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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻10号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 中枢神経・末梢神経の悪性リンパ腫

フリーアクセス

ページ範囲:P.1065 - P.1065

2014年に本誌で「神経系の悪性リンパ腫update」の特集を行ってから既に7年の時が経過した。いまもなお診断に苦慮することの多い疾患ではあるものの,この間に画像検査や遺伝子解析をはじめとする診断技術の発展があり,また,鑑別診断に有用な多くの所見が蓄積されてきている。治療面では,抗体医薬やBTK阻害薬といった新薬の開発に伴いレジメンが追加されるなど選択肢が広がっており,患者属性に応じた介入が可能となった。本特集をとおして中枢神経・末梢神経のリンパ腫に関する知識をアップデートし,脳神経内科医としてどのようにこの難治性疾患に対峙していくかを考える基礎をつくっていただきたい。

中枢神経系原発悪性リンパ腫—脳神経内科医はどのように向かい合うべきか

著者: 西澤正豊

ページ範囲:P.1067 - P.1074

中枢神経系原発悪性リンパ腫に脳神経内科医はいかに向かい合うべきか,前回の本誌特集からの7年間を踏まえて再考する。診療面で最大の進歩は,リキッドバイオプシー試料を用いたゲノム解析手法の進歩にあり,リアルタイムで腫瘍細胞の動態や治療反応性の解析,新規クローンの早期発見を可能としてきた。しかし,脳神経内科医の役割は依然,診断・治療に直接関わることではなく,早期診断して専門治療チームに委ねることにある。

がん診療における脳神経内科医の役割

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.1075 - P.1078

がん治療における脳神経内科医の役割は重要である。Neuro-onclogyは,神経系の原発性腫瘍だけでなく,がんに関連する神経症状,治療に伴う神経症状などに広く関わる新しい分野である。日本においても,脳神経内科医が積極的にがん診療に関わるべきであり,Neuro-oncologistとしての脳神経内科医の育成が必要である。がん患者数の増加とともに,その重要性もますます増えると思われる。

中枢神経系原発悪性リンパ腫—画像診断のポイント

著者: 太田義明

ページ範囲:P.1079 - P.1086

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)は,脳腫瘍の1〜5%を占めており,CTやMRIなどの従来の画像診断で病変を特定することができる。しかし,グリオーマ,感染症(進行性多巣性白質脳症,トキソプラズマ症),脱髄性疾患(多発性硬化症)などの他の疾患で見られるような非典型的な所見を示す病変の場合,鑑別診断は困難となる。本論では,従来型のCTやMRIとPET-CTを含むadvanced imagingからPCNSLを他の疾患と区別するための画像所見や,予後因子,治療効果,遺伝子変異などの他の特徴を検出するのに役立つ所見を提示する。

血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)

著者: 小田真司 ,   髙尾昌樹

ページ範囲:P.1087 - P.1097

血管内大細胞型B細胞リンパ腫は節外性B細胞リンパ腫の一型であり,腫瘍細胞が細小血管内で選択的に増殖することを特徴とする疾患である。多様かつ非特異的な症状を呈することから診断に難渋することが多く,いかに本疾患を鑑別に挙げてランダム皮膚生検をはじめとする組織診断を行うかが診断のカギとなる。治療の進歩により早期診断の重要性が高まっているが,病態や機序にはいまだ不明な点も多く,今後の知見の蓄積がまたれる。

末梢神経・筋の悪性リンパ腫

著者: 佐藤亮太

ページ範囲:P.1099 - P.1106

病理診断がリンパ腫の診断の主軸をなすことには変わりないが,遺伝子解析が重要視されつつある。末梢神経・筋のリンパ腫例で臨床データと遺伝子プロファイルの関係を明らかにしていくことができれば,病理診断が困難な症例であっても,遺伝子プロファイルに基づいた診断が可能となる。本論では,リンパ腫浸潤の病態,臨床症状,検査所見について概説し,リンパ腫診断に有用な検査や新たな遺伝子解析の手法について解説する。

中枢神経系原発悪性リンパ腫の治療—2019ガイドラインから

著者: 佐々木重嘉 ,   永根基雄

ページ範囲:P.1107 - P.1114

中枢神経系原発悪性リンパ腫の治療として,まず腫瘍の縮小を目的とする寛解導入療法が行われ,その後再発予防を目的とする地固め療法が行われる。治療抵抗例や再発時は二次治療が行われる。寛解導入療法の標準治療はメトトレキサート基盤多剤併用化学療法であり,放射線治療は高齢者を中心に回避や減量が検討される。保険適用下に使用可能となったチラブルチニブや自家幹細胞移植支援大量化学療法の位置付けについて,引き続き検討が望まれる。

総説

三次元組織透明化・染色による神経科学研究の現状と未来への展望

著者: 上田泰己

ページ範囲:P.1117 - P.1137

最先端の組織透明化法は,哺乳類の個々の臓器や体全体のインタクトな組織の細胞解像度の情報を提供する。組織透明化法に光シート顕微鏡による高速撮像と画像解析の自動化とが組み合わさることで,組織検査のコストが削減され,スピードが数桁向上する。さらに,組織透明化の化学は,全臓器の抗体標識を可能にし,厚いヒト組織にも適用可能にする。強力な透明化,標識,イメージング,データ解析を組み合わせることで,科学者たちは,複雑な哺乳類の体や大型のヒト標本の構造的,機能的な細胞情報を加速度的に抽出している。さらに,テラバイト規模のイメージングデータの急速な生成は,大規模データの解析と管理の課題に取り組む効率的な計算アプローチへの高い需要を生み出す。本総説では,組織透明化法が哺乳類の体やヒト標本の偏りのないシステムレベルの俯瞰像をどのようにして提供し得るかを議論し,組織透明化のヒトの神経科学への応用における現在の課題と将来の展望について議論する。

身体症状症および類縁病態の概念と治療戦略

著者: 眞島裕樹

ページ範囲:P.1139 - P.1147

身体症状へのとらわれの疾患である身体症状症,および類縁病態の背景には,さまざまな心理的機序が存在し,治療には精神科的視点が必要である。しかし,当該患者は非精神科を受診し,精神科への紹介は工夫が必要である。紹介が難しい場合であっても,支持的な対応や治療の継続性は重要である。薬物療法の効果は限定的であり,効果的とされる認知行動療法や精神分析的精神療法の適応も容易ではないが,森田療法は比較的施行しやすい。

症例報告

頭蓋外で起始した後下小脳動脈が頭蓋外窓形成部未破裂囊状脳動脈瘤を伴った1例

著者: 太田浩嗣 ,   近藤弘久 ,   梅村武部 ,   山本淳考

ページ範囲:P.1149 - P.1154

後下小脳動脈遠位部の窓形成に脳動脈瘤を認めたものは稀で,脳動脈瘤および後下小脳動脈起始部が頭蓋外に位置していたものは,過去に報告はなかった。症例は71歳女性。突発性難聴の精査目的で,MRI上後下小脳動脈窓形成部に囊状未破裂脳動脈瘤を認めたが,サイズも小さく,無症候性のため経過観察している。後下小脳動脈が窓形成を含め特異的な走行を呈したことから,脳動脈瘤の成因として血行力学的ストレスとともに,血管形成不全の関与も考えられた。

現代神経科学の源流・15

ノーム・チョムスキー【Ⅲ】

著者: 福井直樹 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1155 - P.1162

構造主義との決別

酒井 さて,ハーバード大学に移ったチョムスキーは,まず何に着手したのでしょう。

福井 その同じ年に,修士論文の最後の改訂をやっています。その改訂では,バー=ヒレル(Yehoshua Bar-Hillel;1915-1975)やハレに会ってヒントを得ました。昔のヘブライ語には現れているけれども,現在のヘブライ語には現れていないものを,「基底形式」という抽象的な形式で設定すれば,現在のヘブライ語の形をうまく説明できるのではないか,というのが『現代ヘブライ語の形態音素論』(1951)(以下,『形態音素論』)の内容です。それはまさに,チョムスキーが10歳の頃に思いついた規則性と同じだった。歴史的な変化を,抽象的な派生過程として現代ヘブライ語の文法に組み入れることによって,最後の改訂が一気にうまくいったわけです。

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・2

現代の指導医に求められる「支援者的」臨床教育アプローチ

著者: 西城卓也 ,   今福輪太郎

ページ範囲:P.1164 - P.1167

はじめに

 2020年に始まる新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)のパンデミックは,医学教育の歴史にとってもターニングポイントになり得る衝撃的な出来事です。医療における教育の従来のアプローチは,大きく揺さぶりをかけられICTによる代替・増強・変容・再定義(SAMRモデル)1)により適応することを余儀なくされています。わが国におけるe-learningの導入の必要性は以前から議論されていましたが,いまだかつてこのレベルまで注目されることはありませんでした。今後の5年で,過去20年とは比較にならないほどの大きな変容が起こるでしょう。本稿では,現代の臨床教育に必要な経験学習サイクルの理論と具体例,それに加えてPost/with COVID-19時代に求められる経験学習サイクルを可能な限り占うことを試みたいと思います。

スペシャリストが薦める読んでおくべき名著—ニューロサイエンスを志す人のために・2

統合失調症のモデル動物で検証すべきこの疾患の本質とは何か

著者: 加藤忠史

ページ範囲:P.1168 - P.1169

 神経科学領域では,最近,精神疾患の動物モデルの研究が盛んになってきた。

 最初のブレークスルーとなったのは,おそらく自閉症のモデルマウス(Nakatani et al, Cell, 2009)だったと思われる。このモデルマウスにおいては,自閉症で最も多く見られる染色体異常である15q11-13をマウスで再現したうえ,行動解析により,当時自閉症の3主徴とされていた,「社会行動の異常」「こだわり」「コミュニケーションの障害」を示した点が画期的であった。現在では,疾患名は自閉スペクトラム症となり,診断基準のまとめ方も,「社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における障害」および「限定された興味」の2つに変わったが,このモデルが疾患の本質を捉えていたことは間違いなく,自閉症という,それまで動物で再現することは難しいと思われた疾患のモデルマウスの作製が可能であるということを示した点で意義があった。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・8

上位運動ニューロンは錐体路のみではない—皮質脊髄路,皮質核路(迷行線維)の理解を深める

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.1170 - P.1171

 先ず,大綱から述べよう。(1)錐体路pyramidal tractとは延髄の錐体pyramisをまとまって通る神経線維群を指す。(2)皮質脊髄路cortico-spinal tractとは大脳運動皮質から脊髄前角へ向う運動神経系の線維集団で,中心前回の上・中部と中心傍小葉前部(即ち四肢運動領域)から脊髄へ下行する運動神経線維群である。(3)皮質核路cortico-nuclear tractの核とは脳神経核を意味するもので(但しⅠ,Ⅱ脳神経核は特異で,これを除く),Ⅲ以下の脳神経核に向う(即ち脊髄に向わない)神経線維群の総合名称である。しかし,脳神経核は脳幹のそれぞれの部位に分れて存在するため,各脳神経核に向う神経線維は(全体として纏まらず)それぞれの経路をとる。そのためこれらを一括して迷行線維と総称する。迷行線維とはDejerine(1901)1)がfibres aberrantes〈F〉と呼称したのに始まるが,英語圏でもaberrant fiberとして用いられている。筆者が「迷行線維」と訳したもので,aberranteとは常軌(普通)ではないの意味で,医学的には異常と訳されることがあるが,ここでは妥当ではない。皮質脊髄路から見ればあちこちへ走行することになるので(迷走神経を避けて)迷行とした。大略は脳脚(中脳)の高さで皮質脊髄路から分離して,それぞれ中脳,橋,延髄の被蓋部を経て,各脳神経核に達する。本稿では図示出来ないので,拙著2)の図,図説を参照されたい。

書評

「がん薬物療法副作用管理マニュアル 第2版」—吉村知哲,田村和夫【監修】 川上和宜,松尾宏一,林 稔展,大橋養賢,小笠原信敬【編】 フリーアクセス

著者: 岩本卓也

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 「いかに副作用を軽減して治療を継続するか」。われわれががん薬物治療を開始するときに必ず考えることである。いくら最新のがん治療,エビデンスの高い治療であっても,実際に治療に耐えることができなければその恩恵を得ることはできない。また,がん治療に前向きな患者ばかりではなく,副作用への心配から自ら治療の道を閉ざしてしまう方もおり,そのような患者に対しては一層丁寧な説明が必要になる。このようなとき,実践に強い参考書,副作用について素早く整理できる本が手もとにあると心強い。本書は,好評を博した初版の刊行から3年を経て,さらに内容を充実させた第2版であり,医療従事者に求められる副作用管理のポイント,経験に基づくアドバイスが随所に挿入された実践向けの本である。もちろん,患者に要所を押さえた説明をする際にも最適である。

 本書は,抗がん薬投与後に発現する主な副作用を取り上げ,その発現率,好発時期,リスク因子,評価方法をまとめている。また,典型的な症例提示もあり,副作用アセスメントの進め方をイメージできる。そして,第2版では,「患者のみかたと捉えかた」 を新設し,腫瘍内科医が身体所見,検査,副作用の評価方法を記載しており,診療の進め方を理解するのに役立つ。また,各論では「味覚障害」「不妊(性機能障害)」「栄養障害」が新たに追加され,「免疫関連有害事象(irAE)」の項目も充実している。

「ウォーモルド内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術」—Peter-John Wormald【原著】 本間明宏,中丸裕爾【監訳】 鈴木正宣【訳者代表】 フリーアクセス

著者: 寺坂俊介

ページ範囲:P.1116 - P.1116

 私は脳神経外科医として顕微鏡手術を学び,現在も手術を継続している。北海道大学脳神経外科で初めて内視鏡手術が行われたのは,下垂体腺腫の手術だったと記憶している。私の部下が初めて下垂体腺腫に対して内視鏡手術を行ったときのことはいまでも鮮明に覚えている。私は術衣に着替え顕微鏡とともに手術室内に待機した。手術が難航した際には顕微鏡手術に切り替えるつもりだったからだ。当時の内視鏡はいまよりも解像度が低く,内視鏡手術用の道具も限られていた。顕微鏡手術の倍の手術時間と出血量を要したが,私は一度も手術を替わろうとは思わなかった。自分がどんなに工夫しても顕微鏡下手術では見えなかった海綿静脈洞壁や鞍上部がモニターに映し出されていたからである。

 ウォーモルド先生が執筆された本書には内視鏡下手術の利点,特に優れた可視性を最大に生かした手術手技が網羅され,しかもその1つ1つが細部に至るまでしっかりと書かれている。例えば内視鏡下髄液漏閉鎖術の章で紹介されるバスプラグ法などは脂肪の採取の部位,糸のかけ方,使用する道具,術後の管理,腰椎ドレーンを入れた場合はその排液量までが細かく記載されている。「賛否が分かれるかもしれないが」とただし書きをつけたうえで,ウォーモルド先生の手技が紹介されている。本書を読んでいると,このような細かな手術手技や術後管理を学びにかつてはお金と時間を費やして海外にまで行ったのに,と思われる諸兄も多いはずである。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1063 - P.1063

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1064 - P.1064

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1177 - P.1177

あとがき フリーアクセス

著者: 虫明元

ページ範囲:P.1178 - P.1178

 本号は特集「中枢神経・末梢神経の悪性リンパ腫」ということで,基礎の神経科学者としては,臨床研究の最前線を読む貴重な機会であった。筆者の若い頃は中枢神経にはリンパ系はないとのことで,リンパ系の疾患は神経系には縁遠い感じがしていた。しかし2013年にロチェスター大学のネーデルガードらが,脳のリンパ管系をグリンパティック系として命名して以来,脳にもリンパ系があり,大切な役割を担っていることが明らかになりつつある。

 リンパ管系は,2つの役割が知られている。すなわち,①毛細血管から漏出した間質液を回収してリンパとして運び,静脈に戻すクリアランス系としての役割,②異物を認識し活性化した免疫細胞や抗原を末梢組織からリンパ節へ輸送し,免疫を開始させる役割の2つである。脳の中の老廃物,例えばアルツハイマー病におけるアミロイドβなどの老廃物は,グリンパティック系が脳外に排出して掃除してくれれば,異常な蓄積を防げるのではないかと期待されている。一方でこの系の働きが低下すれば老廃物が急激に増加することになるわけである。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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