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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻4号

2015年04月発行

雑誌目次

増大特集 大脳皮質vs.大脳白質

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ページ範囲:P.352 - P.353

特集の意図

近年,画像で捉えられる白質病変が増えているが,臨床症状との対応やその病理背景を踏まえた鑑別は必ずしも容易ではない。一方,巣症状を呈する皮質病変の局在については詳細が解明されつつある。本特集は,広汎な皮質,白質病変に対応する臨床像をさまざまな視点で説明し,画像や病理との関連がどこまで見出せるかを問う試みである。大脳皮質・白質病変の多様性をふまえて現在の臨床診断の到達点と同時に限界を明らかにし,今後の展望を議論する。

大脳皮質概論

著者: 吉田眞理

ページ範囲:P.355 - P.369

大脳皮質の局在症状は病変部位を推測する鍵である。皮質の特定の領域を障害する疾患は複数存在するため,各疾患の変性の特徴を知ることが重要である。病理学的に神経細胞やグリア細胞に形成される封入体と局在,タウやTDP-43などの構成蛋白により,特徴的な皮質の障害領域や変性分布が存在する。アルツハイマー病,ピック病,大脳皮質基底核変性症,TDP-43陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症の皮質病変を概説した。

ヒト大脳白質の成り立ちと病態

著者: 内原俊記 ,   宍戸-原由紀子

ページ範囲:P.371 - P.387

白質は脳の進化・大型化に伴ってその割合が増大し,ヒト成人で脳の約半分を占める。皮質に比べ機能局在性が乏しく,異なった機能系が近接し交錯するため,病変と臨床像との1:1対応がつけにくい場合も多い。一方,白質の生理的,病的状態を捉える画像技術の進歩は著しく,病変のみならず機能訓練後の構造変化(structural plasticity)をも捉えるまでになってきた。これらの構造をマクロ-ミクロの視点からまず概説し,発生,正常脳,疾患脳での白質の変化を概観する。白質を障害する疾患は多いが,血管病変に伴う白質の変化を中心に背景病理の多様性を示す。

皮質性認知症の現代的捉え方

著者: 下濱俊

ページ範囲:P.389 - P.402

初老期から老年期には多くの疾患ないし病態が認知症を呈する。本稿では,皮質性認知症の2大原因疾患であるアルツハイマー病と前頭側頭葉変性症について,その疾患概念の歴史的変遷,病理や画像所見を含めた診断的特徴,大脳皮質の局在認知機能からみた臨床症状と最近のトピックスについて概説した。

皮質下性認知症の現代的捉え方—遺伝性脳小血管病からの解析

著者: 水野敏樹

ページ範囲:P.403 - P.412

高齢で発症する小血管病を基盤とする皮質下性認知症は発症過程の解析が難しい。CADASIL,CARASIL,脳アミロイド血管症などの遺伝性脳小血管病は血管性認知症の発症機序を考えるうえで重要な疾患である。CADASILでは変異notch3,CARASILではTGFβシグナル亢進,脳アミロイド血管症ではアミロイドβ蛋白蓄積により,異常蛋白凝集体,細胞外基質が血管周囲に蓄積して小血管病変,認知症へ進展する機序を考察する。

レヴィ小体型認知症—鑑別診断を中心に

著者: 織茂智之

ページ範囲:P.413 - P.425

レヴィ小体型認知症とアルツハイマー病との鑑別点は,前者は記憶障害が軽度で,認知機能の変動,注意・遂行機能障害,視空間認知機能障害,幻視,うつ症状が強く,レム期睡眠行動異常症,パーキンソニズム,自律神経症状がみられることである。画像検査では,頭部MRIで内側側頭葉の萎縮が軽度で,脳血流シンチグラフィで後頭葉の血流低下が,MIBG心筋シンチグラフィでMIBG集積低下が,ドパミントランスポーター(DAT)シンチグラフィで線条体のDAT機能低下が認められることである。

びまん性白質病変の精神症状—アルツハイマー病と皮質下虚血性病変との関連を中心に

著者: 橋本衛 ,   池田学

ページ範囲:P.427 - P.432

びまん性白質病変の精神症状を考察するうえで,皮質病変の影響を除外することは重要な問題である。特に高齢者ではアルツハイマー病(AD)を高頻度に合併するため,皮質下虚血性病変による症候と捉えていたものの中に皮質症状が混じっている可能性が十分ある。しかし,両者を厳密に分離することは困難であるので,本稿ではADと皮質下虚血性病変との相互作用,ADに皮質下病変を合併した際の臨床症候について考察する。虚血性白質病変やラクナ梗塞などの皮質下の小血管病変は,前頭葉を中心とした神経ネットワーク(前頭葉基底核視床回路)を障害し,高齢者においては認知機能低下,特に遂行機能障害を引き起こすことが報告されている。また,これらの病変がうつのリスクであることは繰り返し指摘されてきた。さらにこれらの皮質下虚血性病変がAD患者の妄想やせん妄などさまざまな精神症状のリスクとなる可能性も指摘されているが,研究は少なくそのメカニズムもいまだ不明な点が多い。

大脳皮質連合野病変の症候学

著者: 鈴木匡子

ページ範囲:P.433 - P.443

大脳皮質連合野の病変は,認知や行動に関わる神経心理学的症候をきたす。神経心理学的症候と病巣部位との関係は緩やかなもので,多くの要因により変化する。近年,対象とする疾患が脳血管障害をはじめとする局所脳損傷から神経変性疾患に広がってきたことを受けて,捉えられる症候にも変化がみられる。大脳皮質連合野の症候を整理していくためには,神経科学的知見を取り入れつつ,疾患ごとの病態を考慮した検討が必要と考えられる。

大脳白質病変の症候学

著者: 河村満

ページ範囲:P.445 - P.450

 大脳白質は交連線維,連合線維,投射線維からなっている。本稿では,これらの線維束が障害されることによって生じると思われる症候について述べた。白質病変を呈する背景病態はマルキアファーヴァ・ビニャミ病(MBD),軸索スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS),筋強直性ジスロトフィー1型(DM 1),多発性硬化症などであり,これらについての筆者らの研究を示し,病巣と症候を対比した。

 MBDでは,左右大脳半球を結ぶ交連線維の障害が生じ,左手の失行など各種の半球間離断症候が生じる。連合線維の障害によって,半球内離断症候が起こる。HDLSは日本人に好発する遺伝性白質脳症として近年特に注目されている。認知症症状を呈し,従来は若年性認知症の中に埋もれていた可能性があるが,症候内容は独特である。DM 1では社会的認知障害が生じ,情動系回路として知られているヤコブレフ・ナウタの回路の障害によることが示唆される。脳幹から大脳中央部を通る投射線維は上行性の賦活系を含み,多発性硬化症などではこの系が障害されて注意障害が起こる可能性がある。パーキンソン病における認知機能障害は,大脳基底核-大脳連合野を結ぶ両方向性の回路の障害で生じると考えられることが多い。

 大脳皮質障害のみでなく,大脳白質病変で各種の高次脳機能障害が生じる。

大脳皮質を見る:脳磁図(MEG)

著者: 柿木隆介

ページ範囲:P.451 - P.466

脳磁図は,大脳皮質の錐体細胞の樹状突起を流れる電流によって発生する磁場を計測する。機能的MRIに比べて時間分解能が非常に高いため,詳細な脳内時間情報処理過程が計測可能である。また,脳波に比して空間分解能が高い点も大きな長所である。何らかの刺激に対して記録される誘発脳磁図と,周波数分析による背景脳磁図の解析が可能である。

大脳白質を見る:MRI

著者: 中田安浩

ページ範囲:P.467 - P.474

大脳白質病変のMRI画像における鑑別診断は難しいことが多いが,詳細な読影により特徴的な画像所見を拾い上げることで鑑別できる場合もある。鑑別可能な疾患を見逃さないことが重要である。本稿では鑑別のポイントとして,①皮質直下の白質優位の疾患,②両側側頭葉尖端部の皮質下白質に高信号を示す疾患,③mass effectを呈する疾患,④拡散強調画像やT2*強調画像での所見が特徴的な疾患を提示する。

脳白質線維トラクトグラフィーと定量解析

著者: 下地啓五 ,   徳丸阿耶

ページ範囲:P.475 - P.485

拡散MRI像は非侵襲的に生体脳の白質路を同定,計測しうる唯一の手法である。連合線維は大脳半球内の異なる部位の皮質間を結ぶ。投射線維は大脳皮質と脊髄など他の中枢神経を結ぶ。大脳の左右半球間を結ぶ線維を交連線維と呼ぶ。拡散テンソル像を用いた定量解析手法には,関心領域法,白質路を描出し計測するtract-specific analysis,全脳解析法の3つに大別される。

VSRAD®による大脳皮質および白質体積測定

著者: 松田博史

ページ範囲:P.487 - P.496

脳構造の体積測定は精神・神経疾患の早期診断や鑑別診断,および進行度評価に必須となっている。VSRAD®は,三次元のMRI T1強調画像を灰白質,白質に分画し,解剖学的標準化を行いさらに平滑化を行った後に正常データベースと比較することにより個々の症例での灰白質および白質体積を統計学的に評価し,Zスコアを表示する自動解析ソフトウェアである。

多発性硬化症の皮質病変

著者: 河内泉 ,   西澤正豊

ページ範囲:P.497 - P.504

多発性硬化症と視神経脊髄炎は,時間的,空間的多発性を特徴とする中枢神経系の自己免疫疾患である。多発性硬化症はオリゴデンドロサイト・髄鞘が一義的に障害される「オリゴデンドロサイトパチー」(標的自己抗原未同定)であり,視神経脊髄炎はアストロサイトが一義的に障害される「アストロサイトパチー」(標的自己抗原:アクアポリン4)である。両疾患ともユニークな白質・灰白質病変の重要性が指摘されている。

白質と脳機能

著者: 和氣弘明 ,   加藤大輔

ページ範囲:P.505 - P.512

オリゴデンドロサイトは軸索周囲に髄鞘を形成することにより,跳躍伝導によって神経伝導速度を50倍まで速めることができる。近年,髄鞘化には神経活動依存性があることが示されている。すなわち神経活動依存的に神経伝導速度を調節することで神経細胞活動の時間的活動を制御することができる。神経細胞活動を時間的に制御することにより脳情報処理を効率化,適正化することができると考えられている。本項ではこのようなオリゴデンドロサイトの脳機能に対する寄与を議論する。

総説

大脳皮質基底核変性症の臨床診断基準と治療

著者: 下畑享良 ,   饗場郁子 ,   西澤正豊

ページ範囲:P.513 - P.523

4リピート・タウオパチーである大脳皮質基底核変性症は,さまざまな臨床表現型を呈するため,臨床診断は難しい。しかし,タウを標的とした病態抑止療法が現実のものとなりつつあることから,生前の正確な診断が求められている。Armstrongらは,2013年に新しい診断基準を提唱したが,2つの検証研究の結果から,診断基準の感度,特異度は必ずしも高くないことが示された。今後,診断バイオマーカーの探索が不可欠である。

原著

胚芽異形成性上皮腫瘍に伴う難治性てんかん症例における発作起始域の臨床的・病理学的検討

著者: 村上信哉 ,   森岡隆人 ,   橋口公章 ,   鈴木諭 ,   重藤寛史 ,   酒田あゆみ ,   佐々木富男

ページ範囲:P.525 - P.532

胚芽異形成性上皮腫瘍(DNT)のてんかん原性はいまだに議論の多いところであるが,DNTのてんかん原性は病理学的に合併する皮質形成異常に存在するという考え方が主流である。九州大学脳神経外科で行ったてんかん原性域としてDNTがみられた難治性てんかんの手術3例のうち,2例は慢性硬膜下電極記録を経由して手術を行い,1例は術中皮質電位記録を用いて手術を行った。慢性硬膜下電極記録を用いた2例とも,DNTの周囲皮質に発作起始域を同定し,これらを含めて切除し,良好な発作転帰を得た。しかし,同部位の病理学的検索では,軽度のグリオーシスがみられるのみで,皮質形成異常は合併していなかった。術中皮質電位記録を用いた側頭葉外側部DNTの1例では,側頭葉内側部に脳波異常域を同定したが,腫瘍を含めた側頭葉外側部を切除し,良好な発作転帰は得られなかった。DNT症例のてんかん外科における摘出範囲は,腫瘍の摘出だけでよいという考え方と,周囲皮質を含めて追加切除したほうがよいという考え方があるが,本報告のようにDNTのてんかん原性は症例によりさまざまであると考えられるので,慢性硬膜下電極記録を中心とした詳細な術前検査により正確なてんかん原性域の同定が重要である。

連載 神経学を作った100冊(100)【最終回】

豊倉康夫『神経内科学書』(1987)

著者: 作田学

ページ範囲:P.534 - P.535

 豊倉康夫(1923-2003)は日本の神経病学者である(Fig.)。1923年4月30日に熊本県で生まれた。出水幼稚園,出水尋常小学校,旧制熊本県立熊本中学校,旧制第五高等学校理科乙類,東京帝国大学医学部と進んだが,中学校の頃から,秀才の誉れが高かった。これは筆者も直接聞いたところだが,小学校当時,「昼の弁当の時間になるといなくなり,運動場で水を飲んでいる旧友が2人いた。そのことを話すと,母は次の日に弁当の他に大きなおにぎりを2つ持たせてくれた。運動場で2人におにぎりを渡すと『そんなもんは要らん』と言ったが,そこに置いたおにぎりは下校時になくなっていた。それを母に話すといかにも満足そうな顔をした」という。

 このような優しい母親と厳格な父親に育てられて,優しくスマートで颯爽とした学生に育っていった。旧制高校ではドイツ文学に原書で親しみ,リルケ(Rainer Maria Rilke;1875-1926)の文体が最も美しく詩的な雰囲気を漂わせていると友人に語っていた1)

お知らせ

第26回日本末梢神経学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.388 - P.388

会  期 2015年9月18日(金),19日(土)

会  場 ホテルブエナビスタ(松本市本庄1-2-1 Tel0263-32-0111)

書評

「神経眼科学を学ぶ人のために」—三村 治●著 フリーアクセス

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.444 - P.444

 日本広しといえども,神経眼科の大看板を掲げた主任教授のいる教室は,現在兵庫医科大学しかない。その人,三村治教授が8年をかけて渾身の神経眼科学の教科書を上梓した。

 視覚は眼球だけでは成り立たない。対象物に視線を合わせて明視するという瞬時の作業は脳と眼球の共働で行われ,このときに,眼球運動,調節や瞳孔の運動が生じている。こうして適切に網膜に入力された視覚信号は,視路を経て大脳皮質視覚領に到達し,さらに高次脳へ至って情報処理される。神経眼科とは眼球そのものだけでなく,それと共働作業をしている大脳皮質や脳幹,小脳も含めた視圏で,視覚に関する生理,病理を捉える学問で,その源は20世紀前半にある。その後の一世紀の間に,神経学を支える学問群の目覚ましい進歩とともに,神経眼科はおびただしい臨床経験をした。三村教授は,日本の神経眼科学の草創期メンバーである井街譲,下奥仁兵庫医大両教授の下に学び,1998年に第3代教授に就任した。この経歴からも,日本で最も豊富な神経眼科の臨床経験を有した現役医師かつ教育者であることが知れる。

「トラブルに巻き込まれないための医事法の知識」—福永篤志●著 稲葉一人●法律監修 フリーアクセス

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.533 - P.533

 交通事故大国というイメージが強い米国でも,実際には年間の交通事故死者数よりも医療事故死者数のほうが多いだろうと言われている。今から8年ほど前のNew England Journal of MedicineにHillary ClintonとBarack Obamaが連名で,医療における患者の安全性に関して異例の寄稿をしたほどである。

 日本における医療過誤死者数ははっきりとは示されていないが,医事関係訴訟は年間700〜800件はあるという。患者ないしその家族の権利意識の高まりの影響が大きいが,マスコミの医療事故報道や弁護士側の動きも無視できない。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.523 - P.523

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.536 - P.537

あとがき フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.538 - P.538

 本誌において2013年8月号から2014年12月号まで「神経疾患の疫学トピックス」という連載を執筆させていただいた。この企画を考えたのは,2005年の『Brain』誌にイタリアのプロサッカー選手集団における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症リスクが一般人口集団と比較して15倍高いという驚くべきデータが公表されて印象に残っていたからである。この研究で行ったことは1970〜2001年までにセリエAに登録された7,325名の選手中5名がのちにALSを発症したという事実を示しただけである。論文の長さも5頁しかなく『Brain』誌としては例外的に短いことも特徴であったが,この論文のインパクトは高く,現在までに172編の論文で引用されている。

 もう1点は,この論文では一般人口とサッカー選手におけるALS発症率を比較するために標準化死亡比(standardized mortality ratio:SMR)という統計法が使われていたが,この方法を知らなかったし,理解できなかった。その後,多くの大規模疫学研究において,各種神経疾患における発症リスク,危険因子,保護因子が示されているが,いろいろな統計法が用いられており,やはりこれらを理解できなかった。臨床医(特に自分自身)の統計学の知識は限られているという問題点を感じていたところに,筆者の所属する病院の臨床試験部に生物統計学の専門家である佐藤泰憲先生が赴任されてこの連載を着想した。われわれ臨床医が疫学的論文を読む際に統計法の部分は読まないか,読んでも理解できない。また自分が論文を書く際にこれまで本当にこの検定法が適切であるかについては自信がなかった。すべてをStudent t-testで検定する時代は終わっている。データに即した統計が必要である。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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