icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩66巻8号

2014年08月発行

雑誌目次

特集 神経系の悪性リンパ腫update

フリーアクセス

ページ範囲:P.905 - P.905

特集の意図

 中枢神経・末梢神経を病変の主座とする悪性リンパ腫はリンパ腫全体のごく一部を占めるにすぎないが,その画像所見・臨床経過は極めて多様であり,悪性リンパ腫を常に頭の片隅において診療することは神経系の臨床に携わる者にとって鉄則であるといってよい。本特集では,神経系悪性リンパ腫の概念を改めて整理し,最新の診断と治療について,これまで馴染みのない読者にもわかりやすく紹介する。

中枢神経系における悪性リンパ腫:Overview

著者: 滑川道人

ページ範囲:P.907 - P.916

中枢神経系(CNS)における悪性リンパ腫は,全身性リンパ腫のCNS浸潤,CNSに限局したリンパ腫(PCNSL),血管内リンパ腫症の3つに分類できる。いずれも大半はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。PCNSLはCNS以外に転移することは稀である。全身性病変の有無により治療戦略が異なるため,全身検索が重要で,そのためにはFDG-PET/CT融合画像が有用である。さらに2つの特殊な病態(primary leptomeningeal lymphomaとlymphomatosis cerebri)と最近同定された傍腫性亜急性小脳変性症における抗Tr抗体の対応抗原についても述べる。

中枢神経の悪性リンパ腫の画像診断

著者: 菅信一

ページ範囲:P.917 - P.926

典型例では,中枢神経系の悪性リンパ腫の画像診断は比較的容易である。すなわち,単純CTで高吸収を示し,側脳室近傍に単発あるいは多発する病変で,T2強調画像で皮質と比較し等~低信号を呈し,通常拡散強調画像で高信号を呈する。他の腫瘍と比較して,浮腫,mass effectは比較的少ない。しかし,診断のプロセスで安易にステロイドを使わないことが重要で,また,sentinel lesionと呼ばれる病態があり,留意する必要がある。

Intravascular lymphomatosisの現況

著者: 児矢野繁 ,   橋口俊太 ,   田中章景

ページ範囲:P.927 - P.946

腫瘍細胞がリンパ節や末梢血にない血管内リンパ腫は,小血管や毛細血管内腔での腫瘍細胞の激増によって特徴づけられる稀な疾患である。診断は血管内の腫瘍細胞を示すことであるが,皮膚ランダム生検でも診断が可能で,重要なことは本疾患を疑うことである。臨床像はさまざまで特異的な所見に乏しいが,血管の閉塞による臓器不全に関連した症状を呈しやすい。早期診断・治療が基本で,リツキシマブ併用の化学療法が行われている。

中枢神経原発移植後リンパ増殖性疾患

著者: 本田真也 ,   古賀道明 ,   神田隆

ページ範囲:P.947 - P.954

移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)は固形臓器や造血幹細胞の移植後にみられる悪性疾患であり,近年,移植技術の進歩に伴い増加している。中枢神経障害例では予後が不良といわれていたが,最近では化学療法や放射線療法による良好な治療成績が報告されるようになってきており,早期の診断,早期の適切な治療が重要である。本稿では中枢神経原発のPTLDについて,過去の報告例をもとに概説する。

末梢神経・筋のリンパ腫

著者: 大矢寧

ページ範囲:P.955 - P.967

非ホジキンリンパ腫は,腫瘤から隣接した神経・筋組織に浸潤が及ぶこともあるが,末梢神経や筋から初発や再発しうる。神経や筋の組織学的構造に沿って浸潤する。浸潤は神経根からは中枢神経に及ばないことが多く,組織親和性が想定される。初期には血清可溶性IL-2やMRI,FDG-PETでも診断困難なことや,髄膜播種を伴っても髄液では診断できないことがある。骨髄などの他臓器の検索が有用なことがある。他の腫瘍のほか,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーや局所性筋炎との鑑別が問題になることがある。

中枢神経系の悪性リンパ腫:治療update

著者: 中牧剛

ページ範囲:P.969 - P.979

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は,日本のリンパ系腫瘍の約1~2%を占める稀な疾患である。PCNSLは血液脳関門により隔てられたいわゆるchemotherapeutic sanctuariesに発生する。PCNSLに対する1つの標準療法はメトトレキサートおよびシタラビン大量療法で寛解導入後,全脳照射(WBRT)で地固め療法を行う化学放射線療法で,わが国でも約30~40%の症例で長期生存が得られるようになった。さらなる生命予後の改善とWBRTによる毒性の回避がPCNSL治療における現在の主要な課題である。自家幹細胞移植を併用しアルキル化薬などの投与量を増加させることや抗CD20抗体など分子標的治療の導入が,WBRTの毒性を回避する治療法として試みられている。

総説

サルコイドニューロパチー

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.981 - P.985

サルコイドニューロパチーは,原因不明の末梢神経障害で鑑別に挙げられる機会の多い疾患である。診断マーカーを欠くことから本症の鑑別診断はしばしば困難で,また多彩な臨床像を呈することが明らかとされており,「らしさ」をていねいに評価することで症例ごとに検査計画を立てていくことが求められる。神経サルコイドーシスの診断基準を一部修正して作成した,サルコイドニューロパチーの診断基準を紹介した。

シナプスにおけるGABAの新しい役割

著者: 葉山達也 ,   河西春郎

ページ範囲:P.987 - P.993

神経細胞はシナプスを介して情報伝達を行う。多様な脳機能は興奮性・抑制性の情報伝達のバランスにより実現されており,主な抑制性神経伝達物質がGABAである。最近の筆者らの知見から,GABAは活動電位を抑制するだけでなく,樹状突起の局所カルシウムシグナルの調整によりシナプス可塑性を促進し,さらにはシナプスの選別に関わることが明らかとなった。GABAの異常は種々の精神疾患でもみられ,本知見は新規治療法の開拓にもつながると考えられる。

症例報告

経口抗エストロゲン薬(メピチオスタン)により腫瘍縮小効果を認めた高齢者頭蓋内髄膜腫の検討

著者: 宮居雅文 ,   竹中勝信 ,   林克彦 ,   加藤雅康 ,   植松幸大 ,   村井博文

ページ範囲:P.995 - P.1000

頭部造影MRIで髄膜腫と診断した高齢者髄膜腫6例に対し,抗エストロゲン薬(メピチオスタン10~20mg/日)の経口投与を行ったところ,3例において腫瘍縮小効果を示した。平均年齢は77歳で,全例女性であった。投与期間は平均65.3カ月で,投与後の腫瘍退縮率は平均84%であった。抗エストロゲン薬の投与は,手術治療が困難な高齢者の髄膜腫に対する治療の選択肢となりうる可能性が示唆された。

脳虚血症状で発症した急性大動脈解離の1例―急性期脳卒中診断における三次元CT血管造影とCT灌流画像の有用性

著者: 小関宏和 ,   黒井康博 ,   新井直幸 ,   大渕英徳 ,   広田健吾 ,   萩原信司 ,   谷茂 ,   笹原篤 ,   糟谷英俊

ページ範囲:P.1001 - P.1005

76歳女性が,意識障害,構音障害,左上肢麻痺の症状で救急搬送された。頭部単純CTでは異常所見を認めなかった。三次元CT血管造影,CT灌流画像で,右大脳半球の広範な血流低下を認め,右総頸動脈を含むStanford A型の大動脈解離と診断した。直ちに上行大動脈置換術を施行し,術後数日で神経所見は軽快した。大動脈解離は,胸背部痛,脈圧の左右差や縦隔の拡大などの典型的所見がなく,脳卒中で発症することがある。三次元CT血管造影,CT灌流画像は正確な脳卒中診断に有用である。

連載 神経疾患の疫学トピックス・7

糖尿病は筋萎縮性側索硬化症の発症を4年間遅らせる。

著者: 桑原聡 ,   佐藤泰憲

ページ範囲:P.1006 - P.1008

今回は糖尿病の合併が筋萎縮性側索硬化症の発症年齢,進行に与える影響について検討した大規模疫学研究について紹介する。統計学的手法として重回帰分析(multiple linear regression analysis)が用いられているが,本研究データの統計解析には適切とはいえず,この問題点も含めて統計解説欄において説明する。

神経学を作った100冊(92)

シュピールマイヤー『神経系の病理組織学』(1922)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 シュピールマイヤー(Walther Spielmeyer;1879-1935)はドイツの神経病理学者である。ベルリンに近い,ザクセン=アンハルト州のデッサウで生まれた。医学をグライフスヴァルト大学とハレ大学で学んだが,この頃から既に形態学に興味を持った。最終学年にはハレ大学精神神経科の神経病理学研究室でヒッツィヒ(Eduard Hitzig;1838-1907)の下で学び,1902年に卒業した。その後の10年間はフライブルク大学精神科のホッヘ(Alfred Erich Hoche;1865-1943)の助手として働いた。シュピールマイヤーはこのフライブルク時代に神経病理学の多くの研究で知られるようになったが,特に1911年初版の『神経系の顕微鏡研究手技』1)が有名である。これは163頁の小さな本であるが,あらゆる染色法について書いている。ちなみにゴルジ法は病理組織学研究には使えないとしている。

 1913年,クレペリン(Emil Kraepelin;1856-1926)の招致により,33歳の若さでアルツハイマー(Alois Alzheimer;1864-1915)の後任としてミュンヘン大学精神神経科の組織病理学研究室の部長になり,アルツハイマーの時代と同様,国内外の多くの学究を集めた。第一次世界大戦の際にシュピールマイヤーはミュンヘン軍人病院の神経科を任され,臨床神経科医としての技量を示すことになった。同時に多くの末梢神経損傷患者を診ることになり,神経縫合の予後の研究も行った。ハイデルベルク大学医学部は,ニッスル(Franz Nissl;1860-1919)が新たに開設されたミュンヘンのドイツ精神医学研究所に移るので,その後任として精神科主任教授のポストをシュピールマイヤーに用意した。しばらく後には,ハレ大学の精神神経科も彼に主任教授のポストを提示した。

書評

「プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖 第2版」―坂井建雄,河田光博●監訳 フリーアクセス

著者: 千田隆夫

ページ範囲:P.994 - P.994

 昨今次々と出版されている解剖学アトラスには,百花繚乱の感がある。学生諸君には幸福なことであるが,決して安価とはいえない解剖学アトラスの選択に際して,どれか一冊となると随分迷うのではなかろうか。その中にあって,初版刊行以来,高い支持率を維持しているのが“プロメテウス”シリーズである。本書は,全3巻組の『プロメテウス解剖学アトラス』の第3巻に当たるものであり,初版刊行後わずか5年足らずで改訂第2版が出版された。

--------------------

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1008 - P.1008

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1012 - P.1013

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.1014 - P.1014

 本号が店頭に並ぶ頃は夏真っ盛りでしょうか。梅雨のうっとうしい毎日の中でこの編集後記を書いています。神経疾患と梅雨は相性がよくないようで,この時期はパーキンソンのお婆ちゃんも片頭痛のお姉さんも愁訴がいつにもまして増えてきます。梅雨を吹き飛ばすような明るい話題があればよいのですが,ワールドカップも日本は1勝もできず消えてしまいましたし,ついつい外来の診療時間が長くなってしまいます。しかし,しばし話を聞いた後にニコリと笑って「梅雨が明ければよくなるよ」と言うと,以前より納得していただける患者さんが増えたように思うのは,年を取ったことで私の外見がよりプラセボ効果を発揮する機会がふえた,ということでしょうか。“Patients trust gray hair.”,至言だと思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら