icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩69巻5号

2017年05月発行

雑誌目次

特集 Voxel-Based Morphometry—体積からわかること

フリーアクセス

ページ範囲:P.503 - P.503

特集の意図

Voxel-based morphometryは比較的容易に,わかりやすい結果をもたらす脳画像解析法であり,基礎研究から臨床研究まで幅広く行われている。今後のさらなる発展を見据えて,現在までの知見を整理した。

Voxel-Based Morphometryの原理

著者: 根本清貴

ページ範囲:P.505 - P.511

VBM(voxel-based morphometry)は局所の脳領域の萎縮を検出する手法である。VBMでは脳を灰白質や白質などに分割化し,それぞれに対して解剖学的標準化および平滑化する。その後,一般線形モデルを利用した統計解析を行う。VBMはアルゴリズムによって分割化の結果が異なるため,VBMを行う際には,どのアルゴリズムを用いたかを認識することが重要である。

統合失調症におけるVBM研究

著者: 根本清貴

ページ範囲:P.513 - P.518

脳画像研究により,統合失調症の脳構造に対する理解は飛躍的に増大した。Voxel-based morphometryは統合失調症研究にも応用され,さまざまな知見が蓄積している。統合失調症では,前頭葉,側頭葉,辺縁系における容積低下,そして辺縁系における容積増加が認められる。これらは発症初期から認められ,病状の進行に伴い萎縮の範囲が広がっていく。これらの知見をどう臨床に還元するかが今後の課題である。

VBMからみたうつ病・双極性障害の脳メカニズム

著者: 松尾幸治

ページ範囲:P.519 - P.527

うつ病・双極性障害は,病的な気分変調をきたす疾患である。この両疾患は,前部帯状皮質,背外側前頭前皮質,島領域,扁桃体といった情動を調整する部位の灰白質体積が小さいことが明らかになってきた。また,発症,症状といった臨床的背景や遺伝素因はこれらの部位が小さいことと関連していた。以上から,これらの脳部位を結ぶ神経ネットワークがうつ病・双極性障害の病態に関与していると考えられるようになってきている。

自閉スペクトラム症のVoxel-Based Morphometry

著者: 山末英典

ページ範囲:P.529 - P.538

自閉スペクトラム症では,社会的コミュニケーションの障害や常同的反復的行動様式などの中核症状が,精神機能の非定型発達として2〜3歳から現れる。背景には脳の非定型発達があると考えられている。先行研究は極めて多く,自閉スペクトラム症当事者と定型発達者をvoxel-based morphometryで比較した研究は,メタ解析だけで10編ほどになる。本論では先行研究における一貫性の乏しさについて考察を加えた。

健常小児の脳の形態的発達

著者: 松平泉 ,   川島隆太 ,   瀧靖之

ページ範囲:P.539 - P.545

学童期から青年期は脳の成熟期である。この時期の健常小児における脳の発達メカニズムの解明は,神経発達障害による成熟異常の発見や,精神疾患のリスク予見・早期予防に貢献する。個人差の大きい小児の脳画像の解析において,VBM(voxel-based morphometry)は有効である。本論では,健常小児の脳の形態的発達と年齢・生活習慣・養育・遺伝子多型との関係について,VBMによる知見を紹介する。

VBMと認知機能

著者: 竹内光 ,   川島隆太

ページ範囲:P.547 - P.556

VBM(voxel-based morphometry)は認知機能と脳の各領域の局所灰白質量・白質量の関連を調べるために使われてきた。本論ではそうした研究の方法論とその注意事項,結果,この分野の知見にまつわる問題点について紹介した。われわれの健常若年成人の大規模サンプルとロバストな統計方法を用いた知見において多くのケースで認知機能と局所容積は広く弱く相関していた。こうしたパターンはVBMで認知機能と関わる特異的な神経基盤を探し出す際の困難さを示していると考えられる。

総説

味と匂いを測るセンサ

著者: 都甲潔

ページ範囲:P.557 - P.563

味覚と嗅覚は,哺乳類では口腔の舌などにある味蕾の味細胞と鼻の嗅細胞の生体膜で化学物質をそれぞれ受容して生じる感覚である。本論では,生体系を模倣した人工膜を利用した味覚センサと匂いセンサについて紹介する。味覚センサは既に実用化され全世界で使われており,単一の化学物質を高感度に検知する超高感度匂いセンサも実用化されている。これらのセンサは,従来の分析機器に代わり,新しい分析手段を提供するものである。

ALS皮質運動神経興奮性と神経細胞死—Dying Forward仮説

著者: 澁谷和幹

ページ範囲:P.565 - P.569

シャルコーは19世紀後半に,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態進展を上位運動ニューロン障害から始まり下位運動ニューロンへと拡がると推測した。それから約150年の歳月が流れたが,いまだこの疑問に対する答えは出ていない。一方,ALS運動神経細胞死の原因の1つとして,神経興奮毒性が近年注目されている。この総説では,ALSにおいて報告されている皮質運動神経興奮性と運動神経細胞死の関係について概説し,ALSの病態進展について考察する。

原著

血漿プロトロンビンフラグメント1+2濃度測定によるワルファリンや非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬療法中の抗凝固作用の評価に関する検討

著者: 友田昌徳 ,   矢坂正弘 ,   中西泰之 ,   髙口剛 ,   中村麻子 ,   後藤聖司 ,   桑城貴弘 ,   岡田靖

ページ範囲:P.571 - P.576

プロトロンビンフラグメント1+2(PF1+2)は鋭敏な凝固系分子マーカーである。ワルファリンや非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)療法例で血漿中のPF1+2値を測定し,それぞれの抗凝固作用を評価した。脳梗塞の二次予防を目的に経口抗凝固療法を受けている28例(77±6歳,男性比61%)を対象に,血漿中のPF1+2値を測定した。ワルファリン療法群では血漿プロトロンビン時間(PT-INR)を同時に測定した。その結果,ワルファリン療法群ではPT-INR中央値は1.96[四分位範囲(IQR)1.8〜2.1],PF1+2中央値は111(IQR 95〜141)であった。そのPF1+2値は5例12回(17%)で正常下限未満を呈し,そのうち3例8回はPT-INR 2.5未満で観察され,1例で脳出血を発症した。ワルファリン療法群でPF1+2の正常上限を上回る症例は観察されなかった。NOAC療法群ではPF1+2の中央値は116(IQR 99〜147)であり,いずれのNOACでもPF1+2の正常下限を下回る症例は観察されなかった。NOAC療法群でPF1+2の正常上限を上回る症例は3例3回(1.9%)で観察された。ワルファリン療法群では,17%でトロンビンを過剰に抑制していた。一方で,NOAC療法群ではトロンビンの過剰な抑制はみられなかった。

ポートレイト

井形昭弘—日本の医療と社会を変えた人

著者: 納光弘

ページ範囲:P.577 - P.581

はじめに

 井形昭弘(いがた・あきひろ;1928-2016,写真1)先生は,医学の世界で国際的に活躍されたのみならず,わが国の医療改革に尽力し,鹿児島大学ならびに名古屋学芸大学学長として大学改革の旗手としても活躍,さらに,SMONや水俣病などの社会的問題にも献身的に取り組み,日本の医療と社会を変えた方です。一方,井形先生を知る方々が異口同音に語る井形先生のすばらしさはそのお人柄です。出会った人すべてを魅了するそのお人柄の原点はどこにあるのでしょうか。その問いを解く鍵は次節で述べる先生のお父様・厚臣様のお人柄にあると思えてなりません。井形先生が創設した鹿児島大学第三内科で井形先生から直接指導を受け,その後今日まで先生を人生の師として仰いできた者として,このたびの先生の御急逝を機に先生の足跡をたどってみたいと思います。

--------------------

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.581 - P.581

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.582 - P.583

 写真は,2例の患者の足を示しています。今回は詳しい背景の前に,まず所見を提示したいと思います。

あとがき/読者アンケート用紙 フリーアクセス

著者: 森啓

ページ範囲:P.586 - P.586

「競争社会と共存社会」

 トランプ米国大統領が就任して世界が大きく変わりつつあるのかもしれない。地球温暖化という科学的事実もどのように扱われるのか重要閣僚ポストの人事を通して世界がみつめているようである。同大統領は実業家出身らしく米国民の雇用促進やビジネス活性化には定評があるようで世界市場での株価の反応も良好である。某内閣総理大臣が蕪大根を両手に持って,上がれ上がれと踊っても簡単には市場は反応しなかったことを考えると,客観的にみて,新大統領は目を見張るパワーがあるといえよう。ビジネスで成功と破綻を繰り返し経験してきた経歴からは,得がたい自信と確信を持っているかのごとく迷いはなさそうであり,今後の政策に反映されていくように思われる。すべての発想と政策をビジネス的に推進していく様子から,計算のできない大変な競争社会になりはしないかと自分に自信のない編集子は杞憂している。短期的な予測と収支では,それなりの成果が得られるかもしれないが,長期的な視点からの検討も深められることを願っている。

 その昔,米国でディズニーワールドやディズニーランドに行ったことがある。まだ,日本で東京ディズニーリゾートやUSJが開園されていない時代のことである。各アトラクションには長蛇の列をつくることは少ない時代であったにもかかわらず既に障害者用に独立した入り口があり,すべての動線に段差もなくスロープ仕様となっていた。明らかに少数派である障害者への行き届いた配慮に触れたとき,われわれ日本は米国に勝てないと打ちのめされた感覚に襲われた。単純な競争社会にはあり得ない共存社会がみごとに実現されていたからである。人の一生の始めと終わりは,家族や社会の支えがないと生きていけない。成人して定年までのいわゆる現役世代であっても,労働できない人をも仲間として受け入れる社会,それが動物と違った人社会であるはずである。ここで福祉至上主義を議論しているのではないが,福祉はサービスを受ける人のためだけではなく,健常者を含む社会のために必要なしくみである。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら