文献詳細
学会印象記
ESOC 2018—4th European Stroke Organisation Conference(2018年5月16〜18日,ヨーテボリ)
著者: 内山真一郎12
所属機関: 1国際医療福祉大学 2山王病院・山王メディカルセンター脳血管センター
ページ範囲:P.1123 - P.1125
文献概要
学会は初日から多くの重要な大規模臨床試験の成績が発表され,その多くが『NEJM(New England Journal of Medicine)』誌に同時掲載されました。私はこのうちの2つの臨床試験の共同研究者(国内代表者)であり,共同演者と共著者でもあったので多忙な1日を過ごすこととなりました。1つは発症後7日以内の一過性脳虚血発作(transient ischemic attacks:TIA)と軽症脳梗塞を対象とした国際共同研究による前向き観察コホート研究であるTIAregistry.orgの5年追跡調査の結果です。本研究の1年追跡調査の結果は2016年の本学会で発表され,そのときも同時に『NEJM』に掲載されました。この報告ではガイドラインを遵守した脳卒中専門医による急性期TIAの診療が1年間の脳卒中再発率を10年前に比べて半減させることを示すことができました。しかしながら,今回の研究により1〜5年後までの脳卒中の累積発症曲線はその後減衰することなく直線的に推移していたことから,脳卒中の残余リスクにはより厳格かつ強力な対策が必要であると考えられました。TIAの危険因子,画像,病型には人種差がありますが,アジア人のサブ解析の結果は『Stroke』誌に発表しており,日本人のサブ解析の結果については現在投稿準備中です。もう1つは,潜因性脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)に対する直接的経口抗凝固薬(direct oral anticoaglants:DOAC)のリバーロキサバンとアスピリンの有効性と安全性を比較する介入試験(NAVIGATE ESUS)です。既に本試験は中間解析の結果に基づき昨年10月に症例の追跡調査が中止されていました。リバーロキサバンはアスピリンを上回る脳卒中再発予防効果が示されず,出血合併症がアスピリンより多く発症してしまったことからリバーロキサバンの有用性を示すことができませんでした。日本からも国別で最も多くの症例を登録していただいたのに残念な結果でした。本試験結果は,ESUSの病態は多様であり,画一的な治療ではなく病態に応じた再発予防対策が必要であることを示唆しています。そのような観点から本研究班のPublication Committeeでは今後多くのサブ解析を予定しています。本学会でも早速卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)のサブ解析結果が3日目に発表され,PFO合併例ではアスピリンを上回るリバーロキサバンの有用性が示唆されました。私は日本人に多いbranch atheromatous disease(分枝粥腫病)のサブ解析結果を10月17〜20日にモントリオールで開催される世界脳卒中学会(11th World Stroke Congress:WSC 2018)で口演発表する予定です。なお,ESUS患者においてもう1つのDOACであるダビガトランとアスピリンを比較するRE-SPECT ESUSの結果もWSC 2018で発表予定です。
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