icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩68巻8号

2016年08月発行

雑誌目次

特集 こころと汗

フリーアクセス

ページ範囲:P.881 - P.881

特集の意図

発汗には中枢,末梢さまざまな神経が関与している。脳機能画像などの技術が進歩し,「こころと汗」の結びつきがどのようなメカニズムで成り立っているのかについても多くのことが明らかになってきた。発汗の評価は神経病変の部位や高位診断に役立ち,特徴的な発汗異常は疾患を明らかにすることもある。本特集では,発汗のメカニズムを概説しつつ,臨床への応用の可能性を紹介したい。

精神性発汗の神経機構

著者: 朝比奈正人

ページ範囲:P.883 - P.892

血圧,心拍,発汗などの自律神経の活動は情動などの脳の活動を強く反映する。このため自律神経活動の記録を臨床で神経疾患の診断・評価などのために使用する際は脳活動の影響を極力排除する必要があり,正確な所見を得るためには脳活動と自律神経活動の関係を理解する必要がある。特に手掌・足底の発汗は情動と強い関係があり,いわゆる噓発見器に用いられたり,精神科領域の治療に用いられたりする。神経内科領域,精神科領域,心理学領域などに携わる人々にとってこの拙稿が手掌・足底の発汗(いわゆる精神性発汗)の神経機構を理解するために多少なりともお役に立てば幸いである。

情動障害と発汗異常

著者: 梅田聡

ページ範囲:P.893 - P.901

本稿では,情動障害と発汗の関係性について,脳機能の側面から概観する。まずは,情動処理に関連する脳部位とその機能についてまとめ,近年,発展が著しいネットワークによる理解の枠組みについて紹介する。次に,扁桃体,前頭葉眼窩部,島皮質などの障害に伴う情動障害と発汗機能の異常について概観する。最後に,自律神経障害を対象とした研究成果について触れ,統合的な観点による脳-身体機能連関研究の必要性について述べる。

発汗の脳機能画像

著者: 小島一歩 ,   平野成樹

ページ範囲:P.903 - P.909

ヒトにおける温熱性および精神性発汗の中枢機構について機能的MRIを用いた画像研究を中心に概説する。温熱性発汗においては視床下部(視索前野)での活動を認め,精神性発汗では前頭前野や島皮質,前部帯状回が関与していることが報告されている。温熱性および精神性発汗の共通する中枢として中脳背側および延髄外側部が挙げられる。発汗の中枢性機構は交感神経活動のみならず,情動や内的感覚,注意覚醒をも包括している。

意思決定と汗

著者: 小早川睦貴

ページ範囲:P.911 - P.918

ヒトは意思決定を行う際,発汗反応をはじめとする情動反応を用いることによって情報処理を円滑化している。これまでの研究から,扁桃体や前頭葉腹内側部などの役割や,意思決定をする前や後の発汗反応が有利な選択にとって重要であることが示されてきた。これまでは意思決定における情動や意識下の処理に注目が集まり,さまざまなことがわかってきた。一方で,そうした処理と意識的な情報処理との関連が今後の検討課題と考えられる。

バイオフィードバック療法における精神性発汗の応用

著者: 永井洋子

ページ範囲:P.919 - P.929

バイオフィードバック療法は行動療法の1つとして長く知られている。近年,テクノロジーの発展によりその応用の幅が広がりつつある。バイオフィードバックでは,普段感知できない,脳波,心拍,皮膚抵抗などの生体シグナルをモニターしそれを視覚,聴覚を通して被験者にフィードバックすることによって,生体をコントロールすることが可能になる。本論では発汗に関連した皮膚電気活動を用いたバイオフィードバックの応用を紹介したい。

総説

大脳新皮質の層形成過程におけるリーリンの役割

著者: 仲嶋一範

ページ範囲:P.931 - P.937

リーリンは,大脳新皮質のインサイド・アウト様式での層形成を制御する。リーリンは主に辺縁帯のカハール・レチウス細胞から分泌され,移動してきたニューロンを停止させてインサイド・アウト様式での細胞凝集を引き起こす。また,インテグリンやNカドヘリンを介して移動の最終ステップを制御する。さらに,移動途中の脳室下帯付近にも発現しており,移動ニューロンの動態制御に関わる。

認知症の社会的コスト—インフォーマルケアコストを中心に

著者: 色本涼 ,   佐渡充洋 ,   三村將

ページ範囲:P.939 - P.944

認知症者数の急増に伴い,その社会的コストも増大している。日本における,2014年の認知症の社会的コストは,14兆5140億円と推計され,約40%がインフォーマルケアコストであった。今後は,費用の多寡の議論に終始することなく,費用に見合った効果が得られているかを評価する費用対効果研究,費用対効用研究などが実施される必要がある。

症例報告

認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症の臨床像を呈したglobular glial tauopathyの1剖検例

著者: 佐々木良元 ,   三室マヤ ,   小久保康昌 ,   今井裕 ,   吉田眞理 ,   冨本秀和

ページ範囲:P.945 - P.950

認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALS-D)の臨床像を呈したglobular glial tauopathy(GGT)の剖検例を報告した。上位優位の運動ニューロン徴候と認知症という臨床像からALS-Dと診断したが,病理学的に左優位の前頭葉萎縮と神経細胞脱落,グリアに小球状の4リピートタウ封入体を認め,GGTの病理像であった。中心前回と錐体路の変性が高度で,ベッツ細胞と脊髄前角細胞にタウ封入体を認めた。

微小血管減圧術が奏効した結膜充血と流涙を伴う難治性の短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)の1例

著者: 菊井祥二 ,   宮原淳一 ,   杉山華子 ,   柏谷嘉宏 ,   竹島多賀夫

ページ範囲:P.951 - P.955

43歳男性。右眼周囲の電撃痛で発症。4カ月後に同部位に充血,流涙,鼻漏を伴う1時間程度の鋸歯状の激痛が出現し,結膜充血と流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)と診断。診断の2カ月後に改善したが,6カ月後に再発した。ラモトリギンなど多くの抗てんかん薬に対して中毒疹がみられ,難治性と考えられた。頭部MRIで右三叉神経に神経血管圧迫(NVC)がみられ,微小血管減圧術(MVD)を施行。術後より痛みは寛解した。一部のSUNCTにはNVCの関与も推測され,難治例にはMVDの検討も必要である。

神経画像アトラス

シャルコー動脈が出血源と同定できた特発性被殻出血の1例

著者: 坂倉和樹 ,   池田剛 ,   椎貝真成 ,   中居康展 ,   渡辺憲幸 ,   上村和也 ,   山本哲哉 ,   松村明

ページ範囲:P.957 - P.958

 シャルコー動脈(Charcot artery:CA)は特発性脳内出血の原因として知られる重要な血管で,1874年に初めてデュレー(Henri Duret;1849-1921)が報告し,その後1883年にシャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)が報告したことで臨床的に有名となった1)。CAは「artery of the cerebral hemorrhage」と呼ばれ,現在ではレンズ核線条体動脈(lenticulostriate artery:LSA)として認識されているが,画像診断で出血源と同定されることは稀である。今回われわれはCAが出血源と同定できた特発性被殻出血の1例を経験したので報告する。

〈症 例〉 62歳男性。意識障害,左片麻痺を発症して来院した。来院時,グラスゴー昏睡尺度(Glasgow Coma Scale:GCS)E1V1M4で左片麻痺は重度であった。頭部CT(computed tomography)で右被殻出血を認め,血管病変を除外する目的でCTA(CT angiography)を施行したところ,CAからの造影剤漏出を認めた(Fig.)。緊急で開頭血腫除去術を施行。術中にCAと考えられる血管からの活動性出血を認めたため,凝固焼灼した。術後は全身管理,リハビリテーションを行い,転院となった。

紙上討論

「漢字」と「ひらがな」の知覚部位は同じか?

著者: 櫻井靖久 ,   辰巳格 ,   渡辺眞澄

ページ範囲:P.959 - P.975

A 櫻井 異なるという立場から 1

 「『漢字』と『ひらがな』が脳の中で知覚される部位は異なる」という知見はテレビのクイズ番組でも出題されたことがある。いまや周知の事実なのかもしれない。しかしながら,この根拠となる事実を多数例で検討した論文は意外と少ない。多くは,単一症例報告である。

 本紙上討論では,漢字とひらがなの視覚処理が異なるという立場から,これまでの病巣研究の成果をレヴューし,また機能画像研究でこの「漢字・仮名問題」(本論でいう仮名は特に断らない限り,ひらがなを指す)がどう捉えられてきたかを概説した後で,漢字処理,仮名処理に特化した部位について考察する。なお厳密な意味でのレヴューではないので,文献リストは最小限にとどめた。

学会印象記

2016 AAN Annual Meeting—The 68th American Academy of Neurology® Annual Meeting(2016年4月15〜21日,バンクーバー)

著者: 宮﨑雄生

ページ範囲:P.976 - P.977

 2016年4月15〜21日にカナダのバンクーバーで開催されたThe 68th American Academy of Neurology® Annual Meetingに参加しました。本学会は臨床神経学に関する世界最大級の学会で,毎年世界各国から多くの神経内科医,神経研究者が参加しています。会場はバンクーバー港に面したバンクーバーコンベンションセンター(写真1)で,ダウンタウンにある多くのホテルから徒歩圏内にある便利なところでした。4月のバンクーバーは朝晩は上着が必要であるものの,最高気温は20℃程度と非常に快適で,街路樹には新緑と花があふれていました。寒い冬に閉ざされていたカナダも,これからすばらしい季節を迎える時期で,学会期間中に市街地では大きなマラソン大会が開催されていました。

 本学会の特徴として各分野の専門家による教育セミナーが非常に充実しており,米国の神経内科臨床教育に関する熱心さをいつも感じます。昨年まではこれら教育セミナーに出席するには学会参加料とは別に参加料の支払を要求されていたため,これまでは出資者である上司の顔色をうかがいながら最低限のセミナーに登録していました。しかし,今年から一律の学会参加料ですべてのセッションに出席可能となり(その分参加料が値上がりしていますが……),今回は多くの教育セミナーに出席でき,とても充実した時間を過ごしました。私は自分の専門分野である多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)のセッションを中心に参加しましたが,朝は午前6時30分開始,夜は最も遅い日で午後9時30分までセッションが予定されていました。すべてに参加すると非常に長い1日となり,欧米人の体力と勤勉性にはいつも感心させられます。

--------------------

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.901 - P.901

書評 「JRC蘇生ガイドライン2015」—一般社団法人 日本蘇生協議会【監修】 フリーアクセス

著者: 外須美夫

ページ範囲:P.956 - P.956

 本の価値はいったい何で決まるのだろうか? わかりやすく言えばそれは,その本によってどれだけの人が救われるかということではないだろうか。そして,救われるのが死に瀕して助かる命だとしたら,その本の価値は何にも代えがたいものだろう。この本がまさにそんな本だ。

 人ががんや寿命で死ぬとき,人は死を自覚し,死を受容し,受容しないまでも納得して,あきらめて,死ぬことができる。しかし,突然の病気で死に至るとき,あるいは不慮の事故に巻き込まれて死に至るときは,死を思う時間さえも与えられない。人生を振り返る時間もない。だから,突然の死からできるだけ多くの人を救ってあげたい。すべての医療者は,いやすべての人々は,家族は,そう願っている。その願いを叶えるのがこの本だ。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.978 - P.979

 あくび症候は,40年ほど前の『日本医事新報』に「日陰者の神経症状」1)というタイトルで書かれたこともあるように,本邦では依然ほとんど注目されていない自律神経症候です。しかし,1900年前後の欧米神経学では,明らかに陽が当たっていたのです。例えば,デジュリン(Joseph Jules Dejerine;1849-1917)は『神経症候学』2)の中で次のように書いています。「あくびは混合性の呼吸性攣縮(spasm)である。持続性にあるいは発作性に生ずるが症候として起こることは大変稀である。持続性の場合は睡眠時には止まり,目が覚めると起こり,数カ月〜数年間も持続する。規則的で,咳発作で中断することがある。あくびに際して両顎は大きく離れる。しかし呼吸の深さは正常である。発作性の場合は15〜30分間あるいはそれ以上の間,群性に途切れることなく反復する。発作が止むとまた始まる。痙攣を伴ってヒステリー発作の部分症状として出現することがある」。ガワーズ(William Richard Gowers;1845-1915)の教科書には,半身麻痺の上下肢があくびの際には動くという記載があります3)。シャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)は火曜講義の中でヒステリー性あくびについて詳しく述べ4),それは,なんと1911年(明治44年)に佐藤恒丸によって日本語にも翻訳されています5)

 『Nouvelle Iconographie de la Salpêtrière』にはあくびに関する,2つの論文が収載されています6,7)。1つは,ジル ド ラ トゥレット(Georges Gilles de la Tourette;1857-1904)によるヒステリー性のあくび症例で,本号表紙掲載の23歳女性例です。もう1つは,フェレ(Charles Samson Féré;1852-1907)によるてんかん性あくびの記載です。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.982 - P.982

 6月21〜24日にグラスゴーで開催されたInflammatory Neuropathy consortium(INC)に参加してきた。本誌67巻(2015年)11号でも特集したように,ギラン,バレー,ストロールによるギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)の1916年の原著報告から100周年となるため,丸1日をかけて大々的なシンポジウムが組まれていた。本会の全体像については後日,本誌の学会印象記でも紹介される予定である。GBSに関する近年の大きなトピックはジカウイルス感染後GBSであり,この学会でもブラジルから4演題が発表された。今回はGBSに絞って紹介する。

 報道などでご存知の方も多いと思われるが,このウイルスは1947年にウガンダのZika forest(ジカ森林)のアカゲザルから初めて分離され,ヒトからは1968年にナイジェリアで分離された。その後2007年にはミクロネシア連邦のヤップ島で流行し,2013年にはフランス領ポリネシアで約1万人の感染が報告され,2014年にはチリのイースター島,2015年にはブラジルを含む南アメリカ大陸で流行が発生した。日本への最初の輸入症例はフランス領ポリネシアでの感染症例であった。ジカウイルス感染後GBSを多数例でまとめた初めての報告は,上記のように2013年に集団発生が起こったフランス領ポリネシアから42例の報告として2016年4月にLancet誌に掲載された1)。この論文中では臨床症状は古典的な脱髄型であるにもかかわらず,電気生理学的検査では軸索型であると記載されている。筆者は神経生理学を専門としているので,特に注目して読んでみると,検査データはみごとに脱髄型の所見を示している。国際的な影響力の大きい天下のLancet誌で明らかな誤りがあることは望ましくないことであり,早急に正しい解釈を示すべきと考えて,同じ意見を持つイタリア,マレーシアのGBS研究者とともにLetter to Editorを投稿したが,なんとrejectされてしまった。これが5月のことであった

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら