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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 Neuro-Oncology

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ページ範囲:P.3 - P.3

がんにおける治療法の発展は,目を見張るものがある。新しい治療法の開発も進み,生命的な予後も大きく変わりつつある。そういったなかで,免疫チェックポイント阻害薬など,まったく新しい薬物療法も導入され,いままでになかったタイプの中枢神経系の障害や末梢神経・筋障害といった副作用が生じることも明らかになっている。欧米では,脳神経内科医が“Neuro-Oncology”という形でがん治療に関わるが,わが国ではそういった関わりは限られている。今後,脳神経内科医にとって関与する機会の多くなるがん医療への興味を持っていただくための特集とした。

転移性脳腫瘍

著者: 白畑充章 ,   三島一彦

ページ範囲:P.5 - P.11

転移性脳腫瘍は癌や肉腫などの悪性腫瘍が脳に転移した病態である。脳転移は容易に神経機能の悪化を招き,患者のQOLを著しく低下させる。癌の治療成績の向上に伴い,脳転移のコントロールは一段と重要性が増している。近年の放射線療法や薬物療法の発展は転移性脳腫瘍の治療にパラダイムシフトを起こしつつある。本稿では近年のさまざまな治療の進歩によって転換期にある転移性脳腫瘍の臨床像について概説する。

傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic Neurological Syndrome)

著者: 古和久朋

ページ範囲:P.13 - P.20

傍腫瘍性神経障害(PNS)は腫瘍の遠隔効果により生じる神経筋障害であり,抗神経抗体が出現することから主に免疫介在性の機序により発症するものと推定されている。既に症候群として確立した古典的PNSに加えて,細胞表面上に存在するチャネルなどの膜蛋白の抗原を標的とするPNSの報告も増えつつある。PNSは関連する腫瘍に先行することがあり,PNSを鑑別に挙げることは腫瘍の早期発見,早期介入を可能性にするものであり,臨床的に重要である。

抗がん剤と神経系

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.21 - P.33

本論文では,伝統的な細胞毒性による化学療法や生物学的製剤および分子標的薬を含む抗がん剤治療における末梢および中枢神経系毒性の臨床的様相と部分的に治療について概観する。新規の免疫治療[免疫チェックポイント阻害薬とキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)治療]には触れない。化学療法の神経学的合併症は患者に強い障害を起こすが,抗がん治療を受ける患者の生存期間が長くなり,複雑なレジメンを長い治療期間にわたって受けることから,その頻度は高くなってきている。責任薬剤の中止や用量の見直しによってさらなるあるいは永続的な神経障害を避けうるので,脳神経内科医を含む臨床医は治療関連の神経毒性についてよく知るべきである。

免疫チェックポイント阻害薬による神経関連有害事象—新たな疾患概念の提唱

著者: 関守信 ,   鈴木重明

ページ範囲:P.35 - P.46

免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)による神経筋関連有害事象は稀ではあるものの時に重篤化することがあり,適切な診断,管理が重要である。髄膜脳炎,多発神経根炎,重症筋無力症,筋炎が特に重要で,これらが免疫関連有害事象として発症した場合,臨床像,経過,検査所見,治療が通常と異なることがあり,正しい理解が求められる。ICIsを中止し,ステロイド治療を行うことが推奨されており,反応性は良好である。

CAR-T細胞療法に関連する中枢神経系合併症

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.47 - P.58

キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)は,日本においてもCD19陽性B細胞性急性リンパ芽球性白血病とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫への適応が承認された。CAR-T投与では,サイトカイン放出症候群や,脳症,意識障害,失語,痙攣,運動麻痺,脳浮腫などさまざまな中枢神経合併症(CRES/ICANS)が生じ致命的ですらある。ここではCAR-T細胞療法の神経系合併症の全体像をまとめる。

総説

細胞膜蛋白質のプロテオタイピングに基づく中枢関門の輸送機能と破綻の分子機構

著者: 寺崎哲也

ページ範囲:P.59 - P.78

82%の脳脊髄液がくも膜下腔に存在するが,くも膜上皮細胞の働きは不明であった。この細胞は血液脳関門と同じ薬物排出輸送担体と血液脳関門や血液脳脊髄液関門や血液脊髄関門と異なる種々の輸送担体を大量に発現する。輸送活性は大きく,血液くも膜関門は極めて重要な役割を果たす。定量プロテオミクスの手法を用いて4つの中枢関門の輸送特性と密着結合の違いを概説する。さらに,病態時の関門破綻の分子機構に関する仮説を紹介する。

原著

マンガの文脈による心的状態を反映した脳活動

著者: 八木橋正泰 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.79 - P.87

文脈の効果は言語に限らず視覚でも生じると考えられるが,関与する脳領域は不明である。本研究では,サイレントマンガを用いて視覚刺激のみで誘起される心的状態に着目した。見開きの状態で文脈を保ちながら読む際に両側の視覚野と小脳で有意な活動が見られ,文脈を損なうページの単独提示との直接比較では,活動部位が半側空間無視の責任病巣とほぼ一致した。以上の結果は,高次視覚情報処理が文脈によって促進されることを示唆する。

症例報告

家族性地中海熱に併発し,頭蓋内出血で発症し,その後自然消退したレンズ核線条体動脈瘤の1例

著者: 中崎明日香 ,   杉山拓 ,   舘澤諒大 ,   河野洋之 ,   森島穣 ,   長内俊也 ,   中山若樹 ,   数又研

ページ範囲:P.89 - P.93

家族性地中海熱に併発した,レンズ核線条体動脈瘤の稀な1例を経験した。本症に対する外科的治療介入の必要性に関しても文献的考察を加え報告する。症例は家族性地中海熱にて加療中の45歳女性であり,突然の頭痛,めまいを発症し,右尾状核と側脳室内に出血を認めた。脳血管精査で内側レンズ核線条体動脈遠位部に紡錘状動脈瘤を認め,出血源と考えられた。慎重な経過観察にて,動脈瘤は経時的に縮小し,消退が確認された。

連載 臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて【新連載】

緒言

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.94 - P.96

 顧みると,筆者が医学部(旧制)卒業後,当時の制度で1年間のインターンを終えて,冲中内科(東京大学第三内科)に入局したのは1955年であった。病棟での内科学全般について2年間の実地教育(いわゆる病棟勤務)を受けた後,冲中重雄教授から学位研究の課題として「筋萎縮性側索硬化症」が与えられた(1957年)。病棟担当と並行して研究室での研究に取り組むとともに,さらに週1回の「神経外来」に加わり,神経疾患に広く接するようになった。「若年性一側上肢筋萎縮症(のちの平山病)」を診る機会を得たのはこの神経外来であった。

 しかし,この頃,日本には「神経学会」はなかった。「神経」に関する学会発表はもっぱら「日本精神神経学会」であった。それには歴史的背景があった。過去において,実は「日本神経学会」が呉秀三(精神科),三浦謹之助(内科)によって設立されたことがあった(1902年)。しかし,その後「精神病」も神経器官の機能障害であるから「精神病」と「神経病」の境はないとして,精神医学の会員が増加し,「日本神経学会」の主流を占めるようになり,1935年に学会の名称が「日本精神神経学会」へと変更されるに至った。この影響は大きく,学会内における「神経学」の存在が徐々に稀薄になり,神経学(臨床,研究)に携わる「内科系」の人々から「神経学」を主体とする学会の設立を要望する気運が高まっていった。上に述べたように筆者が冲中教授から「神経学」の研究を指示されたのがこの頃であった(1957年)。

書評

「《ジェネラリストBOOKS》子どものけいれん&頭痛診療」—二木良夫【著】 フリーアクセス

著者: 児玉和彦

ページ範囲:P.97 - P.97

 私は,子どもの診療が得意な総合診療医として,小児診療と総合診療の両分野でお仕事をさせていただいています。数年前,小児の稀な疾患についての症例カンファレンスをする機会をいただいたときに,最初の数分で見事な推論から一発診断をしたのが二木良夫先生でした。本書は,「けいれん」と 「頭痛」 について,米国小児神経科専門医でもある二木先生のあふれんばかりの情熱と,整理された知識と経験が詰め込まれた良書です。

 子どもの「けいれん」は,小児科医にとってはコモンディジーズですが,総合診療医としては対処に悩むテーマです。熱性けいれんの対応に自信を持つには,本書にあるフローチャートを見るとよいです。熱性けいれんの子どもを持つ親御さんからのさまざまな質問に答えるためのエビデンスに基づいた説明例が記載されているのも,初学者には親切です。

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ページ範囲:P.1 - P.1

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.2 - P.2

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.103 - P.103

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.104 - P.104

 2020年11月23日に私にとって大変思い出の深い患者さんが亡くなった。享年62歳,胆管癌であった。彼女は私が米国留学から帰国して東京歯科大学市川総合病院に勤務していた頃,横浜市立市民病院の田辺英先生からの紹介で,精査のために転入院となった方である。30代半ばで発症したヘルペス脳炎で,急性期を過ぎたのち,比較的軽度の前向健忘とともに著明な逆向性健忘が残存していた。この患者さんの症例報告を本誌の前身である『脳と神経』に報告している1)。主なポイントは,顕著な逆向性健忘を呈してはいたが,その中核は極めて個人的なエピソードである自叙伝的記憶の障害であり,一方で社会的出来事(ニュースなど)や個人的意味記憶(担任の先生の名前など)は比較的保たれていた点である。同じく著しい逆向性健忘を示すアルコール性コルサコフ症候群とはパターンが違っていて,これを右海馬の病変に伴う過去の事象に関する視覚情報処理や視覚イメージ想起の低下と関連付けて考えた。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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