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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩70巻11号

2018年11月発行

雑誌目次

増大特集 脳科学で解き明かす精神神経症候

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ページ範囲:P.1136 - P.1137

特集の意図

精神症候,神経症候の中には,古くは「悪魔憑き」とされたものも少なくなかったが,医学の進歩によってそれらが疾患であることが明らかにされていった。本特集では,そのような歴史的経緯も踏まえつつ,さまざまな研究の発展とともに解き明かされてきた精神神経症候の最新知見を解説する。

認知症における妄想

著者: 長濱康弘

ページ範囲:P.1139 - P.1145

妄想は認知症の行動・心理症状の中でも代表的な症状である。頻度が高いのは被害妄想群で,物盗られ妄想,嫉妬妄想,見捨てられ妄想などがある。被害妄想を生じる患者では,社会的信念の形成過程に障害があり,注意バイアス,帰属バイアス,結論への飛躍バイアス,心の理論の障害などが影響すると考えられる。認知症にみられる被害妄想の神経解剖学的基盤として,内側前頭前皮質など社会的認知に関わる神経回路(社会脳)の障害が示唆されている。

音楽性幻聴

著者: 二村明徳 ,   河村満 ,   小野賢二郎

ページ範囲:P.1147 - P.1156

音楽性幻聴(musical hallucination)は音がしていないにもかかわらず,音楽が聞こえる,特異な症候である。音楽性幻聴は高齢者に多く,背景には,難聴や精神疾患,局所性脳病変・びまん性脳萎縮,てんかん,薬剤・中毒などが報告されている。中でも難聴は頻度の高い合併症であることから,聴覚性シャルル・ボネ症候群とも呼ばれ,感覚遮断における音楽性ネットワークの過活動と考えられている。いまだ確立された治療法はないが,抗てんかん薬,認知症改善薬,抗精神病薬などで改善の報告がある。近年,視床皮質リズム異常や顕著性ネットワークが音楽性幻聴に関わることが明らかになってきた。また,近年,認知症患者の行動理解や精神ケアへ関心が高まっている。認知機能低下によるシャルル・ボネ症候群が生み出す幻覚は,患者の豊かな精神世界の理解につながるかもしれない。

感覚間相互作用の障害—パーキンソン病の新しい認知機能障害

著者: 本間元康

ページ範囲:P.1157 - P.1163

対象の認知に関連する感覚は多くの場合単一ではなく複数にまたがっており,さらに感覚間で相互作用が起きている。一方で,パーキンソン病は嗅覚の障害を含めさまざまな認知機能障害を引き起こすことが示されているが,近年の研究において,パーキンソン病は視覚と嗅覚の感覚間相互作用にも障害をきたすことが報告された。本論では,感覚間相互作用の処理モデルとパーキンソン病の病態機序を踏まえながら,感覚間相互作用の障害を考察する。さらにその障害が病気の前兆指標として使用できる可能性を議論する。

分離脳患者の時間知覚

著者: 四本裕子

ページ範囲:P.1165 - P.1172

ヒトは,日々の生活のあらゆる場面で,意識的または無意識的に時間情報を処理している。時間情報は,さまざまな感覚モダリティからの入力をもとに知覚されるため,その脳内情報処理には,さまざまな脳領域が関与している。本論では,脳梁欠損症の完全欠損である患者を対象とした,視覚刺激の時間長の知覚や,妨害する干渉刺激の抑制に関する,脳梁の役割を検証した研究について紹介する。

異食症

著者: 船山道隆

ページ範囲:P.1173 - P.1180

異食症は介護者へ多大な負担をかける厄介な症状であり,場合によっては中毒など救急医療を必要とすることもある。われわれは後天性の脳損傷にて異食症を呈した患者からこの問題に取り組んだ。異食症の出現は前頭葉解放現象や食行動の変化よりも意味記憶障害との関連が深く,損傷部位は広範ではあるものの常に中側頭回の後方に病巣を認めた。これらの結果は,異食症は側頭葉損傷による意味記憶障害と関連することを示唆した。また,われわれが観察してきた神経変性疾患における異食症はアルツハイマー病と意味性認知症に多く,多くの症例で意味記憶障害を呈したため,後天性脳損傷と同様の機序が当てはまる可能性が考えられた。異食症の対象の多くは食べやすい/飲み込みやすい日常物品であった。異食症の患者に対しては,これらの物品は避けたほうがよいだろう。

器質性脳疾患における妄想性誤認症候群の機序

著者: 川合圭成

ページ範囲:P.1181 - P.1191

妄想性誤認症候群は人物・場所などの知覚対象を妄想的に誤認する病態の総称で,カプグラ症候群,フレゴリ症候群に加えて,重複記憶錯誤なども含めて議論されることが多く,レヴィ小体型認知症において頻度が高い。病変ネットワークマッピング研究で左脳梁膨大後皮質と右腹側前頭皮質/前島皮質領域の関与が指摘されている。発症モデルとして相貌失認の鏡像モデルが認知されてきたが,新たに自伝的記憶の想起障害説が提唱されている。

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の脳科学研究

著者: 渡辺恭良

ページ範囲:P.1193 - P.1201

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,原因不明の激しい疲労・倦怠感とともに,労作後に増悪する極度の倦怠感,微熱,疼痛,脱力,認知機能障害,睡眠障害などの多彩な症状が長期にわたり継続し,日常生活や社会生活に支障をきたす疾患である。私たちは,この疾患に対し,血液因子や機能検査による客観的な疾患バイオマーカーを探索するとともに,PETやMRI,MEGなどを用いたイメージング研究により,ME/CFSの脳科学を推進してきた。

作話とエピソード記憶における「時間」と「自己」

著者: 岩田沙恵子 ,   月浦崇

ページ範囲:P.1203 - P.1208

作話とは,実際にはなかったことをあったかのように話す症候であり,前脳基底部損傷による健忘例でしばしば観察される。エピソード記憶における「時間」と「自己」の処理には,前脳基底部,内側前頭前皮質,海馬の間のネットワークが重要であり,そのうち前脳基底部は自己を時間軸の中で適切に定位するインターフェースの役割を担っている。前脳基底部性健忘における作話は,前脳基底部のこのような機能の低下を反映している可能性がある。

fMRIニューロフィードバックの精神疾患への応用

著者: 戸瀨景茉 ,   吉原雄二郎 ,   高橋英彦

ページ範囲:P.1209 - P.1216

fMRIニューロフィードバックは,撮像方法,ハードウェアや処理アルゴリズムの発展とともに,リアルタイムに高い空間分解能で,フィードバックを行うことが可能となっている。統合失調症,うつ病,注意欠如・多動症,強迫症などの精神疾患に対して,いくつかの研究が本邦・海外で報告されている。今後のfMRIニューロフィードバックの発展が精神疾患の治療につながることが期待される。

鏡像動作

著者: 市川博雄

ページ範囲:P.1217 - P.1224

鏡像動作は一側肢の随意動作に伴い,反対側肢の対称部位に鏡像的に生ずる不随意な動作である。健常幼児の運動発達の一時期にも鏡像動作は認められるが,それ以降にも同現象が持続する場合が異常と考えられる。病的な鏡像動作には遺伝性,先天性,後天性があり,さまざまな基礎疾患に伴うものもある。鏡像動作の責任病巣としては補足運動野,脳梁,頸髄周辺などの報告があり,発現機序としては皮質脊髄路の異常支配,大脳における運動制御機構の異常などが想定される。

アスペルガー症候群の臨床と脳画像研究

著者: 太田晴久 ,   丹治和世 ,   橋本龍一郎 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.1225 - P.1236

2008年に昭和大学附属烏山病院に開設した成人発達障害専門の外来とデイケアでの10年間の臨床経験は,自閉スペクトラム症(ASD)の本質的な認知機能の偏りは何かという課題に多くの示唆をもたらした。この臨床集積を資源とする研究も,2014年に設置された昭和大学発達障害医療研究所で,デイケアでの支援のシステムづくりという臨床研究のほかに,主に脳機能画像による数々の研究成果を生み出しつつある。本論では,特にアスペルガー症候群を取り上げて,①専門外来とデイケアの臨床でみえてきたものを紹介した。続いて,②アスペルガー症候群の疾患概念とその本質的な脳機能障害は何かを神経心理学の観点から考察し,③筆者らの脳機能画像による研究を紹介したうえで,④アスペルガー症候群の臨床像からASDの病態に迫る意義は何かについて概説した。

トゥレット症候群

著者: 濱本優 ,   金生由紀子

ページ範囲:P.1237 - P.1245

トゥレット症候群は,神経発達症群に含まれる。かつては心因性と考えられたが,その後,神経学的な基盤を有して,遺伝的要因に加えて環境因も複合的に関与することがわかってきた。具体的には,ドパミンをはじめとする神経伝達物質の関与,皮質-線条体-視床-皮質回路の異常などが示唆されている。薬物療法に加えて脳深部刺激療法など,トゥレット症候群の本態を明らかにしつつその改善を目指す治療が進められている。

心的外傷後ストレス障害の精神的・器質的要因をめぐる議論

著者: 重村淳 ,   谷川武 ,   小林佑衣 ,   黒澤美枝 ,   野田愛 ,   吉野相英

ページ範囲:P.1247 - P.1254

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,生死に関わるなど強烈なストレス曝露の後に生じる精神障害である。PTSDで生じる変化が,精神的な変化なのか器質的な変化なのかは長年の課題となっていた。脳画像・生物学的研究の進歩に伴い,PTSDにおける生物学的背景が解明されつつある。一方で,心的文脈が症状形成に重要だとも報告され,道徳的負傷(moral injury)概念の提唱など,精神的・器質的要因の関連にはさらなる研究が求められる。

ナルコレプシーの病因と治療薬の開発

著者: 入鹿山-友部容子 ,   柳沢正史

ページ範囲:P.1255 - P.1263

ナルコレプシーは,日中の強い眠気やカタプレキシーなどを主症状とする睡眠障害で,根本的な治療法はいまだみつかっていない。筆者らの所属する機構で創出されたオレキシン2型受容体作動薬YNT-185は,カタプレキシーを抑制する効果があるだけでなく,覚醒時間の延長を促し,ナルコレプシー治療薬としてのオレキシン2型作動薬の有効性が示された。さらに過剰な眠気を伴う他の睡眠障害を改善する創薬にもつながることが期待される。

ADHDの生物学的基盤

著者: 林若穂 ,   岩波明

ページ範囲:P.1265 - P.1277

注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)は,不注意,多動性,衝動性を特徴とする神経発達障害である。近年の脳画像や神経化学,遺伝子研究により,前頭葉を中心とする大脳皮質や大脳基底核,辺縁系の容積および機能低下,ドパミントランスポーターを中心とするカテコールアミン系神経伝達機能異常などが明らかになっている。また,発症および危険因子として,複数の遺伝子変異が報告され,環境要因との相互作用も注目されている。

睡眠障害としての「金縛り」体験—反復性孤発性睡眠麻痺

著者: 福田一彦

ページ範囲:P.1279 - P.1287

「金縛り」として知られる現象はナルコレプシーにおける睡眠麻痺と同じものである。その背景となる生理学的プロセスは特殊なレム睡眠である入眠時レム睡眠である。レム睡眠のメカニズムが睡眠麻痺で起きるさまざまな症状の背景となっている。金縛り(睡眠麻痺)は,睡眠覚醒の概日リズムを低下させるようなさまざまな条件によって誘発することができ,健常者において決して稀な現象ではない。古くから世界各地で伝承の中に取り込まれ,特有の名称で知られている。

総説

多発性硬化症におけるB細胞除去治療

著者: 宮﨑雄生 ,   新野正明

ページ範囲:P.1289 - P.1294

近年,抗CD20抗体によるB細胞除去治療が再発寛解型および一次性進行型多発性硬化症に有効であることが海外における大規模臨床試験で示された。B細胞は抗体産生のみならず,T細胞への抗原提示,サイトカイン産生,リンパ濾胞誘導などの働きにより多発性硬化症の多くの局面に関与することが明らかとなってきた。解決すべき点はあるものの,B細胞除去治療は今後の多発性硬化症治療において重要な選択肢の1つになると思われる。

原著

前方循環の塞栓源不明脳塞栓症における非狭窄性頸動脈プラーク

著者: 蛭薙智紀 ,   三輪茂 ,   勝野雅央

ページ範囲:P.1295 - P.1299

塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)において,潜在的な塞栓源となる非狭窄性(狭窄率50%未満)頸動脈プラークの特徴は明らかでない。今回,前方循環のESUS患者連続17例の頸動脈超音波検査を後方視的に調査し,病巣側と対側の頸動脈プラークを比較した。平均プラークサイズは病巣側と対側に差を認めなかったが(2.13mm vs. 1.86mm,P=0.54),非石灰化プラークの平均プラークサイズは病巣側で有意に大きかった(1.15mm vs. 0.23mm,P=0.025)。2.5mm以上の非石灰化プラークは病巣側で17例中5例に認めたが,対側では1例も認めず,ESUSの塞栓源となっている可能性が示唆された。

症例報告

エベロリムス服用中の乳癌患者に発症したクリプトコッカス髄膜炎に対して長期髄液持続ドレナージが奏効した1例

著者: 高瀬香奈 ,   吉田達也 ,   中村大志 ,   関俊輔 ,   佐藤秀光 ,   山本哲哉

ページ範囲:P.1301 - P.1305

症例は再発乳癌に対して分子標的薬のエベロリムスを服用していた72歳女性。頭痛と嘔吐で発症しクリプトコッカス髄膜炎と診断された。連日腰椎穿刺を行ったが髄液圧高値と頭痛が持続したため,髄液持続ドレナージを留置した。抗真菌薬と髄液持続ドレナージにより改善した。これまでにエベロリムス投与中のクリプトコッカス髄膜炎の報告はないが,エベロリムスは免疫抑制作用を有するため,投与中には日和見感染症に注意が必要である。

学会印象記

OHBM 2018—2018 Organization for Human Brain Mapping Annual Meeting(2018年6月17〜21日,シンガポール)

著者: 武井雄一

ページ範囲:P.1307 - P.1309

 私は2018年6月17〜21日に,シンガポールで開催されたOHBM 2018(Organization for Human Brain Mapping Annual Meeting 2018)に参加しました。OHBMは神経イメージングを用いてヒトの脳の解剖学的,機能的メカニズムを理解することを目的とした組織で,神経科学者,言語学者,心理学者,医師などさまざまな分野の研究者が参加しています。近年はMRI(magnetic resonance imaging),EEG(electroencephalography),MEG(magnetoencephalography),NIRS(near-infrared spectroscopy)などの神経構造画像,機能画像によるヒト脳機能の解明,反復的経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS),経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)などの神経刺激によるヒト脳機能の変化などが主なテーマになっています。OHBMは1995年にフランスのパリで最初の会議が開催されてから,年次大会がさまざまな国で開催されています。今年は25カ国以上から非常に多数の参加者がおり,ポスター演題の提出数だけで2,000近くに上りました。私自身がOHBMに参加するのは今回で6回目ですが,参加するたびに参加者が増え,学会規模が大きくなっている印象を受けています。

 シンガポールは,東京都とほぼ同じ面積の小さな国で,1965年にマレーシア連邦から分離した都市国家です。独立して日が浅い国であるにもかかわらず,アジアにおける貿易,交通および金融の中心地の1つであり,非常に活気のある都市です。街を歩くと,華人,マレー系,インド系,ユーラシア人などさまざまな人種が混在しており,シンガポールを活気付けている背景を垣間見ることができます。食事は,中華料理を中心として,タイ,インド,マレーシアの文化が影響を与えながら,独自の発展を遂げていることを実感させられました。日本料理屋も多く,日本食がシンガポールの食文化の一角を占めている印象を受けました。いずれもとてもおいしく食事に不自由することはありませんでした。物価は概して高めで,アルコールは税金が高いためか,特に高価でした。レストランは豊富にありますが,ホーカーズという屋台が寄り集まって1つのフードコートをつくっているところがあり,今回は慶應義塾大学精神科の先生方と交流を兼ねて,Newton Food Centerというホーカーで食事をご一緒させていただきました(写真1)。また,シンガポールのBoat Quayにはスポーツ観戦ができるバーがたくさんあり,学会期間がちょうどロシアで開催されたサッカーのワールドカップと重なっていたこともあり,大変盛り上がっておりました。滞在中の6月19日には日本対コロンビア戦があり,シンガポールの方も日本を応援してくれていました。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1133 - P.1133

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1134 - P.1134

書評 「あなたの患者さん,認知症かもしれません 急性期・一般病院におけるアセスメントからBPSD・せん妄の予防,意思決定・退院支援まで」—小川朝生【著】 フリーアクセス

著者: 桑田美代子

ページ範囲:P.1288 - P.1288

 「桑田さんから紹介された小川先生の本,面白くてもう2回も読んだわ。認知症のことわかっていると思っていたけど,改めて勉強になった! すごく読みやすいのよ」と,当法人の看護部長が意気揚々と語ってくれた。面白かったという点は以下のとおりである。認知症に関する知識の整理につながった。随所に「ポイント」として,重要な点が簡潔にまとめてあるのも理解の助けになった。そして,皆が疑問に思うことに答えるような書き方になっている。急性期・一般病院で日常的に起こっている現象だから,「ある・ある」と自然に頭に入る。小川先生の講義を聞いている印象さえすると語っていた。

 認知症患者は,「大変な患者」の一言で語られてしまう現状もある。スタッフは忙しいから対応しきれない。そして,ケアする側が大変と受け取れば,それは「不穏」「問題」と表現され,その理由に目が向けられない。ケアする側が不安や混乱を増強させていることに気づいていない。だから,根本の原因解決となる対応にはつながらない。本書は,その根本原因の解決につながる知識,現象のみかたが書かれている。認知症をもつ人の生活のしづらさ,苦痛や不安に焦点をあて,認知症の知識に基づき,その原因がひもとかれている。だから,「なるほど,そうなんだ!」と合点がいくのである。みかたが変わると,現象の受け止め方も変わり,ケアする側の気持ちにも余裕が出てくる。

書評 「慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略」—半場道子【著】 フリーアクセス

著者: 高橋和久

ページ範囲:P.1300 - P.1300

 半場道子先生のご講演は何度か拝聴したことがある。痛みに関する脳科学,神経科学についての最新のお話で,大変興味深くお聞きした。しかしながら,あまり馴染みのない脳の解剖用語や限られた講演時間の中で,先生が話されたことを全て理解できたとは言えなかった。一度,先生の知識と考え方をまとまった形でうかがいたいと願っていたところ,書籍執筆のお話をお聞きし,上梓されたらぜひ拝読したいと申し上げた。本書を拝受後,3日ほどで読ませていただいた。

 本書は,慢性痛を侵害受容性,神経障害性,非器質性に分け,そのメカニズムについて脳科学,神経科学の観点から最新の知見を紹介している。近年の脳機能画像や基礎医学的な研究成果を基に,脳を中心とする神経系のダイナミックな機能を解説している。さらに,解明されたメカニズムを基に慢性痛に対する各種の治療法と,その科学的根拠について述べている。それぞれ興味深い内容であるが,中でも「骨格筋は分泌器官であり,筋活動は慢性痛の軽減に有効である。また,筋活動により多くの疾患の原因となる慢性炎症を抑制でき,疾患の予防につながる」という事実は大変興味深く,日常診療でも患者さんの指導に役立てたい知識である。

書評 「神経救急・集中治療ハンドブック 第2版 Critical Care Neurology」—篠原幸人【監修】 永山正雄,濱田潤一,三宅康史【編】 フリーアクセス

著者: 野々木宏

ページ範囲:P.1306 - P.1306

 本書の初版は2006年に出版された。約10年ぶりの待ちに待った,満を持した改訂といえる。

 日本蘇生協議会(JRC)が国際蘇生連絡委員会(ILCOR)に加盟を果たしたのが2006年である。JRCはILCORへ国際コンセンサス(CoSTR)作成者を多数派遣し,2011年に「JRC蘇生ガイドライン2010」を,2016年に「JRC蘇生ガイドライン2015」を出版することができた。「JRC蘇生ガイドライン2010」の画期的なことの1つは,CoSTRでは心肺再開後集中治療で取り上げているのみの「神経蘇生」の章を含むことである。これは本書の初版のメンバーの力によるところが大きいと思われる。さらに「JRC蘇生ガイドライン2015」では脳を含む全神経系を対象とするため「神経蘇生」から「脳神経蘇生」へと章名が改められた。救急蘇生領域の集中治療ケアには,脳卒中のみならず全神経系への取組みが必須であることが,監修者の篠原幸人先生が本書の第1章の冒頭で強調されていることでよく理解できる。

今月の表紙 フリーアクセス

著者: 河村満 ,   岡本保 ,   菊池雷太

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 さまざまな病的歩行の検討は,その診断的価値から常に神経症候学上大きな関心を引いてきた。実際に患者の歩行をみたり,ある症例では歩く音を聞くだけで十分で,とっさに罹患した疾患を認識できる。

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1315 - P.1315

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.1316 - P.1316

 本年9月下旬に日本神経病理学会と国際神経病理学会が東京で合同開催され,インディアナ大学のBernardino Ghetti教授が招待演者の1人として来日された。その機会を利用して私の大学でも講演をしていただいたが,その折に彼のCV(curriculum vitae)をみて驚いたことがある。Ghetti教授はもちろん神経病理学を専門とする神経内科医だが,精神病理学にも造詣が深く,さらに5年にわたってオハイオ州シンシナティの精神分析研究所で精神分析のトレーニングプログラムを受けていたのである。講演していただいた後,食事をしながらそのことについて尋ねると,神経内科医は精神科の知識を持っていなければならないし,精神科医は神経内科のことをもっとよく知らなければならないと話していた。ほぼ同じことを昨年秋に同じく教室で講演していただいたオーストリアのインスブルック医科大学精神科教授で医学部長であるFleischhacker先生からもうかがったことを思い出した。神経内科と精神科に関してお互いの知識を持つ必要があるということは私もまったく同感である。

 神経内科の専門医問題をめぐっては,今年度から始まった日本専門医機構が認定する枠組みの中で,神経内科は基本領域の内科の上に立つサブスペシャリテイとなっている。確かに神経内科医は内科医としての幅広い知識と技術の習得が必要である。しかし,その一方で諸外国ではneurologyは内科の一分野というよりは独立した領域であることが多い。日本神経学会は近い将来に神経内科が内科から独立すること,そして脳神経内科と名称変更することを決議しているが,この問題の成り行きはともかく,神経内科医には内科全般の知識とともに,ぜひ精神科の基本的知識も持っていていただきたい(その逆も真である)。

読者アンケート用紙

ページ範囲:P. - P.

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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