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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩72巻9号

2020年09月発行

雑誌目次

特集 皮質性小脳萎縮症へのアプローチ

フリーアクセス

ページ範囲:P.921 - P.921

特集の意図

非遺伝性小脳性運動失調症に対し用いられる「皮質性小脳萎縮症」という名称は,本来は神経病理学的診断名であり,近年,臨床的な新たな疾患概念とその診断基準が提唱されている。しかし,この病態は均一なものではなく,多様な疾患が混在する。脊髄小脳変性症における未開の領域とも言える皮質性小脳萎縮症の今後の研究や臨床に貢献するために,疾患の歴史や分類,診断基準などを整理し,病理学的な特徴や具体的な病態について解説する。

皮質性小脳萎縮症の歴史と分類,新たな診断基準

著者: 吉田邦広

ページ範囲:P.923 - P.930

「皮質性小脳萎縮症」はMarieらの「小脳皮質優位の晩発性小脳萎縮症」(1922年)が発端である。病理学的には小脳皮質-オリーブ核の限局的な変性を特徴とし,臨床的には孤発性,遅発性の比較的純粋な小脳失調症である。元来が病理所見に基づく病名であるが,病理報告は少なく,現在でも他疾患の除外により臨床的に診断される。その現状を踏まえ,運動失調症の医療基盤に関する調査研究班では「皮質性小脳萎縮症」に代わる臨床診断名として「特発性小脳失調症」を提案し,その診断基準を策定した。

孤発性小脳性運動失調症—multiple system atrophyとmono system atrophy

著者: 渡辺宏久 ,   伊藤瑞規 ,   水谷泰彰 ,   植田晃広 ,   島さゆり

ページ範囲:P.931 - P.937

孤発性小脳性運動失調症の代表的疾患は小脳性運動失調優位型多系統萎縮症(MSA-C)と皮質性小脳萎縮症である。両疾患は,αシヌクレイン病理により明瞭に異なる。しかし,MSA-Cは発症から小脳性運動失調と自律神経不全が揃うのに約2年かかり,小脳失調のみを呈する時期(mono system atrophy)は10年以上に及び得る。Mono system atrophyの理解は,早期診断と創薬開発に重要である。

皮質性小脳萎縮症の病理

著者: 古賀俊輔

ページ範囲:P.939 - P.946

皮質性小脳萎縮症は,小脳皮質と下オリーブ核に神経脱落が限局する神経変性疾患である。多系統萎縮症を除く孤発性の小脳失調症に対する臨床診断名として用いられることもあるが,本稿では自験例を通じて皮質性小脳萎縮症が純粋な小脳性運動失調以外に多様な症状を呈することを提示する。臨床像を問わず,小脳皮質と下オリーブ核に神経脱落が限局する疾患を包括的に指す病理診断名として皮質性小脳萎縮症は用いられるべきと考える。

遺伝性疾患の立場からのアプローチ

著者: 髙橋祐二

ページ範囲:P.947 - P.959

皮質性小脳萎縮症(CCA)の一部には遺伝性脊髄小脳変性症(hSCD)が混在しており,正確な診断のためには遺伝子検査が必要である。頻度の高いhSCD(トリプレットリピート病およびSCA31)のスクリーニングを行う。次世代シーケンサーを用いたパネル解析・全エクソーム解析も行われている。運動失調症の患者レジストリJ-CATがCCAの遺伝疫学解明に貢献している。今後は全ゲノム解析を含めた網羅的遺伝子解析によりCCAの解明を進めていく。

自己免疫性小脳性運動失調症からのアプローチ

著者: 吉倉延亮 ,   木村暁夫 ,   竹腰顕 ,   下畑享良

ページ範囲:P.961 - P.967

本邦から提唱された特発性小脳失調症(IDCA)には,多様な疾患が含まれる可能性がある。われわれはIDCAと診断された患者の一部の血清から抗小脳抗体が検出され,IDCAの中に自己免疫性小脳性運動失調症が含まれていることを確認した。今後,治療が困難と考えられてきた患者の中から,抗小脳抗体陽性例を見出し,免疫療法の有効性を確認する必要がある。

特発性小脳失調症との鑑別を要する二次性小脳性運動失調症

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.969 - P.972

従来,皮質性小脳萎縮症と称されてきた疾患は病理学的概念であり,近年は特発性小脳失調症(IDCA)の名称が提唱されている。IDCAは孤発性脊髄小脳変性症の中で多系統萎縮症ではないもの,という受動的な定義により診断がなされる。IDCAには特異的診断マーカーが存在しないことから,多系統萎縮症,遺伝性小脳失調症のほかに,二次性小脳性運動失調症である免疫介在性小脳障害(橋本脳症,グルテン失調症,GAD抗体陽性小脳失調症,傍腫瘍性小脳炎),アルコール性・薬物性小脳萎縮症などの多くの除外診断が必要となる。二次性小脳性運動失調症の多くは治療可能であり,系統的な診断プロセスが求められる。本稿では本邦における二次性小脳性運動失調症の頻度と代表的な疾患について概説する。

総説

進行性多巣性白質脳症(PML)のMRI画像診断—MRIが捉えた,伸展する脱髄病変の病理

著者: 宍戸-原由紀子 ,   鹿戸将史

ページ範囲:P.973 - P.986

薬剤関連進行性多巣性白質脳症(PML)では,早期診断・早期治療で良好な予後を示す症例があり,MRIによる初期病変の検出が重要である。PML病変は,A)中心前回・前頭回を含む大脳病変,B)深部灰白質・脳幹を含む縦走病変,C)小脳・脳幹病変(テント下病変),D)深部白質の点状・粟粒状病変の4パターンに分類され,神経線維に沿った病巣伸展が特徴である。初期病巣の出現部位と伸展方向で決まるPML病変の形成機序を理解することは,早期画像診断に役立つと考える。

症例報告

MRIで明瞭な信号異常を呈した腕神経叢病変にPET/CTではFDG集積が軽微であったため,炎症性神経障害との鑑別が困難であった神経リンパ腫症の1例

著者: 島智秋 ,   辻野彰

ページ範囲:P.987 - P.992

症例は60歳の女性である。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しR-CHOP療法を施行し寛解したが,その9カ月後から左上肢のしびれと筋力低下が出現した。頸部MRIで左腕神経叢は明瞭な信号変化を呈したが,PET/CTで同部位へのFDG集積は軽微であったため,炎症性神経障害との鑑別が困難であった。本例と同様な画像所見を呈する神経リンパ腫症例は過去の報告が少ないため,症例の詳細を報告する。

経鼻胃管症候群を呈したパーキンソン病の2症例

著者: 古澤恭平 ,   杉江正行 ,   大内崇弘 ,   伊藤まり ,   水越元気 ,   矢﨑俊二

ページ範囲:P.993 - P.997

経鼻胃管中に両側声帯麻痺をきたしたパーキンソン病(PD)の2例を経験した。両例とも胃管挿入後に吸気性の喘鳴と声帯外転麻痺をきたし,抜去により症状が寛解したため経鼻胃管症候群(NGTS)と診断した。本症は,経鼻胃管挿入後に咽頭痛と両側声帯麻痺をきたす稀な症候群であるが,時に致死的経過をたどる。その発症早期の徴候として咽頭痛が重要とされるが,進行期のPDでは自覚症状を確認することは困難と思われる。われわれはPDにNGTSを合併した既報告例を検索し,吸気性喘鳴がNGTSの診断における有用な他覚的徴候になるものと推察した。

学会印象記

AANP 2020—96th Annual Meeting of the American Association of Neuropathologists(2020年6月11〜14日,バーチャルミーティング)

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.999 - P.1001

はじめに

 青い海と青い空,やっぱり来てよかったと思っている自分を想像しながら,この原稿を書いています。第96回の米国神経病理学会は,2020年6月11〜14日にカリフォルニア州モントレー湾の側,ハイアットリージェンシー・モントレー・ホテルアンドスパで開催される予定でした。時計を見れば,深夜3時。時差ボケで目が覚めているわけではなく,病院の自分の部屋でプログラムの休み時間にこの原稿を書いています。梅雨入りしたうえに,気温も湿度も上がってたいへん不快な夜中です。言うまでもなく,今回の学会は完全なバーチャルミーティングとして開催されました。

 日程を変更せずにバーチャルでの開催を決めた学会の決断力と準備力はすごいですね。神経病理は残念ながら日本ではマイナーですので,この学会に参加する日本人は毎年少なく,周りは米国の神経病理医で占められる学会です。私は,留学した翌年の2000年に初めて参加しました。それ以来欠かさず参加してきたので,米国に行けなかった本年はたいへん残念です。

書評

「《ジェネラリストBOOKS》薬の上手な出し方&やめ方」—矢吹 拓【編】 フリーアクセス

著者: 平井みどり

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 この時期(2020年5月)だから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の話から入ろう。レムデシビルが認可された,ファビピラビル(アビガン®)も,ノーベル賞受賞のイベルメクチンも,とさながら治療(の可能性がある)薬祭りの様相で,薬さえ決まれば大丈夫と政治家の方々は思っておられるようだが,感染症の専門家の話を聞いているのかしらと疑問に思ってしまう。頭痛にバファリンじゃないけれど,コロナにアビガンですっきり〜という訳には参りません。さほどに,一般の方々の「薬」に対するイリュージョンは大きい訳である。

 薬の「上手な出し方」は誰しも知りたいところであろうが,「上手なやめ方」について,興味を持ち始められたのはごく最近である。処方を見なおして,不要な薬を減らそうと提案したところ,「必要だから処方してるんだ! やめろとは何事だ!」と激怒されたことがある。それもつい最近のこと。前医の処方には手を付けない,という不文律(?)も,そういうところから発しているのだろう。

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ページ範囲:P.919 - P.919

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ページ範囲:P.920 - P.920

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1009 - P.1009

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 新型コロナウイルス感染症の行き先はまったく見えない状況が続いています。この原稿を書いている7月末の段階で国内の感染者はじりじりと増加の一途をたどり,国内外の学術集会はリアル開催を取りやめてwebでの発信に続々と切り替えています。本誌をお読みの先生方も日夜大変なご努力を重ねておられることと存じます。重症患者を治療する・救命するというだけではなく,ご自身やご家族の健康にも並行して留意しなければならないという特殊状況はいつまで続くのでしょうか。また,この新型コロナウイルス感染症は,神経系に高頻度かつ広範に障害をもたらすことが知られるようになっており,新たな文献が毎日のように次々と出版されています。本誌も緊急特集として,新型コロナウイルス感染症と神経系を扱った号を10月発刊します。この特集号がいまそこにある課題としてベストセラーになるのか,こんなこともあったよねと過去の話題になるのか,後者であることを切に願います。編集主幹として雑誌がよく売れることは嬉しいことではありますが。

 私個人のことを書きますと,日常業務に加えて病院内や学生教育でのコロナ対策にかなりの時間と労力を割く毎日です。反面,国内外の出張が事実上0となり,週末はほとんどステイホームしています。この10年余りの状況とは大きな様変わりです。連日連夜臨床現場でコロナ感染症と闘っている先生方には大変申し訳ないのですが,これまで衝動買いして積んでおいたセット物のCDをゆっくり聴く時間が持てて幸せな気分になっています。ついこの前もパイヤール室内管弦楽団の133枚組というものを購入して放置していました。私が学生時代に非常に人気のあった演奏団体で,最近の古楽の新しい波には乗り遅れた旧世代に属するグループですが,1枚ずつ,至福の時を味わっています。価格は1万5千円あまり,CD1枚当たり110円強というとんでもない価格設定で,パイヤールさんに申し訳ないような気分ですが,LP時代に貧乏学生には手が出なかったこのような宝が簡単に手に入る,とてもよい時代になったと実感しています。私は旧世代に属する人間なので音楽はCDで,という形にいまでも固執していますが,医局の若い先生などは,昔の演奏はネットでほとんど無償の形で手に入れているようです。若者の所得が少ない,貧困だとメディアは書き立てますが,彼らは私の世代よりもずっと豊かな精神生活を享受しているようですね。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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