文献詳細
連載 病態解明・新規治療を目指した神経疾患の患者レジストリシステム・4
ギラン・バレー症候群:IGOS
著者: 海田賢一1 楠進2
所属機関: 1防衛医科大学校内科学講座神経・抗加齢血管内科 2近畿大学医学部神経内科
ページ範囲:P.1496 - P.1502
文献概要
急性免疫介在性末梢神経炎であるギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)の病態解明は1980年代後半の糖脂質に対する自己抗体の発見に端を発し,先行感染病原体の糖鎖分子に関する分子相同性機序の証明,ガングリオシド感作動物モデルの作製,抗ガングリオシド抗体陽性GBSの臨床像の解析,末梢神経におけるガングリオシドの局在に関する研究などを通じてこの20年間に大きく進歩した。特に最近は補体活性化を介した神経障害など抗体介在性神経障害機序の詳細が明らかになりつつある。治療に関しては血液浄化療法,免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin therapy:IVIg)がランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)において有効性が示されている。
一方で,GBSの約4割は抗ガングリオシド抗体が陰性であり,特に脱髄が主病態であるAIDP(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy)ではガラクトセレブロシドやLM1などミエリンの抗原に対する抗体陽性例もあるが,標的分子は不明のことが多い。また臨床経過も均一ではなく治療不応例も少なからず存在するが,治療反応性に関連する因子はごく限られたものしかわかっていない。臨床像に人種差,地域差があることも指摘されているがその理由は不明である。これらの問題を解決することはGBSの病態解明,予後改善に重要であるが,これまでのような各地域,各研究グループによる限られた症例数の解析では正確な結論を迅速に出すことには限界がある。そこで,Inflammatory Neuropathy Consortium(INC)およびその母体であるPeripheral Nerve Society(PNS)によって多施設共同による国際的前向き観察研究が計画され,実施されている。これがGBSの予後予測に関する国際共同研究,IGOS(International GBS Outcome Study)である。IGOSの目的は,GBSの臨床経過と予後を規定する臨床的・生物学的因子を明らかにすること,特に発症後早期にこれらを予見できる因子を同定することである。ここでは,GBSの予後関連因子に関する現在の研究状況を概観し,国際的な患者レジストリシステムであるIGOSについて解説する。
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