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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩69巻1号

2017年01月発行

雑誌目次

特集 近年注目されている白質脳症

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ページ範囲:P.3 - P.3

特集の意図

近年の診断法の進歩により,これまで注目されることの少なかった新規概念ともいえる白質脳症についての報告が急増している。非特異的な臨床所見,画像所見を示す場合があるために鑑別診断に苦慮するものが多かったが,徐々に診断方法も確立され,それに伴い病態の解明も進みつつある。本特集では,トピックとして特に大きい4つの疾患について取り上げる。

Neuronal Intranuclear Inclusion Disease(NIID)—エオジン好性核内封入体病

著者: 曽根淳 ,   祖父江元

ページ範囲:P.5 - P.16

NIID(neuronal intranuclear inclusion disease)は,近年,診断数が増加し注目されている疾患である。孤発性NIIDでは,多数の症例で認知機能障害,髄液蛋白質の上昇,頭部MRIでの白質脳症,および拡散強調画像での皮髄境界の高信号が認められ,家族性NIIDでは,認知症を初発症状とする群と,四肢筋力低下から発症する群の2群が認められる。多くのNIID症例が,いまだ正確に診断されていない可能性があり,NIID診断フローチャートの活用が有効である。

神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)

著者: 玉岡晃

ページ範囲:P.17 - P.23

神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)は常染色体性優性遺伝の稀な疾患であり,大脳白質に神経軸索が腫大したスフェロイドが認められる。臨床症候は多彩であり,コロニー刺激因子1受容体の蛋白質キナーゼの領域に変異を有する。今日まで,HDLS患者には50種以上の病因となる遺伝子変異が見出されている。本稿では,HDLSの臨床的特徴と分子病態を中心に概説する。

CARASIL—(Cerebral Autosomal Recessive Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy)

著者: 上村昌寛 ,   野崎洋明 ,   小野寺理

ページ範囲:P.25 - P.33

CARASIL(cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)は本邦で発見され,疾患概念が確立された疾患である。近年,優性遺伝形式での発症例が報告され,その疾患概念が大きく変化した。本論では臨床的に広がりをみせるCARASILについて,最新の知見を交えて詳述する。

臨床概念としてのgliomatosis cerebri

著者: 杉山一彦

ページ範囲:P.35 - P.43

Gliomatosis cerebriは3葉以上の白質に浸潤像を持つ特殊な神経膠腫の一亜型である。現在ではMRIを中心とする画像診断で病変の広がりを確認し,手術材料の病理診断で神経膠腫細胞を確認すればよい。広範な病変の広がりに比べて臨床症状は軽微であり,臨床概念として重要であるが,形態学的診断と分子病理学的診断とは乖離があり,新しいWHO脳腫瘍病理分類のentityからは削除された。

総説

翻訳開始因子eIF2Bの立体構造—CACH/VWM型白質脳症の発症機構解明への手がかりとして

著者: 柏木一宏 ,   伊藤拓宏 ,   横山茂之

ページ範囲:P.45 - P.50

CACH/VWM(childhood ataxia with central nervous system hypomyelination/vanishing white matter)型白質脳症は,翻訳開始因子eIF2Bの遺伝子変異を原因とする疾患であるが,その発症のメカニズムは明らかではない。発症機構の解明へ向けて,eIF2Bの立体構造情報から得られる知見について解説する。

胸腺腫非合併重症筋無力症における拡大胸腺摘除術の意義—MGTX study

著者: 吉川弘明

ページ範囲:P.51 - P.59

2016年8月に,胸腺腫を合併しない重症筋無力症(MG)に対する拡大胸腺摘除術の安全性と有効性に関する国際ランダム化比較試験(MGTX study)の結果が公表された。ステロイド治療に拡大胸腺摘除術を併用すると,QMGスコアの軽減,ステロイド総投与量の減量,治療に伴う症状や副作用を抑えてQOL(quality of life)向上をもたらすことが明らかになった。今後,この結果を踏まえ,MGの標準的治療の再検討が必要である。

筋強直性ジストロフィー研究の進歩—治療の可能性

著者: 中森雅之 ,   高橋正紀

ページ範囲:P.61 - P.69

筋強直性ジストロフィー(MyD)は,筋症状だけでなく,多彩な全身症状を呈する難治性疾患である。CTGなどの塩基繰返し配列の異常伸長が原因であり,これらが転写された異常なRNAがスプライシング制御因子を障害して,広範なスプライシング異常が引き起こされる。MyDの治療戦略として,核酸医薬により異常RNAを分解する方法や,低分子化合物によりスプライシング制御因子の障害を防ぐ方法が試みられている。

症例報告

側副血行路の破綻によりくも膜下出血を発症したと考えられた頸部内頸動脈閉塞の1例

著者: 塚田剛史 ,   増岡徹 ,   濱田秀雄 ,   伊東正太郎 ,   赤井卓也 ,   飯塚秀明

ページ範囲:P.71 - P.77

症例は71歳男性。くも膜下出血にて発症したが,脳動脈瘤や動静脈奇形などは認めず,左側の頸部内頸動脈の閉塞を認めた。罹患側の中大脳動脈領域は後大脳動脈からの発達した側副血行路によって灌流されていた。くも膜下出血の分布と,発達した側副血行路が中大脳動脈水平部に流入する部位とが一致しており,くも膜下出血の出血源として側副血行路の破綻を考えた。症候性の内頸動脈閉塞と判断し,脳梗塞および再出血予防のために浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術を行った。内頸動脈閉塞症において,血行力学的な負荷のため形成される動脈瘤破裂以外の原因で起こるくも膜下出血はあまり認知されていない。しかし,原因不明の出血では,発達した軟髄膜吻合が破綻した可能性も考慮するべきである。

被殻出血の血腫除去後に画像診断された高齢者大脳基底核部脳動静脈奇形の1例

著者: 上山謙 ,   小山誠剛

ページ範囲:P.79 - P.83

意識障害,瞳孔不同,右片麻痺で発症した67歳男性の被殻出血例で術後の画像検査により大脳基底核部脳動静脈奇形(AVM)と診断,AVMの摘出術を施行した。高齢者の被殻出血の原因として大脳基底核部AVMは稀で,多くは血管撮影にて描出されないangiographically occult AVMであるが,本例では画像上AVMが描出された。高齢者でも血腫除去術を行う被殻出血例では,術前にMRI,MRAや3D-CTAなどの画像検査で血管評価を行うべきと考えられた。

学会印象記

10th FENS Forum of Neuroscience(2016年7月2〜6日,コペンハーゲン)

著者: 渡邊塁

ページ範囲:P.85 - P.87

 2016年7月2〜6日にデンマークのコペンハーゲンで開催された10th FENS Forum of Neuroscienceに参加しました。この学会は2年に1度開催されているヨーロッパの神経科学学会で,今回が10回目の開催でした。ヨーロッパの学会とはいえ,ヨーロッパのみならず,米国,アジア,中東など世界のあらゆる地域から大勢の研究者が参加していました。私は今回が初めての参加でしたが,毎回参加している研究者に聞いたところによると,今回は特に規模が大きかったとのことでした。5日間の学会期間中に,76以上の国から5,800人以上の研究者が参加したそうです。分子・細胞,発達,認知,疾病,リハビリテーションなどに関わるあらゆる神経科学の研究が,主に特別講演,シンポジウム,ポスター発表において,活発に議論されていました。また,ポスター発表では3,353演題という非常に多くの研究が発表されていました(写真1)。

 会場はコペンハーゲンの中心部から電車で15分程度のところにある,Bella Centerという大きな会場でした。コペンハーゲンの街自体は非常に古い建物が多く残っており,趣が感じられる街並みでしたが,Bella Centerは近代の北欧デザインを感じさせる,非常にスタイリッシュな建物でした。また,建物内に併設されているカフェも格好のよいものばかりでした。ちなみに,このカフェで食べられるチリライス,ホットドッグ,パニーニなどが思った以上に美味しかったことも非常に印象的でした。

AAIC 2016—Alzheimer's Association International Conference 2016(2016年7月22〜28日,トロント)

著者: 間野達雄 ,   宮川統爾 ,   岩田淳

ページ範囲:P.89 - P.91

 2016年7月22日より28日までAAIC2016に参加した。本学会は米国アルツハイマー病協会が主催する学会で,主に北米もしくは欧州にて開催される。2016年は2015年のワシントンD.C.に引き続きカナダのトロントにて開催された。本年は70カ国から2,600にのぼる演題が登録され,アルツハイマー病のみならずありとあらゆる認知症性疾患の基礎研究から介護まで幅広い発表が行われた。基礎研究から臨床研究まで幅広い研究者が同じ場に集まって議論を交わすことが本学会の特徴であり,基礎研究と臨床研究の橋渡しをすることのできる学会としての位置づけは,現在のアルツハイマー病研究の中でますます重要なものとなりつつある(写真1)。

 臨床研究の分野では,世界初となる抗タウ薬による第Ⅲ相治験の結果が明らかとなり,注目が集まった。891名の患者に対する15カ月に及ぶ二重盲検試験では,抗タウ薬LMTM[leuco-methylthioninium bis(hydromethanesulfonate)]の投与により,主要評価項目のADAS-cog,ADCS-ADLには有意差はみられなかった。同種薬の第Ⅱ相治験では有望な結果が示されていたため,非常に残念な結果であったと言える。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.23 - P.23

書評 「脳神経外科レジデントマニュアル」—若林 俊彦【監修】 夏目 敦至,泉 孝嗣【編】 フリーアクセス

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.34 - P.34

 名古屋大学脳神経外科講座とその関係者の総力を挙げた力作である。出版の医学書院の力の入れようも半端なものではなかったことが,若林教授(名大大学院教授)の「序」からもよく理解できる。

 現代の脳神経外科学が,学問領域として独立した時期をHarvey Cushing先生のハーバード大学教授就任のときと仮定しても,もう既に100年以上が経過している。この間,先人たちの努力による膨大な知識と経験の蓄積がある。その情報量は,既にbig dataの領域に達している。

書評 「快をささえる 難病ケア スターティングガイド」—河原 仁志,中山 優季【編】 フリーアクセス

著者: 松村真司

ページ範囲:P.44 - P.44

 もう20年近く前のことである。とある指定難病の患者さんのQOLに関する質的研究のお手伝いをしたことがある。都内の大学病院のごった返す外来で患者さんと待ち合わせをして,近くの喫茶店へ移動して30分ほどインタビューをする,ということを繰り返した。この経験は,それまでの診療生活に半ばバーンアウト気味になり大学院生になった私にとって,とても貴重なものだった。なにせ,病院に医師ではない立場で入ることはなかったし,その立場で入る病院はとにかく圧迫感があった。そして,そこで話された内容の多くは,難病の症状や,症状から派生する障害よりも,「自分が難病である」こと自体による生きづらさや困難であった。それまでの私は人々の苦しみを「疾病」というフィルターを通して見ていた。しかし,それぞれの人たちは,私と同じ,日々の暮らしを生きる人たちであり,その苦しみの多くは,そのフィルターを通してしまうと見えなくなってしまうものであった。そんな当たり前のことが,何年も診療を行っていながらわかっていなかったことに,当時の私は愕然としたのである。

 その後,町の医師になった私の所には,地域に暮らすさまざまな人々が訪れる。難病や障害を抱える人々とかかわる機会も少なくない。在宅医療を行っていれば神経難病を担当することは珍しいことではないし,そうでなくても外来には感冒などのありふれた病気や,予防接種などを通じてこのような難病や障害を抱える人たちや,これらの人々の家族が来院する。それぞれの難病や障害そのものへの対処は,専門医が担当するので,その点について私がかかわる部分は限定的である。しかしそれ以外の「地域で人々の生活を支え続ける」という面で,町の医師—プライマリ・ケアに携わる街場の総合診療がかかわる部分は大きいのである。

書評 「神経内科ハンドブック 鑑別診断と治療 第5版」—水野 美邦【編】 フリーアクセス

著者: 野元正弘

ページ範囲:P.70 - P.70

 『神経内科ハンドブック』第5版が刊行された。『神経内科ハンドブック』は水野美邦先生を中心として順大脳神経内科のスタッフで執筆され,初版の出版時から,わが国で最もよく用いられている神経内科学の臨床書である。神経内科学を専攻し専門医を取得する時期の医師および,その後,外来や病棟で診療に当たる医師を対象に執筆されているが,血管障害,認知症などのcommon diseaseから希少疾患まで,広い分野に対応できるように編纂されており,専門医取得後も常に復習にも用いることができるので,神経内科学を専攻する医師の教科書となっている。数年ごとに改版されて内容が一層充実しており,今回からは順大出身の望月秀樹先生が阪大神経内科学講座を担当されるようになったことから,阪大関連の先生方も執筆に参加されている。

書評 「医師の感情 「平静の心」がゆれるとき」—Danielle Ofri【原著】 堀内 志奈【訳】 フリーアクセス

著者: 平島修

ページ範囲:P.84 - P.84

 「医療現場をこれほどまでに赤裸々に,リアルに書いていいものだろうか」という驚きがこの本を読んで生じた感情だった。いてもたってもいられず,本書の書評を書かせてほしいと出版担当者にお願いしてしまった。「医師はいかなる時も平静の心を持って患者と向き合うべきである」と説いた臨床医学の基礎を作ったウィリアム・オスラー先生の「平静の心」を揺るがす内容なのである。

 「医師は患者に必要以上に感情移入してはいけない」

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.92 - P.93

 今月の表紙は,「チック病の1症例の進行における図像研究」1)というルビノヴィッチ(Jacques Roubinovitch;1862-1950)による論文からの写真です。一見すると連続写真のようにみえますが,何をどんな意図で写したものなのでしょうか。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.96 - P.96

 今米国でこの文章を書いています。世界の皆があっと驚いた大統領選の1週間後で,「Neuroscience 2016」が開催されているここカリフォルニアではさぞや反トランプの嵐が吹いているだろうと想像していましたが,目立ったデモがあるわけでもなく,いつもと同じ西海岸の風景でした。口演発表の中で突然スライドを交えてトランプ批判を始めた発表者がいたのには驚きましたが(さすがに座長がたしなめていましたが),それよりも気になったのは,参加している東洋人の中で日本人のパーセンテージが年々減っていくように思われること,さらには,欧米の有名ラボからの発表で,引用文献には日本人が筆頭著者になっているものが次々出てくるのに,最後のスライドのcollaboratorの中に日本人の名前がほとんどみられなくなったことでした。かつては日本の若いM.D.のかなりの割合の人たちが,大学から派遣されて欧米で数年間過ごしていたはずで,近年よく言われている「日本人が内向きになった」ということ以外にも,新医師臨床研修制度導入(もう12年経ちました。もはや「新」ではありません)に端を発する日本の大学(医局と言ってもよいかもしれません)の体力低下が大きく関連しているように感じました。医学生理学分野での日本人のノーベル賞候補者はまだまだ目白押しですが,これが後何年かで種が尽きる予兆でなければよいのですが。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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