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雑誌目次

論文

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

増大特集 ギラン・バレー症候群のすべて—100年の軌跡

ページ範囲:P.1281 - P.1282

特集の意図

1916年,ギラン,バレー,ストロールの3名により,「細胞増多のない脳脊髄液の蛋白増加を伴った神経根炎症候群について」という論文が著された。これがギラン・バレー症候群の原著報告であり,本年はこの原著出版から100年目を迎える。本特集では,これを記念し,本症候群研究のこれまでの歴史を振り返り,今日までの成果をひと捉えにした。

【鼎談】GBS—病態研究の歴史を振り返る

著者: 楠進 ,   神田隆 ,   桑原聡

ページ範囲:P.1285 - P.1294

はじめに

桑原 1916年にギラン(Georges Guillain;1876-1960)とバレー(Jean Alexandre Barré;1880-1967)がギラン・バレー症候群の原著を報告してから今年が100年目,来年100周年を迎えます。

 ギラン・バレー症候群の原著症例は脱髄型で,その後,軸索型という新しい病型が認知されて,現在,脱髄型・軸索型の2大病型があるということになっています。特に日本では軸索型の病態や自己抗体の解明が非常に進んで,世界をリードしてきた業績があります。

 本日はこの100年の中でも特に1980年代以降に焦点を絞って,軸索型や抗ガングリオシド抗体の発見がなされた頃から現在までのお話を伺いたいと思います。

ギラン・バレー症候群の歴史

著者: 楠進

ページ範囲:P.1295 - P.1303

ギラン・バレー症候群は,急性単相性の多発性末梢神経障害であり,1916年のギラン,バレー,ストロールによる報告に基づきそのように呼ばれている。従来,脱髄疾患とされてきたが,1980年代以降軸索をプライマリーに障害するタイプも存在することがわかってきた。病態は自己免疫であり,特に糖脂質の糖鎖に対する抗体が高頻度にみられることが1980年代の末頃から報告されてきた。1980年代半ば以降,血漿浄化療法と経静脈的免疫グロブリン療法が有効な治療法として用いられているが,重症例・難治例は依然として存在し,今後の課題となっている。

ギラン・バレー症候群の疫学

著者: 芳川浩男

ページ範囲:P.1305 - P.1311

ギラン・バレー症候群の発症率,性差,好発年齢などの疫学は,古くは北米,英国,アイスランド,ノルウェーで,1980年以降ではカナダ,イタリア,スペイン,スウェーデンから報告されてきた。ギラン・バレー症候群はどの国においても,あらゆる年齢層にみられ,男性に多く,高齢になるほど頻度が増す。年間発症率は人口10万人当たり0.62〜2.66人,男女比は1.78:1である。日本では発症年齢が比較的若く,フィッシャー症候群が他国より多い。

ギラン・バレー症候群の臨床病型

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.1313 - P.1320

ギラン・バレー症候群は,障害される神経線維(運動・感覚・自律神経)や筋力低下の分布,電気生理・病理学的所見に基づいて分類される。局所的な筋力低下の分布を示す臨床亜型は欧米の報告をオリジナルとするものの,発症頻度の高い本邦における症例解析が,病態解明や概念の確立に貢献してきた歴史がある。本稿では,以前から知られている臨床亜型に加え,経過を通じて手・足部に筋力低下が限局する「四肢遠位部限局型」も紹介する。

ギラン・バレー症候群の神経生理

著者: 国分則人

ページ範囲:P.1321 - P.1328

ギラン・バレー症候群(GBS)の電気生理について概説した。脱髄型GBSの病変は不均一であるのが特徴で,神経終末部,生理的絞扼部,神経根に障害が強い。軸索型GBSは一次性軸索変性だけでなく,reversible conduction failureと呼ばれる脱髄様所見を病初期に呈することが知られるようになった。こうした知見をもとに今後GBSの電気診断基準は,改訂されていくだろう。

ギラン・バレー症候群の末梢神経病理

著者: 中野雄太 ,   神田隆

ページ範囲:P.1329 - P.1339

ギラン・バレー症候群(GBS)は,当初報告された脱髄主体の急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)に加えて,現在では急性運動性軸索型ニューロパチー(AMAN)や急性運動感覚性軸索型ニューロパチー(AMSAN)といった軸索障害主体の病型の存在が確立している。各病型の病理学的特徴は,脱髄型では血液神経関門の破綻部位に一致した巣状散在性の炎症性脱髄巣であり,軸索型では神経根に強調される軸索傷害巣である。本稿では,病態機序との相関に重点を置いてGBSの末梢神経病理について概説する。

分子相同性によるギラン・バレー症候群の発症機序—病態解明の道程

著者: 結城伸泰

ページ範囲:P.1341 - P.1346

ギラン・バレー症候群(GBS)の3割がCampylobacter jejuni腸炎後に発症する。C. jejuniリポオリゴ糖とガングリオシドとの間に分子相同性が存在する。C. jejuni感染後5,000人に1人の割合で抗ガングリオシド抗体が産生され,末梢運動神経に結合し,補体が活性化される。続いて,軸索膜が傷害され,伝導障害が起こり,運動麻痺を呈する。

ギラン・バレー症候群の自己抗体

著者: 内堀歩 ,   千葉厚郎

ページ範囲:P.1347 - P.1357

ギラン・バレー症候群ではガングリオシドを中心とする糖脂質に対する抗体が約60%で検出される。抗体価は急性期に最も高く,経過とともに低下する。臨床病型と検出される抗体の種類には一定の対応傾向がある。末梢神経組織におけるガングリオシドの局在,先行感染病原体における分子相同性糖鎖構造の証明,ガングリオシド感作動物モデルの作製などの検討により,糖脂質抗体による補体介在性の神経組織障害機序が推測されている。

脱髄型ギラン・バレー症候群の標的分子

著者: 森雅裕

ページ範囲:P.1359 - P.1369

ギラン・バレー症候群は脱髄型(AIDP)と軸索型(AMAN)に分かれ,後者はガングリオシドが標的分子であることが明らかにされているが,特に欧米で比率の高い脱髄型は長年研究が続けられてきたにもかかわらず,その標的分子が明らかにされてこなかった。近年,ランヴィエ絞輪部周辺の分子に注目が集まり,サイトメガロウイルス関連AIDPではモエシンが標的抗原であることが報告されている。

フィッシャー症候群とビッカースタッフ脳幹脳炎

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.1371 - P.1376

フィッシャー症候群は外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失を三徴とする特異な免疫介在性ニューロパチーである。ビッカースタッフ脳幹脳炎は意識障害,外眼筋麻痺,運動失調を中核とする中枢神経疾患とされてきたが,フィッシャー症候群との症状の類似性を有するだけでなく,血清抗GQ1b抗体を介する免疫学的病態も共通することが明らかになってきた。すなわちビッカースタッフ脳幹脳炎は中枢病変を合併するフィッシャー症候群として捉えられる。両疾患においてヒト神経系でのガングリオシドGQ1bの発現・局在が臨床症状を規定しているものと考えられる。

急性感覚性ニューロパチーと急性自律神経ニューロパチー

著者: 小池春樹

ページ範囲:P.1377 - P.1387

ギラン・バレー症候群(GBS)に類似した発症様式を呈するニューロパチーの中には,感覚障害や自律神経障害が優位な病型が存在する。このような,いわゆる急性感覚性ニューロパチー・急性自律神経ニューロパチーでは,自律神経節か感覚神経節,またはその両方に存在する神経細胞の障害が示唆される症例が報告されている。このような病型をGBSの亜型として捉えるべきかどうかに関しては定まった意見がなく,今後の検討課題である。

急性発症CIDP

著者: 神林隆道 ,   園生雅弘

ページ範囲:P.1388 - P.1396

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)の中には,ギラン・バレー症候群(GBS)様の発症経過を呈する,急性発症CIDPが存在する。急性発症CIDPは,GBSの亜型である急性炎症性脱髄性ポリニューロパチー(AIDP)と臨床的,電気生理学的にも類似所見を呈し,発症初期の鑑別に難渋する。初期にGBSと診断されていても,発症4週以降も症状が進行する例や,単相性経過がみられない例では,急性発症CIDPの可能性を考慮すべきである。

ギラン・バレー症候群の治療

著者: 野村恭一

ページ範囲:P.1397 - P.1410

ギラン・バレー症候群(GBS)の治療は,1950年代までは主に対症療法のみであった。1950〜1960年代に副腎皮質ステロイド療法が導入されたが,その後のランダム化比較試験(RCT)の結果からステロイド剤単独治療の有効性は否定された。1970〜1980年代には血漿交換療法(PE)が導入され,大規模RCTによりその有効性が確認された。1990〜2000年代には免疫グロブリン静注療法(IVIg)が行われ,PEを対照とした多施設RCTを施行し,IVIgはPEに勝るとも劣らない治療法であることが確立した。さらに,2010年代には生物製剤を用いた新たな治療法が試みられている。

ギラン・バレー症候群の予後,予後関連因子

著者: 海田賢一

ページ範囲:P.1411 - P.1419

ギラン・バレー症候群(GBS)の長期予後は免疫療法が確立された現在でも満足できるものではない。予後不良例を早期に同定し,より強力な治療を施すことがGBSの予後改善につながる。GBSの予後関連因子は臨床的,電気生理学的,生物学的因子に分類され,臨床的因子が予後予測に最も有用である。より正確な予後予測システムの開発のために前方視的臨床研究が本邦を含め国際的に行われている。

ギラン・バレー症候群の新規治療の現状と展望

著者: 三澤園子

ページ範囲:P.1421 - P.1428

ギラン・バレー症候群(GBS)の標準治療として,免疫グロブリン大量静注療法,血漿交換療法の有効性が示されている。GBSの大半の症例は,無治療もしくは上記標準治療により改善する。しかし,一部の症例においては,長期にわたる人工呼吸器管理や日常生活に支障をきたす神経学的後遺障害を生じる。GBSは若年者の罹患も多く,これらの予後不良例においては,現状の治療は不十分であると言わざるを得ない。これまで,インターフェロンβ,脳由来神経栄養因子(BDNF)などの新規治療の試みが複数なされてきた。しかし,残念ながら,有効性の確立された新規治療は現時点ではない。現在,重症例を対象とした免疫グロブリンの反復投与の臨床試験,補体阻害薬であるエクリズマブの臨床試験が進行中であり,その結果が待たれる。免疫グロブリン大量静注療法,血漿交換療法の作用機序は非特異的であり,不明の点も多い。GBSの病態解明が進むとともに,より病態に即した治療法の開発が待たれる。

総説 シリーズ・ビタミンと神経疾患その3

ビタミンDと多発性硬化症

著者: 新野正明 ,   宮﨑雄生

ページ範囲:P.1429 - P.1433

多発性硬化症(MS)の重要な環境要因の1つとしてビタミンD濃度低下が考えられている。実際,これまでの多くの報告では,MS患者において血中ビタミンD濃度が低下しているとされる。ビタミンDは骨代謝に重要なだけでなく,さまざまな免疫細胞への影響が知られるようになり,MSに対する治療効果も期待されている。本稿では,ビタミンDとMSに関するこれまでの報告を概説し,今後の展望を議論したい。

原著

日本人小児部分てんかんに対するレベチラセタム長期継続併用療法—多施設共同非盲検試験

著者: 中村秀文 ,   大澤眞木子 ,   横山輝路 ,   吉田克己 ,   鈴木淳

ページ範囲:P.1435 - P.1442

既存の抗てんかん薬で発作が抑制されない日本人小児部分てんかん患者に対する14週間のレベチラセタム(LEV)併用療法の効果を検討した先行期間(第1期)を完了し,長期継続投与期間(第2期)に移行した55例を対象とし,長期安全性と有効性を評価した。有害事象および副作用発現率はそれぞれ98.2%と27.3%で,2%以上に認められた副作用は傾眠のみであった。重篤な有害事象および死亡がそれぞれ8例と1例あったが,LEVによる副作用は嘔吐の1例のみであり,長期投与で問題となる副作用は認められなかった。部分発作回数減少率(中央値)および50%レスポンダー率はそれぞれ43.32%と41.8%で,第1期の効果を維持した。小児部分てんかん患者に対しLEVの長期安全性と有効性が確認された。

症例報告

音楽嗜好症(musicophilia)を呈した右側優位側頭葉萎縮の1例

著者: 品川俊一郎 ,   中山和彦

ページ範囲:P.1443 - P.1448

右側頭葉萎縮と音楽嗜好症を呈する68歳の女性例を経験した。本例では2年前より,それまでなかった流行歌など特定のジャンルの過剰な音楽聴取や歌唱行動が出現した。一方で側頭葉の顕著な萎縮に比して意味記憶障害や相貌失認が目立たず,意欲低下など軽度の行動変化が存在するのみであった。本例の音楽嗜好症は音楽という刺激に特異的に情動の変容と報酬の強化が起こり,音楽関連行動が常同行動化したものと推測された。

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書評 「脳卒中ビジュアルテキスト 第4版」—荒木 信夫,高木 誠,厚東 篤生●著

著者: 片山泰朗

ページ範囲:P.1370 - P.1370

 脳卒中はわが国では死因別死亡率において第4位の座にあり,年間12万人を超す死亡がみられている。超高齢社会を迎え年間約30万人が新たに脳卒中となり,脳卒中患者総数は300万人を超える数に達していると推定され,今後さらに増加することが予想される。このような状況下で脳卒中の予防,脳卒中急性期の治療および脳卒中後遺症の治療の重要性はますます増大するものと思われる。

 そんな中,『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂され発刊された。この間,脳卒中治療は目覚ましい進歩がみられ,大きく変貌している。わが国では2005年10月に血栓溶解薬,組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)が発症3時間以内の脳梗塞に適用となったが,これが契機となって全国の脳卒中救急診療体制が整備され,また主要機関病院では脳卒中を集中的かつ専門的に診療するストロークケアユニット(Stroke Care Unit:SCU)も設置されるようになった。

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1387 - P.1387

次号予告

ページ範囲:P.1428 - P.1428

書評 「帰してはいけない小児外来患者」—崎山 弘,本田 雅敬●編 長谷川 行洋,広部 誠一,三浦 大●編集協力

著者: 前野哲博

ページ範囲:P.1449 - P.1449

 小児診療について,全国全ての地域・時間帯を小児科医だけでカバーすることは不可能であり,実際には救急医や総合診療医などの「非小児科医」が小児診療に携わる機会は多い。特に総合診療医には「地域を診る医師」としてあらゆる年代層の診療をカバーすることが期待されており,実際,2017年度から新設される総合診療専門医の研修プログラムにおいても,小児科は内科,救急科とともに必修の研修科目として位置付けられている。

 このような小児診療に関わる非小児科医にとって,最低限果たさなければいけない役割は何だろうか? さまざまな意見があるかもしれないが,最終的には「帰してはいけない患者を帰さない」ことに尽きるのではないだろうか。たとえ自分ひとりで診断を確定したり,治療を完結したりできなくても,「何かおかしい」と認識できれば,すぐに小児科専門医に相談して適切な診療につなぐことができるからだ。

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.1451 - P.1451

あとがき/読者アンケート用紙

著者: 神田隆

ページ範囲:P.1452 - P.1452

 9月号の本誌特集でとりあげました酵素補充療法はほんの一例ですが,神経疾患に対する治療の進歩は目を見張るものがあります。本特集号のギラン・バレー症候群も,久々の新薬としてエクリズマブの医師主導治験が進行中です。私が医師になりたての頃は,神経内科で使える薬というとベーシックな抗パーキンソン病薬や副腎皮質ステロイド薬のほかは抗てんかん薬かビタミンB12くらいで,昨今の学術大会のように10指に余るスポンサードセミナーが毎日催される状況は想像もできませんでした。さらに数年前の話をします。私は母校が御茶ノ水にあり,講義をエスケープして駿河台界隈を歩いていますと,明治大学をはじめとする私学の構内・構外に乱立する立看板(今はもう死語でしょうか)がいやおうなしに目に入りました。学園紛争の山場は既に過ぎた時代でしたが,「産学協同」ということばは「米帝」「日帝」(これも立派な死語ですね)と同じようなレベルで,ゲジゲジのように否定的に扱われていたのを思い出します。今や創薬の世界では「産学連携」は国のスローガンの1つであり,誰も疑念を抱かないお題目になっているのとは今昔の感があります。新たな治療法の開発は難病患者の相当部分を担当する神経内科医として最大の使命の1つです。産との密接なやり取りはこれからも大いに推進されるべき事項であろうと思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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