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文献詳細

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩69巻10号

2017年10月発行

ポートレイト

下田光造—精神疾患の神経学的源流を探って

著者: 渡辺憲1

所属機関: 1社会医療法人明和会医療福祉センター渡辺病院

ページ範囲:P.1155 - P.1160

文献概要

はじめに

 下田光造(しもだ・みつぞう;1885-1978)は,わが国におけるうつ病の病前性格として世界に先駆けて「執着気質」(immodithymia)を発表したことなど,わが国の精神医学界に大きな足跡を残している。2002年に横浜で開催された第12回世界精神医学会(WPA)総会においても,下田の執着気質60年を記念したシンポジウムが開かれた。下田は禅などの東洋の文化を精神療法へ広く取り入れるとともに,同門の先輩にあたる森田正馬(もりた・まさたけ;1874-1938)が始めた森田療法を高く評価して自らの著書でも紹介し,治療にも積極的に組み入れた。これら精神療法,心理社会的治療学のみならず,神経病理学,生化学を基礎とした生物学的精神医学も精力的に研究を行って,わが国の精神医学の科学的研究基盤をつくった。

 また,その円熟期ともいえる九州帝国大学教授(医学部長を歴任)を経て,終戦直前の1945年7月に郷里の鳥取へ新設の医学専門学校の校長として着任し,直後に終戦を迎えた。下田は終戦直後の混乱の時期にあって,文部省,進駐軍と精力的に折衝を重ね,大変な努力の末,開設間もない医育機関を守った。以後,米子医科大学さらに鳥取大学学長として多くの弟子および学生の教育にあたり,医師としての人格の陶冶を基盤とした医学教育者として地域に多大な貢献をした。

 これらには,一貫して流れる思想,信念が感じられる。以上について順次紹介したい。

 なお本稿は,筆者が10年あまり前に依頼されて分担執筆した『東京大学精神医学教室120年』における一節「下田光造=その足跡と人となり」1)をもとに,その後,下田の学説が再評価されてきた昨今の精神医学界の動向を加味して執筆した。

参考文献

1)渡辺憲: 下田光造=その足跡と人となり—臨床家として, 研究者として, そして教育者として. 「東京大学精神医学教室120年」編集委員会(編): 東京大学精神医学教室120年. 新興医学出版社, 東京, 2007, pp167-185
2)中 脩三: 下田光造(日本の精神医学100年を築いた人々 第7回). 臨床精神医学8: 567-571, 1979
3)下田光造: 講演. 精神分裂病の病理解剖(第11回日本醫學會總會演說)(昭和17年3月26日). 精神神経誌46: 557-572, 1942
4)倉知正佳: 脳の形態学的変化. “脳と心”からみた統合失調症の理解. 医学書院, 東京, 2016, pp191-196
5)下田光造: 躁鬱病に就いて. 米子医学雑誌2: 1-2, 1949
6)神庭重信: 下田執着気質の現代的解釈, うつ病の論理と臨床. 弘文堂, 東京, 2014, pp9-29
7)下田光造, 杉田直樹: 最新精神病學第3版. 克誠堂書店, 東京, 1926
8)下田光造: 森田博士の追憶(序文に代えて). 東京慈惠會醫科大學精神病學敎室(編): 森田名譽敎授追悼論文集. 東京慈惠會醫科大學精神病學敎室, 東京, 1938, pp1-4
9)高木 篤: 鳥取大学医学部の学祖/名誉市民 下田光造. 楪 範之(編): 米子の歴史と人物. 立花書院, 米子, 1982, pp116-120

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1344-8129

印刷版ISSN:1881-6096

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