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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻11号

2021年11月発行

雑誌目次

特集 「目」の神経学

フリーアクセス

ページ範囲:P.1183 - P.1183

「目」にはさまざまな光受容体が存在する。その機能は光受容にとどまらず,時間や睡眠など驚くほど幅の広い多様な機能を担っている。また,視覚系の神経基盤の理解につながる錯視・錯覚の原理も少しずつ明らかになってきた。本特集では,視覚に関する話題を中心に,目と神経に関わる最近のトピックスについてエキスパートに論じていただく。

目の働きはものを「見る」だけではない

著者: 坪田一男 ,   鳥居秀成 ,   栗原俊英

ページ範囲:P.1185 - P.1191

ヒトは9種類の光受容体を持つが,このうち視覚に使われているものはOPN1の3種類(青,緑,赤の錐体光受容体)とOPN2(星明りなど明るさに高感度の桿体光受容体)の4種類である。したがって5種類の光受容体は非視覚型なのである。これらの中にはブルーライトに吸収極大がありサーカディアンリズムに関係するOPN4や,近視の抑制に関係するOPN5などがある。本論ではこれらの非視覚型光受容体について解説を行う。

概日リズムを位相制御する光受容体

著者: 小島大輔 ,   深田吉孝

ページ範囲:P.1193 - P.1199

約24時間周期の体内時計(概日時計)に基づいて,私たちの活動・休息などの概日リズムが刻まれる。自律的な概日リズムは,哺乳類では網膜の光受容により地球の自転周期である24時間に同調する。本論では,概日リズムの光同調に主要な役割を果たす光受容細胞として,光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)について詳説する。ipRGCの光受容機構や神経回路,さらにはその多様性について,主にマウスで得られた知見を紹介する。

光による非侵襲的脳機能制御—バイオレットライトとOPN5の新機能

著者: 早野元詞 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1201 - P.1207

脳機能は日照時間,光量といった「光」の影響を大きく受けており,その影響は睡眠,認知機能,うつ病やパーキンソン病の症状などさまざまな面に表れることが知られている。一方で,光は波長に応じた赤や青などのさまざまな「色」を持ち,そして光の受け手側も視覚情報として「視る」ためだけでなく,非視覚情報のシグナルとして「感じる」といった多様性が存在している。本論では,OPN5といった360〜400nmのバイオレットライト受容体を中心に,眼から脳機能を特異的に制御している最近の知見について紹介したい。

眼は「脳」の窓となり得るか?—認知症バイオマーカーとしての網膜イメージング

著者: 佐々木真理子

ページ範囲:P.1209 - P.1216

眼は神経と血管を直接見ることのできる唯一の臓器である。脳と網膜には類似性があり,網膜イメージングの技術の進歩に伴い,非侵襲的で直接的に脳の病態を評価する手段としての網膜イメージングが注目されている。光干渉断層計・血管撮影は網膜構造や血管の変化と認知機能との関連を明らかにし,人工知能の応用も試みられている。網膜内のアミロイドβの観察など,より認知症特異的な網膜バイオマーカーの開発が期待される。

涙液分泌に関わる神経回路

著者: 中村滋

ページ範囲:P.1217 - P.1223

涙液は涙器より眼表面に分泌される体液であり,その機能から,①眼表面を間断なく潤す基礎分泌,②対処する反射性分泌,③感情の高揚により多量に流れ出る情動性分泌,の3つに分類される。涙液の分泌は,他の多くの末梢分泌器官と同じく,涙器と中枢神経の協調によりその分泌量が調節されている。脳あるいは眼表面からの信号が脳延髄に位置する涙腺中枢である「上唾液核」を興奮させ,遠心性に自律神経による分泌刺激が涙腺に投射する副交感神経を経て,涙腺の涙液分泌機能の活性化を促すと想定されているが不明瞭な点も多い。本論では涙液の分泌様式/役割からの,それぞれの神経回路の役割を記述したい。

奥行きを感じる脳のしくみ—両目はなぜ揃う?

著者: 光藤宏行

ページ範囲:P.1225 - P.1229

ステレオグラムは両眼視に基づいてリアルな奥行きを体験できる非常に身近なツールである。本論では,ステレオグラムの原理と奥行き知覚の基本を解説し,さらに近年の視覚科学的・神経科学的な知見に基づいて,なぜ両目は揃うのかという素朴な疑問を深く探究した。その試みの中で,脳は,奥行き知覚をもたらす水平両眼網膜像差の計算を行いながら,両眼融合のための調整の計算を常に行っているという可能性を描いた。

三次元視覚世界を創る脳の領域

著者: 番浩志

ページ範囲:P.1231 - P.1236

網膜像は二次元であるにもかかわらず,私たちヒトは豊かで安定した三次元視覚世界を即座に知覚できる。では,ヒトが感じる立体感は,脳のどの領域のどのような働きによって再構築されているのだろうか。本論では,立体視の一般的な研究手法を概説し,頭頂間溝に沿って隣接して位置する中・高次の視覚野,V3AとV3B/KOの働きが三次元視覚世界の再構築に重要な役割を果たすことを示した最近の研究成果を紹介したい。

錯視を生じる脳のしくみ—ゼブラフィッシュの運動残効から

著者: 久保郁

ページ範囲:P.1237 - P.1241

錯視は,視界に実在する視覚情報とは異なる視覚が脳内で認識されてしまう現象であり,脳内の視覚情報処理の過程でなんらかの間違いが起こることで生じると考えられている。錯視がどのようなメカニズムで起こるのかという問題は,長年多くの科学者の興味を惹きつけてきた。本論では,脊椎動物モデル・ゼブラフィッシュを使った研究に焦点を絞り,錯視の神経メカニズム,さらには錯視現象を利用した視覚神経回路解析について議論する。

錯視を生み出す視覚のメカニズム—目から脳へ

著者: 吉本早苗 ,   竹内龍人

ページ範囲:P.1243 - P.1248

錯視とは,目にしているものがその物理的属性とは異なるように知覚される心理的現象を示す。そのものの実体を前もって知っていても,知覚には反映されない。そのために,錯視の理解は,錯視生成の土台となる視覚系の理解につながる。明暗,運動,色の錯視には,網膜から第一次視覚野に至る初期視覚の神経活動により説明できるものが多い。一方で,大きさの恒常性に基づく三次元的な形状に関する錯視には,高次視覚の関与が想定される。

幻視症候群小辞典—幻視をきたすさまざまな病態

著者: 西尾慶之

ページ範囲:P.1249 - P.1257

幻視はてんかんや片頭痛などの発作性神経疾患,アルコール離脱,抗コリン薬や幻覚薬の使用,神経変性疾患,脳内局所病変,統合失調症スペクトラムなど幅広い病態に関連して出現する。本論では幻視をきたす11の病態に着目し,現象面の特徴と背景にある病態生理について議論する。

総説

ポリコーム群蛋白質を介した脳形成の地図をつくるメカニズム

著者: 山田夏実 ,   椙下紘貴

ページ範囲:P.1261 - P.1266

脳が複雑な機能を獲得できるのは,神経幹細胞が遺伝子の転写を正しく制御することで,脳の領域ごとに異なる性質のニューロンやグリア細胞を産生しているからである。モルフォジェンやポリコーム複合体は,領域特異的な遺伝子の転写制御によって,発生初期に脳の地図形成に貢献している。われわれはポリコーム群蛋白質のRING1Bがモルフォジェンの発現を領域特異的に抑制することで脳の背腹軸形成を促すことを明らかにした。

安静時fMRIにおける動的機能結合の臨床応用

著者: 品川和志 ,   寺澤悠理 ,   梅田聡

ページ範囲:P.1267 - P.1273

安静時fMRIでは,撮像中に均質な心的状態を仮定し,撮像時間全体の平均的な脳の機能的結合を評価する。しかし,安静時であっても,機能的結合は時間経過に伴い変動している場合が多い。そこで,機能的結合の時間的変化の側面に焦点を絞った,動的機能結合(dFC)と呼ばれる指標が提案されている。本総説では,dFCの意義や主な手法,臨床研究への適用例,またその限界について概説し,dFCの臨床応用可能性を示す。

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)における治療法の選択—免疫グロブリン療法を中心に

著者: 古賀道明 ,   飯島正博 ,   福島卓 ,   海田賢一

ページ範囲:P.1275 - P.1284

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)の病態は多様で,臨床経過や治療反応性も患者により異なる。したがって,治療開始後の臨床経過に応じて有効性を客観的に判定し,治療内容の妥当性や適正な投与量,投与間隔などを決定する必要がある。本総説ではCIDP治療の各段階における的確な選択のために,考慮すべき点や近年研究が進んでいる免疫グロブリン療法を中心に参考となる研究結果について述べる。

現代神経科学の源流・16

ノーム・チョムスキー【Ⅳ】

著者: 福井直樹 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1285 - P.1288

反戦運動と生成意味論の時代

酒井 その後チョムスキーは,ベトナム戦争を機にかなり政治運動に力を入れていきます。

福井 1964年からベトナム反戦運動に本格的に関与しますが,それを決意するにあたって,もうそれまでみたいに研究に集中はできないだろうということで,どの研究を残すか,かなり真剣に考えたようです。

 反戦運動を始めた頃には既にマサチューセッツ工科大学(以下,MIT)の正教授でしたから,そう簡単に解雇はされないはずなのですが,それでも禁固とかになると,最終的には解雇される可能性がある。そういうところまで考えて,研究対象を絞っています。奥さんのキャロルがハーバード大学の大学院に戻って,チョムスキーが大学を解雇されてしまったときには彼女が働いて家族を養うというところまで計画していました。

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・3

臨床教育アプローチを裏付ける教育理論

著者: 今福輪太郎 ,   西城卓也

ページ範囲:P.1290 - P.1293

はじめに

 前回(Vol.2;73巻10号pp1164-1167)は,臨床教育のすべての基本となる「経験」について,経験学習サイクルを総論的枠組みとしてご紹介しました。本稿では,その臨床教育の根底にある理論的基盤を理解するため,まず成人の学習者としての特性に関する成人学習理論,次に指導者による効果的教育アプローチを理論化した認知的徒弟制を,概説したいと思います。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・9

「若年性一側上肢筋萎縮症〔後の平山病〕」の英文原著論文をめぐる三様の評価

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 少し前置きがある。本症の記述は筆者の学位論文(1959年11月)1)の一部に付記する形で示したのに始まるが,その翌月には本症単独の論文を12例を以って発表した2)。「病因は不明であるが,従来知られている疾患にはみられない臨床的特徴を呈するものとして,若年性一側上肢筋萎縮症と仮称し,将来,剖検を待って解明されるものと思われる」と結んだ。発表後の本邦での評価は区区で,脊髄性進行性筋萎縮症の亜型説や,頸椎症説,外傷説など,本症の独立性を認めるものは乏しかった。しかし更に症例も増え,20例に及ぶ観察から英文での発表を冲中重雄教授の許可を得て,英文雑誌に投稿し,受理された3)。1963年8月のことであった。それは筆者がフランス政府給費留学生として出発する(9月)直前で,論文別刷を受け取る間もなく渡航した。

書評

「神経眼科学を学ぶ人のために 第3版」—三村 治【著】 フリーアクセス

著者: 村上晶

ページ範囲:P.1258 - P.1258

 私自身,神経眼科学については,系統立った教育を受けないまま,眼科医として仕事をしている。したがって,この領域は正直言ってあまり得意ではない。苦手と言ってもよいかもしれない。そういう私が頼りにしている1冊が,三村治先生の執筆による『神経眼科学を学ぶ人のために』である。おそらく,神経眼科を基本から学ぶ入門書としても,どう診断するか迷う症例の答えを探すときにも多くの眼科医が手に取っているのではと思う。

 今回,改訂第3版が発刊され,これまで以上に見やすいイラストと懇切丁寧に解説された臨床画像が満載されており,さらに頼もしい1冊になっている。専門外の者にとっては,神経眼科疾患を前にして,どう診察を始めてよいか迷うことが少なくない。そういう気持ちを察するかのように,診断のコツ,そして優先すべき検査を明解に記述くださっているのがありがたい。余裕のないときは,ボールドで印刷されているところに注意を払って読んでいくことで大切なことを逃さずに要点を整理できる構成になっている。治療についても,最初の一手からその後の経過の見方まで,豊富な経験と最新の知見をもとにポイントを絞った形で記載されている。エビデンスの蓄積がまたれるような新しい知見や,専門家の視点で注目している事柄の記載がコラム「Close Up」として各所にちりばめられているのでじっくり読み込む楽しみもある。

「総合内科マニュアル 第2版」—八重樫牧人,佐藤暁幸【監修】 亀田総合病院【編】 フリーアクセス

著者: 森川暢

ページ範囲:P.1260 - P.1260

 ついに『総合内科マニュアル(亀マニュ)』が改訂された。実は,私は亀マニュのファンだ。医師3年目のときに総合診療の後期研修を始めたが,本当に右も左もわからなかった。多少は内科の知識を持っている自信があったが,それは粉々に打ち砕かれた。かといって,同期や先輩のようにUpToDate®を紐解き知識を増やすような甲斐性もなく,仕事にひたすら追われていた。

 当時,私は常に2つのマニュアルをポケットに入れていた。1つは『診察エッセンシャルズ』という診断学に特化したマニュアルであった。しかし,内科マネジメントについても同様にマニュアルが必要であった。結果的に,私が選んだ相棒は亀マニュだった。ベットサイドで診療し,亀マニュを見るという日々をひたすら繰り返した。いつしか,亀マニュは自分の血肉となり携帯はしなくなった。ただ,その後の自分の内科マネジメントの原則や原理は亀マニュが基本となっていることに変わりはない。そして,今回の改訂である。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1181 - P.1181

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1182 - P.1182

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1301 - P.1301

あとがき フリーアクセス

著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.1302 - P.1302

 オンライン中継に必要なWebカメラとして,動画機能のついたミラーレス一眼カメラが広く使われるようになった。ミラーレスは一眼レフより小型なのに十分高画質であり,豊富な交換レンズによる画角調整や,レンズの絞りによる背景ぼかしが手軽にコントロールできる。ミニ三脚で机上にカメラを置く場合,焦点距離(ライカ判換算)が35mmの広角レンズを使えば,絞りが2.8程度で効果的な映像が得られる。ちなみに筆者は,「SIGMA fp」とライカの「Elmarit-R」(宮本製作所のマウントアダプターを併用)を使っている。

 カメラのレンズ設計では,さまざまな収差をいかに抑えるかが難題だった。色収差の軽減には特殊ガラスを用いた「アポクロマートレンズ」,球面収差の除去には「非球面レンズ」,被写体距離による収差の変化にはレンズ群の相対位置を変える「フローティング・フォーカス機構」という技術革新があった。いまや,この3つをすべて備えたレンズも増えている。ただし,明るいレンズは重く大型になってしまい,焦点距離が50mmの標準レンズで1kg近いものも珍しくない。それでは携行性が悪くスナップ写真などに向かないから,小型化の工夫も同時に必要となる。さらに「レンズの味」を追求すると,焦点の合っていない背景の美しさも大切であり,「ボケ」という写真用語は既に世界共通語(bokeh)となっている。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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