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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻2号

2021年02月発行

雑誌目次

特集 筋炎と壊死性筋症

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ページ範囲:P.107 - P.107

BohanとPeterの診断基準から半世紀を経て,炎症性筋疾患の疾患概念,分類は大きく変貌を遂げ,自己抗体または筋病理を軸とした分類も着々と進んでいる。また,新たな治験も続々と進行中であり,各症候・検査所見の点数化という新たな分類基準の提唱もなされた。このようにめまぐるしく変化した炎症性筋疾患の状況を適切に把握するため,特集として疾患概念の整理,新しい分類基準の解説,最新治療を概観する。

【鼎談】筋炎・壊死性筋症の過去・現在・未来

著者: 上阪等 ,   藤本学 ,   神田隆

ページ範囲:P.109 - P.115

本特集のテーマである「筋炎・壊死性筋症」は脳神経内科,膠原病内科,皮膚科など,複数の診療科にまたがる疾患である。しかしながら,それぞれの診療科で用いられる概念や用語は少しずつ異なり,行われる検査,患者のプロフィール,治療においても差異が生じている。「筋炎・壊死性筋症」の患者にとって最善の医療とは何か,脳神経内科ではどのような方針で診断・治療を行っていくのがよいのか,長年にわたり診療科の垣根を越えて議論を重ねてきた3名のエキスパートによる鼎談を実施した。

新しい国際分類基準が投げかけるもの

著者: 上阪等

ページ範囲:P.117 - P.125

筋炎や壊死性筋症を含む炎症性筋疾患の分類は,1975年にBohanとPeterが定めた臨床所見による分類に始まったものの,筋病理所見による分類などもあり混乱していた。その状況を打開するために多分野の研究者が参加して2017年に新国際分類基準が策定された。日本の症例でも高い感度と特異度がある。この分類は,診断基準と分類基準の持つ矛盾点をも解決しようとする画期的なものであるが,その適応には若干の注意を要する。

壊死性筋症の歴史と疾患概念

著者: 冨滿弘之

ページ範囲:P.127 - P.136

免疫介在性壊死性筋症は,筋病理学的な根拠によって2004年に多発筋炎から独立した疾患群である。典型例では亜急性進行性の近位筋優位の筋力低下と著明な血清クレアチンキナーゼ値の上昇を呈し,抗SRP抗体あるいは抗HMGCR抗体が検出される。筋外症状は少なく,緩徐進行性の慢性型は筋ジストロフィー症との鑑別が重要となる。免疫治療が効果を示すが,積極的な治療を行わなければ後遺症を残すことが多く,機能的予後の悪い疾患である。

炎症性筋疾患の皮膚病変—皮膚所見からどこまでわかるか

著者: 藤本学

ページ範囲:P.137 - P.146

皮膚病変を呈する炎症性筋疾患は,皮膚筋炎と抗ARS抗体症候群である。これらの疾患では,多くの例で皮膚症状が初発症状となることもあり,皮膚病変の評価は診断において重要な意味を持つ。皮膚病変は,部位と性状の2つの軸から考えるとわかりやすい。手や顔面などの好発部位を系統的に観察しながら,その皮疹の性状を判断していくべきである。特異抗体ごとに特徴的な皮膚症状があることも最近わかってきた。

筋炎・壊死性ミオパチーの筋病理—筋炎と筋ジストロフィーは病理で鑑別できるか

著者: 斎藤良彦 ,   西野一三

ページ範囲:P.147 - P.159

特発性炎症性筋疾患は,近年,特に脳神経内科分野を中心に,病理所見および血清学的所見を重視し,皮膚筋炎,抗合成酵素症候群,封入体筋炎,免疫介在性壊死性ミオパチーの4疾患を主なサブタイプとする分類が用いられるようになっている。その中で免疫介在性壊死性ミオパチーは,特に小児例や慢性に経過する例で,筋ジストロフィーとの鑑別が問題となる。しかし,適切な免疫染色用いた筋病理診断を臨床情報と組み合わせることで,鑑別が可能である。本稿では病理所見を中心に筋ジストロフィーと鑑別が必要な特発性炎症性筋疾患について概説する。

筋炎と壊死性筋症の最新治療

著者: 本田真也

ページ範囲:P.161 - P.169

炎症性筋疾患は筋肉の炎症に加えて,皮膚,肺,心臓,関節にも障害を呈し得る疾患である。炎症性筋疾患は希少疾患であり,その病像や病態がさまざまであることから治療の標準化が難しい。治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬であり,治療抵抗例などに対して免疫抑制薬や免疫グロブリンが併用される。数多くの生物学的製剤の臨床試験が現在進行中であり,今後の炎症性筋疾患の治療選択肢となることが期待される。

総説

構成的理解に基づく精神疾患のマルチスケール解析

著者: 林(高木)朗子

ページ範囲:P.171 - P.178

統合失調症の病態生理にはシナプス異常が関与すると考えられているが,実のところ,シナプス階層が行動という上位階層を制御する責任病態生理なのか,もしくは疾患の結果にすぎないのかは未解明である。また疾患の病態生理が含有するカオス的挙動や揺らぎの要素も病態解明を困難にしている。構成的かつマルチスケールに精神疾患を理解することで,統合失調症関連分子から疾患関連行動までの階層を跨いだ因果関係の解明に挑戦している。

症例報告

前立腺癌増悪時に出現した傍腫瘍性オプソクローヌス,小脳性運動失調の1例

著者: 栗原可南子 ,   福原康介 ,   柳本祥三郎 ,   津川潤 ,   坪井義夫

ページ範囲:P.179 - P.182

症例は82歳男性。前立腺癌と診断され,抗腫瘍薬の治療中であった。定期の血液検査で前立腺特異抗原の急峻な上昇を認め,同時期より歩行時のふらつきと複視が出現した。入院時に眼球オプソクローヌスと四肢・体幹の運動失調を認め,ステロイドパルス療法により症状は著明に改善した。傍腫瘍性オプソクローヌスは,悪性腫瘍の発見に先行して出現することが多いが,本症例は前立腺癌の進行に伴い症状が出現した。前立腺癌による傍腫瘍性オプソクローヌスは稀であり,ステロイドパルス療法が著効した点も特徴的であった。

原発性シェーグレン症候群に合併した免疫介在性壊死性ミオパチーの1例

著者: 髙橋信敬 ,   西田明弘 ,   津川潤 ,   岡島幹篤 ,   藤岡伸助 ,   坪井義夫

ページ範囲:P.183 - P.187

症例は66歳女性で,四肢の筋力低下と労作時の呼吸困難を主訴に受診。神経学的に体幹,四肢近位筋に優位の筋力低下を認め,血中クレアチンキナーゼ(CK)値が2,747U/Lと高値を示した。筋生検で免疫介在性壊死性ミオパチーの所見を得たが,関連薬剤の内服歴はなく,抗SRP,抗HMGCR抗体は陰性であった。一方で抗SS-A抗体が53.2U/mLと陽性で唾液腺生検とシルマー試験からシェーグレン症候群と診断し,ステロイド療法にて筋力,CK値ともに改善。膠原病関連の筋合併症では本症例のように壊死性ミオパチーを認めることもあり,文献検索を含めて報告する。

Pick Up—もういちど読んでおきたいあの論文

神経科学の原理的な法則発見への端緒

著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.191 - P.191

総説「大脳皮質の単位回路」 第70巻第12号(2018年12月号)pp1381-1388

細谷俊彦,中川 直,米田泰輔,丸岡久人

 神経科学の原理的な発見は,物理学などと比較してみると,かなり乏しいように感じられる。もちろん,歴史的背景・技術的進歩の違いや,研究者の数などを度外視して比較しても仕方ないのだが,科学の進歩を支えるブレイクスルーとしては,限定的なのだ。目先の興味ではなく,目に見えない根本的な「法則性」に迫るような神経科学研究がもっと必要ではないだろうか。

 神経科学のマイルストーンを具体的に挙げてみると,カハールによるニューロン説(神経機能単位の発見),ホジキンとハクスリーによるイオンチャネル仮説(神経伝達の解明),そしてヒューベルとウィーゼルによる視覚野の階層仮説(特徴抽出の実証)のように,仮説なしには見えない法則が明らかとなっている。特に階層仮説と同時期にマウントキャッスルが提唱した「皮質カラム(column)仮説」は,大脳皮質の構造と機能を結びつける重要なアイディアとして階層仮説に貢献したものの,長らく論争が続いていた。

書評

「基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版」—中村好一【著】 フリーアクセス

著者: 市原真

ページ範囲:P.189 - P.189

 手に取ったとき,とてもシンプルに見えた。タイトルも,表紙のデザインも,宣伝目的の帯でさえも。しかしパラパラパラと3めくりしたあたりで,おやっと思った。著者名や発行年月日などが載った「奥付」が冒頭に配置されていたからだ。

 若すぎる顔写真に謎が深まる。来歴にもナニヤラ遊び心がにじむ。表紙から想像していた堅物な印象からの違和感に思考が衝突して,立ちすくむような気分になる。 発行日欄の一行目は「第1版第1刷 2002年3月」,最終行が「第4版第1刷 2020年8月」。着実に版を重ねてきた名著である。それなのにこのノリはなんだ?

「疼痛医学」—田口敏彦,飯田宏樹,牛田享宏【監修】 野口光一,矢吹省司,上園晶一,山口重樹,池内昌彦【編】 フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.190 - P.190

 いまという時代,疼痛の診療や研究が,少し前と比較しても,劇的に変化してきている。その変化は,従来われわれが認識していた以上に大きい。いまや,疼痛は専門家だけが関わっていればよい時代ではなくなっている。また,先進諸国では,疼痛対策が政府の主要な政策目標の1つになっている。

 評者が大学卒業後まもない1970年代初頭,腰痛の患者が受診すると,問診と身体所見の評価の後に,必ず単純X線写真を撮影した。当然,脊椎には変性所見が認められるので,「骨棘が痛みを起こしています。歳のせいですね」と説明するのが一般的であった。治療は,安静,けん引を含む理学療法,そして薬物療法が主体であった。腰痛を生涯の研究主題としてきた評者にとっては,当時,疼痛診療の最前線がいまのような変貌を遂げるとは想像もできなかった。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.105 - P.105

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.106 - P.106

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.197 - P.197

あとがき フリーアクセス

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.198 - P.198

 武漢で新型コロナウイルスが確認されてからちょうど1年が経過した2020年12月に,このあとがきを書いています。1年間で社会のしくみもずいぶんと変わりました。周りを見ても在宅勤務は当たり前のことになり,会議・学会はWebが多くなりました。個人の好みもありますが,COVID-19が落ち着いたとしても,新しい生活スタイルが完全にもとに戻ることはないのかもしれません。

 最近,ちょっとしたことから,澤瀉久敬先生が書かれた『医学概論』を読む機会がありました。昭和35年初版ですので,いまとは随分異なることもあると思いますが,本質は変わらないのでしょう。全部を理解できたわけではありませんが,内容は少し新鮮でした。そこには,広い意味での「医」とは,医学,医術,医道の3つから成ると書いてありました。それぞれがどういったことかが解説されており,あらためて患者さん中心の医療を提供できるように心を入れ替えようと思ったところです。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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