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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩71巻2号

2019年02月発行

雑誌目次

特集 “スポーツ”を生み出す脳

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ページ範囲:P.97 - P.97

特集の意図

「スポーツは健康によいのでやりましょう」と簡単に言うものの,どのようにスポーツは健康に影響するのか? 東京2020オリンピック・パラリンピックを来年に控え,あらためて脳とスポーツのつながりを探るとともに,具体的な脳神経疾患へのスポーツの効用を紹介する。最新の脳科学の知見を身に着け,明日の診療に活かしていただければ幸いである。

アスリート脳の理解に向けて

著者: 横山修 ,   田添歳樹 ,   西村幸男

ページ範囲:P.99 - P.103

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が来年と近づいており,日本におけるスポーツに対する興味はこれまでにない高まりを見せている。われわれはスポーツ選手の洗練されたパフォーマンスに驚かされているばかりであるが,それを獲得するために,スポーツ選手は同じ運動を繰り返す練習に長い年月を費やしている。この練習により,筋肉や循環器系が強化されることはよく知られていることではあるが,脳機能や構造がいかに初心者の脳と異なるかについてはよくわかっていない。本論では,神経解剖学的・生理学的な観点からスポーツ選手の脳を理解しようとしている最近の研究について紹介する。

パラリンピックブレイン—パラアスリートの脳の再編

著者: 中澤公孝

ページ範囲:P.105 - P.112

パラアスリートの脳は個々の障害特性と競技特異的なトレーニングの結果,多様な再編様相を示す。この再編には障害後の代償性変化と課題依存的可塑性が主たる要素として関与する。これらの要素がいかなる機序のもとに作用し,その結果として脳の再編を導くのか。これを研究することはニューロリハビリテーション関連研究の本質的課題に合致する。

スポーツに潜む他者の動作の無意識的な影響

著者: 池上剛

ページ範囲:P.113 - P.124

他者動作の観察が自己動作に与える無意識的な影響を運動伝染と言い,2種類が存在する。1つ目の模倣運動伝染は,他者動作の単なる観察によって生じ,自己動作は他者動作を模倣するように変化する。2つ目の予測誤差運動伝染は,他者動作に対する予測誤差によって生じ,自己動作は予測誤差に依存して変化する。本論では,これらの運動伝染がどのような脳内プロセスによって生じ,アスリートの動作にいかに影響し得るのかを議論したい。

パーキンソン病とリハビリテーションとしてのスポーツの利用

著者: 武内俊明 ,   有井敬治

ページ範囲:P.125 - P.133

パーキンソン病は緩徐進行性の疾患で,運動機能が少しずつ悪化する疾患である。神経の可塑性が明らかになり,脳血管障害後のリハビリテーションが重要なのは周知の事実である。脳卒中であれば一番悪い状態からスタートしてリハビリテーション期間の目標が立てられるが,パーキンソン病においてはこれ以上悪化しないようにするためのリハビリテーションであり目標が立てにくい。長期的かつ持続可能なリハビリテーション手段として,スポーツは非常に有用である。

筋ジストロフィーとスポーツ

著者: 松村剛

ページ範囲:P.135 - P.142

筋ジストロフィー患者において,病気の進行に伴い運動機能や生活動作の喪失体験を重ねることは自尊心低下にもつながる。こうした患者にとって,障害者スポーツはハンディキャップを感じずに楽しく競技でき,達成感や社会的交流機会を得られる大きな存在である。一方,心肺機能などに深刻な障害を持つ患者が安全にスポーツを楽しむには,競技だけにとどまらないリスクマネジメントが必要で,医療者と競技団体の情報交換が重要である。

多発性硬化症とスポーツ・運動

著者: 越智博文

ページ範囲:P.143 - P.152

多発性硬化症は免疫介在性の中枢神経疾患である。炎症性脱髄に伴う中枢神経症候が再発と寛解を繰り返しながら経過し,次第に慢性進行性となる。そのため,比較的強い障害が残る例が少なくなく,早期から疾患修飾薬により再発を予防し進行を抑制することが重要である。また,近年の研究から,運動により症状の軽減や機能回復が期待できることが明らかとなり,運動療法は非薬理学的疾患修飾療法の1つに位置付けられている。

総説

統合失調症における視床と社会機能の関連性

著者: 越山太輔 ,   笠井清登

ページ範囲:P.155 - P.160

統合失調症を持つ方々は社会認知能力の障害により日常の社会生活に多くの困難を抱えている。しかしその神経基盤の解明は十分に進んでいない。筆者らは統合失調症の社会機能障害の神経基盤について,大脳皮質下構造である視床に着目して神経回路異常の同定につとめ,視床と前頭葉との神経ネットワーク異常が社会機能障害に関連する可能性を示した。これらの知見は,統合失調症の新たな治療法の開発に貢献すると考えられる。

酸化ストレスイメージング—ミトコンドリア病,神経変性疾患への応用

著者: 井川正道 ,   岡沢秀彦 ,   米田誠

ページ範囲:P.161 - P.166

神経変性疾患では,ミトコンドリア障害による酸化ストレスの関与が以前より示唆されている。われわれは62Cu-ATSM PETによって,生体脳における酸化ストレスのイメージングに成功し,ミトコンドリア病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症における患者脳での酸化ストレス増強と,その神経変性機序への関与を明らかにした。酸化ストレスを標的とした創薬が望まれ,イメージングは薬効の評価にも役立つであろう。

症例報告

ランバート・イートン筋無力症候群を合併する傍腫瘍性小脳変性症—がん治療が著効した1症例報告と本邦PCD-LEMS症例の系統的文献検索

著者: 北之園寛子 ,   本村政勝 ,   冨田祐輝 ,   岩永洋 ,   岩永直樹 ,   入岡隆 ,   白石裕一 ,   辻野彰

ページ範囲:P.167 - P.174

症例は63歳女性で,X-1年9月頃よりめまい,複視,その後,徐々に歩行障害が出現した。X年5月の初診時は小脳性運動失調,四肢筋力低下,腱反射減弱,および,自律神経症状を認めた。反復刺激試験で漸増現象を認め,血清抗P/Q型電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)抗体陽性と合わせランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)と診断された。胸部CTと気管支鏡検査にて小細胞肺癌(SCLC)がみつかり,小脳症状を傍腫瘍性小脳変性症(PCD)と診断した。6月より,がん化学療法と放射線療法が施行された。治療開始半年後,小脳症状はほぼ消失し,歩行は自立した。同時期に,抗P/Q型VGCC抗体も陰転化した。以下の系統文献検索結果より,小脳性運動失調の症例は貴重と考えられた。抗P/Q型VGCC抗体測定が報告された1995年以降の本邦論文で,小脳性運動失調とLEMS,および,SCLCを合併する症例報告を系統的に検索した。その結果,小脳症状とLEMSを合わせ持つ12例と自験例を選択した。その13例の臨床像は,平均年齢は61.5歳,男性10例,女性3例であった。報告時点でがんが見つかっていない2例(観察期間は1〜2カ月間と短い)を除いて11例(10例は肺,1例は中咽頭)で小細胞癌を合併しており,発症から治療までは1週間〜10カ月間を要していた。13例中1例が初診時にLEMSと診断され,その後の治療経過中に小脳性運動失調を発現したが,残りの12例は,小脳性運動失調症状とLEMS症状で発症し,神経所見は小脳性運動失調が主であった。その後,LEMSが電気生理検査と自己抗体で診断され,SCLCが見つかった。このような一定の臨床経過をたどる病態をPCD-LEMSと定義した。抗P/Q型VGCC抗体は,13例中11例で陽性であり,その抗体価は必ずしも高力価ではなかった。がんに対する治療が,11例のPCD-LEMS中9例で神経学的所見を改善させた。治療前後で抗P/Q型VGCC抗体が測定された6例では,全員のPCD-LEMS症状が改善し,その抗体価も低下した。以上より,PCDの病態には,LEMSと同じく抗P/Q型VGCC抗体の関与が強く示唆された。治療では,少なくとも本邦のPCD-LEMS患者では,がん治療を積極的に行うことでその生命予後だけでなく,小脳性運動失調の改善が期待できると考察された。

学会印象記

2018 ISNI—14th International Congress of Neuroimmunology(2018年8月27〜31日,ブリスベン)

著者: 山村隆

ページ範囲:P.175 - P.177

 オーストラリアのブリスベン(Brisbane)(写真1)で開催された第14回国際神経免疫学会(International Society of Neuroimmunology:ISNI)は,35カ国から600名以上の参加者が参集し,初日の教育プログラムを含めて,5日間にわたる充実したプログラムを提供してくれた。欧米人が“イズニ”と呼ぶ,この学会は,神経免疫学のプロフェッショナルのための学会で,基礎,臨床,トランスレーション研究までカバーする。学会幹部の顔ぶれは,基礎系研究者7割,臨床系研究者3割といったところであろうか。欧州多発性硬化症学会(European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis:ECTRIMS)が,多発性硬化症(MS)の臨床研究指向を明確にしたメガサイズの学会で,スポンサー企業にも配慮したプログラム構成になっているのに対して,ISNIはまったく自由な立場で,生体の統御機構としての神経免疫について議論できる学会である。筆者にとっては,同業者や同窓生が勢揃いする重要な学会で,米国のフィラデルフィアで開催された第2回学術集会から1度も欠かさず出席している。湾岸戦争直後にイスラエルで開催された第3回学会や,イタリアのベニスで開催された第7回学会などの思い出は今でも鮮烈に残っている。いつの間にかInternational Advisory Boardのメンバーに入り,ISNIの招致活動にも携わっている。

2018 PNS Annual Meeting—2018 Peripheral Nerve Society Annual Meeting(2018年7月21〜25日,ボルチモア)

著者: 三澤園子

ページ範囲:P.178 - P.181

 2018年7月21〜25日の日程で,米国メリーランド州ボルチモアにて開催された,PNS(Peripheral Nerve Society)Annual Meetingに参加しました。PNSは末梢神経の基礎〜臨床研究に携わる者,600名前後が世界中から集まる,比較的小規模の学会です。しかし,大御所が多く参加されますので,論文でいつも見る「あの方」を生で見るよい機会になります。毎回,日本からも10〜20名程度の参加があります。2017年までは2年ごとの開催でしたが,2018年からは毎年の開催が予定されています。私はスペインのシッチェスで開催された昨年に引き続き,2回目の参加でした。

書評

「医学生・研修医のための画像診断リファレンス」—山下康行【著】 フリーアクセス

著者: 笹本浩平

ページ範囲:P.154 - P.154

 画像読影は医学生・研修医の皆さんにとって必須のスキルです。最近の医師国家試験では画像問題が頻出で,合格後すぐに必要となる画像検査とその解釈について問うています。実際,研修医になると画像検査が患者さんの病態理解のキーになることを経験するでしょう。しかし,画像診断はとても難しいと感じます。どこをどのように読んでいったらよいかわからなくなることもありますし,そもそも画像解剖がわからないということもあります。同じ画像を見ているのに上級医と見えているものが違うこともたくさん経験するでしょう。自分で読影できないときはdoctor's doctorと呼ばれる放射線科医の読影レポートが頼りになりますが,24時間365日すぐにレポートが飛んでくる環境ではない場合はどうしましょうか。自分で読影するしかないのです。

 そんなときに『医学生・研修医のための画像診断リファレンス』が役立ちます。本書は各章の最初に総論として画像診断アプローチ法と鑑別診断の方法がまとめられていて,画像解剖と読影に必要な知識をコンパクトに理解できます。また,鑑別のポイントも記載されていて,各領域の鑑別診断の復習にもなります。画像解剖や専門用語を理解し使えるようになれば,他科へのコンサルトや診療情報提供書の記述の際により正確に相手に伝えることができるようになるでしょう。

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ページ範囲:P.95 - P.95

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.96 - P.96

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.187 - P.187

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.188 - P.188

 神経内科が標榜名を脳神経内科と変更することが社員総会で報告されて1年余が経とうとしています。先生方の御施設ではもうスムーズな移行がなされましたでしょうか。私の所属する大学病院でも,昨年の12月1日をもって外来の看板,電子カルテを含むすべての書類・表示が脳神経内科に変更されました。幸い大きなトラブルもなく,「しんない」から「のうない」へ,静かに,しかし着実に変わっていっていることを実感しています。この変更についてはいろいろなご意見があることと思います。私もずっと「神経内科」という診療科が世の中で広く受け入れられるよう頑張ってきたつもりですし,私自身,末梢神経・筋肉疾患を専門の1つにしている関係もあって,最初に「脳神経内科」という話が出た頃は若干の抵抗感を持って議論に加わっていました。しかし,山口の地で(今年で15年目になります)神経内科の普及に努めていて,「神経内科」の名前で仮にあと15年頑張っても,心療内科,精神神経科との混同はずっと継続されるだろうなと思っていたのも事実です。日本のneurologyの20年後,30年後を見据えれば,おそらくこの変更は多くの先生に肯定的に捉えていただけることになるだろうと思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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