icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

増大特集 神経疾患と感染症update

フリーアクセス

ページ範囲:P.774 - P.775

特集の意図

近年の神経感染症に関するトピックとして細菌性髄膜炎の遺伝子診断,ナタリズマブとPML,子宮頸がんワクチンによる神経合併症などが挙げられる。神経感染症の診療・治療の進歩とともに感染症という観点からみた免疫性神経疾患の現状までを体系的に整理する。

中枢神経感染症の診断—臨床における問題点と今後の課題

著者: 森田昭彦

ページ範囲:P.777 - P.785

中枢神経感染症の病因確定診断が適切になされるためには検体採取が適切に行われていることが最も重要である。診断には髄液の塗抹・培養検査のほか,抗原検査,髄液ウイルス抗体価の有意な上昇,PCR法による病原体遺伝子の検出などが用いられる。病原体遺伝子検査は保険診療として行うことができず各研究者に委嘱している場合も多いことから,各種の病原体遺伝子検査の臨床検査としての取扱いは今後の課題として重要である。

細菌性髄膜炎の現状

著者: 亀井聡

ページ範囲:P.787 - P.798

細菌性髄膜炎は,初期治療が患者の転帰に大きく影響する緊急疾患である。治療は,その地域における年齢階層別主要起炎菌の分布,耐性菌の頻度および宿主のリスクを考慮し,抗菌薬選択を行うことが必要である。2013年4月から小児におけるワクチンの定期接種化が実施され,接種率が向上し,小児のインフルエンザ菌性髄膜炎は減少してきている。これら日本の疫学的現況を把握し,現時点での診療指針として『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』が公表された。その概要を中心に細菌性髄膜炎の現状について述べる。

中枢神経系感染症の遺伝子診断

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.799 - P.811

近年,遺伝子解析技術は分離菌株の迅速な菌種の同定のみならず,検体から直接,微量な病原体を検出,同定する際に追加の検査として利用される。本稿では,「感染症診断において,どのような状況で遺伝子検査を活用するか」を把握してもらうべく,中枢神経系感染症例の病態や病因診断までのプロセスを紹介したい。遺伝子解析技術を用いた感染症の診断においても,臨床医との緊密なコミュニケーションが重要であることを強調したい。

中枢神経系感染症における画像診断の役割

著者: 横田元 ,   田添潤 ,   山田惠

ページ範囲:P.813 - P.833

本項では撮像法の違いに留意して,脳実質内,脳実質外,脊髄に分けて代表的な中枢神経系感染症について述べる。実質内病変に適応できるシークエンスは多く,拡散強調像や磁化率強調像は診断に必須なものとなってきている。拡散テンソル画像やMR spectroscopyも時に鑑別に有効である。実質外では,造影FLAIRが脳表の異常造影効果検出に有効である。脊髄は適応できるシークエンスが限定的だが,一部の疾患では特徴的な病変分布を示し,診断に有用である。

子宮頸がんワクチンの副反応と神経障害

著者: 池田修一

ページ範囲:P.835 - P.843

2013年6月〜2015年3月までの期間に,われわれは子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈している76名の女児を診察した。主症状は頭痛,全身倦怠感,四肢の筋力低下,立ちくらみ,起床困難,手足の疼痛であり,初回接種から本症状発現までの平均期間は5.5カ月であった。頭痛・全身倦怠感は起立性調節障害,四肢の疼痛は複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状として説明可能であり,病態の背景には末梢性交感神経障害が存在すると考えている。

HTLV-I関連脊髄症

著者: 中村龍文 ,   松尾朋博

ページ範囲:P.845 - P.858

HTLV-I関連脊髄症(HAM)はヒトレトロウイルスHTLV-Iの感染によって惹起される慢性進行性の膀胱機能障害を伴った痙性対麻痺である。下部胸髄の両側側索を主座とした慢性脊髄炎を神経病理学的基盤として惹起される。なぜHTLV-Iキャリアのごく一部でHAMが発症するのかについては依然として不明であるが,HAMの発症・病態形成の根幹にあるのは末梢血における活性化HTLV-I感染細胞の増加である。本稿ではHAMの病態生理・臨床像について概説する。

インフルエンザ脳症

著者: 鳥巣浩幸 ,   原寿郎

ページ範囲:P.859 - P.869

インフルエンザ脳症は,インフルエンザを契機とした,非炎症性脳浮腫による急性の脳機能異常(急性脳症)であり,意識障害を主徴とする症候群である。その臨床像は多様で,複数の病型と病態が提唱されている。診断と治療は主にガイドラインに従って行われ,予後の改善が認められている。これまで主に日本人小児の疾患と考えられていたが,2009年の世界的大流行では海外や成人でも認められ,注目される疾患となった。

ギラン・バレー症候群と先行感染—日常診療のエッセンス

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.871 - P.880

ギラン・バレー症候群は軸索型と脱髄型の2つに大別されるが,これは表現型の違いに過ぎず,病態の上流にある先行感染ごとに分けて診療にあたる必要がある。個々の症例で先行感染を同定することが求められ,「先行感染」という用語は単に先行した感染症を指すのではなく,病態に関与したと考えられる感染症について用いるべきである。誤った先行感染の判断を避けるため,臨床の場で簡便に使用可能な先行感染同定の判断基準を提唱する。

感染症と免疫性神経疾患—多発性硬化症・視神経脊髄炎とEBウイルス

著者: 森雅裕

ページ範囲:P.881 - P.890

EBウイルスは多発性硬化症に関しては長年の研究の蓄積があり,発症前の,おそらく小児期のウイルス感染が病態形成に何らかの形で関与していると考えられている。一方,最近,われわれは視神経脊髄炎とEBウイルスとの関連について多発性硬化症を対照にして検討し,多発性硬化症が従来言われているように既感染と関連するのに対し,視神経脊髄炎では再活性化が病態に関与すると考えられる結果を得たので,それを紹介した。

ナタリズマブ誘発性PMLの病理

著者: 神田隆

ページ範囲:P.891 - P.901

ナタリズマブ関連進行性多巣性白質脳症(PML)では,古典的なPMLの病理所見に加えてナタリズマブの除去に伴って発症する免疫再構築症候群(IRIS)の病理像の重畳がみられる。肥大アストロサイトと核内封入体を伴う巨大なオリゴデンドログリア,ミエリン貪食マクロファージの浸潤が前者に属し,後者の病理像としてCD8+T細胞を中心とする細胞浸潤と脳内JCウイルスの著減が観察される。本症の細胞浸潤はHIV関連PML-IRISのそれと比較してはるかに激烈であり,これは全身の免疫抑制を行わず血液脳関門での細胞移入を操作するナタリズマブの特性を反映した病理所見と考えられる。

中枢神経系日和見感染症の病理

著者: 新宅雅幸

ページ範囲:P.903 - P.917

日和見感染症の原因となる微生物は細菌,真菌,原虫,ウイルスなど多岐にわたり,それぞれに特徴的かつ多彩な病理組織所見が認められる。一般に日和見感染症では宿主の免疫不全を反映して,炎症性細胞浸潤や組織の修復機転が弱い。「免疫再構築症候群」は治療により免疫能が急速に回復した結果生じる炎症性の病態で,AIDSの診療において問題となる。本稿では日和見感染症の研究の基礎となる古典的組織像を系統的に詳述する。

同種造血幹細胞移植におけるHHV-6脳炎

著者: 緒方正男

ページ範囲:P.919 - P.930

同種造血幹細胞移植後のヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)再活性化は時にHHV-6脳炎の原因となる。典型例は移植後2〜6週目に記憶障害で発症し,辺縁系脳炎をきたす。予後は不良で,救命例においても記憶障害などの後遺症を高頻度にきたす。臍帯血移植では8〜10%の患者がHHV-6脳炎を発症することが近年連続して報告され,重要な合併症と認識されてきた。病態の解明と発症予防法の確立が急務である。

単純ヘルペス脳炎update

著者: 黒田宙

ページ範囲:P.931 - P.939

単純ヘルペス脳炎(HSE)は単純ヘルペスウイルス(HSV)により引き起こされ,高い死亡率と後遺症発生率を示す神経救急疾患である。本稿では,HSE病態への宿主免疫反応の関与,注意すべき鑑別疾患である自己免疫性辺縁系脳炎,HSE診断における髄液中HSV-DNA検査と抗体検査の位置づけ,基本治療であるアシクロビルの投与法および中止の目安について,近年の進歩を踏まえて概説した。

プリオン病の治療動向

著者: 坪井義夫

ページ範囲:P.941 - P.946

プリオン病は進行性,致死性の経過をたどる難病である。正常型プリオン蛋白が,プロテアーゼ抵抗性を有する異常型プリオン蛋白に構造変化し病態が進展する。動物実験で効果が示されたキナクリン,ドキシサイクリン,ペントサンポリサルフェートなど複数の薬剤が臨床応用されたが,明らかな効果は示されなかった。プリオン病の臨床経過は多様で,治療研究には困難が多い。これらの弱点を克服し,新規の候補薬剤の選択とともに,臨床研究の基礎を構築する必要がある。

HIV感染症治療の進歩

著者: 松井佑亮 ,   高折晃史

ページ範囲:P.947 - P.959

本邦でのHIV(human immunodeficiency virus)感染者,AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)患者のこれまでの報告数を合わせると2万人を超えている。ART(antiretroviral therapy)の導入によって患者の生命予後は劇的に改善したが,長期加療による新たな問題が表面化してきた。本稿では,最近数年の抗HIV療法の進歩,そして今後増加することが予測されるHAND(HIV-associated neurocognitive disorders)について述べる。

総説

紀伊半島の筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合—疾患概念の変遷と診断基準の位置づけ

著者: 小久保康昌

ページ範囲:P.961 - P.966

紀伊半島南部に多発する筋萎縮性側索硬化症(ALS)はかつて牟婁病とよばれたが,最近の研究によりheterogeneousな疾患群という新たな疾患概念が提唱された。牟婁病には,現時点で少なくとも,①孤発性ALS(タウオパチーを伴わない),②紀伊ALS/PDC(タウオパチー),③C9orf72変異例,④OPTN変異例の4型が存在する。2014年に策定された診断基準は,グアム島のALS/パーキンソン認知症複合(PDC)に近似し,タウオパチーを病態の基調とする紀伊ALS/PDCを規定するものである。

症例報告

抗αエノラーゼN末端抗体陽性のレヴィ小体型認知症の1例—橋本脳症との鑑別診断

著者: 伊倉崇浩 ,   藤城弘樹 ,   高橋幸利 ,   米田誠 ,   斎藤知之 ,   千葉悠平 ,   鎌田鮎子 ,   勝瀬大海 ,   平安良雄

ページ範囲:P.967 - P.972

今回,レヴィ小体型認知症と橋本病を合併している81歳女性症例を経験した。本症例では,神経変性疾患とともに,血清における抗αエノラーゼN末端抗体,髄液における抗グルタミン酸受容体抗体ε2を認め,自己免疫機序に伴う病態が併存すると考えられ,橋本脳症の鑑別診断を要した。抗コリンエステラーゼ阻害薬,レボドパが奏効し,レヴィ小体型認知症が主病態と考えられた。各疾患の臨床症状について文献的考察を交え報告した。

追悼

瀬川昌也先生が目指されたこと フリーアクセス

著者: 野村芳子

ページ範囲:P.973 - P.975

 瀬川昌也先生,瀬川小児神経学クリニック院長,は2014年12月14日に亡くなられました。享年78歳でした。瀬川先生は1936年6月4日,瀬川 功先生,瀬川妙子様のご長男として東京に生まれました。1962年東京大学医学部医学科を卒業,1969年東京大学大学院生物系研究科を終了,1970年医学博士を取得されました。

 学生時代から神経疾患に関心があったとのことで1963年小児科学教室に入局し,神経グループの新鋭として活躍されました。高津忠夫教授のお許しを得て東大小児科の外来で毎日朝早くから夕方遅くまで全国から来院する神経疾患の患者の診察に没頭されたということです。当時は東大神経内科が設立され,わが国は神経学の夜明けともいえる時代で,多くの神経疾患は病因不明,治療困難なものでありました。小児神経疾患は小児科疾患の一部として診療されておりましたが,東大小児科神経外来の10年間の経験から瀬川先生は小児神経疾患の診療は一般小児科から独立したものである必要を確信されました。

--------------------

書評 「DSM-5®診断面接ポケットマニュアル」—Abraham M. Nussbaum●原著 高橋三郎●監訳 染矢俊幸,北村秀明●訳 フリーアクセス

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.870 - P.870

 「私と同じような人っているのでしょうか」と心配そうに質問されることがよくある。患者からみれば,自分1人の固有の体験に苦しんでいるのだ。「同じようなことで困っている人はいますよ」と答えると,ほっとしたような表情を浮かべられることが多い。そして「そういう人たちはどうしているのでしょうか」という問いに,「はい,それはですね」と,やりとりが続いていく。こうして得体の知れない体験に症状ないし病名という既知の名称が与えられ,そこから診療が進んでゆく。

 このとき私たちの念頭にある症状や病名の基準を提供しているのがDSMである。私たちは2013年に改訂されたその最新版になじんでおく必要がある。DSM-5に新たに導入ないし改訂された疾患概念のいくつかは,導入当初は知る人も少なかったパニック障害(DSM-Ⅲ,1980年)や双極Ⅱ型障害(DSM-Ⅳ,1994年)が今では臨床家の常識となったように,今後の臨床に不可欠となっていくだろう。

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.939 - P.939

書評 「脳卒中ビジュアルテキスト 第4版」—荒木信夫,高木 誠,厚東篤生●著 フリーアクセス

著者: 鈴木則宏

ページ範囲:P.960 - P.960

 脳卒中学のバイブル『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂された。本書が故・海老原進一郎慶大客員教授,高木康行前・東京都済生会中央病院院長補佐,そして厚東篤生よみうりランド慶友病院院長(初版発刊当時慶大神経内科専任講師)の三方により,慶大神経内科の脳卒中診療の実践を根幹として著された名著であることは,脳卒中診療に携わる医療関係者万人の知るところであろう。1989年3月の初版出版後,版を重ねその都度,脳卒中学および神経内科学の進歩を取り入れ,改訂第3版が出版されたのが2008年であった。改訂第3版からは脳血管障害の臨床と神経病理学の大家である厚東博士を大黒柱として著者が若返った。脳卒中臨床の泰斗である埼玉医大神経内科教授の荒木信夫博士と東京都済生会中央病院院長の高木誠博士が新たな著者として加わっている。脳卒中の診療と治療および再発予防の進歩は日進月歩であり,脳梗塞急性期治療におけるt-PAの適応時間の延長や脳血管内治療技術の進歩などここ数年新たな動きがみられ,久しく改訂版の登場が待たれていたが,ついに2015年,内容も装丁も一新されここに改訂第4版が登場した。

 一読して瞬時に気がつくのは,本書の最大の特色である「イラスト」がかなりの割合で斬新で美しく,しかも「わかりやすい」ものに差し替えられ,あるいは新たに挿入されていることである。初版のイラストと比較して眺めると,医学教科書にも各時代にマッチした流れとセンスがあることが一目瞭然である。本書は,常に進歩しつつある脳卒中学の「今」の知識と情報を,state of artsのイラストとともに,われわれ読者に惜しげもなく披露してくれているのである。是非まず書店で本書を手に取り,数頁を繰っていただきたいと思う。思わず座右に置いておきたいと思わせる魔法のような抗しがたい魅力に圧倒されることと思う。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.978 - P.978

 最近私は万年筆に凝っている。万年筆は,紀元前エジプトの葦ペンや,中世ヨーロッパの羽根ペンに起源があって,材質やインクの吸入機構などの改良が続けられてきた。1930年代には,ペン軸を12面体にした斬新な万年筆や,小さな体温計を内蔵したDoctor's Penが登場している。戦後はボールペンに大きく水をあけられ,原稿を書くのも今やキーボードを使うのが当たり前になったが,それでも万年筆は多くの人に愛され続けている。

 万年筆に特有の魅力は,適度にしなりのあるペン先と,水性インクによる滑らかな書き味にある。インクフローがよければ,ほとんど筆圧をかけなくとも,毛筆のように筆の運びが濃淡として紙に残るから,文字の特徴が引き立つ。そのため,時間が経っても書字や思考の過程を辿りやすいのだ。私は走り書きのメモをPDAの手書きソフトでデジタル化していたことがあるが,後で読めなくなるという問題が頻発し,結局止めてしまった。そうした失敗は万年筆で書けばほとんど起こらない。今はスマホに頼ることなくメモ帳を常に携帯している。お気に入りの万年筆(私はペリカン派)なら書くこと自体が楽しいし,字も自然と丁寧になる。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら