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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻10号

2015年10月発行

雑誌目次

特集 非・日常生活の脳科学

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ページ範囲:P.1171 - P.1171

特集の意図

本誌2014年1月号では「日常生活の脳科学」と題した特集で,「瞬き」や「嚙む」といった何気なく行っている行為において脳がどのような動きを示しているかを紹介した。翻って,今号では危機的状況や特殊な環境下,つまり非・日常における引き起こされる脳の働きについて理解を試みたい。

「逃げろ!」と指令を出す脳回路

著者: 小田洋一

ページ範囲:P.1173 - P.1183

敵や危険から素早く逃げるのは動物の生存にとって最も重要な運動の1つで,その運動をコントロールする脳回路は,危険を敏感に察知し可能な限り速く正確な運動指令を出す必要がある。この必要性のために,異なる動物種の間にも共通の回路構成やニューロン特性が見出される。したがって,さまざまな動物の逃避運動をコントロールする回路構成は,それぞれ究極のパフォーマンスを発揮するための脳の機能的な構築を反映していると考えられる。

東日本大震災—心的外傷後ストレス症状の危険因子

著者: 門間陽樹 ,   永富良一

ページ範囲:P.1185 - P.1192

東日本大震災に代表される大規模自然災害への曝露は,精神的問題を引き起こすことがよく知られており,中でも心的外傷後ストレス症状とそれが長期間持続した心的外傷後ストレス障害は,代表的な精神的問題の1つである。本稿では,これらの危険因子に関する疫学的知見を紹介するとともに,災害時に対する日常からの備えという観点からより重要な災害前危険因子の特定に関するわれわれの取組みを紹介する。

自尊心が守る脳と健康—東日本大震災における追跡調査から

著者: 関口敦

ページ範囲:P.1193 - P.1204

自尊心は,メンタルヘルスにおいて重要な概念であり,われわれの研究でも,自尊心の高さが東日本大震災後のストレスによる脳形態変化からの回復を予測する因子と特定している。本稿では,自尊心と脳形態に関わる諸研究および,自尊心が心理社会的ストレス耐性を生む心理学的,生理学的なメカニズムに関する研究を紹介し,非・日常体験である「震災後のストレス」に備えるべく自尊心を向上させる方法について考察を加える。

心理ストレスと体温上昇

著者: 中村和弘

ページ範囲:P.1205 - P.1214

多くの心理ストレスは体温の上昇を引き起こす。このストレス性体温上昇には褐色脂肪熱産生,頻脈,皮膚血管収縮などの交感神経反応とストレスホルモン分泌などの内分泌反応が寄与する。最近の研究から,こうしたストレス反応の惹起に関わる視床下部から延髄にかけての神経回路が明らかとなってきた。本稿では,ストレス性体温上昇を駆動する中枢神経回路機構に関する最新の知見を紹介する。

2つのことを同時にうまくできないのはなぜか—二重課題干渉を生じるメカニズム

著者: 渡邉慶 ,   船橋新太郎

ページ範囲:P.1215 - P.1229

同時に2つのことを行おうとするとどちらもうまくできない。二重課題は,時に事故などの危機的なエラーを招く。この現象は二重課題干渉として知られ,さまざまな認知機能の実行に必要な心的エネルギーである処理資源の容量限界を反映すると考えられている。本稿では,二重課題の実行と処理資源の容量限界を司る神経メカニズムに関するヒトと動物を用いた最近の研究を概説し,二重課題干渉がどうして起こるのかを解説する。

総説

逆さま顔の認知からみた脳の働き

著者: 菅生(宮本)康子 ,   松本有央 ,   河野憲二

ページ範囲:P.1231 - P.1239

顔が上下逆さに提示されると,その顔を見分ける能力が低下する。この顔倒立効果は,主に,顔の造作要素,目鼻口の配置の違いから個々の顔を識別する能力の阻害によると考えられている。サル脳には側頭葉の後部から前部にかけて,顔の処理に特化した顔パッチがある。前部は個体識別に関わる情報をコードし,さらに最近,顔の逆さ提示で個体や表情の情報量を減らすこともわかり,顔倒立効果の神経基盤である可能性が示唆されている。

シリーズ・ビタミンと神経疾患その2

アスコルビン酸(ビタミンC)とシャルコー・マリー・トゥース病

著者: 能登祐一

ページ範囲:P.1241 - P.1246

2004年のPassageらによるCMT1Aモデルマウスに対するアスコルビン酸投与の有効性の報告を契機に,欧米において,5つのランダム化比較試験が行われた。アスコルビン酸は既にヒトでの安全性が確認されており,Passageらの報告はCMT1A治療のブレークスルーにつながるものと期待されたが,ヒトでの結果は異なるものであった。本稿では,これまでの臨床試験の歴史とその結果,今後の治療の展望につき概説する。

原著

小児部分てんかんにおけるレベチラセタム併用療法の効果と安全性

著者: 榎日出夫 ,   横田卓也 ,   岡西徹

ページ範囲:P.1247 - P.1253

レベチラセタム(LEV)併用療法を施行した4〜15歳(平均9.4歳)の小児部分てんかん患者70例について24週間の観察を行い,有効性と安全性を評価した。発作頻度減少率50%以上の有効例は57%であった。副作用は34%で認められ,内訳は眠気,倦怠感,興奮であった。継続率は87%であった。維持用量は平均39.9mg/kg/日であった。本研究でLEVの高い発作抑制効果と忍容性が示された。

成人発症の結節性硬化症の臨床と脳画像の特徴—幼少時発症例との比較

著者: 竹島慎一 ,   原直之 ,   姫野隆洋 ,   久保智司 ,   高松和弘 ,   小林宏光 ,   田中朗雄 ,   栗山勝

ページ範囲:P.1255 - P.1260

結節性硬化症(TSC)の診断基準でdefinitive TSCの11例において,20歳以後の発症6症例(A群)を,臨床的,放射線学的に解析し,20歳前発症の5症例(B群)と比較検討を行った。A群はB群に比較しててんかん発作および初発症状の全般性強直性間代性発作,精神遅滞,顔面血管線維腫は少なく軽症であり,脳画像での大脳皮質下結節,脳室上衣下結節の数も有意に少なかった。放射状大脳白質神経細胞移動線の数には差はなかった。大脳皮質下結節は両群ともに前頭葉に多かった。A群でのてんかん発作および精神遅滞の有無と大脳皮質下結節,脳室上衣下結節の数とは相関しなかった。脳外病変として肺,腎,骨病変が認められたが,A群での特有の病変はなかった。

症例報告

不妊治療中・体外受精着床後2週間で発症した奇異性脳塞栓にrecombinant tissue plasminogen activator静注療法を施行した1例

著者: 戸村美紀 ,   佐藤浩一 ,   花岡真実 ,   田村哲也 ,   木内智也 ,   新野清人 ,   三宅一 ,   仁木均 ,   障子章大

ページ範囲:P.1261 - P.1267

不妊治療中の35歳女性で,体外受精卵移植・着床後(妊娠4週)に発症した脳梗塞症例を報告する。rt-PA静注療法により後遺症を残さず改善し,経食道心エコーの結果,小型心房中隔欠損が確認された。不妊治療に併発した卵巣過剰刺激症候群に関連する深部静脈血栓が,ASDを介した奇異性脳塞栓をきたしたと考えられた。妊娠未確認時点でのt-PA投与としては本邦初の妊婦症例で,満期帝王切開により健児を得た。若干の文献的考察を加えて報告する。

現代神経科学の源流・9

ノーマン・ゲシュヴィンド【後編】

著者: 河内十郎 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1269 - P.1273

脳構造に基づく機能局在論を

酒井 当時のように全体論が全盛だった時代に,1度否定された局在論をもう1回復興させるというのは,本当に大変なことだったと想像します。それは,新しい理論を提唱する以上に大変なことかもしれません。そのこと自体,長い脳科学の歴史の中でも教訓的なことだと思います。

 河内先生は,「ゲシュヴィンドの前に道はなく,ゲシュヴィンドの後に道がある」とお書きになっていらっしゃいますね。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1229 - P.1229

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.1276 - P.1276

 少し早い夕食を南千住の老舗の鰻店でとって,「蘭学事始半日ツアー」が終了した。私は白焼きと鰻重を心から楽しみ,お腹はいっぱいになり,そして心地よい満足感を憶えていた。素晴らしい午後であった。

 その日は日曜日。お昼過ぎに,東京女子医大の学生さん2人(2年生と1年生),それに昭和大学神経内科のF先生,汐田総合病院神経内科のK先生,それに私と本誌の以前の編集主幹岩田 誠先生とが地下鉄丸ノ内線「新高円寺」梅里方面出口改札口に集合した。天気は曇り。連日の猛暑から少し解放され,散歩日和の午後であった。K先生は江戸の古地図を,私は吉村 昭著『冬の鷹』文庫版を鞄に潜ませていた。出発前の打合せのとき,全員がまるで遠足に出発する小学生に戻ったようにわくわくしていたのがわかった。皆がニコニコし,自己紹介の挨拶にも花が咲いていた。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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