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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

特集 脳と「質感」

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ページ範囲:P.661 - P.661

特集の意図

質感認知の機能は,日常生活で物体認識を正常に行うために極めて重要である。近年,さまざまな分野と連携を図ることにより質感認知の神経機構の研究が発展しつつある。これらを踏まえ,質感認知に関わる神経機構の諸側面の研究を紹介し,現在発展しつつあるこの分野の最前線の現状を概観する。

質感がなぜ重要か—質感認知研究の発展

著者: 小松英彦

ページ範囲:P.663 - P.668

質感認知とは感覚情報をもとに,物の素材や状態を推定する機能である。質感認知によりわれわれは対象物に関して生物学的に重要な意味を持つ情報を手にいれることができる。さらに質感は嗜好や情動と強く結びついている。質感認知のメカニズムを理解するためには,物の物理的性質とそれにより生じる感覚特徴,および脳情報処理の理解が必要であり,工学,心理物理学と脳科学の異分野連携が重要な鍵をにぎっている。

視覚—物体の質感認知

著者: 山根ゆか子 ,   田村弘

ページ範囲:P.669 - P.678

動物,花,木などの自然物,漆器,ガラス,コインなどの人工物,いずれも,その表面には固有の色,テクスチャ,光沢感などからなる視覚的質感が備わっている。近年の研究により,このような質感情報認知のための脳内機構が明らかになってきた。本稿では,物体の視覚的認識と深く関わる霊長類腹側視覚経路において,物体表面の色やテクスチャなどの質感情報がどのように処理され,神経活動に符号化されているのかについて紹介する。

聴覚—音の質感認知

著者: 白松-磯口知世 ,   高橋宏知

ページ範囲:P.679 - P.690

自然界の音は,豊かな周波数構造を持つ。われわれの脳は,こうした周波数構造,すなわち,音の質感を抽出,知覚するために,聴覚系や情動系,高次認知系を発達させてきた。近年,音楽における協和音・不協和音や長調・短調といった質感の知覚に関わる神経活動が注目されている。その結果,われわれが進化の過程で獲得した脳の情報処理システムが,音楽における質感の生成にも寄与している可能性が議論されている。

手触りと“眼触り”の脳を探る

著者: 山本洋紀

ページ範囲:P.691 - P.700

筆者らが行っている眼と手による質感を探る脳機能イメージングを紹介する。布を見たときと触ったときの脳画像から見えてきたのは質感のクロスモーダル性だった。見ていた布は視覚野だけでなく触覚野の活動からも解読できた。触っていた布は触覚野だけでなく視覚野でも解読できた。さらに,眼でも手でも質感が区別できる領域が連合野と感覚野に見つかった。眼で触り手で見るかのような脳の振る舞いは質感の感性面の顕れかもしれない。

ヒトの質感認知—損傷脳における質感認知障害

著者: 鈴木匡子

ページ範囲:P.701 - P.709

質感は視覚,触覚,聴覚など多様式の感覚から成り立っており,1つの感覚様式,例えば視覚からだけ質感を認知できない状態は,視覚性質感失認と呼ぶことができる。視覚性質感失認と考えられる自験例2例に報告例3例を加えて検討した結果,視覚的な質感認知は実物または画像で障害され,障害される過程も異なっていた。病巣はいずれも後頭側頭葉を含み,特に側副溝近傍の左内側後頭葉との関連が強いことが示唆された。

視覚刺激に対する嗜好性と前頭葉眼窩部の関与

著者: 船橋新太郎

ページ範囲:P.711 - P.722

生物学的な意味や価値はないが,対称的な刺激や規則的なパターンを含む刺激,あるいは,静止画刺激に比べて動画刺激がより好まれ,嗜好性の高い刺激は報酬としての価値をも持つことが行動実験で示されている。一方,ヒトの脳機能イメージング研究や動物の神経生理学的研究で,前頭葉眼窩部の刺激に対する活動の違いが嗜好性の違いと相関していることが示され,前頭葉眼窩部の嗜好性への関与が明らかになってきている。

総説

糖尿病と認知症

著者: 二村明徳 ,   森友紀子 ,   河村満

ページ範囲:P.725 - P.732

高齢化に伴い糖尿病も認知症も患者数は増加すると予想される。糖尿病は認知症発症を促進するため,糖尿病患者では軽度認知障害の段階で認知機能障害を早期発見することが重要である。MoCA(Montreal Cognitive Assessment)による筆者らの検討では,糖尿病教育入院中の72%の患者に糖尿病合併軽度認知障害が疑われた。糖尿病治療薬によるアルツハイマー病の治療が試みられ,糖尿病はパーキンソン病などの神経変性疾患との関連も指摘されている。

アクアポリンと神経疾患

著者: 安井正人

ページ範囲:P.733 - P.738

アクアポリンの発見から20年が過ぎた。アクアポリンの分子生物学的,生化学的研究はかなり進展したといえるが,まだまだ未解決の問題も多い。中枢神経系で発現しているアクアポリン4は視神経脊髄炎や脳浮腫の病態との関連が明らかとなり,臨床的にもその重要性が認識された。さらに脳のリンパ流にも関与していることから,神経変性疾患や精神神経疾患との関係も指摘されている。アクアポリン4機能の解明と創薬が期待される。

シトリン欠損症の治療および病態の考察

著者: 早坂清 ,   沼倉周彦 ,   渡邊久剛

ページ範囲:P.739 - P.747

シトリンは肝臓におけるリンゴ酸-アスパラギン酸グルタミン酸シャトルを構成し,欠損症は新生児肝内胆汁うっ滞症および成人発症II型シトルリン血症を惹起する。欠損症の主な病態は,肝臓における解糖系の障害に起因する脂質の生成障害と考えられ,中鎖脂肪酸トリグリセリドの投与は,肝細胞にATPを供給し,脂質の生成を促し,リンゴ酸-クエン酸シャトルを介して細胞質のNAD+/NADH比を改善する効果的な治療法である。

原著

実臨床下での日本人高齢発症部分てんかん患者に対するレベチラセタムの併用療法

著者: 山内俊雄 ,   兼本浩祐 ,   川合謙介 ,   石田重信 ,   山田真由美 ,   徳増孝樹 ,   白井大和 ,   山村佳代

ページ範囲:P.749 - P.758

50歳以上で発症した部分てんかん患者に対する25週間のレベチラセタム(LEV)付加投与の効果を実臨床下で検討した。有効性指標の全般改善度有効率(著明改善と改善)は98.72%(77/78例)で,評価期間4週間での50%レスポンダーレートと発作消失率は,それぞれ97.37%(74/76例)と84.21%(64/76例)であった。副作用発現率は12.38%(13/105例,16件)で,重篤な副作用は1例(躁病)で生じ,LEV服用継続率は96.00%であった。患者集団の特性,抗てんかん薬の使用法そして評価方法がLEVの高い有効性に影響した可能性があるが,高齢発症部分てんかん患者へのLEV付加投与は発作消失を達成する有用な選択肢の1つとなることが示唆された。

症例報告

下垂体前葉機能低下症および橋本病の合併により初発症状が修飾された大脳皮質基底核症候群の1例

著者: 森本悟 ,   金原嘉之 ,   寺田真 ,   小宮正 ,   石井賢二 ,   高尾昌樹 ,   金丸和富 ,   村山繁雄

ページ範囲:P.759 - P.764

症例は71歳の女性で,認知機能障害およびパーキンソニズムを認め受診した。これらは同時に発見された下垂体前葉機能低下症および橋本病に起因するものと考えられ,ホルモン補充療法により一部の認知機能障害は改善した。当初は大脳皮質基底核症候群(CBS)を考慮されていなかったが,認知機能障害およびパーキンソニズムが残存し,左優位の大脳皮質症状も明らかとなった。MRI,脳血流シンチグラフィーおよびPET検査を踏まえ,CBS-CBDと診断した。下垂体前葉機能低下症および橋本病といった内分泌疾患が,背景にある神経変性疾患の症候を修飾することがあり,慎重な臨床経過観察の重要性が示唆された。

神経画像アトラス

WEBINO症候群単独で発症した片側橋梗塞の1例

著者: 竹内誠 ,   西田翔 ,   大谷直樹 ,   森健太郎

ページ範囲:P.765 - P.766

〈症 例〉 75歳,男性

 主 訴 複視

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書評 「帰してはいけない小児外来患者」—崎山 弘,本田 雅敬●編 フリーアクセス

著者: 五十嵐隆

ページ範囲:P.723 - P.723

 吉田兼好の「命長ければ恥多し」の言葉どおり,小児科医は誰しも臨床経験が長いほど臨床現場で「痛い」思いをした経験を持つ。私自身もプロとして恥ずかしいことではあるが,救急外来など同僚・先輩医師からの支援がなく,臨床検査も十分にできない状況にあり,しかも深夜で自分の体調が必ずしも万全ではない中で短い時間内に決断を下さなくてはならないときに,「痛い」思い,すなわち診断ミスをしたことがあった。かつての大学や病院の医局などの深い人間関係が結べた職場では,上司や同僚から心筋炎,イレウス,気道異物,白血病などの初期診療時の臨床上の注意点やこつを日々耳学問として聞く機会があり,それが救急外来などの臨床現場で大いに役立ったと感謝している。質の高い医療情報を獲得する手段が今よりも少なかった昔は,そのようにして貴重な臨床上の知恵が次世代に伝授されていたのだと思う。

 今回,崎山 弘先生と本田雅敬先生が編集された『帰してはいけない小児外来患者』を拝読した。本書では,見逃してはならない小児の重症疾患の実例が多岐にわたり丁寧に解説されている。初期診断時に重症疾患をどうして正しく診断できなかったか,そして,どのようなちょっとした契機により重症疾患の診断に気づかされたかが手に取るようにわかる。読んでいる途中で,昔のように自分が医局のこたつで上司や同僚から臨床上の貴重な知恵や注意点を伝授されている気がしてきた。

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.738 - P.738

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 泰羅雅登

ページ範囲:P.770 - P.770

 大学に籍を置く者にとって,年明けから3月,4月は何かと気ぜわしい時期です。学位論文の駆け込み審査,入学試験,学部学生の成績判定,医師・歯科医師国家試験,卒業式,学位授与式,入学式,新入生オリエンテーション等々,終わりと始まりが途切れることなく続き,時間の流れに気づくときでもあります。例年,この時期のどこかが桜の季節と重なるのですが,今年はちょうど卒業式と入学式の間にすっぽりとはまりこんだ感じで,咲くのもあれよあれよ,散るのもあれよあれよ,いつもより花の季節が短かったように思います。しかし,咲き始めの日曜日,ハーフマラソンの大会が午前中で終わり,ゴール後,仲間と会場の公園で花見を兼ねて一杯やっていると,はじめは五分咲き程度だった桜が,折からの天候でみるみる開いてお開きの時には満開という何とも至福のひとときを経験できたのは今年ならではだったかもしれません。と,ここまで書いて中断していたら,今日はもう5月の連休明け(苦笑)。昨日,釧路で桜が開花したとテレビのニュースが伝えていました。

 さて,なぜ上のような書き出しになったかというと,本誌編集主幹の河村 満先生が3月で昭和大学をご退任されました,という話に続けたかったからです。恒例のあいさつではありますが無事のご退任おめでとうございます。編集委員を代表して心よりお祝いを申し上げます。先日ご退任の祝賀会にお招きいただいた際,岩田 誠先生,山鳥 重先生,岩村吉晃先生と,お懐かしい(失礼)先生方と短い間でしたがお話ができました。よくある話と言っては失礼ですが,今の生活を楽しんでおられるご様子で,冒頭に書いたような状況にある自分としては羨ましい限りでした。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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