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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩69巻8号

2017年08月発行

雑誌目次

特集 遺伝性脊髄小脳失調症の病態と治療展望

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ページ範囲:P.877 - P.877

特集の意図

遺伝性脊髄小脳失調症は根本的治療法がいまだ確立されていない神経変性疾患だが,近年の遺伝子解析技術の進歩などにより病態解明が進んでおり,治療法の開発に関する臨床研究も多く実施されてきている。本特集では近年のトピックを取り上げ,分子病態解明の現状と治療展望を整理する。

本邦における遺伝性脊髄小脳変性症の全体像

著者: 他田正義 ,   横関明男 ,   小野寺理

ページ範囲:P.879 - P.890

遺伝性脊髄小脳変性症(SCD)は緩徐進行性の運動失調を主症状とする遺伝性神経変性疾患の総称である。優性遺伝性,劣性遺伝性,X染色体連鎖性に大別される。錐体路徴候,錐体外路徴候,末梢神経障害など小脳症候以外の多彩な神経症候を伴うものが多い。本邦では,マシャド・ジョセフ病,脊髄小脳失調症6型(SCA6),SCA31の頻度が高い。診断は遺伝子検査により確定される。遺伝性SCDに対する有効な病態抑止療法はいまだ確立されていない。

常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症の最近の話題

著者: 池田佳生

ページ範囲:P.891 - P.900

マイクロサテライト・リピート伸長を原因とする常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症のうち,非翻訳リピート伸長病においては,RNA gain-of-functionに加えてRAN translationと呼ばれる新たな分子機構が明らかにされているが,これまで蛋白レベルの病態が主と考えられてきたポリグルタミン病においてもRNAレベルの病態やRAN translationの関与が明らかにされており,翻訳領域・非翻訳領域いずれのリピート伸長病においても共通する分子機構の存在が示唆されている。

ポリグルタミン病の病態機序

著者: 髙橋祐二

ページ範囲:P.901 - P.912

ポリグルタミン病は機能獲得型変異を呈する。伸長ポリグルタミン鎖を有する蛋白質の立体構造が変化して凝集体形成をきたす。モノマーやオリゴマーの中間生成物が毒性が高いと考えられている。病態機序として,蛋白質品質管理の障害,遺伝子転写異常,カルシウムホメオスタシスの乱れ,細胞骨格/軸索輸送障害,ミトコンドリア機能障害,RNA代謝異常などが提唱されている。このような病態機序に基づいた治療研究が積極的に推進されている。

薬物療法の現状と最近の試み—フリードライヒ運動失調症とマシャド・ジョセフ病を中心に

著者: 矢部一郎 ,   佐々木秀直

ページ範囲:P.913 - P.924

脊髄小脳変性症の根本的治療法は見出されておらず,小脳性運動失調に対する対症療法として,酒石酸プロチレリンとタルチレリン水和物が保険適用として認可されているのみである。近年病態解明が進み,その成果を踏まえて複数の臨床試験が実施されている。その有効性を評価するためのバイオマーカーの開発も進んでいる。本論では,フリードライヒ運動失調症およびマシャド・ジョセフ病に対する最近の薬物療法の試みについて紹介する。

HMGB1補充による脊髄小脳失調症1型に対する分子標的治療

著者: 藤田慶大 ,   岡澤均

ページ範囲:P.925 - P.932

脊髄小脳失調症1型(SCA1)は依然として根本的治療の存在しない神経変性疾患の1つである。私たちは網羅的プロテオーム解析からSCA1病態において小脳神経細胞核内でHMGB1が減少していることを発見した。DNA構造蛋白質であるHMGB1の核内減少は,DNA損傷修復と転写という2つの主要な核機能の低下,また神経変性につながるものと考えられる。私たちはアデノ随伴ウイルスベクターを用いたHMGB1による遺伝子治療を開発し,モデルマウスにおけるproof of concept(POC)を得て,ヒト臨床試験の準備を開始している。

総説

グルテン失調症—新たなバイオマーカーとしての抗トランスグルタミナーゼ6抗体

著者: 佐藤健治 ,   南里和紀

ページ範囲:P.933 - P.940

グルテン関連疾患(GRD)はグルテン摂取という共通のトリガーを持つ多様な臨床症状を呈する疾患である。近年,セリアック病やグルテン失調症などのGRDの報告が本邦でも散見するようになり,その存在が認識されつつある。グルテン失調症は抗グリアジン抗体陽性の特発性孤発性運動失調症と定義され,最近,その診断における抗トランスグルタミナーゼ6(TG6)抗体の有用性が報告された。本総説では,グルテン失調症を概説し,自験例の抗TG6抗体陽性グルテン失調症を提示した。

低次視覚皮質における方位と色の連合学習

著者: 天野薫 ,   柴田和久 ,   川人光男 ,   佐々木由香 ,   渡邊武郎

ページ範囲:P.941 - P.947

白黒の縦縞をみながら,赤色に対応した低次視覚野の脳活動パターンを誘起する連合デコーディッドfMRIニューロフィードバック訓練の結果,縦縞に対する脳活動と赤色に対する脳活動の間に対応づけ(連合)が生じ,白黒の縦縞が長期間にわたって赤くみえるようになった。この結果は従来脳の高次領域において生じると考えられてきた連合学習が,視覚処理の入り口にあたる低次視覚野においても生じることを示唆している。

ポートレイト

黒岩義五郎

著者: 黒岩義之

ページ範囲:P.949 - P.956

Ⅰ.経歴

 私の父,黒岩義五郎(くろいわ・よしごろう;1922-1988)(Fig. 1)は1922年6月23日に浅間山の麓,群馬県の吾妻郡嬬恋村にて黒岩博五郎の長男として出生した。黒岩義五郎は,1939年3月に東京府立第五中学校(現・東京都立小石川中等教育学校)を4年で修了,現役で第一高等学校に入学した。1942年3月に第一高等学校の理科乙類を卒業し,東京帝国大学医学部医学科に1942年4月に入学,1945年9月に卒業した。

 卒業後は,直ちに1945年10月に坂口康蔵(さかぐち・こうぞう;1885-1961)教授が主宰する東京帝国大学医学部第三内科に副手として入局,翌年,坂口教授の後任となられた冲中重雄(おきなか・しげお;1902-1992)教授の弟子となった。1948年10月に東京大学大学院に特別研究生として入学,神経学の道を選んだ。1952年10月19日に東京大学医学博士号を取得した。その学位論文は「視床下部と末梢自律神經系との連絡經路に關する硏究」というタイトルであった(Fig. 2)。冲中重雄先生は呉 建(くれ・けん;1883-1940)先生とともに自律神経系の研究を畢生の仕事とされてきた方であるので,この学位論文の主題は冲中先生の影響が色濃い。

症例報告

両側顔面神経麻痺と嚥下障害を呈したエンテロウイルスD68脳脊髄炎の成人例

著者: 草部雄太 ,   竹島明 ,   清野あずさ ,   西田茉那 ,   髙橋真実 ,   山田翔太 ,   新保淳輔 ,   佐藤晶 ,   岡本浩一郎 ,   五十嵐修一

ページ範囲:P.957 - P.961

呼吸器感染症の原因ウイルスの1つであるエンテロウイルスD68型による,稀な成人の脳脊髄炎の1例を報告する。患者は33歳男性。発熱,咽頭痛,頭痛で,5日後に両側顔面神経麻痺,嚥下障害,頸部・傍脊柱筋の筋力低下を呈した。頭部MRIのT2強調画像にて脳幹(橋)背側と上位頸髄腹側に高信号病変を有する特徴的な画像所見を認めた。血清PCRにより当時流行していたエンテロウイルスD68型が検出された。両側末梢性顔面神経麻痺を急性にきたす疾患の鑑別としてエンテロウイルスD68型脳脊髄炎も考慮すべきである。

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書評 「Dynamic diagnosisに必要な脊椎脊髄の神経症候学」—福武 敏夫,德橋 泰明,坂本 博昭【編】 フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.962 - P.962

 神経疾患の診療・研究は分子生物学,画像診断の飛躍的発展を受けて,病態が次々に明らかにされ,その病態に基づく分子標的治療の時代に入っている。しかし,一線の神経疾患診療において最も重要なのは病歴に基づいて適切な診断と治療に向かうオリエンテーションであり,これは普遍的で今後も確固として変わらない。同時に臨床医は,古典的王道である診断学と近年に発展した新技術を有機的に結び付け,最も効率的な診療を行うことが求められている。

 本書は,10年以上前の2005年に出版された「脊椎脊髄ジャーナル」の特集号で,発刊以来売れ続けていた原版を,新たに改版したものである。「Dynamic diagnosis」とは,臨床的技術(病歴聴取・神経学的診察)と発展を続けている機械的技術をダイナミックに結び付けた新時代の診断学と定義されている。そして,その「Dynamic diagnosis」に必要な新時代の神経症候学が提唱されている。このコンセプトは,もともとの特集号でも見事にまとめられていた。今回,バージョンアップされた本書が出版されたことは,時を得た企画といえる。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.964 - P.965

 今月の表紙はRossi1)による「小脳皮質性実質性原発性萎縮(atrophie primitive parenchymateuse du cervelet a localisation corticale)」という論文からのものです。この論文は,クルーゾン症候群(craniofacial dysostosis)の発見者として有名なクルーゾン(Octave Crouzon;1874-1938)の学位論文の引用から始まります。著者とクルーゾンはともにマリー(Pierre Marie;1853-1940)の弟子です。

 「脊髄連合性硬化症」と題された学位論文の中で,クルーゾンは従来の病型に一致しない特殊な臨床所見—高齢発症の緩徐進行性で,協調運動障害や小脳性歩行を伴う痙縮性対麻痺を示す一群を指摘し,それらを次の3つの臨床病型に分類しているとあります。①麻痺・痙縮型:膝蓋腱反射の亢進,バビンスキー徴候を伴った緩徐進行性の非常に軽い対麻痺を特徴とする。②運動失調・痙縮型:脊髄癆と痙縮性麻痺の徴候をいくつか併せ持つ。③運動失調・小脳・痙縮型:運動失調,小脳症状を合併した下肢の痙縮を特徴とする。

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.969 - P.969

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.970 - P.970

 もう30年近く前になります。私が東京都立神経病院神経内科に奉職していたとき,週に1回の院内症例検討会に,あまりみたことのない症候を示す(詳細はすっかり忘れました)遺伝性の脊髄小脳失調症患者が提示されたことがありました。原因遺伝子などはもちろん何もわかっていない時代のこと,症候学と画像所見が数少ない鑑別診断の手がかりです。Marie病という言葉は当時も既に死語になっていたように記憶していますが,Menzel型,Holmes型,Boller-Segarra型,はたまた当時ホットな話題になっていたJoseph病といった言葉が参加者の間で飛び交っていました。

 症例検討会が閉じられるにあたって,当時病院長を務めておられた椿 忠雄先生に「この患者はどのように分類されるか」という質問が投げかけられました。当時駆け出しだった私には,椿先生は経験豊かな神経学の神様みたいな存在で,「この症候から考えて,こういうグループに属するのではないかと私は考える」というような締めの言葉を待ち構えていたのですが,意外にも椿先生の回答は,「そんなことをやってどういう意味があるんですか」というものでした。真っ向勝負の直球が来るかと待っていたところへ,ど真ん中のスローカーブで三振を食らったような気分になったのを思い出します。

読者アンケート用紙

ページ範囲:P. - P.

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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