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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩66巻6号

2014年06月発行

雑誌目次

特集 ミラーニューロン

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ページ範囲:P.623 - P.623

特集の意図

 1992年にパルマ大学のリツォラッティのグループがミラーニューロンを報告して20余年。この発見がもたらしたインパクトはさまざまな分野に波及し,言語や自閉症,心の理論に関わるとも主張されている。本特集では,ミラーニューロン発見からこれまでの流れを整理し,ミラーニューロン研究の現状を概観する。

【対談】ミラーニューロンを再考する

著者: 村田哲 ,   泰羅雅登

ページ範囲:P.625 - P.634

ミラーニューロン黎明期

泰羅 本日は,本号特集のプロローグとして,ミラーニューロンとはどんなものかということを村田 哲先生にお話を伺いたいと思います。

 村田先生は,ミラーニューロン発見のちょうどその頃にリツォラッティ(Giacomo Rizzolarti)の研究室におられたので,裏話などもお聞きしたいのと,ミラーニューロンがこれだけもてはやされるようになったことをどう思っておられるか,そのあたりのところをお話しいただけたらと思います。

ミラーニューロンの明らかにしたもの;再考

著者: 村田哲 ,   前田和孝

ページ範囲:P.635 - P.646

1992年のミラーニューロン報告から20年以上が経過し,社会的認知機能と運動制御システムの関係について多くの知見が得られてきた。しかし,それはヒトの能力に照らして考えられており,サルのミラーニューロンの機能は未だ明確ではない。本稿では,特にサルのミラーニューロンを実際に記録した研究の成果を振返り,ミラーニューロンシステム以外のミラーニューロンについても考察し,ミラーニューロンの機能を再考する。

ヒトのミラーニューロンシステム

著者: 乾敏郎

ページ範囲:P.647 - P.653

本稿では,非侵襲性脳活動イメージングの技術(機能的MRIやPET)や非侵襲性脳刺激法(経頭蓋磁気刺激や電気刺激)を用いて,いかに人間のミラーニューロンシステム(MNS)の時間特性や情報表現が明らかにされてきたかを説明する。次に行為の理解とアフォーダンスに関与する神経回路に関して考察する。本稿では特に行為理解に関するMNSの予測機能について取り上げ,MNSに関する最近の理論である自由エネルギー原理と予測誤差の最小化について紹介する。

リハビリテーションにおけるミラーニューロンの臨床応用

著者: 大内田裕 ,   出江紳一

ページ範囲:P.655 - P.663

ミラーニューロンシステムは,主に視覚入力された他者の運動から運動情報を抽出し,それと同様の運動プログラムをつくりだす働きがある。この他者の運動からつくりだされた運動プログラムを実行することにより,観察している運動と同じ運動が出力することが可能となる。この模倣運動を利用し,中枢神経障害後の運動障害と四肢切断などの身体の変化により生じる幻肢痛という2つの病態に対する観察・模倣運動の臨床的応用を紹介する。

臨床におけるミラーニューロン―特に心的側面について

著者: 加藤元一郎 ,   加藤隆

ページ範囲:P.665 - P.672

ミラーニューロンシステムは,模倣や他者行為の理解に重要な役割を果たすだけでなく,他者の行為の意図の理解,そして他者の感情理解や共感などの社会認知に重要な役割を果たすという見解が提案されている。この社会認知という側面で,精神障害例の示す行動異常とミラーニューロンシステム異常の関係を探る研究は今後重要と思われる。この中で,統合失調症群におけるミラーニューロンシステム応答異常に関する研究を紹介した。統合失調症で認められた右頭頂葉下部領域ないしは上側頭回後部における高周波ミラーニューロンシステム応答の質的な異常は,自我障害をはじめとする異常体験と社会的コミュニケーション障害を説明できる可能性があることが示唆された。

発達とミラーニューロン

著者: 明和政子

ページ範囲:P.673 - P.680

行為の観察/実行を同じ表象フォーマットで照合する神経システムは,いつ,どのように成立するのだろうか。現時点で,ミラーニューロンの個体発生についてはいまだほとんど解明されていない。本稿では,ヒトのミラーニューロンシステムの個体発生を中心に,これまで明らかにされてきた研究の到達点を紹介する。さらに,ヒトのミラーニューロンシステムが種特有の社会的認知機能の発達に果たす役割について考察する。

総説

哺乳類概日時計の階層的制御

著者: 大出晃士 ,   上田泰己

ページ範囲:P.681 - P.689

概日時計は,睡眠覚醒サイクルに象徴される行動・生理活性の日内変動を生み出す機構である。その周期性は,時計遺伝子と呼ばれる一連の転写因子の転写活性が,負のフィードバック制御を介して自律的に増減を繰り返すことでもたらされる。時計遺伝子の周期的発現は全身のほぼすべての細胞にみられる。各細胞の概日時計の位相は,視交叉上核と呼ばれる脳領域によって支配的に制御され,全身の細胞の概日時刻が同期される。本稿では,分子から細胞・個体に至る概日時計制御の階層性を紹介する。

Alzheimer's Disease Cooperative Study(ADCS)

著者: 森啓 ,   池内健

ページ範囲:P.691 - P.698

ADCSはAlzheimer's Disease Cooperative Studyの略称で,1991年に米国政府機関NIAとカリフォルニア大学サンディエゴ校間の共同研究同意に基づき設立された研究組織である。ADCSは,新治療薬開発と予防研究を目的とした神経科学的アプローチをとるNIA部署として,アルツハイマー病の臨床研究や生活支援機器開発を国家レベルで推進させる目的で活動している。

原著

脊髄小脳変性症の画像診断におけるvoxel-based morphometryの有用性

著者: 田中伸幸 ,   南里和紀 ,   田口丈士 ,   田中紀子 ,   藤田恒夫 ,   三苫博 ,   川田明広 ,   水澤英洋

ページ範囲:P.699 - P.704

脊髄小脳変性症におけるvoxel-based morphometry(VBM)を用いた画像診断の有用性について検討した。多系統萎縮症小脳型(MSA-C)9例では,小脳半球・虫部に広範な灰白質萎縮を,中小脳脚・脳幹・小脳に著明な白質萎縮所見を認めた。SCA3 6例では灰白質の萎縮は目立たず,中小脳脚・脳幹・小脳の著明な白質萎縮を認めた。DRPLA 2例では脳幹,歯状核周辺の軽度白質萎縮所見を認め,小脳灰白質の萎縮は目立たなかった。SCA6 3例,SCA31 2例では小脳半球・虫部の灰白質萎縮が顕著であったが,中小脳脚・脳幹の白質萎縮は認められず,小脳半球歯状核近傍に対称性の白質萎縮を認めた。いずれの疾患についてもVBM所見は各疾患で知られている特徴的な病理学的な萎縮部位を反映すると考えられ,VBMは脊髄小脳変性症の診断に有用と考えられた。

神経画像アトラス

線条体内包梗塞との鑑別を要した静脈性血管腫の1例

著者: 萩原のり子 ,   司城昌大 ,   金澤有華 ,   脇坂佳世 ,   荒川修治

ページ範囲:P.706 - P.707

〈症 例〉56歳,女性

 主 訴 左上下肢の脱力

 現病歴 201X年4月某日,飲食中に突然左上下肢の脱力を自覚し,安静にて軽快しないため,翌日に当科外来を受診した。

連載 神経疾患の疫学トピックス・6

脊椎手術は筋萎縮性側索硬化症の進行を加速する。

著者: 桑原聡 ,   佐藤泰憲

ページ範囲:P.709 - P.711

今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に脊椎手術を行うと症状が悪化するかという長年議論されて

きた問題についての論文を紹介する。統計手法についてはノンパラメトリック検定について解説する。

神経学を作った100冊(90)

シェリントン『神経系の統合作用』(1906,1947)

著者: 作田学

ページ範囲:P.712 - P.713

 シェリントン(Charles Scott Sherrington;1857-1952)はロンドンの医師の家に生まれた。幼い頃に父が亡くなり,やはり医師の継父によって育てられた。ケンブリッジ大学に入学する前にヨハネス・ミュラーの『生理学要綱(Elements of Physiology)』(1838,1842;本連載第2回で紹介)を精読していたという。1885年にケンブリッジ大学から医学博士の学位を受け,欧州旅行をした。このときにベルリンのウィルヒョウ(Rudolf Ludwig Carl Virchow;1821-1902)の下で研究を行い,1887年に聖トーマス病院医学校の生理学講師に任ぜられた1)

 1891年にロンドン大学のブラウン研究所の所長に指名されたが,ここは動物の研究所でもあり,多数の動物に接することになった。1894年に筋紡錘が感覚器官であり,骨格筋の収縮状態を神経系に知らせているという重要な論文を書いた。この年に英国学士院はクルーニアン記念講演の演者にマドリッドのラモニ-カハール(Santiago Ramón y Cajal;1852-1934)を招聘したが,シェリントンは彼を自宅へ招き歓待を尽くした1)

書評

「認知症ハンドブック」―中島健二,天野直二,下濱 俊,冨本秀和,三村 將●編 フリーアクセス

著者: 朝田隆

ページ範囲:P.690 - P.690

 私は多少とも医学書出版の企画に関与した経験から,「類書がない」ということが新しい企画が審査委員会をパスする重要要件だと知った。ところが近年の認知症本はやりともいえる状況においては類書だらけである。大型書店の認知症コーナーに立つと,多くの編集・企画者は「似たものをどうやって差別化するか?」に相当な努力をされているなという印象さえ抱くようになっていた。つまり個性の乏しい認知症関連書籍の出版がこの数年多すぎるのではないかと思っていたのである。

お知らせ

第6回ISMSJ(Integrated Sleep Medicine Society Japan)(日本臨床睡眠医学会)学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.698 - P.698

日 時 2014年8月1日(金)~3日(日)

会 場 神戸ファッションマート(神戸市六甲アイランド)

第44回(2014)新潟神経学夏期セミナー―脳と心の基礎科学から臨床まで最前線の研究者,臨床家に触れて体感しよう フリーアクセス

ページ範囲:P.705 - P.705

会 期 7月31日(木)~8月2日(土)

会 場 新潟大学脳研究所 統合脳機能研究センター(6F)セミナーホール

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.708 - P.708

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.714 - P.715

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.716 - P.716

 今回のミラーニューロンの特集にあたり,村田 哲先生と泰羅雅登先生の対談を興味深く拝読した。ミラーニューロンは,対談中の泰羅先生の定義によれば「他者の行動を見たときに,その行動を自分が実際に行ったときと同じように活動する神経細胞」である。そのようなミラーニューロンがどのように発見されたのか。対談の中で村田先生が触れておられるように,サルの前で研究者がジェラートを食べていたらこの神経細胞活動が見つかったという「都市伝説」を私も聞いたことがあり,そう信じていた。しかし,この挿話はやはりというか,どうも事実ではないようである。ミラーニューロンを発見したリツォラッティラボに後年留学された村田先生のおっしゃることだから,関係者からの裏話も含めてとてもリアリティがあった。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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