icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩72巻12号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 超高齢期の精神神経疾患を診る

フリーアクセス

ページ範囲:P.1317 - P.1317

特集の意図

超高齢社会の日本では,脳神経内科の臨床においても80歳以上の患者の診療を行う機会が増えている。しかしながら,多くの研究や臨床試験は超高齢者を対象としていないため治療に関するレベルの高いエビデンスに乏しく,また,多岐にわたる基礎疾患やそれに対する薬物治療が病態を複雑にしている。本特集ではエキスパートにより,日々の診療で出会う機会の多い代表的な疾患の病態を解説したうえで,鑑別診断・治療の考え方について論じる。

超高齢期の末梢神経・筋疾患

著者: 佐藤亮太

ページ範囲:P.1319 - P.1330

超高齢化した本邦では,加齢による身体機能の変化が注目されており,高齢者の筋力や筋肉量の減少に対してサルコペニアという疾患概念が広く知られるようになった。末梢神経・筋疾患は二次性サルコペニアの重要な原因であり,末梢神経/筋疾患を正しく治療することは健康寿命を延ばすことにつながる。本論では,末梢神経/筋の加齢性変化を概説し,超高齢期の代表的な末梢神経/筋疾患について述べる。

超高齢期の脊椎疾患

著者: 亀山隆

ページ範囲:P.1331 - P.1343

超高齢期の脊椎疾患として,姿勢異常の主因となる脊柱変形を取り上げた。胸腰椎の後弯変形を中心とした脊柱変形はADLおよびQOLを障害し,外科的矯正手術も行われるようになっている。高齢パーキンソン病患者も骨粗鬆症と易転倒性から脊椎圧迫骨折を合併し,姿勢異常を悪化させる。そのほか,高齢者で増加しているびまん性特発性骨増殖症と非骨傷性頸髄損傷についても論じた。超高齢者診療では脊椎をはじめ運動器疾患の素養も求められる。

超高齢期のパーキンソン病

著者: 金原禎子 ,   武田篤

ページ範囲:P.1345 - P.1352

高齢化に伴い,高齢期患者を中心にパーキンソン病(PD)患者が激増している。超高齢者PDは早期から高度の運動症状を呈し,臨床像が典型例と異なり,診断は必ずしも容易ではなく,L-ドパ治療効果も不十分なことが多い。現在使用される多くのPD治療薬のエビデンスは超高齢者を除外したエントリー基準で実施された臨床試験に基づいており,今後は超高齢者PDへの治療エビデンスの構築が必要である。

超高齢期の認知症

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.1353 - P.1359

超高齢期の認知症において,アルツハイマー病のように独立した疾患以外に,primary age-related tauopathy,limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy,aging-related tau astrogliopathyといった病態も関連する。多剤内服も影響を与えることから,幅広い視点での診療が求められる。

超高齢期の精神疾患

著者: 新村秀人

ページ範囲:P.1361 - P.1368

平均寿命延伸に伴い80歳以上の超高齢者は増えたが,その精神疾患についての検討は十分ではない。超高齢期の精神疾患では,身体疾患の合併や脳の器質的変化を伴うことが多いこと,精神症状は典型的でなく急激に変化すること,加齢により薬物療法が複雑となることに注意を要する。本稿では,精神病性障害(統合失調症,妄想性障害,緊張病,老年期特有の精神病性障害),うつ病,アパシー,不安症,身体症状症を概説した。

総説

平山病の病態機序に関する新しい仮説—免疫異常に由来する頚部後部硬膜の椎弓への固定不全による

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.1371 - P.1381

平山病は青年期の特に男性に生じる,稀な自己制限的な,頚部前屈に関連した頚髄症であり,1959年に平山によって初めて記載された。非対称的な上肢遠位の脱力と筋萎縮が特徴的で,感覚障害や下肢の症状を伴わず,3〜5年以内に停止するが後遺症を残す。神経画像学的研究および剖検もしくは神経病理学的研究により,その病態は頚部前屈時に後部硬膜が異常に前方に移動することによって生じる下部頚髄の前角の慢性的虚血によることが示されてきた。この硬膜異常の真の病理機序はまだはっきりしないが,さまざまの仮説が提唱されてきた。すなわち,“tight dural canal in flexion”や“flexion myelopathy”,「後部静脈叢の拡大」,「思春期における脊柱と脊髄・硬膜の不一致的成長」(平山)などである。しかし,これらの仮説だけでは平山病の稀少性と症状の非対称性は説明できない。Shinomiyaらによって提唱された「後部硬膜外靱帯因子(C6〜C7で乏しい)」や神経放射線科医が指摘している「前屈位だけでなく中立位でも認められる後部硬膜の椎弓への接着障害」,脊椎外科医が報告した「手術で切除された硬膜における弾性線維・膠原線維の病理学的異常」を組み合わせて考え,さらに神経解剖学的に記述されてきた「C1〜C2レベルでの“myodural bridge”」を考慮すると,下位頚髄における硬膜前方移動が説明できる。これらの機械的因子に加え,平山病患者において高IgE血症や血清/髄液で認められるサイトカインなどのアトピー性/アレルギー性異常が報告されてきており,ラットの研究ではあるが,硬膜において免疫細胞が全細胞中の〜17%も占めていることから,硬膜や周囲構造におけるさらなる免疫学的研究が必須ではあるが,ここに平山病の病理機序に関して,平山の仮説に加えるものとして,新しい仮説「免疫学的過程による硬膜と後部靱帯の異常が引き起こす頚部後部硬膜の椎弓への固定不全」を提唱する。

神経画像アトラス

MRI拡散強調画像で両側中小脳脚に高信号を認めた浸透圧性脳症の1例

著者: 大岩美都妃 ,   有島英孝 ,   木村智輝 ,   芝池由規 ,   川尻智士 ,   山田真輔 ,   山内貴寛 ,   磯﨑誠 ,   常俊顕三 ,   松田謙 ,   小寺俊昭 ,   菊田健一郎

ページ範囲:P.1382 - P.1384

Ⅰ.症例提示

〈症例〉 43歳,男性。

 主訴 ふらつき,意識障害。

 既往歴 X-10年,Germinoma(鞍上部原発,脳室内播種)に対して放射線化学療法施行。治療後,高次脳機能障害,右下1/4盲,汎下垂体機能低下と尿崩症を認め投薬中。

LETTERS

神経細胞が変性壊死するときはシナプスに始まり細胞体に終わるという順は,それらが造られてくるときのまったく逆順に見える

著者: 生田房弘

ページ範囲:P.1385 - P.1385

 神経細胞が崩壊死滅してゆくときは,シナプスがまずアストロサイトの包囲を解き,順次崩壊消滅し,やがて水平そして,垂直方向の樹状突起が変性消失する。その後最終段階で,ようやく球状の神経細胞体が変形消失する1)

 このことを考えるうち「おやっ?これは,神経細胞が造られてくるときの,まったく逆順ではないか」と思った。

書評

「精神神経症候群を読み解く—精神科学と神経学のアートとサイエンス」—吉野相英【監訳】 高橋和久,竹下昇吾,立澤賢孝【訳】 フリーアクセス

著者: 河村満

ページ範囲:P.1369 - P.1369

 大学勤務から一般病院での診療中心の生活に変わり,以前には気付かなかったことの重要性を感じることができるようになった。脳神経内科医としてスタートした40数年前には,私たちの診療科がどのように独立性を主張することができるのかが大きな問題点であった。しかし,それはたぶん日本中どこでもクリアできたように感じる。一方現在,脳神経内科医が増えて地域の病院で診療をするときの問題点は2つあると思う。1つは脳神経内科医が一般内科の知識・技術などのスキルをもっとアップさせる必要があるということであるが,こちらは日本神経学会や日本神経治療学会などでさまざまな対応がなされつつある。第2の問題は脳神経内科との,一般内科とは対極にあるもう1つの境界領域である精神科の知識を増やし,診療技術を獲得する必要があるということである。

 このためにも,非常に推薦できる本が出版された。

「回復期リハビリテーション病棟マニュアル」—角田 亘【編】 北原崇真,佐藤 慎,岩戸健一郎,中嶋杏子【編集協力】 フリーアクセス

著者: 原寛美

ページ範囲:P.1387 - P.1387

 2000年から保険医療制度上新設された回復期リハビリテーション病棟(convalescent rehabilitation ward:CRW)は,現在全国で約2,000病院,総ベッド数8万床に及んでいる。急性期治療を終了した患者に対して,その後の機能回復とADLの自立,さらに自宅復帰,復職などを目標とした入院リハビリテーション医療を提供する重要な制度的枠組みである。CRWはわが国の医療上で不可欠なシステムとなっている。本書は,そのCRW医療を担うチームを成す,リハビリテーション科専門医,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,薬剤師,医療ソーシャルワーカーなどに向けて上梓された,総論と専門的各論を俯瞰したマニュアルである。

 CRWの医療では,急性期治療を終えた時期といっても,亜急性期での転院となるケースもあり,さらに基礎疾患や併存疾患の診断と治療が多くの場合に必要とされる。そのために,各種検体検査と画像診断,超音波診断,嚥下障害に対するVE/VF検査などの検査は必須となることから,それらに対応できるハードの整備と医療が求められる。加えて,リハビリテーション医療で汎用されている各種評価法(疾患別重症度評価,運動機能や高次脳機能検査,ADL評価,栄養状態管理評価など)に習熟していること,またリハビリテーション訓練と治療の知識も必要となる。本書ではCRWの対象となる疾患と訓練の概要とともに,CRWの看護とケア,栄養管理,薬剤管理,合併症管理,退院後のリハビリテーション医療を継続させていく準備などについて網羅されている。さらに,多職種がそれぞれの専門性を存分に発揮できるよう,チーム医療としてのアプローチ方法についても言及されている。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1315 - P.1315

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1316 - P.1316

投稿論文査読者 フリーアクセス

ページ範囲:P.1389 - P.1389

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1393 - P.1393

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.1394 - P.1394

 「2040年問題」という深刻な課題がある。2025年には,団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達し,医療や介護の必要性が急増すると予測されているが,さらに2040年には,65歳以上の高齢者の人口が最大になるとされる。

 2018年5月に政府が発表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」によると,医療や介護,年金などの社会保障給付費が190兆円,2018年の1.6倍になると予測されている。2040年には,高齢化により世界的に見てもパーキンソン病患者が激増すると予測されているように1),疾患の構成にも大きな影響が生じ,認知症,脳血管障害,神経変性疾患を患う高齢者はさらに増加するだろう。いまから20年後,日本の医療や社会は維持できるのだろうか。医療による対策として重要なのは,健康寿命を伸ばし,要介護率を減らすことである。これはまさに認知症,脳血管障害,神経変性疾患,転倒・骨折・運動器障害の進行を抑制し予防することであり,脳神経内科医の果たす責任はより重いものとなる。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら