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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩71巻1号

2019年01月発行

雑誌目次

特集 人工知能の医療応用Update

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ページ範囲:P.3 - P.3

特集の意図

人工知能の医療応用については「医者が要らなくなるかもしれない」といったセンセーショナルな取り上げ方がなされるものの,その根拠や信憑性については必ずしも理解されていないのが現状ではないだろうか。人工知能が医療のどの領域に応用できるのか,あるいはできないのか,またどのような課題が残されているのか,2019年を迎え,もう一度人工知能と医療応用を取り巻く現状について知識を整理してみたい。

人工知能・深層学習の医学応用

著者: 三宅淳 ,   大東寛典 ,   新岡宏彦 ,   朴啓彰

ページ範囲:P.5 - P.14

人工知能・深層学習の医学応用に関してまとめた。放射線画像の読影,病理診断,遺伝子解析などで顕著な成果が上がりつつある。医学は人体という複雑系を対象とするが,深層学習は複雑系を高度なレベルで解析することのできる新たな方法である。解析における重要な方法が「カテゴリー化」であって,医師の認識に相当に似通ったカテゴリー分けを行って,疾患や異常を見出すものである。

精神科領域における人工知能技術の応用

著者: 高宮彰紘 ,   田澤雄基 ,   工藤弘毅 ,   岸本泰士郎

ページ範囲:P.15 - P.23

精神科診断は主に患者の訴える症状をもとに行われており,脳画像などの生物学的な検査は診断補助ではなく器質性疾患の除外目的で行われることが多い。近年は主に機械学習といった人工知能技術を脳画像検査に応用し,精神疾患の診断や治療反応に用いるための研究が行われている。人工知能技術は,個別の症例の診断補助となり得るうえ,精神疾患の病態解明に寄与する可能性がある。

がんゲノム医療における人工知能—がんの理解は人知を超えてしまった

著者: 宮野悟

ページ範囲:P.25 - P.32

がんはゲノムの多様な変異が原因となっている生体内で進化する極めて複雑な病気である。東京大学医科学研究所は2015年7月からIBM Watson for Genomicsを導入し血液腫瘍などがんのゲノム医療研究を支援してきた。患者のがんの全ゲノムシークエンス解析に基づき4〜5日で診断結果を返すことができるようになった。

医療応用のための日本語自然言語処理研究

著者: 狩野芳伸

ページ範囲:P.33 - P.44

近年,人工知能関連技術が注目され,その応用が広がっている。医療分野で利用可能な電子データも増加しており,検査結果や診療録に含まれる数値,画像,文書,被験者の様子を録音,録画したものなどが挙げられる。一方で,医療の言語データ分析,特に日本語の研究は事例が相対的に少ない。本論では,書き言葉と話し言葉における自然言語処理の概要を説明したうえで,筆者の関わる研究を中心に,日本語の医療言語情報処理についていくつかの事例を紹介する。

深層学習と自然言語処理

著者: 鶴岡慶雅

ページ範囲:P.45 - P.55

近年,自然言語処理分野は深層学習技術の導入により急速に進展している。構文解析,機械翻訳,文書要約といった様々な自然言語処理タスクが,リカレントネットワークなどの汎用ニューラルネットワークモデルとアテンション機構の比較的簡単な組合せで実現できるようになっている。本稿では,深層学習の基礎とそれに基づく自然言語処理技術の最先端を簡単に紹介する。

総説

特発性基底核石灰化症の病態解明の進歩

著者: 保住功

ページ範囲:P.59 - P.66

特発性基底核石灰化症(IBGC)は原発性に脳内石灰化をきたす疾患である。その原因遺伝子としてSLC20A2,PDGFRB,PDGFB,XPR1,MYORGの5つが報告された。遺伝子変異から推定される病態機序は細胞内外における無機リン酸(Pi)の輸送の障害である。われわれはIBGC患者,特にSLC20A2遺伝子変異を認めるIBGC患者の脳脊髄液(CSF)中のPiが高値であることを報告した。CSFと脳組織間液の流通,また血管周囲腔を介した流路は,IBGCにおけるmineralizationの分布,病態をよく説明し得る。

原著

軽度から中等度のアルツハイマー病患者における健康関連QOLの検討—新しい尺度である5水準版のEQ-5Dを用いて

著者: 田村和子 ,   佐藤卓也 ,   能登真一 ,   今村徹

ページ範囲:P.67 - P.73

EQ-5Dは代表的な健康関連QOLの効用値尺度である。軽度から中等度のアルツハイマー病128症例で,代理人回答による5水準版EQ-5D(EQ-5D-5L)の効用値と対象患者の諸属性との関係を,単相関および重相関分析で検討した。単相関分析では,日常生活機能障害の指標であるCDR-SOB,認知症の行動・心理症状(BPSD)の全般重症度を示すNPI合計得点,教育年数の3項目がEQ-5D-5LによるQOL効用値に中程度に寄与していたが,認知機能検査のスコアの寄与は小さかった。重相関分析では,日常生活機能障害とBPSDがQOL効用値に対して互いに独立した機序で寄与している可能性が示された。

症例報告

進行性の偽性球麻痺を呈し,上位運動ニューロン障害が顕著な筋萎縮性側索硬化症の剖検例

著者: 菊池雷太 ,   石原健司 ,   南雲清美 ,   塩田純一 ,   河村満 ,   吉田眞理

ページ範囲:P.75 - P.80

症例は死亡時62歳の男性。歩行困難・構音障害で発症し,進行性の偽性球麻痺,上位運動ニューロン障害が顕著であったことと,針筋電図で脱神経所見を認めたことより,上位運動ニューロン障害が強い筋萎縮性側索硬化症と臨床診断した。病理所見では,上位運動ニューロンの変性が高度で,下位運動ニューロンの変性が軽微であり,臨床症状とおおむね対応した。認知症と考えられる症状と短い変性神経突起を主徴とするTDP-43陽性構造物の分布との相関を含め,文献的考察を加え報告する。

学会印象記

AAIC 2018—Alzheimer's Association International Conference 2018(2018年7月22〜26日,シカゴ)

著者: 池内健

ページ範囲:P.83 - P.85

 体温を超えるような猛暑が続く日本からシカゴ・オヘア空港に降り立つと,7月というのに少し肌寒い感じがした。涼しいシカゴで2018年7月22〜26日に行われたAAIC 2018の学会印象記をお届けする。会場はミシガン湖の湖畔にある全米屈指の巨大コンベンションセンター「McCormick Place」である(写真1)。アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)に関する世界最大の学会の熱気の一端を感じていただければ幸いである。本学会では,臨床への還元を意識した基礎研究,トランスレーショナル研究,そして新薬の治験を含めた臨床研究についてフォーカスがあてられている。幅広い領域をもれなく網羅するのは筆者(写真2)の能力を超えており,筆者の専門分野であるADのゲノム研究,バイオマーカー研究,新薬開発研究に絞って報告することをお許し願いたい。

 ADのゲノム研究は,次世代シークエンサと解析数の大規模化でめざましい進歩を遂げている。本学会では,ゲノムワイド関連研究(GWAS)や全エクソーム解析データを用いたポリジェニックリスクスコア(polygenic risk score:PRS)に関する発表が目についた。PRSとは,比較的弱い効果の遺伝子多型が数多く集積することにより遺伝的な効果を発揮するという考え方である。Mayo Clinic Jacksonvilleの研究チームは,脳内免疫に関与する遺伝子にフォーカスをあてPRSを全エクソーム配列データで得られたバリアントを基に算出した。その結果,5つの遺伝子(TREM2,ATP8B4,IL17RA,FCGRIA,MS4A6A)がPRSに強く寄与していることを明らかにした。Duke大学のチームは,CRPと相関する全身炎症関連遺伝子の1,980の一塩基多型(SNP)を抽出し,Health and Retirement Studyに参加した8,546名のPRSを算出した。PRSが高い群は,有意に認知機能が低下していることが示された。Alzheimer's Disease Sequencing Projectからは,エクソーム解析データを用いたCNV(copy number variation)が発表された。5,318名のAD患者と4,604名の対照者の比較から,7p14のT cell receptor gamma遺伝子,6p21のTAP1/2とPSMB8/9のCNVがAD群で有意に変動していた。

書評

「異なり記念日」—齋藤陽道【著】 フリーアクセス

著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.57 - P.57

なぜ思い出が薄かったのか

 著者の齋藤陽道さんは写真家であり,ろう者である。ただし聴者の環境で育ち,日本手話を本格的に使い始めたのは16歳からだ。それまで補聴器を付けて日本語の発音訓練を受けたが,他人の声は9割方わからず,「ひとり空回りする会話しかできなかった時期の思い出は,とても薄い」と言う。ところが20歳を過ぎて補聴器と訣別し,手話が馴染んでからは,「ことばを取り戻していくうちに,自分のものとして瑞々しく思い出せる記憶が増えてきた」。そして,「今ならわかる。思い出すことができなかった理由は,こころと密接に結びついたことばを持っていなかったからだった。ぼくはことばの貧困に陥っていた」と述懐している。

 私はそこに「こころ」の一部としての「ことば」の本質を見る。それと同時に,補聴器や人工内耳などの医療器具が人間の尊厳を奪いうるという事実に愕然とする。

「認知症イメージングテキスト—画像と病理から見た疾患のメカニズム」—冨本秀和,松田博史,羽生春夫,吉田眞理【編】 フリーアクセス

著者: 池田学

ページ範囲:P.82 - P.82

 近年の進歩が著しく,出版が相次いでいる認知症の神経画像に関するテキストと思い込んで,この本を手に取った。しかし,良い意味で期待は全く裏切られた。図譜の半数は美しい神経病理に関するものであり,さらには各疾患の病態仮説や最新の臨床診断基準が丁寧に盛り込まれている。まさに,副題の「画像と病理から見た疾患のメカニズム」に沿った内容となっている。

 序文にあるように,本書の出発点は,技術の進展とともに近年とみに距離が近くなりつつある神経画像と神経病理の関連を視覚的に理解できるようにしたいという編者の慧眼にある。わが国を代表する4人の神経画像と神経病理のエキスパートの協働により,このようなユニークなテキストブックが誕生したことを喜びたい。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1 - P.1

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.2 - P.2

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.91 - P.91

あとがき フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.92 - P.92

 昨年職場が変わったのを機会に10年以上乗り続けた車を小型のものに替えました。小型でありながら安全面と環境面に配慮され,精巧なナビとともに非常に運転しやすくなったのを実感し,次にもし乗り換える機会があったら今度は人工知能(AI)機能満載の自動自動車にしたいと思っています。AIの昨今の目覚ましい躍進は自動車業界だけではなく,昨年大きな話題になった将棋界,さらには臨床医学の領域にも拡大しつつあります。AIは神経学にどのような影響を与えるのでしょうか? これは臨床,基礎にかかわらず本誌の読者が共通して大きな関心を持っている事柄であると考えます。それに答えたのが今月号の特集です。新年号にふさわしく「未来」を目指す夢のある企画です。

 聖アウグスチヌスは過去を「記憶」,現在を「直観」,未来を「希望」と言い換え,それぞれの連続性とともに異なった同じように価値のあるものと捉えました。AIの応用はまさに神経学発展の「希望」的内容,そのものであると感じます。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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