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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩72巻3号

2020年03月発行

雑誌目次

特集 でこぼこの脳の中でおしくらまんじゅうする脳機能

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ページ範囲:P.185 - P.185

特集の意図

脳の中ではさまざまな機能がひしめき合っていて,なんらかのきっかけである機能が失われるとその部分に他の機能がせり出してくることがあり,この現象を河村は「おしくらまんじゅう仮説」として捉える。本特集ではこの仮説を切り口に,脳損傷やADHDの経験者に自身を語ってもらった。また,神経科学者・池谷裕二氏と河村 満氏の対談を収録。脳機能から言語,時間,さらにはダイバーシティにまで話が展開していく。誰もが持つ「でこぼこの脳」で何が起きているのか,「正常と異常」「障害と特性」という二元論に一石を投じる。

【対談】誰もが「でこぼこの脳」を持っている

著者: 池谷裕二 ,   河村満

ページ範囲:P.187 - P.192

ある機能が失われると,他の機能が飛び出してくる

河村 今月号の特集は「でこぼこの脳がおしくらまんじゅうする脳機能」というテーマです。池谷先生とは新学術領域研究「こころの時間学—現在・過去・未来の起源を求めて」「時間生成学—時を生み出すこころの仕組み」でご一緒している縁があります。さまざまな脳研究のアイデアをお持ちの池谷先生と,本日はいろいろとお話しできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

池谷 よろしくお願いいたします。

せめぎ合う脳機能—サヴァン症候群と「おしくらまんじゅう仮説」

著者: 河村満 ,   花塚優貴 ,   緑川晶

ページ範囲:P.193 - P.201

サヴァン症候群の検討から,背景にあるせめぎ合う脳機能,すなわち「おしくらまんじゅう仮説」について述べた。まずサヴァン的能力は,人以外の動物にも見られることを示した。次に,サヴァン症候群の3つのタイプ(自閉症サヴァン症候群,獲得性サヴァン症候群,TMSサヴァン症候群)について述べ,それぞれの特徴を示し,「おしくらまんじゅう仮説」の機能図を提示した。

脳損傷からの回復

著者: 関啓子

ページ範囲:P.203 - P.213

筆者は失語症や半側空間無視などの高次脳機能障害の臨床と研究を37年間続けてきた言語聴覚士である。神戸大学で高次脳機能障害学を教えていた2009年7月,任地神戸市内で心原性脳梗塞に襲われ,左片麻痺と専門領域の多様な高次脳機能障害を抱えることになった。その後,知識のあるリハビリテーション専門家の当事者(「当事者セラピスト」)として自分の障害に対応したので,現時点では当初の問題点のうち,利き手である左手の麻痺以外は消失している。本論は発症からの筆者の回復物語である。大きな特徴として,算盤の達人として発症前に得意としていた数字課題(計算,数唱)に関する脳内情報処理過程のfMRI研究を述べた。

ADHDがあってもQOLを高める方法

著者: 高山恵子

ページ範囲:P.215 - P.225

注意欠如・多動性障害(ADHD)の特性が自己形成にどう影響し,どのような支援者の関わり方が本人の自己形成に望ましいかについて検討した。過剰適応の防止,失敗後のレジリエンスが重要であり,二次障害を防ぎつつ,ADHDの特性を社会で活用することが望まれる。「環境によって健康状態も,障害のレベルも変わる」という考え方を示したWHOのICF(国際生活機能分類)のモデルを紹介し,これを踏まえた家族支援の重要性を述べた。

斎藤茂吉の病跡

著者: 菊池雷太

ページ範囲:P.227 - P.238

斎藤茂吉は1882年山形県に生まれた。高等小学校卒業後,跡取りとして斎藤家へ養子に入る。学生時代から歌の創作活動を始め,医学部を卒業後間もなく代表作『赤光』を刊行した。欧州に留学し,「麻痺性癡呆者の脳カルテ」をまとめたのち帰国する。一方,妻てる子は茂吉にとっては悪妻であったかもしれないが,子供たちにとっては最愛の母であった。茂吉がてる子を悪妻にしていった可能性があるため,茂吉の病跡をここに記す。

総説

腸内細菌と認知機能

著者: 佐治直樹

ページ範囲:P.241 - P.250

腸内細菌はさまざまな疾患リスクになるが,認知症との関連は未解明であった。そこで,筆者の所属するもの忘れ外来の患者を対象に,認知機能検査,頭部MRIなどに加え採便検体を収集・腸内細菌を解析する観察研究を実施した。採便検体から細菌由来の混合DNAを抽出し細菌叢を網羅的に解析した。多変量解析の結果,腸内細菌は認知症と強く関連した。横断調査のため因果関係は未解明であるが,今後の研究展開が期待される。

頸原性頭痛の臨床

著者: 下畑敬子 ,   下畑享良

ページ範囲:P.251 - P.258

頸原性頭痛は頸部疾患を原因とする,原則的には片側性の非拍動性頭痛を呈する症候群であり,慢性頭痛の15〜20%を占める。頸部より始まり,後頭部から前頭部,眼窩周囲に放散し,患側の頸肩腕痛を伴う。三叉神経脊髄路尾側亜核で,上位頸神経が三叉神経と収束することが関与すると考えられているが,この説では説明できない中下位頸椎疾患による頭痛も多数報告され,これらが新たな病型である可能性を提唱した。薬物に対する治療抵抗例も多く,複数の治療を組み合わせた集学的治療アプローチが必要である。

神経画像アトラス

未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術施行中に造影剤脳症を呈した1例

著者: 千田大樹 ,   松川東俊 ,   内田和孝 ,   金城典人 ,   長尾洋一郎 ,   吉村紳一

ページ範囲:P.260 - P.261

Ⅰ.症例提示

〈症 例〉 71歳女性,身長149cm,体重45.5kg。

 既往歴 高血圧。

学会印象記

2019 AANEM Annual Meeting—66th American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine Annual Meeting(2019年10月16〜19日,オースティン)

著者: 北國圭一

ページ範囲:P.262 - P.264

はじめに

 2019年10月16〜19日までの4日間,米国テキサス州のオースティンにて開催された第66回米国神経筋電気診断学会(American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine:AANEM)学術集会に参加してまいりました。AANEMは前身を米国電気診断学会(AAEM)と言いましたが,2004年からNeuromuscularを学会名に加え,電気診断のみならず神経筋疾患全般を対象とするという立場をとっています。このため学会プログラムには電気診断の基礎・応用という日常診療にフォーカスを絞ったものから,神経筋疾患全般の最新の研究・治療というホットトピックスまでが幅広くカバーされています。私が所属する帝京大学のグループからは,関連施設の医師も含め毎年数名が参加しており,今回は6名での参加となりました(写真1)。会場はオースティンのダウンタウンにあるJWマリオット・オースティンホテルでした。

連載 臨床で役立つ末梢神経病理の読み方・考え方・12【最終回】

腓腹神経病理から見た鑑別診断

著者: 佐藤亮太 ,   神田隆

ページ範囲:P.265 - P.271

はじめに

 本連載では,腓腹神経病理の基本的な考え方や主要な末梢神経疾患の病理所見を解説してきた。これまで述べてきたとおり,末梢神経病理所見は末梢神経疾患を正確に診断するための1つの手段にすぎず,腓腹神経生検病理から確定診断が可能な疾患は血管炎やアミロイドーシスなどに限られる。しかしながら実際の臨床現場では,臨床データから末梢神経障害の原因がまったく想定できない症例や,複数疾患の鑑別が必要な症例に対して神経生検が施行され,神経病理所見から鑑別疾患を絞り込まなければならない症例が存在する。

 連載の最終回となる今回は,当科で行っている末梢神経病理の解析手順を紹介し,腓腹神経病理所見から見た病態の考え方を紹介する。本文中に出てくる疾患の病理所見が整理できない場合には,これまでの連載を読み返して整理していただきたい。

書評

「双極性障害 第3版 病態の理解から治療戦略まで」—加藤忠史【著】 フリーアクセス

著者: 渡邊衡一郎

ページ範囲:P.239 - P.239

 本書は,現時点における双極性障害のまさにすべてが詰まっている,と言っても過言ではない。双極性障害の歴史に始まり,疾患の概要,診断や治療戦略の立て方,さらには最新の生物学的知見による種々の病態仮説に至るまで幅広く網羅されており,引用文献だけでも813篇にのぼる。この著者の豊富な経験とこの膨大な知見に基づいた本書は,圧倒的な説得力を持っていると言えよう。

 評者がまず驚いたのは,本書の礎となる初版は1999年に発表されているのだが,これは著者が医歴11年目にして執筆したということである。当時は,まだ双極性障害に対する理解も不十分であった中,医歴11年目にしてこのような成書を完成させたことに驚きを隠せない。このことからも,著者が双極性障害研究の第一人者であることは間違いない。

「漢方処方ハンドブック」—花輪壽彦【編】 フリーアクセス

著者: 松田隆秀

ページ範囲:P.259 - P.259

 西洋医学の知恵では十分に対応できない患者さんに対し,漢方の知恵を加えることができればどれだけ素晴らしいことだろうか—私が日常診療で感じていることの1つである。これまで漢方の解説書を手にするときには,これから漢方の世界に入ることに対しての気持ちの切換えが必要であった。このような現象は私だけであろうか? 電車の中で本書を手にしてパラパラと数ページを眺めてみたが,本書に吸い込まれるように自然体で全ページを速読することとなった。漢方専門医ではない私にとって,心構えなしで目を通せる漢方解説書との初めての出合いであった。

 本書を薦める理由として,以下の点を挙げてみたい。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.183 - P.183

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.184 - P.184

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.277 - P.277

あとがき フリーアクセス

著者: 虫明元

ページ範囲:P.278 - P.278

 今回の特集は脳の働きの「おしくらまんじゅう」仮説に関連した記事である。これは獲得性のサヴァン症候群の人で,何かのきっかけで脳が障害された後,ある能力はその障害によって低下するのに,その一方で別の新たな能力が顕在化するという観察から生まれた仮説である。この仮説によれば,能力のでこぼこ状態の背景には,脳の中でさまざまな機能が普段から「おしくらまんじゅう」していて,ある能力が落ちても他の能力が今度は「おしくらまんじゅう」で表に出てくることがあるのではないか,というのである。

 ひとつ関連して思い出したことがある。障がいとは逆に,先天的に顕著に高度な知的能力を持つ「ギフテッド」と呼ばれる人がいる。しかしこれには個人差があり,能力の現れ方はしばしばバランスを欠いていて,その意味では「でこぼこ脳」の例とも考えられる。異常なほどの熱情,並外れた集中力,一般人とは一風変わった振舞いから,多動性障害,双極性障害,自閉スペクトラム症などその他の心理的障がいの徴候に似ていることもあるし,場合によってはそれらと同じである可能性も否定できないという。しばしば優れた点と劣る点はトレードオフの関係にあることも多い。能力は多様であり,その中の分布は連続的であり,スペクトルの形で表される。多くの能力をそのように捉えると,障がいか健常か,あるいは高能力かどうかも,ひとつの軸の中で人為的にラベル付けされたものでしかないということなのだろう。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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