らに教えを請い,脳神経外科の道に進むことを決意した。1920年にクイーン・スクエアで脳神経外科の手術を見学したとき,既にこの分野のリーダーシップは米国に移っていることを感じたという。

 1921年にニューヨークのプレスビテリアン病院(コロンビア大学の教育病院)に勤務した。この頃ジョンズ・ホプキンス大学のダンディ(Walter Edward Dandy;1886-1946)によって脳室造影法が開発されていたので,ボルチモアに見学に行き,自分の臨床に取り入れた。この年に初めて2例の大きな脳外科手術を行ったが,2例とも死亡したという。1924年に半年間,スペインのカハール研究所へ行き,特にオルテガ(Pio del Rio-Hortega;1882-1945)に染色法を習った。ここでの研究は『Brain』誌に彼の単独名で発表された1)。1927年にはモントリオールに移ることに同意し,半年間ドイツのブレスラウにいるフェルスター(Otfrid Foerster;1873-1941)を訪れ,共同研究をした。ここでてんかんの手術について学んだ。1928年から王立ヴィクトリア病院,マギル大学に移ったが,ここでロックフェラー財団の出資により,モントリオール神経研究所を立ち上げ,神経病理学,神経内科学と脳神経外科学とが対等に協力するという長年の夢をかなえた2)

症例報告

進行性筋萎縮症の1剖検例—進行性筋萎縮症はlower-motor predominant ALSの1亜型である

著者: 小阪崇幸 ,   俵哲 ,   原田正公 ,   高橋毅 ,   村山寿彦

ページ範囲:P.1405 - P.1409

進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy:PMA)は下位運動ニューロンを選択的に侵す疾患として1850年にAranにより最初に記載された疾患概念である。筆者らは臨床的にPMAと考えられ,病理学的にlower-motor predominant ALSと診断しえた1剖検例を経験した。脊髄残存神経細胞胞体内にはリン酸化TDP-43陽性封入体を認め,PMAがTDP-43プロテイノパチーのスペクトラム上に存在する下位運動ニューロン優位型ALSであることを示唆する貴重な報告と考えられた。

学会印象記

7th Conference of the Peripheral Nerve Society/Inflammatory Neuropathy Consortium Meeting(2014年7月13〜16日,デュッセルドルフ)

著者: 小池春樹

ページ範囲:P.1410 - P.1411

 2014年7月13日(日)〜16日(水),ドイツのデュッセルドルフにおいて開催された7th Conference of the Peripheral Nerve Society (PNS)/Inflammatory Neuropathy Consortium (INC) Meetingに参加してまいりました。この会はPNSのサテライトミーティングであり,免疫性・炎症性ニューロパチーのケアと治療を改善することを目的として,2007年4月に当時PNSのpresidentであったRichard Hughesが中心となって設立したINCが開催しています1)。PNS Biennial Meetingが開催されない年に隔年で開かれており,2012年のオランダ・ロッテルダムに続き,今回の本会議開催となっています。

 会場はデュッセルドルフの繁華街から少し離れたライン川のほとりにあるHyatt Regency Düsseldorfでした(写真1)。会場から歩いて30分程度のところにある旧市街には居酒屋がひしめきあっており,「世界で最も長いバーカウンター」といわれているそうです。アルトビールという(写真2),デュッセルドルフ独特の苦味の利いたビールを木樽から注いで供するビアホールには,まだ明るいうちから多くの人々が集まってきます(写真3)。居酒屋の中にはSchwan(nが1つ増えるとシュワン細胞のSchwann)という名前のものもあり(写真4),この街と末梢神経分野の研究との深い結びつきを感じました。また,デュッセルドルフはドイツの経済の中心地で,日本企業の駐在員も多く居住しており,街中では日本人も多く見かけました。

書評

「神経症状の診かた・考えかた General Neurologyのすすめ」—福武敏夫●著 フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.1278 - P.1278

 福武敏夫先生ご執筆の『神経症状の診かた・考えかた——General Neurologyのすすめ』が出版されました。福武先生でなくては書くことができないユニークな内容です。神経内科医であれば初心者から上級医まで,広い範囲の先生方に太鼓判を押してお薦めできます。一般内科の先生方や,リハビリテーション医,メディカル・スタッフにも有益な本であると思います。本来難しいことがわかりやすく表現されているのがこの本の最も大きな特徴です。

 全体は3つの部分から構成されています。すなわち,第Ⅰ編「日常診療で遭遇する患者」,第Ⅱ編「緊急処置が必要な患者」,第Ⅲ編「神経診察のポイントと画像診断のピットフォール」からなっており,第Ⅰ編の第7章はなんと「『奇妙』な症状」とされています。その前の第6章は,神経内科医があまり得意ではない「精神症状,高次脳機能障害」です。第Ⅰ編の第1章・2章・3章が,「頭痛」「めまい」「しびれ」で,いわゆるコモン・ディジーズであり,この本では奇妙な症状もコモンな病態も同等に扱われて,平等に並んでいるのです。第Ⅱ編の第3章は「急性球麻痺」そして第4章が「急性四肢麻痺」であり,その組み立ての特異さが際立っています。さらに,それぞれの章に多くの具体的症例が,病歴・診察内容・検査や診断の過程とともに掲載されていて,わかりやすい読み物をめざして執筆された著者の気持ちが伝わってきます。

「Pocket Drugs 2014」—福井次矢●監修 小松康宏,渡邉裕司●編 フリーアクセス

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1326 - P.1326

 くすりの種類は年々膨大となっており,薬剤についての広範囲に及ぶ知識はもはや医師の記憶容量の限界を超えてしまっている。それでもポイント・オブ・ケアの臨床現場では,普段使い慣れていない薬剤についての情報が必要となる場面は多い。そんな時,臨床医はどのようなリソースを用いて薬剤情報を入手しているのだろうか。ネット上や電子カルテ内にあるdrug information(DI)や添付文書,製薬会社作成のパンフレット,あるいは薬剤出版物などを使用することもあるであろう。DIや添付文書は,網羅的記載ではあるが単調な内容で,重要ポイントがしばしば不明瞭である。また,薬剤パンフレットやチラシはどうしても製薬会社バイアスがあり,信頼性に乏しい点がある。このようなことから,ネットが普及してベッドサイドでモバイル端末が導入され,検索スピードはアップしたものの,こと薬剤情報については欲しい情報を得るには意外と苦労する。

 最前線で患者ケアに従事する臨床医にとって重要な情報は,薬剤情報の中でもエビデンスサマリーと信頼できる臨床医の生のアドバイスだ。それもあまり長い文章ではいけない。臨床現場では時間管理が常に優先されるからだ。エビデンスサマリーと専門家のアドバイスがバランスよく記述されている『Pocket Drugs』は臨床医にとってとても役に立つリソースとなることは間違いない。

「てんかん症候群—乳幼児・小児・青年期のてんかん学(原書 第5版)」—井上有史(静岡てんかん・神経医療センター)●監訳 フリーアクセス

著者: 永井利三郎

ページ範囲:P.1403 - P.1403

 本書は,本書の日本語版の序文で井上有史先生が述べておられるように,世界中で読まれているてんかん学の教科書です。近年,国際抗てんかん連盟(ILAE)の新しいてんかん症候群分類の提案があり,本書はそれに基づいて第5版として刊行されたもので,各てんかん症候群について詳細な記載がなされており,てんかん学の基本となる本です。本書の日本語版の刊行に当たった井上有史先生をはじめ,静岡てんかんセンターの先生方に感謝いたします。本書の特色は,何と言ってもDVDが添付されており,動画でてんかん発作を見ることができることです。この動画をご提供いただいた当事者やご家族の方々に心から感謝したいと思います。

 今ほどてんかんに関する教育の意義が高まっている時期はこれまでになかったと思われます。てんかんの有病率は約1%と言われ,これはわが国に,約100万人のてんかん患者がおられることになります。日本てんかん学会の会員は現在2,000人余りで,このうちてんかん専門医は400人余りであり,当然ながらてんかん患者の診療には,てんかん専門医以外の多くの医師が関わっています。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1325 - P.1325

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1414 - P.1415

あとがき フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.1416 - P.1416

 神経症候学は神経学の基本であり,“魂”ともいえると思います。

 私は,横浜市立大学の学生のときに平山惠造先生の『神経症候学』を読み,神経内科医になりたいと思いました。ぼろぼろになった『神経症候学』第1版を病院でいつも使っているパソコンのそばの本棚にそっと置いています。元気がなくなりそうになったときには,この本を眺めることにしています。この本を見ると不思議なことに,若いときの気持ちを思い出すことができ,気分が変わります。専門医試験に合格した頃,自分の専門領域として神経心理学を選びました。ちょうどその頃,新規の画像診断法が次々に世に出ました。神経内科医として神経心理学にアプローチするためには「大脳病変の神経症候学」が必要であると考えました。現在でもこのアプローチが神経心理学研究に必須の手法であると考えています。これらが,私が神経症候学にとりわけ強い思い入れを持つ個人的理由であると思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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