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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩66巻9号

2014年09月発行

雑誌目次

特集 痙縮の臨床神経学

フリーアクセス

ページ範囲:P.1017 - P.1017

特集の意図

近年,痙縮に対するボツリヌス療法,バクロフェン髄注療法の臨床応用が急速に広がっている。このことを受け,本特集では,痙縮の病態と治療法についてのupdateをまとめる。

痙縮の病態生理

著者: 鏡原康裕

ページ範囲:P.1019 - P.1029

痙縮とは上位運動ニューロン障害による陽性徴候の1つであり,脊髄伸張反射の亢進により生じた筋緊張亢進状態である。機序として,筋紡錘から脊髄への過剰な入力および反射回路制御の障害が挙げられるが,ヒトにおいてはγ運動ニューロンの機能亢進による入力増大は証明されていない。上位中枢からの抑制系の解放現象や脊髄内の介在ニューロン制御の障害が関与すると考えられるが,痙縮の病態は原因疾患,病変部位,時間経過によって異なってくる。

痙縮に対する治療ストラテジー

著者: 大田哲生

ページ範囲:P.1031 - P.1038

痙縮の治療には,これまで内服薬,ブロック療法,外科的手術療法などが行われ,患者の症状に応じて治療法が選択されてきた。近年,ボツリヌス療法,バクロフェン持続髄注療法も新たな治療方法として選択肢に加わり,痙縮治療の幅が広くなってきている。また,これらの治療法はリハビリテーションと併用することで,より効果的なものとなる。今回,各治療法の特徴について述べるとともに,その適応についても言及する。

ボツリヌス療法

著者: 正門由久

ページ範囲:P.1039 - P.1047

ボツリヌス療法は痙縮に対する治療手段として大変有効である。痙縮が患者の症候,介助負担,機能改善の阻害となり,特に限局的な場合に有用である。しかし通常,痙縮は筋粘弾性変化による短縮や拘縮を伴い,麻痺とともに,ADL低下,歩行障害などを引き起こす。それゆえに,詳細な評価を行い,現症および問題点から現実的な目標を立て,痙縮を軽減するとともにリハビリテーションを併用しマネージメントすることが必要である。

痙縮に対するバクロフェン持続髄注療法

著者: 内藤寛

ページ範囲:P.1049 - P.1055

バクロフェンは中枢神経系の抑制性伝達物質であるGABAの誘導体で,脊髄の単シナプスおよび多シナプス反射を抑制することで抗痙縮作用と鎮痛作用を示す。バクロフェン持続髄注の有益性として,①有痛性筋攣縮の軽減,②関節可動域の拡大と他動性の改善,③リハビリテーションへの導入,④夜間の攣縮低減による睡眠の改善,⑤更衣や排尿介助を容易にし,患者ケアの改善,⑥痙性膀胱など膀胱機能の改善,などが挙げられている。

痙縮の機能神経外科治療

著者: 鮎澤聡 ,   井原哲 ,   青木司

ページ範囲:P.1057 - P.1068

痙縮の機能神経外科治療は,いずれかのレベルで伸張反射ループに干渉して過剰な活動を抑制する。選択的末梢神経縮小術は痙縮筋を支配する末梢の運動神経枝を部分切除する。遠心路のα運動神経線維と求心路であるIa線維の両方が切除されるが,伸張反射の永続的な抑制にはIa求心路の活動抑制が本質である。機能的脊髄後根切断術は電気刺激に異常運動反応を呈する脊髄後根細糸を切断することでIa求心路の活動を抑制する。バクロフェン持続髄注療法は神経組織を破壊することなく,脊髄レベルでα運動神経を抑制する。患者の病態に応じてこれらを使い分けることが重要である。

総説

脳の機能発達を担うシナプス刈り込みの機構

著者: 上阪直史 ,   川田慎也 ,   狩野方伸

ページ範囲:P.1069 - P.1077

生後間もない時期の動物の脳には,成熟動物の脳と比較して,過剰なシナプスが存在する。生後発達過程において,このうち必要なシナプス結合が強められ,不要な結合は除去されて,成熟した機能的な神経回路が完成する。この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれており,生後発達期の神経系にみられる普遍的な現象であると考えられている。最近の研究により,シナプス刈り込みの細胞・分子機構が明らかになりつつある。

マルキアファーヴァ・ビニャミ病の画像診断

著者: 黒田岳志 ,   河村満

ページ範囲:P.1079 - P.1088

マルキアファーヴァ・ビニャミ病はアルコール多飲者に生ずる脳梁の脱髄壊死を特徴とする稀な疾患である。確定診断には剖検が必須であったが,画像診断技術の進歩は生前診断を可能にした。脳梁病変の分布はさまざまで,時に脳梁外病変を伴い,アルコール非乱用者にも生じうることがわかった。今後,画像所見とともに臨床症状や病理所見を併せて検討していくことは,病態の解明および治療法の確立に寄与すると思われる。

連載 病態解明・新規治療を目指した神経疾患の患者レジストリシステム・1【新連載】

筋萎縮性側索硬化症:JaCALS

著者: 熱田直樹 ,   中村亮一 ,   渡辺はづき ,   祖父江元

ページ範囲:P.1090 - P.1096

はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は成人発症の神経変性疾患であり,上位および下位運動ニューロンが進行性に変性,脱落することを特徴とする。その結果,全身の骨格筋の筋萎縮,筋力低下をきたし,球麻痺,呼吸筋麻痺を生じて,平均3~4年で死亡する。気管切開,人工呼吸器装着により,長期に生存する患者も多く存在するが,その場合でも四肢,体幹,顔面の筋が次第に動かなくなり,コミュニケーション手段を喪失した,いわゆる閉じ込め症候群の状態になる場合もある。代表的な神経難病であり,現在のところ根治的治療法は存在しない。

 ALSの治療法開発は患者,家族および診療,介護などに関わる者すべての悲願である。そのために今,何が必要とされているのかを踏まえ,ALS患者レジストリシステムの果たしうる役割と現在の取組みを述べたい。

神経学を作った100冊(93)

ウォルフ『頭痛と他の頭部痛』(1948)

著者: 作田学

ページ範囲:P.1126 - P.1127

 「現代の頭痛研究の父」1)ともいわれるウォルフ(Harold George Wolff;1898-1962)は1898年5月26日にニューヨークで生まれた。彼の父方の先祖はアルザス出身と言われている。ハーバード大学医学校で医学を学び,1923年にM.D.を取得した。医学校では神経科医のコブ(Stanley Cobb;1887-1968)に影響を受けたという。ルーズベルト病院などで臨床を学び,再びハーバード大学へ戻り,脳循環などの研究に携わった。1928~1929年にかけてオーストリアはグラーツのレヴィ(Otto Loewi;1873-1961)教授の研究室に学んだ。ちなみにレヴィは副交感神経のトランスミッターとしてアセチルコリンを発見したことで1936年にノーベル賞を授与されている。1930~1931年にはジョンズホプキンス大学精神科のマイヤー(Adolf Meyer;1866-1950)教授の研究室で学んだ。1932年にニューヨークにコーネル大学医学センターが開かれるとウォルフは神経科の部長に指名された。1940年にはコーネル大学医学部神経科の教授になり,1958年に患者から多額の寄付を受け,Anne Parrish Titzell Professor of Medicine in Neurologyに任命された。『Archives of Neurology』誌の編集長,米国神経学協会(American Neurological Association:ANA)の会長を歴任した。彼は生涯に539編の論文と14の書籍を発行した。その中にはのちに頭痛の聖書とまでいわれた本書『頭痛と他の頭部痛』の初版(1948年)が含まれている2)

 ウォルフが発見した頭痛のメカニズム,特に片頭痛のそれは,一世代を支配する理論であった。本書はその後,頭痛に関して最も権威のある書物とされ,彼の死後も『Wolff's Headache and Other Head Pain』として第8版(2008年)までオックスフォード大学出版から刊行されている。

原著

カルパイノパチー(LGMD2A)の2剖検例の臨床病理学的検討

著者: 橋口修二 ,   足立克仁 ,   乾俊夫 ,   有井敬治 ,   柏木節子 ,   齋藤美穂 ,   香川典子 ,   川井尚臣

ページ範囲:P.1097 - P.1102

肢帯型筋ジストロフィー2A型(LGMD2A)の2家系2剖検例を報告する。症例1は72歳時に呼吸不全・心不全で死亡,症例2は70歳時に虚血性心筋症・全身性循環不全で死亡した。症例1では記憶障害,そして2例とも大脳萎縮がみられたが,神経細胞に特異的変化は認められなかった。2例とも不完全右脚ブロックを呈し,症例2の洞房結節では虚血性変化を伴う脂肪化が認められた。LGMD2Aでは,カルパイン3異常により骨格筋の障害をきたすが,心伝導障害の合併にも留意する必要がある。

症例報告

眼部帯状疱疹による眼窩尖端症候群の1例

著者: 脇田賢治 ,   櫻井岳郎 ,   西田浩

ページ範囲:P.1103 - P.1108

69歳の男性,右眼周囲の違和感,発熱を認め,その後,異常行動がみられた。入院時,JCS10,右顔面,頭頂部に小水疱,びらんを認め,右眼瞼の腫脹もあった。右眼瞳孔は散大,対光反射消失,全眼筋麻痺を認めた。髄液検査で帯状疱疹ウイルスが陽性であった。アシクロビル投与で意識清明となったが,視力は回復しなかった。眼部帯状疱疹による眼窩尖端症候群は稀であるが,ときに全眼筋麻痺や視神経炎など,重篤な合併症を伴うことがある。

Neurological CPC

若年期からのてんかん加療中に認知障害と海馬硬化を呈した61歳男性例

著者: 大本周作 ,   福田隆浩 ,   新井信隆 ,   鈴木正彦 ,   横地正之 ,   河村満 ,   後藤淳 ,   織茂智之 ,   藤ヶ﨑純子 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.1109 - P.1118

症例提示1

司会(鈴木) それでは,症例提示からよろしくお願いします。

臨床医(大本) 症例は61歳の男性で,主訴は,意識障害,血圧低下,喀痰です。既往歴は,てんかんと高血圧,脂質異常症,高尿酸血症,大腸癌開腹術後です。飲酒歴は20~59歳まで,毎日ビール500ccおよび焼酎の水割り2~3杯を飲んでいました。

学会印象記

18th International Congress of Parkinson's Disease and Movement Disorders(2014年6月8~12日,ストックホルム)

著者: 久保紳一郎

ページ範囲:P.1120 - P.1122

 18th International Congress of Parkinson's Disease and Movement Disordersが,2014年6月8~12日の5日間,スウェーデンの首都ストックホルムで開催されました.本国際学会はStanley Fahn,C. David Marsden両先生によって1985年に設立されたThe Movement Disorder Society(MDS)により,1990年に始まりました。運動失調,歩行障害,パーキンソン症状,舞踏運動,ジストニア,ミオクローヌス,振戦,チックなど幅広い運動障害に関わる世界中の臨床医,研究者,ヘルスケアプロフェッショナルを対象とした学会です。

 近年の分子生物遺伝学の進歩と相まって,神経疾患の病態解明,そして診断技術,薬物および外科的治療法は目ざましく発展してきました。これら広範な内容を網羅すべく,5日間の学会期間中は毎朝7時から委員会ミーティングが行われ,8時からplenary sessionが始まり,夜は19時過ぎまで,学会の目玉の1つであるMDS Video Challengeがある最終日前夜は22時までと,まさにmovement disorder漬けの毎日です。とはいうものの,3時過ぎから夜が明け,深夜まで明るい北欧というロケーションに加え時差の影響もあるのか,それほど長くは感じず,むしろ毎晩明るいうちにベッドに入る違和感を感じつつも有意義で充実した学会期間を過ごせたと思います。

追悼

中野今治先生を偲ぶ フリーアクセス

著者: 岡本幸市

ページ範囲:P.1124 - P.1125

 東京都立神経病院の中野今治病院長におかれましては,2014年7月16日に肺がんのため逝去されました。66歳の若さで,やり残したことも多々あり,さぞかし無念であったことでしょう。トレードマークの口ヒゲ,誠実で実直な人柄,面倒見のよさなどから,多くの人に慕われた先生でした。先生のご遺徳を偲び,謹んで哀悼の意を表します。

 中野先生は徳島県のご出身であり,1974年9月に東京大学医学部を卒業され,東京大学附属病院内科で研修後,1975年6月から東京医科歯科大学第三解剖学教室に助手として採用され,萬年 甫教授の下で神経解剖を勉強されました。1976年9月から東京大学神経内科で研修なさり,1977年東京大学脳研究施設臨床部門神経内科に入局され,同年2月から6月にかけて国立療養所下志津病院に勤務され,1977年7月に東京大学神経内科に戻られました。1979年8月から東京大学神経内科の豊倉康夫教授のお薦めで,グアムのNINCDS Research Center(NIH Guam)にfellowとして渡られ,先生の筋萎縮性側索硬化症(ALS)研究が本格的にスタートしました。グアム勤務に引き続いて,1980年8月から平野朝雄先生が主宰しておられるニューヨークのMontefiore病院神経病理部門にfellowとして勤務されました。

書評

「神経内科プラクティカルガイド」―栗原照幸●著 フリーアクセス

著者: 髙橋昭

ページ範囲:P.1056 - P.1056

 本書は,1987年以来,名著として改版や増刷を重ねてきた『神経病レジデントマニュアル』を全面的に改訂増補した書である。本書について語るとき,先生のご経歴を素通りすることはできない。

 著者の栗原照幸先生は,1967年に慶應義塾大学医学部を卒業,米国ECFMG(外国人医師卒業教育委員会)試験に合格,ワシントン大学バーンズ病院でインターン,神経内科レジデント。神経生理学リサーチフェロー,宮崎医科大学神経内科学助教授(教授:荒木淑郎先生),東邦大学内科教授を経て,現在東邦大学名誉教授,神経内科津田沼で神経内科の実地診療に従事しておられる,日本を代表するベテラン神経内科医のお一人である。米国の医学教育システムを日本に紹介,日本神経学会では卒後教育委員として医学教育,特に卒後の研修に情熱をもって当たられ,現在の専門医制度の導入に大きな力を発揮された。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1055 - P.1055

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1128 - P.1129

あとがき フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.1130 - P.1130

 本号では「痙縮の臨床神経学」と題して,痙縮の病態生理とともに,近年格段の進歩を遂げている痙縮に対する治療法としてボツリヌス療法,バクロフェン髄注療法,外科的治療の実際が見事に解説されています。これらは神経疾患の機能回復を目指す治療の中でも,最も発展している分野の1つであり,脳卒中,脊髄損傷,痙性対麻痺などの患者のADL向上に大きく寄与するものと思われます。鏡原康裕先生の「痙縮の病態生理」で記載されているように,1990年代まで痙縮はγ運動ニューロン系の過剰活動による伸張反射の亢進によって起こると信じられていました。実際に,主にネコを用いた動物実験の結果はそれを支持するものでしたが,痙縮を呈する患者において微小神経電図法によりγ活動を記録すると正常者と差がないことが1990年代に報告されました。多くの神経生理学の著名な研究者の方々がこの結果に大きな衝撃を受けていたのを覚えています(筆者自身は何がそんなに衝撃なのかはよく理解していませんでしたが)。

 この一連の研究を行ったのはシドニーのグループで,鏡原論文の文献8,9の中心メンバーであるDavid Burke,Simon Gandevia,Vaughan Macefieldらはシドニー郊外にあるPrince of Wales Medical Research Instituteで精力的に研究を行っていました。筆者は1999年にDavid Burkeの研究室に留学していたので,微小神経電図記録を数回見学しました。とにかく長時間を要する検査で,3~5時間かかります。電極はヒト末梢神経に刺入するために開発されたタングステン電極で,直径が100μmと髪の毛くらいの太さです。これを目的とする末梢神経に刺入して,γ運動ニューロン活動を反映する筋紡錘からの単一神経記録を安静時,被動運動下で延々と行っていました。しかもこれらの記録はデータレコーダーに保存され,データの解析はそれを再生してoff-lineで行うので,分析には記録と同じ時間がかかります。一般にオーストラリア人はあまり仕事をしませんが,彼らは,病態を明らかにしようとする非常な熱意を持って時間を忘れて(丸1日食事もとらずに!)研究に没頭していました。このような人々がいてこそ神経科学は進歩して来たのだと思われます。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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