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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩68巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

特集 筋疾患の認知機能障害

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ページ範囲:P.107 - P.107

特集の意図

呼吸管理や保護治療など医療の進歩とともに,筋疾患患者の平均寿命が延びている。しかし,一部には中枢神経障害を伴うものがあり,患者が社会生活を送るうえでその影響が課題となっている。本特集では認知機能障害を伴う代表的な筋疾患を取り上げてその症状や研究動向を整理し,中枢神経障害に対する今後の治療や環境整備の展望を描きたい。

筋疾患における中枢神経系障害の重要性

著者: 松村剛

ページ範囲:P.109 - P.118

人工呼吸管理や心筋保護治療などにより,デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど多数の筋疾患では生命予後が改善したが,社会参加や自己実現を図るうえで知的障害や発達障害などの中枢神経障害が課題となっている。筋強直性ジストロフィーでは,特有の性格・認知障害が受療行動に影響し,医療効果を阻害する要因の1つとなっている。中枢神経障害の理解と患者視点からの医療提供は,筋疾患の予後とQOL向上の重要なキーとなる。

福山型先天性筋ジストロフィーの中枢神経障害

著者: 石垣景子

ページ範囲:P.119 - P.127

福山型先天性筋ジストロフィーは,FKTN遺伝子の3kb挿入変異が原因であり,神経細胞移動障害による脳奇形と眼合併症が特徴である。典型的な頭部MRI所見は,丸石様皮質異形成,多小脳回・厚脳回であり,低年齢ではT2強調画像・FLAIR画像で白質に高信号を認める。多くがIQ30〜50程度の中等症から重度の知的障害を呈する。痙攣の合併は6割以上にみられ,その2割弱が難治性てんかんで多剤での治療を要する。

ジストロフィノパチーとけいれん

著者: 竹下絵里

ページ範囲:P.128 - P.136

ジストロフィノパチーは中枢神経症状の合併が多く,4〜15%に熱性けいれん,2〜12%にてんかんを認めるとされている。自験例では,熱性けいれんは8%にあり,エクソン45より3'末端側,特にエクソン63より下流の変異例で多く,てんかんは5%に認め,デュシェンヌ型よりベッカー型で多かった。中枢神経に発現するアイソフォームDp427,Dp71などの欠損がGABAA受容体,アクアポリン4,Kチャネル障害を引き起こし,けいれん合併に関連している可能性がある。

筋強直性ジストロフィー1型の社会的認知障害

著者: 小早川睦貴

ページ範囲:P.137 - P.144

筋強直性ジストロフィー1型(DM 1)では自閉症スペクトラムに類似した行動を示すことが報告されており,これは社会的認知機能の低下として捉えることができる。表情認知の検討では,怒りや嫌悪などネガティブな表情に対する感度の低下がみられ,また心の理論については,言語・非言語の両面から機能低下が示されている。こうした異常は島皮質,側頭葉前方部,前頭葉底部の白質の異常と関連があるものと推察される。

筋強直性ジストロフィー1型の嗅覚障害

著者: 政岡ゆり

ページ範囲:P.145 - P.150

嗅覚情報は視床を介さずに情動を司る辺縁系に直接送られる特徴を持つ。アルツハイマー病,パーキンソン病において扁桃体,海馬を含む辺縁系の異変が,最初に嗅覚異常として認められる理由はそこにある。同時期に情動反応の低下,社会性の欠如が認められることも特徴である。また筋硬直,筋萎縮を特徴とする筋強直性ジストロフィー1型においても最初の徴候として嗅覚異常を認める。本稿では嗅覚レベルの測定法,嗅覚関連部位を把握し脳の異変をすばやく捉えるための基礎を紹介する。

ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)の高次脳機能障害

著者: 市川博雄

ページ範囲:P.151 - P.157

ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群の脳卒中様病変は側頭,頭頂,後頭葉に生じることが多く,この病変分布と関連した高次脳機能障害がしばしばみられ,皮質盲をはじめ,各種の失認や失語症などが報告されている。一方,このような局所性脳病変によるもの以外に,全般性脳障害に起因するミトコンドリア認知症という病態も提唱されており,遂行機能障害をはじめとする高次脳機能障害が報告されている。

総説

てんかん症候群の原因遺伝子

著者: 加藤光広

ページ範囲:P.159 - P.164

てんかん症候群の原因遺伝子同定から20年が経過した。現在では大田原症候群やウェスト症候群など孤発性のてんかん性脳症や限局性皮質異形成の原因が同定され,てんかんの病態がチャネル以外に介在ニューロン,シナプス放出,mTOR信号伝達など多彩であることが判明した。海外では次世代シーケンス技術が診療に活かされ,分子病態に基づく治療が始まりつつある。国内でも遺伝子診断から個別化治療への基盤整備が必要である。

レヴィ小体型認知症の臨床神経心理学

著者: 長濱康弘

ページ範囲:P.165 - P.174

レヴィ小体型認知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)に比べると,記憶障害が軽く視空間機能障害が強い。DLBの記憶障害には保持/固定障害,想起障害の両者が関与しているが,ADに比べると想起障害の影響が大きい。視空間機能は高次視覚処理の背側路,腹側路ともに障害がみられるほか,低次の視覚認知にも障害が示唆されている。注意・遂行機能はADに比べて広範に障害される。片手指パターンの模倣はDLBでは他の認知症に比べ障害されやすく診断の一助になる。パレイドリアは幻視と視覚認知障害の中間の現象で,DLBで頻度が高いがその機序は未解明である。

 

※「Fig. 1 ADとDLBにおけるCDTと立方体模写の例」,「Fig. 2 ADとDLBにおけるCDTとCOPYの成績」は,権利者の意向等により冊子体のみの掲載になります.

マンガン中毒を早期発見しよう—職業歴とMRI T1強調画像によって

著者: 福武敏夫 ,   矢野祖 ,   櫛田隆太郎 ,   砂田芳秀

ページ範囲:P.175 - P.180

マンガンは多くの酵素を制御し,正常細胞機能にとって必須である。慢性マンガン中毒は軽微な症状で発症し,進行すればパーキンソン病類似の錐体外路症候を呈し,治療反応は乏しい。溶接工などの職業歴を参考に,血中・尿中濃度が高くなくともキレート剤投与による尿中排泄量の異常増加で判定できる。さらに,MRI T1強調画像における淡蒼球高信号の証明と併せ,早期発見が可能である。

原著

急性期穿通枝梗塞へのアルガトロバン,アスピリン,クロピドグレル併用による短期強化療法の試み

著者: 仁紫了爾 ,   眞野智生 ,   小林洋介 ,   松尾幸治 ,   小林靖

ページ範囲:P.181 - P.189

急性期穿通枝梗塞患者を対象に前向き介入比較試験を行った。アルガトロバン,アスピリン,クロピドグレル投与群(AAC群)28例とアルガトロバン,アスピリン投与群(AA群)26例に封筒法にて割り付けた。3カ月後の転帰は両群で差はなかったが,AAC群はAA群に比べ進行性脳梗塞の出現頻度は低く(P<0.05),入院中の出血性合併症は両群とも認めなかった。AAC併用療法は神経症状の進行抑制には有効である可能性が示唆された。

神経画像アトラス

PET-CTにて18F-FDGの集積を認めた頸椎症性脊髄症の1例

著者: 若杉尚宏 ,   金澤雅人 ,   矢島隆二 ,   勝見敬一 ,   遠藤直人 ,   西澤正豊

ページ範囲:P.191 - P.193

Ⅰ.症例提示

〈症 例〉60歳,男性

 主 訴 右上下肢の脱力,右上肢の感覚異常

学会印象記

SNL 2015—The 7th Annual Meeting of the Society for the Neurobiology of Language(2015年10月15〜17日,シカゴ)

著者: 太田真理

ページ範囲:P.194 - P.195

 2015年の10月15〜17日に米国のシカゴで開催されたSNL 2015に参加しました。SNLは2010年に誕生した新しい学会で,言語の神経生物学的基盤を解明することを目的に,神経科学者・言語学者・心理学者などのさまざまな分野の研究者が参加しています。年次大会は米国とヨーロッパで交互に開催されており,今回は600人以上の参加者が集いました。私自身がSNLに参加するのは今回で3度目ですが,参加のたびに関連分野の研究者が増えていると感じております。特に今回は,言語に対する加齢の影響や言語野以外の脳領域が言語処理に果たす役割など,これまであまり研究が進んでいなかったテーマについての発表が増えていた点が印象に残りました。今回は10月17〜21日に,同じシカゴのマコーミックプレイスでSociety for Neuroscienceの第45回年次大会が開催されたため,併せて参加した方も多いようでした。

 会場はシカゴ中心部のマグニフィセントマイルにあるThe Drake Hotelで,市内への交通の便がよかったため,学会後に研究者同士で交流を深めるのに適した開催場でした。ミシガン湖畔の1920年創業の伝統あるホテルで,講演会場にシャンデリアがあったのが印象に残りました。セッションの合間にはコーヒーブレークが設けられており,飲み物を片手に参加者同士で議論を交わす光景がいたるところでみられました。また,1日のセッションが終わった後にはソーシャルアワーが設けられており,会場に残って議論を交わす参加者が多数みられました。研究者の用いる研究手法も行動実験,脳機能イメージング,計算モデルとさまざまであることから,気軽に議論ができる機会が多くあるのは,今後分野を融合した研究を発展させるうえで重要であるように思います。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.150 - P.150

書評 「医療政策集中講義—医療を動かす戦略と実践」—東京大学公共政策大学院 医療政策教育・研究ユニット【編】 フリーアクセス

著者: 高山義浩

ページ範囲:P.190 - P.190

 2014年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保法)」が成立し,より効率的で質の高い医療提供体制を目指した地域医療を再構築し,地域包括ケアシステムとの連携を深めるための方針が定められた。

 改革が急がれる背景には,日本が縮減社会に入ってきていることがある。これから毎年,日本から小さな県一個分の人口が消滅していく。その一方で,高齢化率は30%を超えようとしており,団塊の世代が75歳以上となる2025年には,国民の3人に1人が65歳以上,5人に1人が75歳以上となる。疾患を有する高齢者が増加することになり,医療と介護の需要が急速に増大する見通しとなっている。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.196 - P.197

 今月号の表紙はリシェール(Paul Richer;1849-1933)の制作したミオパチー患者の胸像である。これはメージュ(Henri Meige;1866-1940)による論文「芸術にみられる筋萎縮」1)で紹介されている。メージュはこう始める。

 外形が際立って変化した疾患の第一のものは筋萎縮症である。筋萎縮症患者ほどに身体と顔の形態,姿勢,歩行や動きを大きく障害されるものは少ない。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.200 - P.200

 私は沢山の筆記具を持っている。ところが最近まで,ボールペンのインクの格段の進歩を知らずに,限られたメーカーの製品を使い続けていた。ボールペンにありがちな欠点は,既に克服されていたのだ。例えば,普通のボールペンは逆さまにするとインクが出にくくなるが,フィッシャーの「スペースペン」はリフィル(替え芯)に窒素ガスが封入されていて,ペンをどんな向きにしても滑らかに書くことができる。さすが宇宙の無重力状態で使えるボールペンだ。

 ボールペンは水性と油性とに大別される。水性ボールペンは「ローラーボール」と呼ばれ,乾燥防止のキャップを持つ製品が多い。長所は書き味が滑らかであること,短所は書いたものが乾きにくく水濡れに弱いことである。他方,油性ボールペンは書いたものが乾きやすく水濡れに強い反面,書き味が堅く,特に書き出しでかすれやすい。水性と油性では,そもそもリフィルの規格サイズが違うため,両用できるペンは少ない。しかしこの「水と油」のジレンマもまた,解消された製品が出ている。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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