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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩67巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 酵素補充療法

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ページ範囲:P.1079 - P.1079

特集の意図

2004年のファブリ病に対するαガラクトシダーゼ製剤の承認以来,ライソゾーム病を中心に疾患特異的欠損酵素の補充療法が広がっている。適応はいずれも国の指定難病で希少疾患であるが,本療法により治療可能となり,発症早期の正確な診断が求められるようになっている。酵素補充療法の知識を整理するきっかけとして本特集を活用いただきたい。なお,シアル酸補充療法は酵素補充そのものではなく,酵素欠損により低下する化合物=シアル酸を補充する治療であるが,その話題性と将来性から本特集で取り上げた。

【鼎談】よくわかる酵素補充療法

著者: 大橋十也 ,   埜中征哉 ,   神田隆

ページ範囲:P.1081 - P.1089

はじめに

神田 「酵素補充療法」という新しい治療法が出てきました。この治療法の登場により,ライソゾーム病の治療がドラスティックに変わったと思います。私が学生時代に習ったライソゾーム病は,症状を覚えて,欠損酵素を覚えて,それでおしまい,という単なる知識でしかなかったのですが,いまは患者をみつけ出すことが直接治療につながる時代となり,俄然脚光を浴びています。

 しかしながら,一般医家の先生にはまだ馴染みの薄い治療法でもありますし,その適応となる病気を実際にご覧になったことのない方もたくさんおられると思います。そこで,埜中征哉先生,大橋十也先生というこの分野のエキスパートお二人に少し噛み砕いたお話を伺って,特集のイントロダクションに替えたいと思います。よろしくお願いいたします。

ポンペ病の酵素補充療法—長期的な治療効果と課題

著者: 福田冬季子 ,   杉江秀夫

ページ範囲:P.1091 - P.1098

ポンペ病の長期的な酵素補充療法の効果が明らかになってきている。心肥大への良好な効果に対し,運動機能,呼吸機能への効果はさまざまである。新生児スクリーニングにより早期治療が開始された乳児型ポンペ病では治療効果が向上するが,治療を受けた多くの患者でミオパチー症状が認められ,酵素補充療法時代の乳児型ポンペ病の臨床像として認識されていると同時に現在の酵素補充療法の限界を示していると考えられる。予後を改善する治療法の開発が期待されている。

ファブリ病—病態・臨床症状・酵素補充療法

著者: 澤井摂

ページ範囲:P.1099 - P.1108

ファブリ病は,αガラクトシダーゼA酵素蛋白質をコードする遺伝子の異常によって起こる先天性脂質代謝異常症で,糖脂質の細胞蓄積が多臓器に障害を起こす。根治療法として酵素補充療法が開発され,現在,臨床で使用されている。これまでの研究から,臓器不全に進行する前に治療を開始することが有効だと言われており,早期の治療開始を実現するために,病態や症状の正しい理解に基づく早期診断が重要である。

ゴーシェ病の酵素補充療法

著者: 奥山虎之

ページ範囲:P.1109 - P.1113

ゴーシェ病は,グルコセレブロシダーゼの先天的な欠損による発症する常染色体劣性遺伝形式の先天代謝異常症である。Ⅰ型(慢性非神経型),Ⅱ型(急性神経型),Ⅲ型(亜急性神経型)の3病型がある。治療の中心は酵素補充療法であるが,造血細胞移植,基質合成阻害療法,シャペロン療法なども検討されている。

シアル酸補充療法—GNEミオパチー(縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー)治療への試み

著者: 森まどか ,   西野一三

ページ範囲:P.1115 - P.1123

GNEミオパチー(縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー)はGNE遺伝子変異を原因とする成人発症の遠位型ミオパチーで,若年成人に発症し,緩徐進行性の経過をたどり,重症例では四肢麻痺と呼吸障害を呈する常染色体劣性遺伝疾患である。GNE遺伝子変異がシアル酸生合成低下を生じ,結果として筋萎縮や筋線維変性を引き起こすため,シアル酸補充療法が有効と考えられた。モデルマウスでのシアル酸補充療法の結果を受けた臨床治験ではGNEミオパチー患者の表現型改善が確認されており,現在国際第Ⅲ相試験が進行中である。また本邦での患者数300名程度と想定される希少疾病であり,治療研究促進ツールとしての患者登録が活用されている。

総説

発達障害と認知症

著者: 緑川晶

ページ範囲:P.1125 - P.1132

発達障害の老化と認知症との関連に関する文献と自験例を紹介した。自閉症スペクトラムは,ライフイベントでの変化に弱いが,高齢期の診断は一般的ではないため,高齢期に不適応が生じた場合,前頭側頭型認知症と診断されている場合もある。一方で,注意欠陥/多動性障害はレヴィ小体病と,学習障害は原発性進行性失語症との関連が報告されている。これらは神経伝達物質や神経ネットワークの脆弱性を反映していると考えられている。

シリーズ・ビタミンと神経疾患その1

ビタミンB12とALS・ニューロパチー

著者: 野寺裕之 ,   和泉唯信 ,   梶龍兒

ページ範囲:P.1133 - P.1138

ビタミンB12は医原性要因による欠乏症状が起こりやすいビタミンである。ビタミンB12の推奨摂取量は定められているものの,それを超える大量投与によって生理機能以外の作用もあることが示唆されている。そのため末梢神経障害や筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して超大量ビタミンB12療法が試みられ,神経保護作用を持つ可能性が示唆されている。

原著

認知症疾患医療センターにおける特発性正常圧水頭症診療の現状

著者: 吉山顕次 ,   数井裕光 ,   武田雅俊

ページ範囲:P.1139 - P.1145

2013年9月に全国207カ所の認知症疾患医療センターにアンケートを送付し,特発性正常圧水頭症(iNPH)の診療状況を調査した。回収率は48%で,このうち90%の施設でiNPHの診療を行っていた。タップテスト前に脳神経外科に紹介する施設が多かったが,脳神経外科でシャント術の適応なしと判断され,診療上の支障を感じる施設が56%あった。iNPH診療ガイドラインの使用は45%にとどまった。また,近年明らかになったiNPH診療における重要な知見が周知されていない施設もあった。

相対音感に関わる灰白質の髄鞘と神経線維束の可視化—左島皮質後部の役割

著者: 清水祐一郎 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1147 - P.1155

相対音感とは外的または内的な音高に基づいて1音の高さを同定する能力である。基準音を途中で3回提示して音名を解答させる課題の成績により,参加者を3群に分けた。灰白質の髄鞘をT1強調画像とT2強調画像の比で可視化したところ,満点群で左島皮質後部において有意差が検出された。さらに,左島皮質と聴覚野を結ぶ線維の前方領域で満点群の方が成績下位群よりも一貫して描出できた。これらの領域は音声情報の処理に関与しており,音楽の能力が言語能力に関連すると考えられる。

現代神経科学の源流・8

ノーマン・ゲシュヴィンド【中編】

著者: 河内十郎 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1157 - P.1161

(前号からの続き)

離断症候群の復興

酒井 ゲシュヴィンドに重要なヒントを与えたのは,デジュリーヌのほかにもリープマン(Hugo Liepmann;1863-1925)の「失行」の症例1)が挙げられるでしょう。失行症(apraxia)は,運動麻痺がないのに意図的な行動ができなくなるという高次脳機能障害です。リープマンは,失行を異なるタイプに分けて説明を試みました。

河内 リープマンの理論を批判的に発展させて,失行症は離断症候群であると確立したのがゲシュヴィンドでした。

学会印象記

American Academy of Neurology 2015 Annual Meeting(2015年4月18〜25日,ワシントンD.C.)

著者: 竹下幸男

ページ範囲:P.1162 - P.1163

学会概要

 2015年4月18〜25日まで米国ワシントンD.C.で開催された第67回米国神経学会年次総会(AAN)に出席してきました。皆さんご存知のとおりAANは北米最大級の神経領域学会の1つです。例年,世界中の100を超える国と地域から神経内科医や研究者が集まり,最新の基礎研究や臨床研究が発表されます。特に今年度は約3,300題の抄録応募があり,その中から厳選された約2,500題の口演やポスター発表がありました。山口大学からは私を含め3題が演題として採択されました。

 メイン会場のWalter E. Washington Convention Centerは,ワシントンD.C.の中心地にありアクセスは良好でしたが,内部には約30の会場が設けられており,地図なしでは目的の会場にたどり着くのは困難なほど巨大でした(写真1,2)。学会期間の前半は主に臨床トレーニングコースで構成され,後半は学術発表がメインとなっていました。連日早朝6時半から口演発表(ポスター発表は7時半)がスタートし,19時頃までさまざまな分野から発表が続きました。早朝から始まるため,ホテルからの移動に多少苦労しましたが,時差ボケの調整には役立ちました。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1113 - P.1113

書評 「画像からみた脳梗塞と神経心理学」—田川 皓一●著 フリーアクセス

著者: 山鳥重

ページ範囲:P.1124 - P.1124

 本書は280頁もの大著で,それもなんと全編書き下ろしである。

 著者の田川皓一先生は誰もがご存知の脳卒中学と神経心理学の権威である。医師・研究者としてのすべてのエネルギーをこの分野の知見の深化と発展のために捧げてこられた。脳卒中症例に関する臨床経験の豊富さにおいて,先生の右に出る人はおそらくいないのではなかろうか。

書評 「今日から使える医療統計」—新谷 歩●著 フリーアクセス

著者: 佐々木宏治

ページ範囲:P.1156 - P.1156

 臨床研究をするにあたりどの統計手法を使うべきなのだろうか? 論文を読むたびに目にする統計手法は正しい手法なのだろうか? それぞれの統計解析の意味はいったい何なのだろう?——論文を読む際,また自分自身が臨床研究をするにあたって,このような疑問を感じたことはありませんか。私がそのような疑問を抱えたときに巡り合ったのが,2011年に新谷歩先生が週刊医学界新聞に寄稿された「今日から使える医療統計学講座」シリーズでした。

 統計学の教科書をひもとくと,1つ1つの統計解析に関して解説が詳細に述べられていますが,臨床研究をするに当たりどのように統計テストを選択していくかを解説しているものは非常に少ないと感じます。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

ページ範囲:P.1166 - P.1166

 つい先日,中学・高校の同級生である椙村春彦くんと酒を飲む機会があった。椙村くんは30代で浜松医科大学の腫瘍病理学講座の教授になった俊才である。ちなみにその席では,同じく浜松医科大学生理学の高田明和名誉教授と分子解剖学の瀬藤光利教授という世界を牽引する基礎研究者とご一緒させていただき,大変楽しい時を過ごした。はるか昔,私がまだ心理学を志す文科系の学生であった頃,当時東大医学部の学生だったこの椙村くんと一緒に七沢病院に河内十郎先生を訪ねていったことがあった。おそらく1977年のことだったと思う。実は河内先生はわれわれの中学・高校の先輩なのである。河内先生は未熟なわれわれに神経心理学の基礎を丁寧に教えてくださった。私が「失認」という言葉を初めて耳にしたのはこのときである。その後,椙村くんは癌病理の道に進んだが,私はやがて神経心理学を専門とするようになり,河村 満先生の研究会や学会などで河内先生には大変にお世話になった。

 河内先生がノーマン・ゲシュヴィンドのもとに留学されたのは,本号の「現代神経科学の源流・ノーマン・ゲシュヴィンド」(河内十郎×酒井邦嘉)にあるように1982年である。私が同じくボストンに留学したのは1992年だからちょうど10年後である。ゲシュヴィンドは既に亡くなっており,私の指導教授はゲシュヴィンドの直弟子のマーテイン・アルバートであった。対談にもあるように,当時のカンファレンスはイーデイス・カプラン,ハロルド・グッドグラス,マイケル・アレキサンダー,マーセル・キンスボーン,ナンシー・ヘルム・エスタブルックスらが一堂に会し,談論風発する様はまさに圧感であった。私自身も2年間の留学の最後にはグランドラウンドを任され,壇上で患者さんを診察して,デイスカッションの司会をした。大変に緊張したが,やり遂げた後にかけてもらった祝福の言葉は今でも忘れられない。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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