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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩68巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 脳とフローラ

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ページ範囲:P.593 - P.593

特集の意図

近年,脳と腸との関連に注目が集まっている。パーキンソン病に便秘の症状が認められるように,脳と腸とが自律神経で強く結びついていることは知られていたが,現在では腸の状態がさまざまな精神疾患,神経疾患の発症に関わることが示唆されている。そのメカニズムにおいてスポットライトを浴びているのが腸内フローラである。治療へとつながる可能性にも満ちた,腸脳連関にまつわる最新の研究結果をお届けする。

腸内細菌とストレス応答・行動特性

著者: 須藤信行

ページ範囲:P.595 - P.605

腸内細菌はさまざまな生理機能や病態形成に関与しているが,脳や中枢神経機能にどのような影響を及ぼしているかについては十分に検討されていない。近年,腸内細菌は宿主のストレス応答や行動特性に影響することが明らかとなった。本論では,筆者らの人工菌叢マウスを用いた実験結果を踏まえて,その研究の現状について概説した。

過敏性腸症候群・情動の制御と腸内細菌

著者: 福土審

ページ範囲:P.607 - P.615

過敏性腸症候群(IBS)とは,腹痛・腹部不快感と便通異常が持続する状態である。IBSにおいては,感染性腸炎後の発症,ストレスによる細菌叢の変化,粘膜透過性亢進,腸内細菌異常増殖,腸内細菌の特徴とその産物の役割,脳腸相関を介する生体の変化が検討されている。IBSと腸内細菌の関係を証明する報告は増加しており,それがIBS診療に大いに役立つことが期待される。

多発性硬化症と腸内フローラ

著者: 山村隆

ページ範囲:P.617 - P.622

常在腸内細菌叢(腸内フローラ)と宿主は共生関係にあるが,最近では腸内細菌には炎症性腸疾患や肥満などの病態を抑止する機能があり,腸内細菌叢の異常がこれらの病態の発症に関与することが推測されている。中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)においても,腸内細菌叢の異常が病態の引き金になる可能性が動物実験によって証明されている。またMS患者では炎症抑制性T細胞の誘導に関わるクロストリジウム細菌などの減少が確認され,予防や治療の観点から議論が展開されている。

自閉症と腸内フローラ由来分子

著者: 渡邉邦友

ページ範囲:P.623 - P.631

自閉症は遺伝因子と環境因子の相互作用の結果発症する。遺伝因子と環境因子の関係の中の,1つの特別な関係として遺伝子と腸内フローラとの関係は認識されるようになった。その鍵となるのが,腸内フローラの構成変化と関連して増加する特別な代謝物「自閉症関連分子」である。これらの代謝物の腸管内,血清中,脳内レベルの変化が自閉症の病態生理に重要な役割を演じている可能性が出てきた。脳の発達に重要な乳幼児期のある時期に特異的に自閉症関連遺伝子のエピゲノム状態そして遺伝子発現を変化させることができる代謝物が「自閉症関連分子」として注目されている。腸内フローラはそのような分子の宝庫である。

ADHDモデルラットの情動形成における腸脳連関

著者: 飛田秀樹

ページ範囲:P.633 - P.639

発育期の環境(腸内フローラを含む)が情動行動の形成に関係するかという問いは興味深い。注意欠陥多動障害モデル動物を用い,発育期のうま味刺激が不安様行動や社会性行動の情動行動に与える影響を調べた。その結果,離乳後から成熟期までのうま味摂取が腹部迷走神経を介し脳へ作用し,社会性行動が変化する(攻撃性の減少)ことが示された。腸内細菌の変化や脳内メカニズムなど解決されるべき腸脳連関メカニズムを考察する。

うつ病と腸脳連関

著者: 功刀浩

ページ範囲:P.641 - P.646

うつ病は慢性ストレスを誘因として発症することが多いが,腸内細菌とストレス応答との間に双方向性の関連が示唆されている。動物実験によりプロバイオティクスがストレスに誘起されたうつ病様行動やそれに伴う脳内変化を緩和することが示唆されている。うつ病患者における腸内細菌に関するエビデンスはいまだに乏しいが,筆者らはうつ病患者において乳酸菌やビフィズス菌が減少している者が多いことを示唆する所見を得た。

総説

小児神経学と成人神経学に架かる橋

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.647 - P.654

小児(科)と成人(科)は15〜17歳で分けられるが,臨床神経学でこの境をまたぐものがある。下記の3つのテーマについて述べた。①手の運動機能:小児での発達とそれと対照的な成人での障害を大脳連合野の観点から論じた。②肝レンズ核変性症:Wilson型(小児)と偽性硬化症型(成人)とを臨床・病理学的に分析した。③平山病:成人神経学で見出されたが,思春期を中心に小児と成人(若年)にまたがることを示し,小児神経科の重要性を指摘した。

原著

パーキンソン病治療薬ロチゴチン貼付剤の継続使用に関する検討

著者: 安高勇気 ,   藤岡伸助 ,   芝口浩智 ,   今給黎修 ,   鷲山厚司 ,   坪井義夫 ,   二神幸次郎

ページ範囲:P.655 - P.660

当院で診療しているパーキンソン病患者85例におけるロチゴチン貼付剤の継続使用を困難とする要因を後方視的に検討した。同薬剤が減量・中止となった患者は53例(62.4%)であり,有意に関連のあった因子として,クロナゼパムの併用,ロチゴチン貼付剤導入前の他ドパミンアゴニスト(DA)投与が抽出された。また,導入時の総DA換算量が減量された群は,増量された群と比較し,ロチゴチンの継続率は有意に低下(P=0.009)した。

症例報告

隆鼻術に用いられた象牙インプラントによる稀有な穿通性頭部外傷の1例と文献的考察

著者: 宮原牧子 ,   岡本幸一郎 ,   玉井雄大 ,   相島薫 ,   井上雅人 ,   大野博康 ,   原徹男 ,   松林薫美

ページ範囲:P.661 - P.666

穿通性頭部外傷はわが国では非常に稀である。今回われわれは美容目的の隆鼻術で皮下に埋め込まれた象牙が頭蓋内に穿通した極めて稀な症例を経験した。症例は69歳女性,精神疾患を罹患し,突発的に窓から飛び降り,顔面を強打した。埋め込まれた象牙は前頭洞から左前頭葉に刺入しており,これを外科的に鼻根部から抜去し,副鼻腔の十分な消毒と粘膜の処理,頭蓋骨膜による前頭蓋底の修復および硬膜を密に縫合し閉創した。術後は感染症などを併発することなく良好な経過をたどり,術後30病日に原疾患の治療のため転院した。これまでわが国での穿通性頭部外傷について体系的にまとめた報告は皆無であり,文献的考察を加えて報告する。

Neurological CPC

両側声帯外転障害を呈しレヴィ小体型認知症と臨床診断された89歳男性例

著者: 融衆太 ,   内原俊記 ,   磯﨑英治 ,   織茂智之 ,   河村満 ,   井口保之 ,   後藤淳 ,   鈴木正彦 ,   田久保秀樹 ,   福田隆浩 ,   藤ヶ﨑純子 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.667 - P.677

症例提示

司会(織茂) まず,症例の提示からお願いいたします。

臨床医(融) 症例1)は,死亡時89歳の男性です。主訴は呼吸困難です。既往歴・生活歴に特記することはありません。

学会印象記

AANEM 2015—62th American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine(2015年10月28〜31日,ホノルル)

著者: 神林隆道

ページ範囲:P.679 - P.681

 2015年10月28〜31日の4日間,米国ハワイ州ホノルルにて開催された第62回米国神経筋電気診断学会(AANEM 2015)に参加しました。AANEMは前身を米国電気診断学会(AAEM)といいましたが,2004年から「neuromuscular」を学会名に加え,電気診断のみならず神経筋疾患全般を対象とするという立場を示しています。私はAANEMへは今回が初参加でしたので,学会の雰囲気はどのような感じなのだろうかと,不安と期待を胸に日本を出発しました。

 私が所属する帝京大学からは,毎年数名が参加しています。今回,日本からは帝京大学以外にも多くの大学からの参加者がおり,一般演題の総演題数は253題と米国神経学会(AAN)と比べれば当然小規模な学会ではありますが,そのうち20題が日本からの演題発表でした。ハワイでの開催ということもあるためか,アジア地域からの参加者も目立っていたように思います。帝京大学神経内科の園生雅弘教授に指導を受けているわれわれのグループは,私を含めた大学院生3名を含む総勢10名の大所帯での参加で,各々の研究テーマを発表してまいりました(写真1)。

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書評 「脳卒中症候群」—星野晴彦【監訳】 フリーアクセス

著者: 山本康正

ページ範囲:P.632 - P.632

 星野先生とその学友の先生方は,L.R. Caplanの『Stroke Syndromes』を邦訳するという大技をやってのけられた。本書はCaplanの多くの著書の中でも最も重要なものの1つである。自ら大いに筆を振るいながら,各領域の第一人者である友人にも依頼された分担執筆で,各著者は渾身の筆致で原稿を書き上げられている。本書が素晴らしいのは,症候学を神経解剖と結びつけるのみならず,その病態,メカニズムの詳細に切り込んでいる点である。英語の原本は手元においてときどき辞書代わりに読んでいるが,母国語になった本書をみるとまるで新しい著作の登場である。頁をめくり一気に飛び込んでくる内容は,母国語の有難味というべきか,身体感覚に響いてくる。何故か図などは原本より色彩が豊富となっており,どこを読みたいのか・どこを読まなければならないのか,一瞬にして教えられるほど鮮明である。

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.654 - P.654

書評 「内科診断学 第3版」—福井次矢,奈良信雄【編】 フリーアクセス

著者: 大滝純司

ページ範囲:P.678 - P.678

 『内科診断学』の第3版が出版された。第2版の第1刷から約8年後の,待ちに待った改訂である。

 この本は評者が診療している東京医科大学病院総合診療科の外来で,最も頻繁に読まれている参考資料の1つであり,その外来の一角にある本棚(200冊くらいの本が並んでいる)に置かれている旧版は,大勢の研修医やスタッフに8年間使われ続けて,文字通りぼろぼろになっている。昔話になるが,私が研修医だった頃に症候や病態から診断を考える際の参考書は,洋書の〈The Spiral Manual Series〉の『Problem-Oriented Medical Diagnosis』という小さな本だった。それを読みながら,日本の診療に沿った本が欲しいと何度も思った。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.682 - P.683

 攣縮性斜頸/痙性斜頸(spasmodic torticollis)の矯正手技(試験)は,いろいろな名称で呼ばれています。英語の「sensory trick」(感覚トリック),フランス語の「geste conjuratoire」(まじない動作)や「geste antagoniste」(拮抗動作)がそれです。この手技の効果についてはワルテンベルグ(Robert Wartenberg;1887-1956)も詳しく述べており,ジストニー性斜頸の特徴としています1)

 この現象の最初のまとまった記載は,1894年に行われたブリソー(Édouard Brissaud;1852-1909)の講義録[編集はメージュ(Henry Meige;1866-1940)]にあります2)。この講義録には7症例が記載されており,Fig.に示すようにすべての症例における矯正手技の効果が写真で明示されています。当時,矯正手技の効果はブリソー徴候と呼ばれることもあったのです。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.686 - P.686

 私の勤めている病院1階にコンビニができたのは3年ほど前です。ATMやコピー機も備えていて,当初はすこぶる好評でした。しかし,最近時々,コンビニに対するネガティブなご意見も投書されるようになったのです。「病院内で売っている本の内容に責任を持てるのか?」というものです。アイスクリームを売っている冷蔵庫正面の,ほんの小さな一角に本棚があり,文庫本・新書を中心に並べてある棚があります。少し離れたところに,週刊誌や新聞も各種揃っていて,2,3人しか入れない書棚前のスペースはいつも満員です。病院ですから当然健康雑誌はよく売れるようです。生活習慣病や認知症,頭痛などのコモン・ディジーズに関連するものが多く,多くの本は平易で良心的です。しかし,内容が乏しい割には,大げさにもみえるタイトルの雑誌や本もないわけではありません。

 あるときから,私自身が本棚を定期的に巡視し,販売本の内容をさりげなくチェックすることにしました。その活動の中でみつけたのが,光岡知足先生の『腸を鍛える』というタイトルの新書本でした(祥伝社新書,2015年)。ご自身の腸内細菌と腸内フローラ研究内容がわかりやすく示されており,読んでみるとおすすめの良書でしたが,当初はちょっと怪しい本として私自身がチェックしたことは間違いありません。そのころ私は,脳と腸との関連はあまり理解していなかったのです。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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