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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩66巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 神経筋疾患の超音波診断

フリーアクセス

ページ範囲:P.206 - P.207

特集の意図

 神経筋疾患に対する超音波診断が,最近急速に普及してきている。頸動脈エコーと同じ機器を用いることができる手軽さのうえに,末梢神経肥厚や筋の輝度変化など形態的変化のみならず,線維束性収縮や線維性収縮をも可視化することができる。それが多くの人の注目を集めている理由であろう。本特集では,超音波診断が有用な代表的疾患について,何がどのように見え,どの程度診断に寄与するのか,現時点での知見をまとめた。また,本誌初の試みとして超音波画像の動画を付した項目もあるので,誌面と合わせてご覧いただければ幸いである。

手根管症候群の超音波診断

著者: 中道健一

ページ範囲:P.209 - P.221

手根管症候群の超音波検査に関し,①検査法,②解剖と画像,③病態,④特発例の診断,⑤局所病変(占拠性病変,腱滑膜炎,骨,関節病変),不全切離,解剖学的変異の検索,⑥手術の低侵襲化について述べる。

炎症性ニューロパチーの超音波診断

著者: 杉本太路 ,   越智一秀 ,   細見直永 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.223 - P.228

炎症性ニューロパチーの超音波所見は主に神経肥厚であり,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP),多巣性運動ニューロパチー,ギラン・バレー症候群,血管炎性ニューロパチー,ハンセン病で報告がある。超音波検査はニューロパチー診断の補助的役割を期待される。その一例にCIDPと脱髄型シャルコー・マリー・トゥース病との鑑別が挙げられる。研究途上の分野であり,今後詳細な検討による知見の蓄積が期待される。

ALSの超音波診断

著者: 三澤園子

ページ範囲:P.229 - P.236

神経筋疾患の診断に,超音波検査が一般的に利用されるようになりつつある。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断においても,超音波検査の応用が始まっている。ALS診断で試用されている超音波の検査項目には,エコー輝度,筋の厚さ,線維束性収縮がある。現時点では手技の標準化,一般化はまだ十分とはいえない。しかし,ALSで特徴的である線維束性収縮は非侵襲的かつ容易な手技で明確に描出でき,診断に貢献できる可能性がある。ALSでは確定診断に至るまで,筋電図検査が繰り返し行われることが多い。今後,痛みのないALS診断への超音波検査の貢献が期待される。

シャルコー・マリー・トゥース病の超音波診断

著者: 能登祐一

ページ範囲:P.237 - P.246

近年,高解像度プローブの開発により神経や筋の詳細な超音波イメージングが可能となった。これを受けて,超音波検査は,神経内科領域でも,末梢神経疾患の診断の補助として,欧米を中心に広く用いられるようになってきている。本稿では,神経根の観察も含めた末梢神経の超音波検査の基本的な実施方法を述べるとともに,シャルコー・マリー・トゥース病患者の,遺伝子異常で分類したサブタイプごとの神経超音波検査所見について概説する。

筋疾患の超音波診断

著者: 高松直子 ,   森敦子 ,   野寺裕之

ページ範囲:P.247 - P.257

筋疾患が疑われる患者の診断と治療において筋画像検査が重要となっている。超音波検査は広範な筋の評価を短時間で行うことができ,筋ジストロフィーや筋炎における輝度異常,サルコイドミオパチーや封入体筋炎のような局所の異常を認める。筋生検が必要な症例においては,超音波で適切な生検部位の選択を行うことができる。今後の課題としては,超音波検査とそれ以外の画像所見や臨床所見などとの相関をみる必要がある。

総説

筋強直性ジストロフィー研究の現在

著者: 趙一夢 ,   石浦章一

ページ範囲:P.259 - P.264

筋強直性ジストロフィーは,筋症状を主とする遺伝性・進行性多臓器疾患である。責任遺伝子の異なるⅠ型,Ⅱ型があり,日本での罹患率は10万人に約5人である。発症機構は,異常伸長した非翻訳領域におけるCTG,CCTG反復配列の転写によるRNA毒性である。確立した根本的な治療法はまだない。ここでは,近年進んできたRNA毒性に対する研究を踏まえ,探索中の新規治療法について概説する。

視神経損傷モデルにおける神経再生,神経回路再形成および視機能回復の分子機構

著者: 郡山恵樹 ,   栗本拓治 ,   デリマシウマラ ,   ベノヴィッツラリー

ページ範囲:P.265 - P.272

視神経は網膜神経節細胞の軸索束であり中枢神経再生のメカニズム研究に広く用いられてきた。近年,部分的な視神経再生が起こる分子メカニズムについてさまざまな報告がなされてきたが,より多くの再生線維が視覚中枢まで正しく再投射した際の視機能回復を証明した論文は皆無であった。本稿では眼炎症,cAMP,脱リン酸化酵素PTEN欠損のコンビネーション処理によって著しい視神経再生と視機能回復が成功した例をまとめた。

紙上討論

人間以外の動物に「文法」は使えるのか?

著者: 尾島司郎 ,   宮川繁 ,   岡ノ谷一夫 ,   成田広樹 ,   飯島和樹 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.273 - P.281

A 尾島ら 鳥に文法が学べるのか?

 英語で“bird-brained”という表現をご存じだろうか? 直訳すると「鳥の脳をしている」ということだが,これはstupidを意味する。一般的に,鳥は頭の悪い動物だと見做されることも多い。しかし,動物行動学の成果は,必ずしもこうした見方が正しくないことを示している1)。鳥の認知研究で,近年特に注目を浴びているのは,今回のテーマである「文法」の学習である。鳥にも文法が学べるのだろうか?

症例報告

くも膜下出血を合併したチャーグ・シュトラウス症候群の1例

著者: 伊藤美以子 ,   加藤直樹 ,   蘇慶展 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.283 - P.288

くも膜下出血を発症したが保存的加療にて良好な転帰が得られたチャーグ・シュトラウス症候群(CSS)の1例を経験したので報告する。

68歳男性,CSS加療中。耳鳴増悪時のMRI/Aで左中大脳動脈拡張,右椎骨動脈末梢狭窄があり,くも膜下出血発症時の三次元CT血管造影で左前大脳動脈基部の膨隆が出現した。これらの所見から脳動脈解離を疑ったが血管炎増悪を懸念し保存的加療とし,経過良好で自宅に退院した。出血性脳動脈解離でもアレルギー性疾患を有する場合はCSSの関与が示唆され,保存的加療がより適切な場合もあると考えられた。

1枚のスライド

井形昭弘

著者: 森啓

ページ範囲:P.289 - P.296

いがた・あきひろ。1928年生まれ。名古屋学芸大学学長。鹿児島大学名誉教授。1954年東京大学医学部卒,1960年同大学医学博士取得。1971年鹿児島大学医学部第3内科教授。1987年同大学学長。

1993年国立療養所中部病院長。1997年あいち健康の森健康科学総合センター長(2003年名誉センター長),2002年から現職。1989年野口英世記念医学賞,1992年紫綬褒章,2000年勲二等旭日重光章。

現代神経科学の源流・4

シーモア・ベンザー【前編】

著者: 堀田凱樹 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.299 - P.305

 Seymour Benzer(1921-2007)。1921年,ニューヨーク州のブルックリンに生まれる。1942年,ニューヨーク市立大学ブルックリン校で物理学を専攻し,パデュー大学において,固体物理学のパイオニアであるカール・ラーク=ホロヴィッツの下で学び,1947年に博士号を取得する。このときに彼が発見した高電圧に耐えるゲルマニウム結晶が,後年,半導体研究の大きな推進力となり,トランジスタの発明に結びついている。しかし,彼の興味は生物学へと移り,パデュー大学の物理学教室に籍を置きつつもオークリッジ国立研究所,カリフォルニア工科大学のマックス・デルブリュックの研究室,コーネリアス・ヴァン・ニール研究所,パスツール研究所のアンドレ・ルウォフの研究室,コールド・スプリング・ハーバー研究所などのさまざまな場所でバクテリオファージの研究を進めた。遺伝子の操作論的な定義(シストロン,レコン,ムトン)を提唱し,遺伝子は染色体状に一列に並んでいるだけでなく,遺伝子(シストロン)の内部も一列に並んだムトンから構成されていることを証明した研究で有名。1967年にカリフォルニア工科大学の生物学教授となり,ショウジョウバエを用いた行動遺伝学の研究を開始する。ショウジョウバエにおける走光性,概日リズム,求愛行動,学習行動などの突然変異体を発見し,遺伝子が行動を規定することを証明した。

 1964年,2004年にガードナー国際賞(2回),1971年にアルバート・ラスカー基礎医学研究賞,1982年にアメリカ国家科学賞,1991年にウルフ賞医学部門,1993年にクラフォード賞,2000年にはわが国の国際生物学賞を受賞するなど,輝かしい受賞歴を持つが,ノーベル賞に選ばれることはなかった。2007年11月30日,カリフォルニア州パサデナにて死去。

学会印象記

The 24th International Symposium on ALS/MND(2013年12月6~8日,ミラノ)

著者: 岩崎泰雄

ページ範囲:P.306 - P.307

 第24回International Symposium on ALS/MNDが2013年12月6~8日にミラノで開催された。この学会は神経内科領域の疾患の学会,特にパーキンソン病やアルツハイマー病の学会と比較すると,まだ認識の低い印象を持ちます。小生が初めてこの学会に参加したのは,1997年グラスゴーで開催されたときでした。これまでこの学会に参加した印象は,会期が12月の寒い時期であり,学会場がかなり都市の中心部から離れており,交通の便もよくはなく,都市部に足を運ぶよりは,3日間学会場に拘束され,勉強するのにいい環境かなといったものでした。

 前回ミラノで開催されたのは10年前の2003年で,そのときは施設訪問など予定が詰まっており,学会場以外へは足を運ぶことができませんでしたが,今回は少し時間が取れたので,セリエAのインテルの試合を観戦できました。最後の10分間,長友が出場しました。その場面を見られてよかったです。小生も小学5年からサッカー経験があり,今でも審判をしております。また小生,街歩きが好きであり,特にへんぴなところを一人で歩くのが趣味です。今回も,ホテルと地下鉄の駅の間のへんぴなところを歩いていたら,現地の人に注意され,走って駅まで行きました。

連載 神経学を作った100冊(87)

マグヌス『姿勢』(1924)

著者: 作田学

ページ範囲:P.308 - P.309

 マグヌス(Rudolf Magnus;1873-1927)は,ドイツ出身の神経生理学者であり,オランダから招かれ,終生その地にあった。マグヌスはドイツ北部の都市ブラウンシュバイク(Braunschweig)で,1873年9月2日に裕福で開明的なユダヤ人の家庭に生まれた。

 ハイデルベルク大学で生理学をキューネ(Wilhelm Kühne;1837-1900)に,神経学をエルプ(Wilhelm Heinrich Erb;1840-1921)に学んだ。1895年9月の学生時代にスイスのベルンで行われた第3回国際生理学会に出席し,自ら血圧測定に関する演題を発表している。250人が参加したこの会議では各国の著名人に出会い,また会長の別荘にも呼ばれて大いなる刺激を受けた。1898年に学位を取得し,ハイデルベルク大学薬理学教授のゴットリープ(Rudolf Gottlieb;1864-1924)の助手となる。助手の仕事を始める直前にはケンブリッジで行われた国際生理学会に出席し,刺激を受けるとともに英国の著名な生理学者と個人的なつながりを深めた。

お知らせ

第50・51回 筋病理セミナー フリーアクセス

ページ範囲:P.236 - P.236

共催 (独)国立精神・神経医療研究センター,精神・神経科学振興財団

趣旨 本セミナーでは,講義と実習を通して筋病理学の基本と代表的な筋疾患の概要を学ぶことができます。

会期 第50回 2014年7月28日(月)~8月1日(金)

     第51回 2014年8月25日(月)~8月29日(金)

会場 (独)国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)棟

書評

「脳血管障害と神経心理学 第2版」―平山惠造,田川皓一●編 フリーアクセス

著者: 栗山勝

ページ範囲:P.297 - P.297

 この度,医学書院から『脳血管障害と神経心理学 第2版』が出版された。今回18年ぶりの改訂である。実は初版の表題は『脳卒中と神経心理学』であり,今回の版では脳卒中から脳血管障害に変更された。初版の序にも触れてあるごとく「脳卒中とは,意識と運動・知覚機能が卒然と喪失し,ある期間持続する状態を指すものである。したがって急激な脳血管障害にみられる症候であるが,ときとして脳血管障害を代表する言葉として用いられる。本義の脳卒中のみを指したものではない」。よって,今回改訂にあたって本来の脳血管障害に変更したものと思われる。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.282 - P.282

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.310 - P.311

あとがき フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.312 - P.312

 本号では神経筋疾患の超音波診断が特集されています。手根管症候群,炎症性ニューロパチー,筋萎縮性側索硬化症,シャルコー・マリー・トゥース病,筋疾患について,それぞれの分野における第一線の専門家の方々に画像の実例も取り入れてわかりやすく解説していただいています。

 多くの神経疾患において画像診断,生化学的バイオマーカーによる診断,遺伝子診断の研究が大きく進展していますが,末梢神経・筋疾患では,これまで電気生理学的検査が診断に大きく貢献してきました。この特集を通じて,今後神経・筋の画像診断は電気生理診断と相補的あるいは相乗的に発展して行くことがおわかりいただけると思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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