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雑誌目次

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩69巻3号

2017年03月発行

雑誌目次

特集 磁気刺激の新たな展開

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ページ範囲:P.193 - P.193

特集の意図

人体への経頭蓋磁気刺激が報告されてから30年余り,認知機能研究での使用をはじめ,精神・神経疾患の診断や治療への応用が期待されている。本特集では,装置開発,臨床応用,病態研究の側面から6つのテーマを取り上げて今後の展望を占いたい。

経頭蓋磁気刺激装置の開発

著者: 関野正樹 ,   川崎雄太

ページ範囲:P.195 - P.205

経頭蓋磁気刺激とはコイルにパルス電流を流し変動磁場を発生させることで脳内に電場を誘導し,脳を刺激する手法である。従来の脳神経疾患の診断や脳機能研究の用途に加えて,近年では磁気刺激を用いて神経疾患や精神疾患の治療が行われるようになりつつあり,治療に適した装置の開発が課題となっている。本論ではまず経頭蓋磁気刺激の基本的な原理について述べた後,在宅治療へ向けた経頭蓋磁気刺激装置の研究開発について解説する。

痛みに対する経頭蓋磁気刺激療法

著者: 齋藤洋一

ページ範囲:P.207 - P.218

難治性疼痛に対して,大脳運動野電気刺激療法(EMCS)が保険適用になっているが,開頭術を必要とし,手術をためらう患者もいる。一方,反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)はEMCSの非侵襲的手法と言ってよい。rTMSの除痛効果はガイドラインでも認められている。しかし効果は一時的であり,レスポンダーの割合は20〜50%である。レスポンダーの患者を特定し,繰返しrTMSを行えば治療となり得る。われわれは簡便にrTMSを繰り返すシステムの開発を進めており,2015年12月より医師主導治験を開始した。

パーキンソン病に対する反復経頭蓋磁気刺激療法

著者: 松本英之 ,   宇川義一

ページ範囲:P.219 - P.225

パーキンソン病を反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)により治療する試みは,本邦で最もよく検討されている。3回の無作為割付二重盲検化多施設共同研究から判明したことは,補足運動野に対する5HzのrTMSが,運動機能の改善に最も効果が高いということである。現在,第Ⅲ相試験が進行中である。磁気刺激は,パーキンソン病の新しい治療法として期待されており,近い将来,臨床応用される可能性がある。

反復経頭蓋磁気刺激を用いたリハビリテーション

著者: 竹内直行 ,   出江紳一

ページ範囲:P.227 - P.238

脳卒中後には障害部位だけでなく両側半球間のバランス不全および健側肢代償による健側半球興奮性増大のため,健側半球から障害側半球への半球間抑制が相対的に過剰な状態となり機能障害に悪影響を及ぼす。この両側半球間対立モデルから健側半球への抑制性反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)と障害側半球への興奮性rTMSを用い機能改善を促す方法が考案された。現在ではさまざまなニューロリハビリテーション手法とrTMSが併用され始め今後の発展が期待されている。

気分障害への磁気刺激療法

著者: 鬼頭伸輔

ページ範囲:P.239 - P.246

わが国では,およそ100万人の気分障害患者が治療を受けている。一方,治療抵抗性を示すうつ病や双極性うつ病患者への利用可能な治療の選択肢は限られている。反復経頭蓋磁気刺激は,神経修飾を行う技術であり治療抵抗性うつ病への有効性が実証されているほか,薬物療法に反応しない双極性うつ病への治療効果も示唆されている。また,磁気痙攣療法は,認知機能障害が少なく電気痙攣療法に相当する治療効果が期待される。

神経ネットワークダイナミクスから探る反復経頭蓋磁気刺激の抗うつ効果

著者: 中村元昭

ページ範囲:P.247 - P.256

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の作用機序は不明な点も多く,刺激効果は個人差が大きく,最適な刺激法が確立されたとは言いがたい。うつ病rTMSの治療反応性は3〜4割であり,rTMSの最適化と個別化が今後の課題である。課題解決のためにはrTMSの効果を予測する脳指標,rTMSの介入効果を測る脳指標,rTMSをガイドする脳指標などの開発が重要である。安静時機能的MRIと脳波を用いて神経ネットワークの観点からうつ病rTMSのバイオマーカーを検討した。

総説

概日リズムと睡眠恒常性の分子メカニズム

著者: 昆一弘 ,   大出晃士 ,   上田泰己

ページ範囲:P.257 - P.264

睡眠は概日リズムと睡眠恒常性という独立した2つの要素によって制御される。順遺伝学の貢献により哺乳類概日時計は転写翻訳のフィードバック回路として理解されている。一方で,睡眠時間を規定する分子機構の詳細は謎に包まれている。近年,逆遺伝学と数理モデルから,睡眠時間に寄与する神経Ca2+シグナル関連遺伝子が複数同定された。本総説では特に,Ca2+依存的な膜電位過分極と睡眠制御の関連について論考する。

症例報告

家族発症と思われる成人発症神経核内封入体病の姉妹例

著者: 吉本武史 ,   高松和弘 ,   倉重毅志 ,   曽根淳 ,   祖父江元 ,   栗山勝

ページ範囲:P.267 - P.274

症例1(姉)は76歳女性。66歳でパーキンソン症状を発症し,レボドパなどで加療,反応は不良であった。6年後に認知症を合併,11年後に皮膚生検で神経核内封入体病と診断。症例2(妹)は62歳で異常行動を発症し,4年後に認知症を合併,6年後68歳で事故死した。皮膚生検は行えなかった。姉妹とも,発症時より,MRI拡散強調画像で,前頭葉から始まる皮質下の皮髄境界域に高信号を認め,頭頂〜側頭葉へ拡大した。

Neurological CPC

全経過が6年で晩期に自律神経障害を呈した家族性脊髄小脳変性症の63歳男性剖検例

著者: 山崎幹大 ,   福田隆浩 ,   石川欽也 ,   後藤淳 ,   河村満 ,   井口保之 ,   小野賢二郎 ,   織茂智之 ,   鈴木正彦 ,   田久保秀樹 ,   藤ヶ﨑純子 ,   星野晴彦

ページ範囲:P.277 - P.286

症例提示

司会(後藤) 症例1は,歩行時のふらつきにて発症し,構音障害と呼吸不全をきたした,63歳男性の剖検例です。それでは臨床経過からご提示をお願いします。

臨床医(山崎) 歩行時ふらつきで発症され,全経過が6年で,晩期に自律神経障害を呈した家族性脊髄小脳変性症の63歳男性の剖検例です。

学会印象記

TTST 2016 Kobe—13th International Symposium on Thrombolysis Thrombectomy and Acute Stroke Therapy(2016年10月30日〜11月1日,神戸)

著者: 豊田一則

ページ範囲:P.287 - P.289

 脳卒中急性期治療に関する伝統ある国際会議,TTST 2016 Kobe(13th International Symposium on Thrombolysis Thrombectomy and Acute Stroke Therapy)が,2016年10月30日〜11月1日の3日間,神戸市ポートアイランドの神戸国際会議場で開かれた。国内外から多くの参会者を集め,興味深い発表が続いた(Fig. 1)。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.205 - P.205

書評 「症候別 “見逃してはならない疾患”の除外ポイント The診断エラー学」—徳田 安春【編】 フリーアクセス

著者: 平島修

ページ範囲:P.265 - P.265

 今の医学は過去の失敗の積み重ねから成り立っている。

 「自分が下した診断のもと帰宅させた患者が,翌日別の診断で入院した」という経験は,多くの医師が経験したことがあるのではないだろうか。しかも,その経験は何年経っても忘れられない記憶となり,部下の指導で最も強調しているのは,このような失敗が大きく影響しているからであろう。診断エラーがなぜ起きてしまい,どのように対処したらよかったかを共有することができれば,患者の不幸を回避できるだけでなく,難解な疾患の診断への近道となる。

書評 「精神科臨床Q&A forビギナーズ 外来診療の疑問・悩みにお答えします!」—宮内 倫也【著】 フリーアクセス

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.275 - P.275

 著者の略歴を見て驚いた。医学部卒業が2009年だという。ということは,医者歴7年目,精神科医歴は5年目か。「あり得ない」と思った。失礼ながら,「経歴詐称か」と疑いもした。それくらい本書の内容は充実している。

 何しろ,本書は,若手精神科医が,喉から手が出るほど知りたい情報だらけなのだ。Q&Aの項目を2,3見ればすぐにわかる。「慢性化したうつ病患者の促し方」「双極性障害には気分安定薬と抗精神病薬のいずれを使うか」「患者の自動車運転や妊娠・授乳の問題」……。いずれも日常精神科臨床の重要課題だ。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.290 - P.291

 今月の表紙はマリー(Pierre Marie;1853-1940)による論文「肢端巨大症」1)からの写真です。肢端巨大症(acromégalie)は,当時マリー病と呼ばれたように,マリーが1886年に命名した疾患です2,3)。その一番の特徴として手,足そして頭部の非先天性肥大が記載されています。

 この1886年の原著でマリーはサルペトリエール病院の「シャルコー教授外来部門」で自らが経験した2例を報告し,さらに自験例と同じ疾患とみられる過去の報告例5例を紹介しています。つまり,この疾患の記載自体は以前からあったものの,特別な疾患としては認識されていませんでした。それに対しマリーは共通する特徴を持った1つの疾患概念であることに着目し,丹念に調べまとめ上げたということのようです。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 泰羅雅登

ページ範囲:P.294 - P.294

 今回の編集後記は難産である。柴田錬三郎は連載で詰まったときに,もうこれ以上書けないと書いてつないで成功したという(筒井康隆談)。凡人にできるワザではではないので,どうにかしようと思いついたのが,われらの年代の飲み会での外せないネタ,病気(薬),介護,お墓。そのうち,病気ネタを使ってなんとかしのぎたい。医療関係者が病気になって初めていろいろわかるという話であるが,書いてみて,なんら新味がないのでお許しを。自分,本当に稀にしか医者にかからないので,医療関係者が患者になったとき,いかに医療関係者であることから脱却できるか,ただの患者になれるかどうかは大事なことであると思った次第。

 正月明けから病院通いが続いている。お茶の水にある大学病院を3軒はしご。90年代初め,米国留学中にメイヨークリニックを見学したことがあり,病院というよりホテルの感じがして,へーと思った。今はご存知のように日本の病院も同様になった。中でも一番新しいN大学病院は案内の女性からして雰囲気が病院ではない。一番古いのがわが病院で味が出てきた(ことにする)。それぞれの病院の繁盛(?)具合は,患者の数はもちろんだけど,再診受付機と支払い機の数に表れているのではないか。窓口でのいろいろな対応はどこも親切である。ただし,ご本人たちは同じことを365日繰り返し,よくわかっているから仕方のないことと思うが,早口で指示されると聞き取れず,理解できず,特に初めてのときは戸惑ってしまう。これは自分でも,若い研究者相手によくやる失敗である。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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