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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩68巻8号

2016年08月発行

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著者: 河村満1 岡本保2 菊池雷太3

所属機関: 1昭和大学病院附属東病院 2富坂診療所 3汐田総合病院神経内科

ページ範囲:P.978 - P.979

文献概要

 あくび症候は,40年ほど前の『日本医事新報』に「日陰者の神経症状」1)というタイトルで書かれたこともあるように,本邦では依然ほとんど注目されていない自律神経症候です。しかし,1900年前後の欧米神経学では,明らかに陽が当たっていたのです。例えば,デジュリン(Joseph Jules Dejerine;1849-1917)は『神経症候学』2)の中で次のように書いています。「あくびは混合性の呼吸性攣縮(spasm)である。持続性にあるいは発作性に生ずるが症候として起こることは大変稀である。持続性の場合は睡眠時には止まり,目が覚めると起こり,数カ月〜数年間も持続する。規則的で,咳発作で中断することがある。あくびに際して両顎は大きく離れる。しかし呼吸の深さは正常である。発作性の場合は15〜30分間あるいはそれ以上の間,群性に途切れることなく反復する。発作が止むとまた始まる。痙攣を伴ってヒステリー発作の部分症状として出現することがある」。ガワーズ(William Richard Gowers;1845-1915)の教科書には,半身麻痺の上下肢があくびの際には動くという記載があります3)。シャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)は火曜講義の中でヒステリー性あくびについて詳しく述べ4),それは,なんと1911年(明治44年)に佐藤恒丸によって日本語にも翻訳されています5)

 『Nouvelle Iconographie de la Salpêtrière』にはあくびに関する,2つの論文が収載されています6,7)。1つは,ジル ド ラ トゥレット(Georges Gilles de la Tourette;1857-1904)によるヒステリー性のあくび症例で,本号表紙掲載の23歳女性例です。もう1つは,フェレ(Charles Samson Féré;1852-1907)によるてんかん性あくびの記載です。

参考文献

1)井形昭弘: 日蔭者の神経症状. 日医事新報2929: 69, 1980
2)Dejerine J: Sémiologie des Affections du Système Nerveux. Masson, Paris, 1914, p996
edition, Blakiston P, Philadelphia, 1893, p81
4)Blin MM, Charcot, Colin H: Première Leçon. Bâillement hystérique (bâillement naturel et bâillement suggéré). Policlinique du Mardi 23 Octobre 1888. Cours de M. Charcot. Leçons du Mardi à la Salpêtrière, Professeur Charcot. Policlinique 1888-1889. Progrès Médical, 1889, pp1-11
5)佐藤恒丸(訳): 第一回講演 第一 歇私的里性欠伸. 沙禄可博士 神經病臨床講義 後編. 東京醫事新誌局, 1911, pp1-16
6)Gilles de la Tourette G, Huet E, Guinon G: Contribution à l'étude des bâillements hystériques. Nouv Iconogr Salpêtrière 3: 97-119, 1890
7)Féré CS: Bâillements chez un épileptique. Nouv Iconogr Salpêtrière 1: 163-169, 1888
8)河村 満, 長谷川幸祐: あくび. 野村恭也(編): CLIENT 21 No.1症候. 中山書店, 東京, 1999, pp59-64
9)井出正美, 片岡明美, 郡山達男, 他: Adrenoleukodystrophyの臨床的, 内分泌学的新知見—頻回の欠伸(あくび)と血中ACTH高値, 脳内石灰沈着と副甲状腺機能低下を伴ったadrenoleukodystrophyの一例. 臨床神経22: 112-119, 1982
10)Darwin C: The Expression of the Emotion in Man and Animals. John Murray, London, 1904, p168
11)Lehmann HE: Yawning: a homeostatic reflex and its psychological significance. Bull Meninger Clin 43: 123-136, 1979
12)牛島逸子, 水木 泰, 山田通夫: あくび反応と中枢ドーパミン-コリン作動性神経機構. 神経進歩38: 432-442, 1994
13)新村 出(編): 広辞苑 第六版. 岩波書店, 東京, 2008, p33

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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