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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩72巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

増大特集 神経疾患の診断における落とし穴—誤診を避けるために

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ページ範囲:P.284 - P.285

神経疾患の診断は難しいものが多く,診断を行ったとしても,経過を見ていく中で診断が変わることがある。神経疾患の治療薬も増えてきた現在,正確な診断を早期に行うことは極めて重要であり,誤診自体が致命的な治療の遅延を招く可能性もある。本特集では,著者の自験例を提示しながら誤診に陥りやすいポイントを示し,単なる鑑別診断の方法にとどまらず,正しい診断に到達するにはどのようにすればよいのかを解説する。

神経疾患に関する医療過誤

著者: 大平雅之

ページ範囲:P.287 - P.294

本邦における医療訴訟が実際の臨床現場に及ぼす事実上の影響が存在することは否定できず,トラブル予防のために医療訴訟を検討することは有益である。神経疾患ではくも膜下出血や血栓溶解療法が広く施行されるようになった脳梗塞,治療可能だが治療が遅れると致死的となり得る脳炎などの医療訴訟が散見される。さらにその他の疾患でも医療トラブルから訴訟に発展した事例が存在している。

意識障害

著者: 栗原智宏

ページ範囲:P.295 - P.301

意識障害をきたす疾患は多岐にわたり,生命・機能予後に直結する疾患も多い。呼吸循環動態にも影響し,時にその安定を図りながら診断を進める必要がある。迅速な鑑別と治療が必要であるが,思い込みにより鑑別診断を狭めると誤診を招く。患者から詳細な問診ができないことは医療者に不利な点で,詳細な診察と注意深い鑑別を要す。経時的に鑑別診断が変わる場合があり,継続しての診察が重要である。筆者が経験した3例を紹介する。

頭痛・めまい

著者: 清水利彦

ページ範囲:P.303 - P.309

頭痛は,日常臨床において遭遇する機会の非常に多い症状の1つである。頭痛の分類と診断は国際頭痛学会より出版されている国際頭痛分類(ICHD)に基づいて行われ,現在は2018年に出版されたICHD-3が用いられている。ICHD-3における第1部「一次性頭痛」は慢性頭痛とも呼ばれ,片頭痛,緊張型頭痛および群発頭痛などを含んでいるが,その診断に有用なバイオマーカーは現時点では存在しない。このため問診で,診断基準項目の一部の確認を逃してしまうと診断を誤ることがある。本論では,45歳男性例をもとに頭痛診療のピットフォールを示す。

脳卒中

著者: 木村浩晃

ページ範囲:P.311 - P.321

ほとんどの脳卒中の症例においてその診断までの道筋は直線的で判断に迷うことはない。しかし,脳卒中を模倣する神経症状を示す脳卒中以外の疾患(脳卒中ミミック)と脳卒中以外の疾患を示唆する非典型的な症状を示す脳卒中(脳卒中カメレオン)が存在する。2例の症例提示を行い,脳卒中ミミックと脳卒中カメレオンについて概説する。これらを同定するためには詳細な病歴聴取,包括的な神経学的診察,適切な画像診断が重要である。

認知症疾患

著者: 池田将樹

ページ範囲:P.323 - P.330

日本における高齢者人口の増加とともに認知症患者は増加の一途をたどっており,今後もその傾向は続くものと見られている。また,65歳未満で発症する若年性認知症(早期発症型認知症)についても認知症疾患全体の中では発症率が少ないものの,本人の就労困難や介護負担など社会的問題として捉えられており,新オレンジプランの施策においても主要項目の1つとして,今後の取組みの重要性が提言されている。認知症には多様な疾患が存在し,正確な診断が行われないことにより,患者の予後が悪化する可能性があり,十分に注意を払って正確な診断を行うことが必要である。また,発症初期の段階で,確定診断に到達できなくても,その後に確定診断できることもあるため,経時的な患者の病状や症候の解釈,検査データを理解して診断を進めていくことが大切である。

パーキンソン病と関連疾患

著者: 山脇健盛

ページ範囲:P.331 - P.343

パーキンソン病と,パーキンソン型多系統萎縮症(MSA-P)やパーキンソン型進行性核上性麻痺(PSP-P)との鑑別は,初期には極めて困難で,しばしば誤診される。臨床症候と画像診断を併せて検討することで,MSA-PやPSP-Pを早期に診断できる可能性がある。MSA-Pでは,拡散強調画像やT2強調画像,プロトン密度強調画像の撮像が役に立つ。PSP-Pでは,MRPIが有用である。

神経難病

著者: 田中裕三 ,   本間豊 ,   溝口功一

ページ範囲:P.345 - P.354

神経難病の中でも亜急性に進行する疾患においては,患者は時として疾患を受容できないまま人生のいろいろな選択を迫られる。そのため医師には早期に正確な診断をすることが求められる。しかし臨床の場では,疾患の全体像の中の限局した病歴,症状のみから診断を求められることがしばしばある。さらに,解釈に悩む診察・検査所見が多数提示され,その組合せによっては診断基準やガイドラインの項目を満たしてしまい,結果的に机上で疾患を成立させてしまうこともある。今回1つの例として,当科に受診した症例を参考にそれら「悩ましい」所見を挙げ,ピットフォールに陥らないよういま一度意識することを促したい。

脱髄疾患

著者: 久冨木原健二 ,   中原仁

ページ範囲:P.355 - P.370

多発性硬化症(MS)は空間的多発性および時間的多発性を呈する中枢神経系脱髄疾患である。その診断の中心は頭部/脊椎MRIであり,画像所見は特徴的である。しかしながら,単回のMRI画像や短期間での臨床経過のみではMSを診断することはしばしば難しく,鑑別すべき疾患は多岐にわたる。中枢神経系脱髄疾患の診断は,鑑別すべき疾患と,その疾患を示唆する“red flags”に留意しながら慎重に行う必要がある。

筋疾患

著者: 尾方克久

ページ範囲:P.371 - P.380

筋疾患の診断は,病変の主座が筋肉であることの確認,病態の質的診断,分子解析を含む詳細な病型診断の順で進められる。筋病理所見で見られる形態的変化と,電気生理学的検査で見られる機能的変化との連関を理解することが,筋疾患の病態解析におけるピットフォールを避けるために有用である。本稿では,炎症性筋疾患と遺伝性筋疾患との鑑別に難渋した2症例を呈示し,診断過程でのピットフォールを論じる。

末梢神経疾患

著者: 松尾欣哉 ,   古賀道明 ,   神田隆

ページ範囲:P.381 - P.386

末梢神経疾患の診断プロセスは,「解剖学的診断部位=末梢神経」を確認することからスタートする。つまり,筋力低下や感覚障害の分布,および腱反射や筋トーヌスの低下といった症候から末梢神経障害を疑い,多くの場合,末梢神経伝導検査の所見から確信を得る。しかし,脊髄疾患や筋疾患,神経筋接合部疾患,運動ニューロン疾患が,末梢神経疾患と似た症状の分布を呈することもあれば,逆に末梢神経疾患がそれらの疾患と間違われるような症候をきたすこともある。末梢神経伝導検査は情報量の多い有用な検査であるが,結果の解釈を誤れば,時に落とし穴となる。末梢神経疾患と間違いやすい疾患,間違われやすい疾患を鑑別疾患として念頭に置いて診療にあたることは,誤診に陥らないために有用である。筆者らが実際に経験した症例から,末梢神経疾患診療でのピットフォールを紹介する。

神経感染症

著者: 吉沢和朗

ページ範囲:P.387 - P.397

神経感染症は迅速な診断と治療が生命と機能の予後を左右する。軽微で非典型的な症状が先行し遷延する場合,神経内科医が診療に関わるタイミングが遅れ,診断や治療も遅れがちになる危険がある。本章では,症状が比較的軽度で,典型的な症状が出揃うのに時間がかかり,そのために診断,治療が遅れそうだった3例を提示した。

脳腫瘍

著者: 小森隆司

ページ範囲:P.399 - P.405

脳腫瘍,特にグリオーマはいわゆる希少がんに該当し,発生頻度が低い反面,種類が多く,WHOの国際分類においても,その数は140を超えている。さらに近年では,分子遺伝学的な異常が多数報告され,遺伝子診断を行わないと適切な診断が得られない事例に遭遇する機会が急速に増えてきている。中でも,組織型と遺伝型に乖離が生じる腫瘍においては,適切な遺伝子検査の選択が鍵となる。一方で,わが国では,希少がん患者の集約がなされていないうえに,脳腫瘍の遺伝子検査が保険収載されていないため,大学病院においても,適切な診断が困難な場合が少なくない。本論においては,成人における最も代表的な浸潤性グリオーマである悪性星細胞腫の分子遺伝学的な診断手順とそのピットフォールを紹介する。

画像診断

著者: 百島祐貴

ページ範囲:P.407 - P.415

神経疾患,特に脳血管障害や腫瘍の診断において画像診断は必須の検査手段であり,しばしば決定的な役割を果たす。ここでは,比較的しばしば遭遇する所見を基に,画像所見の解釈にあたっていまひとつ踏み込みが足らず,初期の診断を誤ったり,あるいは誤りそうになったりした脳や脊椎領域の症例を供覧し,同じ轍を踏むことのないよう読影上の留意点を明示した。

神経伝導検査

著者: 三澤園子

ページ範囲:P.417 - P.423

多発ニューロパチーの診断では,神経伝導検査所見が決め手となることがある。しかし,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の電気診断においては,いくつかのピットフォールがある。POEMS症候群,アミロイドーシス,抗MAG抗体ニューロパチーはCIDPと初期に診断されることがあるが,いずれの疾患もそれぞれに適した治療戦略がある。神経伝導検査所見を適切に解釈するには,注意深い診察と的確な鑑別診断の想起が重要である。

脳波

著者: 十河正弥 ,   森本耕平 ,   松本理器

ページ範囲:P.425 - P.436

日常臨床でよく使用される脳波の導出法には単極導出法,双極導出法,平均電位基準法の3種類があり,どの導出法にも長所,短所が存在し,最も優れた導出法は存在しない。脳波判読にはてんかん性放電の部位,分布に応じた適切な導出法を用いること,てんかん性放電と見誤りやすい波形を認識することが重要である。本論では通常の導出法では誤診しやすいてんかん性放電と正常亜型について症例を挙げて解説する。

総説

プリオン病研究の進歩—医原性プリオン感染について

著者: 小林篤史

ページ範囲:P.437 - P.443

本総説では,医療行為に伴ってプリオンに感染する医原性クロイツフェルト・ヤコブ病の概要と問題点を説明する。併せて,プリオン以外の感染性蛋白の医原性感染をめぐる,現在の理解と今後の課題についても紹介する。

Original Article

Body Knowledge in Children with Congenital Upper Limb Deficiency

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.445 - P.451

Background: It is advantageous to effectively develop motor functions and a deep understanding of one's body (for example, relative positions, relationships, names, and functions of body parts). It has been reported that lexical-semantic knowledge of the defective body part is diminished in children with congenital lower limb deficiencies, and the features of body knowledge in children with congenital upper limb deficiencies (ULDs) have not been clarified. This study aimed to explore how children with ULDs perceive their bodies.

Methods: Participants included six children with congenital ULDs and 14 control children, aged 5-11 years. They drew self-portraits and answered questions about the names of body parts.

Results: Children with ULDs were significantly more likely to omit hands in their self-portraits than the control children. In the verbal tests, children with ULDs had a lower rate of correct responses concerning upper limbs, arms, hands, legs, and feet than the control children.

Conclusion: Children with ULDs have diminished visuospatial body knowledge of the hands, as well as diminished lexical-semantic body knowledge of both the upper and lower limbs.

学会印象記

30th International Symposium on ALS/MND—30th International Symposium on Amyotrophic Lateral Sclerosis and Motor Neurone Disease(2019年12月4〜6日,パース)

著者: 引網亮太

ページ範囲:P.452 - P.454

はじめに

 2019年12月4〜6日にオーストラリアのパース(Perth)で開催された第30回筋萎縮性側索硬化症・運動神経疾患国際シンポジウム[30th International Symposium on ALS/MND(Amyotrophic Lateral Sclerosis and Motor Neurone Disease)]に参加しました。本学会はMND associationが主催するALSに関する学会で,発表分野は基礎科学から,遺伝子,画像,臨床まで多岐にわたります。口演は2もしくは3会場で並行して行われ,ポスターは400程度,ALSに関する最新の知見を共有できる重要な機会とあって,参加する研究者も1,000人以上と年々増加傾向にあります。

 開催都市であるパースはスワン川沿いに位置する西オーストラリア州の州都で,オーストラリア第4の都市です。また「世界で一番美しく住みやすい街」にランキングされるほど環境面でも素晴らしい街とされ,訪問時は夏季とあって日中の日差しは強かったのですが,体感温度・湿度は高くなく過ごしやすい気候でした。ただ虫にとっても過ごしやすいのか,ハエが多く顔にまとわりつくこともあり,そこは辟易する点でした。観光都市としても近年人気上昇中で,少し足を延ばせば,クオッカやペンギンなどの野生動物と海で人気のロットネスト島,石灰質から形成された奇岩が並ぶ広大な風景から荒野の墓標と呼ばれるピナクルズ,その名のとおり波のように見えるウェーブロックなどがあります。

 学会はPerth Convention and Exhibition Centreで行われました。この会場は2004年にオープンしましたが,建築費用が200億円近くと高額であったこと,その魅力的ではない外観(ソビエト時代の墓,でかい灰色のゴキブリなど散々な言われようだったようです……)から,批判を浴びる存在だったようです(写真1)。小生が拝見する限りむしろオシャレと感じましたので,自分のセンスに疑義が生じた瞬間となり,出鼻をくじかれてしまいました。ただ現在では数多くの国内・国際的なイベントが開催され,パース,西オーストラリア州に経済的価値をもたらす重要な存在となっており,2016年には年間90万人以上の来場者があったそうです。

お知らせ

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ページ範囲:P.281 - P.281

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ページ範囲:P.461 - P.461

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著者: 三村將

ページ範囲:P.462 - P.462

 毎年,春のこの時期に奈良県立医科大学で講義を担当している。今年は講義の帰路,西ノ京の薬師寺を訪れたところ,10年にも及ぶ大修理を終えた国宝の東塔の威容を目の当たりにすることができた。しかし,新型コロナウイルス感染症の猛威はこの地にまで及び,4月に予定されていた東塔の落慶法要や公開は延期になったようである。言うまでもなく,薬師寺金堂の本尊は和辻哲郎が古寺巡礼の中で「東洋美術の最高峰」と称賛した薬師如来,脇侍の日光菩薩・月光菩薩とともに薬師三尊である。薬師寺は天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒祈願のために創建したものだが,少し時代が下った東大寺大仏建立は天平の天然痘大流行を撲滅する意図があったとされる。天然痘も新型コロナと同様,もともと日本にはなく,6世紀半ばに大陸から入ってきた。考えてみれば,白鳳・天平の古から今日に至るまで,人は感染症の流行と闘い続けている。当時の天然痘から中世のペストや梅毒,最近のHIV,エボラ出血熱,SARS,MARS,そして新型コロナ。新型コロナに関しては,武漢市中心医院の若き眼科医,李文亮氏が2019年12月末にいち早くSARSに似た肺炎の存在に警鐘を鳴らしたが,当局からは不当に世間を騒がせたとして,訓戒処分を受けていた。

 さて,本号の特集は「神経疾患の診断における落とし穴—誤診を避けるために」である。新型コロナのパンデミックを例に挙げるまでもなく,新しい病気が見出される過程では誤診や診たての違いはつきものである。神経疾患も同様であり,脚気や慢性外傷性脳症の歴史からわれわれは多くのことを学ぶことができる。私自身が強い衝撃を受けたのは,1980年代の終わりにはじめて皮質基底核変性症の患者に接したときのことである。今日ではよく知られた病態ではあるが,最初に診たときはまったく診断がつかなかった。緩徐進行性の失語と失行があり,アルツハイマー病の特殊型のようにも見えたが,画像上は顕著な左右差のある脳萎縮を認め,これはむしろ血管障害ではないかと疑ったりもしていた。そんな折に当時,故・本多虔夫先生と渡辺良先生を中心に横浜市立市民病院で行っていた“New England Journal of Medicine”の“MGH Case Records”の輪読会でMGH Case 38-1985を読み,この患者はこの病気に違いないと確信した。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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