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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩71巻10号

2019年10月発行

雑誌目次

特集 認知症と遺伝

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ページ範囲:P.1037 - P.1037

特集の意図

超高齢社会を迎えた日本では,高齢者の増加とともに認知症の患者数が激増している。しかし,認知症の治療法はいまだ確立されておらず,発症機序を解き明かすことは喫緊の課題であり,その中でも「認知症は遺伝するか」ということについては医療者のみならず,社会全体の関心事となっている。本特集では,臨床現場における重要な医療情報を提供すべく,この「認知症発症における遺伝の役割」を科学的に議論する。

アルツハイマー病の遺伝的背景—GWASから何がわかったか

著者: 尾崎浩一 ,   新飯田俊平

ページ範囲:P.1039 - P.1051

認知症,特にアルツハイマー病の発症には遺伝素因が大きく関与していることが知られており,遺伝素因の解明を出発点とすることにより,エビデンスに基づいた精密医療が可能になると考えられる。近年,数万人を対象として,全ゲノムにわたる一塩基多型を用いた大規模ゲノムワイド関連解析などの体系的解析が進められ,真の疾患感受性遺伝子群の同定や疾患発症パスウェイの解明から病態が明らかになりつつある。

アルツハイマー病リスク因子としてのアポリポ蛋白E4

著者: 菊地正隆 ,   中谷明弘

ページ範囲:P.1053 - P.1060

これまで行われてきたアルツハイマー病(AD)のゲノム解析において,アポリポ蛋白E(APOE)はほとんどの人種をとおして普遍的かつ強力なリスク因子である。しかし,APOEのADへの寄与は多岐にわたり,既知の機能だけでADとの関わりを説明するのは難しい。本論ではAPOEについて再考するとともに,近年わかってきた脳内におけるAPOEの多面的機能とADとの関係を報告する。

認知症アンチリスク集団としての百寿者と抗認知症遺伝子研究

著者: 佐々木貴史 ,   西本祥仁 ,   広瀬信義 ,   新井康通

ページ範囲:P.1061 - P.1070

急速な高齢化進行により高齢期・超高齢期における健康管理・維持が重要な課題となってきている。100歳以上の高齢者(百寿者)は,90代まで認知機能や日常生活の自立を維持しており,「認知症アンチリスク集団」であることが明らかになってきた。そこで,本論では百寿者研究により明らかになった百寿者の特徴,長寿のリスク遺伝因子・防御的遺伝因子,認知症と百寿者研究の交点について概説する。

アルツハイマー病におけるレアバリアントの役割とその解析意義

著者: 宮下哲典 ,   劉李歆 ,   原範和

ページ範囲:P.1071 - P.1079

次世代シーケンサーの登場により,ゲノム・トランスクリプトームなどのオミックス解析方法はこの10年で激変した。膨大なデジタルデータをいかに処理し,解釈するかが原因遺伝子,感受性遺伝子に到達するための重要な鍵となった。認知症のおよそ6〜7割を占めるアルツハイマー病のバリアント探索はコモンからレア,そしてプライベートなバリアントへとシフトし,新たな展開を迎えている。本論ではその最新情報の一端を紹介する。

ゲノム研究から見たアルツハイマー病発症の制御の可能性

著者: 池内健

ページ範囲:P.1081 - P.1088

アルツハイマー病(AD)におけるゲノム研究の成果は,アミロイド仮説を中心としたAD病態解明の進展に大きく貢献した。しかしながら,アミロイド仮説に基づいて開発された疾患修飾薬を用いたADに対する臨床試験は,いまだ成功していない。網羅的なゲノムワイド関連解析や次世代シークエンサーを用いた全ゲノム・エクソン解析により,ADに関する新たな遺伝子が同定され,新規の治療標的が探索されている。本論では,リスク因子と防御因子の両面からADの遺伝要因に迫り,AD発症制御の新たな可能性を考えてみたい。

総説

社会的行動障害

著者: 生方志浦 ,   上田敬太 ,   村井俊哉

ページ範囲:P.1091 - P.1096

社会生活上問題となる行動や症状は,脳損傷の直接の結果として理解可能な前頭葉の関与する社会的行動障害(遂行機能障害・アパシー・脱抑制)に加え,精神病症状,情動調節障害,うつ状態,疲労などとさまざまな背景を持つ。行動障害の背景を理解したうえで症例ごとの生活の文脈に基づいた評価が必要である。治療介入においては,個々のケースに応じた薬物療法・疾病教育・環境調整などが重要となる。

症例報告

左前頭葉腫瘍摘出後にタイピング障害を呈した熟練タイピストの1例

著者: 若松千裕 ,   石合純夫 ,   齊藤秀和

ページ範囲:P.1097 - P.1103

左前頭葉腫瘍摘出術後にタイピング障害を呈した1例を報告した。失語症は軽微でかな文字失書はなく,両手のタイピング障害と右手の軽度巧緻運動障害を認めた。タイピングでは非隣接キーエラーを単語のみに認め,それは巧緻運動障害のない左手に多く生じた。このエラーの発現機序として,単語単位のタイピング運動記憶の出力過程の障害が想定され,左前頭葉損傷との関連が考えられた。一方,隣接キーエラーは単語と無意味語ともに右手に多く認め,左前頭葉損傷による右手の巧緻運動障害により生じたと考えられた。

連載 臨床で役立つ末梢神経病理の読み方・考え方・7

糖尿病性ニューロパチー

著者: 佐藤亮太 ,   神田隆

ページ範囲:P.1107 - P.1112

はじめに

 糖尿病性ニューロパチーが網膜症や腎症と並ぶ糖尿病の3大合併症として位置付けられていることは周知のとおりである。糖尿病は中国,米国,インドなどで特に多いと言われてきたが,最近の国際糖尿病連合の報告によれば1),発展途上国を含めて世界的に糖尿病患者数は増加している。

 日本の糖尿病患者数は既に1000万人を超えており,Ⅰ型糖尿病では罹患15年で100%,Ⅱ型糖尿病では罹患25年で30%が糖尿病性ニューロパチーをきたすとされている。糖尿病性ニューロパチーの克服はわれわれ脳神経内科医にとって重要な課題であることは言うまでもないが,これに加えて,多くのニューロパチー患者が糖尿病を合併しているという時代にわれわれは直面していることを常に念頭に置きたい。糖尿病患者で慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)が多数見られることはよく知られているが,個々の糖尿病患者のニューロパチーが糖尿病性ニューロパチー単独で説明できるか,実は糖尿病を合併した他のニューロパチーであるか,といった判断が常に求められるのが臨床の現場である。

 現在,糖尿病性ニューロパチーそのものを診断する目的で腓腹神経生検が行われることはない。しかし,上記の目的を達成し,質の高い臨床を行う意味で,糖尿病性ニューロパチーの腓腹神経病理の知識を正しく身につけておくことは大きな意義があると筆者は考えている。そこで,連載第7回となる今回は,糖尿病性ニューロパチーに特徴的な腓腹神経病理所見を提示する。

学会印象記

2019 PNS Annual Meeting(2019年6月22〜26日,ジェノヴァ)

著者: 山岸裕子

ページ範囲:P.1113 - P.1115

概要

 PNS(Peripheral Nerve Society)は,末梢神経の研究を行う国際的な組織です。1994年に2つのグループが合同で設立したもので,臨床研究と基礎研究の両方から末梢神経のあらゆる側面を網羅し,診断のための電気生理学的検討,疾患の病態解明と治療開発から,神経線維再生の分子メカニズムの研究まで,多岐にわたった検討が行われています。2015年までは2年に1回開催されていましたが,2017年以降は毎年開催されるようになっています。

 2019年度のannual meetingはイタリア随一の港町,ジェノヴァ(英語表記:Genoa,イタリア語表記:Genova,人口:約58万人)で開催されました。ジェノヴァはイタリア北西部にあり,ミラノから南南西に約120kmに位置します。歴史のある街並みが市の中心地から多く残され,フェラーリ広場・王宮・ガリバルディ通りなどが有名です。学会会場(写真1)は港に近く平地でしたが,市内の有名なスポットを観光するには傾斜のきつい坂の上り下りを要します。学会が開催された頃から気温が上昇(27〜37℃前後)したので,日中は外に少し出るだけでもびっしょりと汗をかくほどでした。

 今年度は観光地としても人気のあるイタリアで開催されたこともあり,参加人数は1,000人を超え,免疫性ニューロパチー,糖尿病性ニューロパチー,中毒性ニューロパチーの3部門の発表が午後には同時進行で行われ,朝7時から夜8時頃までみっちりなスケジュールでした。私が拝聴した免疫性ニューロパチーに関するシンポジウムでは,臨床研究の発表が多数見られ,テーマとしてはとりわけ慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)が多い印象でした。

書評

「こんなときオスラー 『平静の心』を求めて」—平島 修,徳田安春,山中克郎【著】 フリーアクセス

著者: 志水太郎

ページ範囲:P.1089 - P.1089

 本書は医学書院『総合診療』誌の同名の連載の単行本化である。近代医学・医学教育の先駆者であり,ジョンズ・ホプキンズを創設した“Big 4”の1人でもあるウィリアム・オスラー医師の言葉には,年代を感じさせない貫通力がある。オスラー先生のきら星のような名言の数々は,臨床や後輩指導のさまざまな現場に直面したときにこそ「ハッ」と思い出され,あらためて胸に刺さるものが多い。本書の魅力を語るには,やはり書中のオスラー先生の言葉を記載することがベストだろう。

 平静の心:「穏やかな平静の心を得るために,第一に必要なものは,周囲の人達に多くを期待しないことである。(中略)仲間の人間に対して,限りない忍耐と絶えざる思いやりの心を持つ必要がある」(p.3)

「レジデントのための画像診断の鉄則」—山下康行【著】 フリーアクセス

著者: 柴田綾子

ページ範囲:P.1090 - P.1090

 「画像検査を学ぶ本だ」という予想をはるかに超えていた。救急室や外来で出合う疾患の特徴的な画像が次々と登場し,経験知が詰まったクリニカルパールがテンポよく紹介された本であった。画像診断は「知っていれば診断できる」ことが多い。逆に言うと,知らなければ見過ごしてしまう所見がたくさんある。この本は,あなたの「診断できる」を確実に増やしてくれる1冊である。

 この本がすごいのは,画像診断の「周辺」までクリニカルパールでカバーしているところだ。第1章「画像診断総論」で取り上げられている以下などは,普段なら難しくて読み飛ばしてしまいそうな内容だが,簡潔なメッセージ(鉄則)とまとめで読みやすくなっている。

「こころの回復を支える 精神障害リハビリテーション」—池淵恵美【著】 フリーアクセス

著者: 今村弥生

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 日本で精神科リハビリテーションの現場に身を置いている人,特に社会生活技能訓練(SST)関係者のほとんどは,今までに池淵恵美先生の著作・講演に学んで,自分たちの実践に役立ててきたと思われますが,この書評を書いている私もその1人です。そんな私が,こういう言い方をすると,先輩におもねっているように聞こえるかもしれませんが,それでも,この本は読むべき本と表現せざるを得ない1冊です。精神科リハビリテーション関係者に限らず,病いからの回復を支援する人,リカバリーをめざしている途中に迷いが生じた人にとって,知っておくべきことが,だいたい全部詰まった本です。

 ところで,この本は教科書としては典型的ではありません。まず図が著しく少ないことが目につきます。最近の教科書は図が多めのものが多い中,できるだけ「言葉」で伝えようとする姿勢に,リハビリテーションの技法より,人がなすことの意義を強調しているのだと思いました。本文はですます調で,語りかけるようにつづられていて,専門用語が少なめで,日常生活の暮らし言葉が多く使われているのも,非典型的ですが,おかげで精神医療のすべての職種の専門家と,ピアスタッフ,当事者家族も読むことができます。ただ,読み進めていくと,平易な文章は学術的な難しい事象をわかりやすく説明しているだけではなく,文章の中に著者の信念や迷いも織り込まれていることが伝わってきます。教科書の在り方として,著者の治療への不完全さや,情緒的なゆらぎを表現することは,意見が分かれるかもしれません。しかし,理論を組み立てながら,著者の思いがクッションのように置かれているから,理屈だけではなく,精神科リハビリテーションの限界と可能性が読者に染みるように伝わってくる,魅力的な1冊になっています。本の内容を視覚以外で感じることができるなら,この本は懐かしさと暖かさが感じられるような,そんな本だと思いました。

「プロメテウス 解剖学アトラス頭頸部/神経解剖 第3版」—坂井建雄,河田光博【監訳】 フリーアクセス

著者: 篠田晃

ページ範囲:P.1106 - P.1106

 『プロメテウス解剖学アトラス第3巻頭頸部/神経解剖』に,待望の日本語第3版(原著ドイツ語第4版)が世に出ることとなった。清楚で美しい図譜が定評の「プロメテウス」は,生理機能や病態・臨床的意義の理解までもめざした詳細な解剖学アトラスである。

 今回の最新版では,特に神経解剖と歯科口腔領域で目を見張る拡充と改訂がなされている。通常,解剖学シリーズの神経解剖領域は,その構造と機能の複雑さが故に中途半端感が残り,他の神経解剖学アトラスや専門書に道を譲ることになる。今回の改訂では最新の情報が加わり,全体の構成が再編された。特に序論が充実し,全体が見わたせるようになり,複雑な中枢神経系の構造の学習への心構えができる。中枢神経系の用語集と要約の大幅な増ページもうれしい。初学者・学生諸君のみならず教師や研究者にとっても知識の整理として大変助かる。本書の神経解剖の章自体で神経解剖学の専門書・専門図譜のレベルに達している。また医学にとって盲点となりがちな口腔領域の充実した増ページも見逃せない。歯の発生と歯科診療の項が新たに追加され,X線写真と局所麻酔刺入点の写真も加わった。歯科医をめざす学生はもちろん,医学生や若手医師にとっても臨床的理解が助けられ,口腔領域の解剖が一層魅力的なものとなったであろう。神経解剖が対象とするのは中枢神経だけではない。脳を理解しようと思えば,末梢神経や感覚器や効果器,そしてそれらとの関係について学ばなければならない。頭頸部は特に顕在意識化された脳の高次機能の入出力の要である。こころを構成する認知や情動や能動について深い理解をめざすならば,この領域の詳細な有機的関係の理解が鍵を握っている。これらが一体化した本書は21世紀の脳科学・神経科学の礎を担っているといっても過言ではない。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1035 - P.1035

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1036 - P.1036

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1121 - P.1121

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.1122 - P.1122

 今年の国際老年精神医学会(International Psychogeriatric Association:IPA)はスペイン北西のはずれにあるサンティアゴ・デ・コンポステーラで開催された。再来年のIPAが日本老年精神医学会とジョイントで京都で開催されることもあり,私もその宣伝を兼ねて出席し,つい先日帰国したところである。サンティアゴは言うまでもなくローマ,エルサレムと並ぶキリスト教三大聖地の1つである。同地への巡礼の最古の記録は西暦951年と言うから日本では平安中期のことである。聖ヤコブ(スペイン名サンティアゴ)の遺骸が発見された当初,ガリシア地方に限定されていたサンティアゴ巡礼は次第にピレネー以北に拡大され,11世紀以降はヨーロッパ中に拡大した。今日では世界中から老若男女,さまざまな人々が帆立貝と杖に守られて巡礼に訪れる。巡礼者数はいまでも年々増えており,2018年には年間30万人を超えている。私の大学の医学部生も先日休学して世界放浪の旅に出て,その間にサンティアゴ巡礼を果たしてきた。IPAは2010年にもサンティアゴで開催しているから,よほどこの場所に思い入れがあるのだろう。

 今回のIPAで面白かった講演の1つは,百寿者研究で知られるシドニーのサチデヴ教授の“Can we live to 150?(われわれは150歳まで生きられるか?)”というプレナリレクチャーであった。結論は,よほどのイノベーションがない限り無理である,という常識的だが,身も蓋もないものではあった(これすらも近年の加速度的な科学・技術革新を考えると,50年後はどうかわからないが)。しかし,一方で,われわれの多くは確実に100歳まで健康長寿を全うできるようになるだろうという裏のメッセージもあった。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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