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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩71巻3号

2019年03月発行

雑誌目次

特集 Spine Neurology

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ページ範囲:P.191 - P.191

特集の意図

脊椎・脊髄疾患は,多数の神経疾患および外科的疾患との鑑別診断が必要である。しかし,デルマトームと症状で食い違いがあるなど,机上の知識と実際の臨床間においては矛盾をしばしば経験する。本特集では,適切な鑑別診断が可能となるよう,知識の整理をするとともに,第一人者らによる長年の臨床経験と研究成果をもとに積み上げられた成果を余すことなく盛り込んだ。

Spine Neurology—これまでの観察と自験例をもとに

著者: 井上聖啓

ページ範囲:P.193 - P.205

これまで筆者自身が経験し,観察した事実,また症例について記述した。①脊髄髄節と脊椎椎体高位にはずれがある。正確な相対図を参考にすること。②脊髄根は末梢神経系に属し,くも膜下腔にある部分と定義される。③デルマトーム,皮神経分布に加えて関連痛の重要性,その発生機序を論じた。④Straight-leg-raising testはギラン・バレー症候群,脊柱管狭窄の診断に有用である。⑤いつとはなしに発症する下腿三頭筋萎縮の症例を提示した。原因については不明だが「こむらなえ(腓萎え)」と名付け,注意を喚起した。

頸椎疾患の鑑別に役立つ最新の神経筋解剖

著者: 園生雅弘

ページ範囲:P.207 - P.215

頸椎症の診断・鑑別診断においては解剖学的知識が必須である。椎体と脊髄の高位のずれ,脊髄神経後枝が尾側に延びること,頸椎症の障害部位は後根神経節より近位であること,皮節と筋節の理解などが重要なポイントとなる。特に筋節と筋の末梢神経支配の理解は局在診断のキーとなる。神経解剖の知識を踏まえた症候の評価によって8割方診断の見当をつけることができ,電気生理学的検査がそれを補完できる。

頚椎・頚髄疾患の症候学

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.217 - P.237

頚椎・頚髄疾患という分野では画像の恩恵は非常に大きいが,それでも症候の局在を決定するのが困難なことが脳疾患よりも多いように思われる。本稿では以下のようなやや新しい切り口で頚椎・頚髄の症候学を論じる。すなわち,頭痛・顔面痛,めまい,上位頚椎・頚髄病変による手の症候,上位と下位の狭間にあるC3〜C4の症候,術後C5麻痺,下位頚椎病変による運動麻痺,感覚障害における偽性局在症候,自律神経障害,一過性神経障害である。

脳神経内科医による頸椎症診療

著者: 安藤哲朗

ページ範囲:P.239 - P.248

脳神経内科医は頸椎症の診療をすべきである。頸椎症は50歳以上では高頻度の神経疾患であり,症候と画像所見とを対比して,それが責任病変であるかどうかを検討する。頸椎症は,脳血管障害,筋萎縮性側索硬化症,末梢神経障害,脊髄サルコイドーシスなどの多くの神経疾患との鑑別診断が必要である。頸椎症患者の経過や予後はさまざまであるが,多くの患者は比較的良好な経過をたどる。

解剖学的(神経学的)診断と画像診断の乖離

著者: 三好光太

ページ範囲:P.249 - P.256

脊椎・脊髄疾患の診療において障害高位の同定は不可欠であり,解剖学的(神経学的)診断と画像診断により判断されるが,ときに両者の乖離に遭遇する。この乖離を生じやすい病態として,①頸髄髄節高位のずれ,②中心性脊髄損傷を含む頸髄中心性障害,③頸部神経根症の感覚障害領域,④脊髄円錐上部・円錐部障害,⑤脊髄係留症候群,⑥腰部神経根の椎間孔障害があり,これらの病態を十分理解しておく必要がある。

特異な手内筋萎縮Split Hand

著者: 澁谷和幹

ページ範囲:P.257 - P.263

Split handとは,母指球筋や第一背側骨間筋が萎縮するのに対し,小指球筋が比較的保たれる現象を指す。この所見は,筋萎縮性側索硬化症(ALS)に特異的に認められると考えられている。本論では,split handを呈したALS症例を紹介し,ALS診断におけるこの症候の有用性,およびこの現象に基づく最新の病態研究について概説する。

対談

神経症候学の真価

著者: 平山惠造 ,   河村満

ページ範囲:P.267 - P.272

『神経症候学』の出版

河村 本号(2019年3月号)をもって,7年間携わってきた本誌編集主幹の任を満了することとなりました。そこで,私の神経学の原点とも言える平山惠造先生をお招きし,「神経症候学」をあらためて考えてみたいと思います。

 平山先生は千葉大学神経内科の初代教授で,私は同科開設時のメンバーの1人でした。先生の業績は挙げ始めればきりがないのですが,最も大きな業績は1971年の『神経症候学』1)の出版だと私は思います。とても厚い本で,歴史的に見てもこれほどの本をお1人で書く人は数えるほどでしょう。出版までにはどのような経緯があったのですか。

総説

フォア・シャヴァニ・マリー症候群—その今日的意義

著者: 林竜一郎

ページ範囲:P.273 - P.280

フォア・シャヴァニ・マリー症候群は19世紀から報告されてきた「皮質型」偽性球麻痺である。脳卒中以外にも多彩な疾患が原因となり得る。近年白質損傷も責任病巣となり得るとされ,特にfrontal aslant tractの損傷が注目されている。「古い」症候群のベッドサイドでの詳細な観察と,「新しい」画像検査や解析の組合せにより,背景にある神経システムをよりよく理解することが可能となると期待される。

症例報告

経過中にBálint症候群を発症し,塩酸メフロキンとミルタザピンの併用療法により改善した進行性多巣性白質脳症の1例

著者: 竹腰顕 ,   吉倉延亮 ,   小澤憲司 ,   生駒良和 ,   北川順一 ,   竹島明 ,   大槻美佳 ,   中道一生 ,   西條政幸 ,   大江直行 ,   望月清文 ,   柿田明美 ,   下畑享良

ページ範囲:P.281 - P.286

症例は62歳男性で,悪性リンパ腫に対する臍帯血移植後に急激な視力低下をきたした。頭部MRIにて両側頭頂葉および後頭葉の皮質下白質〜深部白質に高信号域を認め,脳生検および脳脊髄液中JCウイルス(JCV)検査にて進行性多巣性白質脳症(PML)と診断した。経過中にBálint症候群を合併したが,塩酸メフロキンとミルタザピンの併用療法によりBálint症候群および頭部MRI所見は改善し,脳脊髄液中JCVは陰性化した。PMLではBálint症候群を合併し得ること,ならびに塩酸メフロキンとミルタザピン併用療法は有効であることを示した。

学会印象記

ECTRIMS 2018—34th Congress of European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis(2018年10月10〜12日,ベルリン)

著者: 森雅裕

ページ範囲:P.287 - P.289

 ECTRIMS(European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)は四半世紀にわたり多発性硬化症の病態解明と治療の発展に寄与してきた,多発性硬化症に関する世界最大の学会である。2015年はバルセロナ,2016年はロンドン,2017年はパリ,とヨーロッパの各国で開催され,今回はドイツのベルリンで開催され(写真1),参加することができたので,学会と開催地のベルリンに関してご紹介したい。

 まず,本学会に関し圧倒されるのがその規模である。大会ウェブサイトおよびPlenary sessionで話された内容によると,105カ国から約9,800名が参加し,1,975のabstractが投稿され,156名が招待講演を行い,114の口演,1,014のポスター,448のePosterの発表が行われたそうである。特にポスター会場の混雑ぶりは満員とはいかないものの混雑した電車を思わせるもので,歩くのもままならない。会場が狭いわけではないので,それだけたくさんの人が参加し,活発なディスカッションを行っていることの裏返しである。国際学会では決められた時間内に発表者がポスターの前に立ち,興味を持った人が質問したり,コメントしたりするのが一般的なスタイルである。ECTRIMSもその形式で行われているが,他の国際学会に比べても多くのやり取りがなされている気がする。その分,かなり騒がしい。日本で見られる,時間を決めてプレゼンテーションし,皆で質疑するスタイルはここで行うことは参加人数から考えて絶望的だが,一長一短であるなという気はした。

書評

「エキスパートに学ぶ精神科初診面接[Web動画付]—臨床力向上のために」—日本精神神経学会 精神療法委員会【編】 フリーアクセス

著者: 田宗秀隆

ページ範囲:P.265 - P.265

 精神科初診面接で何が行われているのか,興味を持ったことはありませんか。しかし,その専門性は診察室という密室に閉じ込められてきました。1対1でのこころのやり取りを基本とする精神科臨床では,診察室に見学者が入った瞬間,通常の診察の構造とは異なるものになってしまうからです。

 日本精神神経学会で満席続きの人気ワークショップ3年分が書籍化された本書では,エキスパートによる初診面接の“技”が惜しみなく披露されています。

「脳と頭蓋底の血管系アトラス—臨床解剖のバリエーション」—寳金清博【監訳】,中山若樹【訳者代表】 フリーアクセス

著者: 田中美千裕

ページ範囲:P.266 - P.266

 “Anatomy, Descriptive and Surgical(解剖学,記述的描写と外科医の目線)”—これは19世紀に活躍した英国の解剖学者であり外科医でもあったヘンリー・グレイ(Henry Gray;1827〜61)による解剖書『グレイ解剖学』(1858年初版)の背表紙に記されている言葉で,解剖学には記述的描写と外科医の目線が必要であることを強調している。

 この“Descriptive and Surgical”という表現がまさにぴったりなアトラスが,このたび医学書院より刊行された。Walter Grandらによる『Vasculature of the Brain and Cranial Base—Variation in Clinical Anatomy(2nd Edition)』(Thieme,2016)の日本語訳版である。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.189 - P.189

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.190 - P.190

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.295 - P.295

あとがき フリーアクセス

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.296 - P.296

 Spine neurologyという公式用語は英語圏にはない(はずである)。筆者の記憶では2003年に井上聖啓先生が第14回日本末梢神経学会(東京)を開催された際に,この名称のシンポジウムがあり,井上先生がご自身の造語であると話されていたと思う。以後,脊椎疾患の神経学の理解・研究は大きく進歩した。今回の特集に執筆いただいたのは井上先生以下,園生雅弘,福武敏夫,安藤哲朗,三好光太の各先生で,我が国を代表するspine neurologyの大御所と言える方々である。各論文に共通するコンセプトは,脊椎疾患の診療・研究には脳神経内科医が積極的に関与すべきであり,あくまでも正確な神経学的所見を核として画像診断との一致や乖離を解釈するという点である。力作が集まった今回の企画を自賛している。

 澁谷和幹先生の筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるsplit handは,やや異色であるが,頸椎症性筋萎縮症との対比において見出され,発展してきたトピックである。記載されているようにALSでは全く同一の神経支配を受けている第一背側骨間筋と小指外転筋(C8髄節〜尺骨神経)が解離し,第一背側骨間筋が圧倒的に優位に萎縮する。これに類似した現象の初めての記載は1992年にカナダのAndrew Eisenによる『Muscle & Nerve』誌の総説中の「ALSでは例外なく母指球が小指球より高度に萎縮する」という1文である。ただしこの部分には文献が引用されていなかった!

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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