文献詳細
書評
「こころの回復を支える 精神障害リハビリテーション」—池淵恵美【著】 フリーアクセス
著者: 今村弥生1
所属機関: 1杏林大学医学部精神神経科学教室
ページ範囲:P.1105 - P.1105
文献概要
ところで,この本は教科書としては典型的ではありません。まず図が著しく少ないことが目につきます。最近の教科書は図が多めのものが多い中,できるだけ「言葉」で伝えようとする姿勢に,リハビリテーションの技法より,人がなすことの意義を強調しているのだと思いました。本文はですます調で,語りかけるようにつづられていて,専門用語が少なめで,日常生活の暮らし言葉が多く使われているのも,非典型的ですが,おかげで精神医療のすべての職種の専門家と,ピアスタッフ,当事者家族も読むことができます。ただ,読み進めていくと,平易な文章は学術的な難しい事象をわかりやすく説明しているだけではなく,文章の中に著者の信念や迷いも織り込まれていることが伝わってきます。教科書の在り方として,著者の治療への不完全さや,情緒的なゆらぎを表現することは,意見が分かれるかもしれません。しかし,理論を組み立てながら,著者の思いがクッションのように置かれているから,理屈だけではなく,精神科リハビリテーションの限界と可能性が読者に染みるように伝わってくる,魅力的な1冊になっています。本の内容を視覚以外で感じることができるなら,この本は懐かしさと暖かさが感じられるような,そんな本だと思いました。
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