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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻6号

2021年06月発行

雑誌目次

特集 Lower Spine Neurology

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ページ範囲:P.657 - P.657

腰髄から馬尾を主病巣とする疾患は,その局在によって多様な症候を呈し,日常診療上神経筋疾患や脱髄・炎症性疾患との鑑別に苦慮することが少なくない。本特集では,下部脊髄疾患の3つの病態にスポットをあて,その特徴と診断のポイント,加えて,腰椎・馬尾障害を診断するにあたっての画像診断・電気生理診断のtipsを解説する。

脊髄円錐上部症候群と脊髄円錐症候群

著者: 亀山隆 ,   安藤哲朗

ページ範囲:P.659 - P.670

胸腰椎移行部には脊髄円錐上部(L4〜S2髄節),円錐部(S3〜S5髄節)と上位髄節からの神経根が含まれ,特有の解剖学的特徴が複雑な症候を生む。脊髄円錐上部症候群は下肢の髄節性分布の筋力低下と筋萎縮を主徴とし,原因疾患では黄色靱帯骨化症が重要である。脊髄円錐症候群は膀胱直腸障害を主徴とし,下肢の運動・感覚障害を伴うことが多い。病変の局在診断には,このレベルの解剖と病態生理の理解が重要である。

脊椎脊髄疾患由来の間欠性跛行

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.671 - P.683

間欠性跛行は今日,単純に血行性(主に末梢性動脈疾患による)と神経性(主に腰部脊柱管狭窄症による)の2つに分類されている。しかし,脊髄血行の不全(脊髄症)による間欠性跛行が,稀であるが特異的なものとして1894年(J. Dejerine)以来,記述されてきている。それは今日では内因性(脊髄の血管病変)によるものだけでなく,外因性(頚胸髄の圧迫性疾患)病変によることが知られている。残念ながら,間欠性跛行の国際的でかつ学際的に統一された定義や用語,分類がないので,ここで分類私案を提案する。その後で,脊椎・脊髄疾患由来の間欠性跛行に焦点を当てて,疫学や症候,そして鑑別診断について述べる。

脊髄硬膜動静脈瘻の早期診断

著者: 安藤哲朗 ,   吉村崇志 ,   川上治

ページ範囲:P.685 - P.696

脊髄硬膜動静脈瘻は,静脈うっ血のために緩徐進行性の脊髄症を起こす。本症は治療可能であるが,診断が遅れると重大な障害を起こす。早期診断のためには,臨床所見とMRI画像から本症を強く疑う必要がある。臨床では初期における症状の動揺を伴う緩徐進行性の脊髄症,脊髄MRIでは上下に長い脊髄内高信号とくも膜下の異常血管像が重要である。腰部脊柱管狭窄症と脊髄炎において,本症は重要な鑑別疾患である。

馬尾障害の画像診断

著者: 北口知明 ,   赤澤健太郎 ,   山田惠

ページ範囲:P.697 - P.714

馬尾障害の診断を画像診断という側面から考えたとき,馬尾自体は画像診断に不向きな部位と言わざるを得ない。なぜなら馬尾の画像診断の中心的役割を果たすMRIでは,馬尾は解剖学的に小さく,検出可能な所見が限られるためである。そのため,馬尾自体の画像所見だけでなく,脊髄やその他の部位に見られる所見や臨床的情報と合わせ総合的に考えることが求められる。本論では馬尾に障害をきたす疾患を列挙し,それぞれの画像所見の特徴について述べる。

腰椎疾患・馬尾障害の電気診断

著者: 園生雅弘

ページ範囲:P.715 - P.724

腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどの腰椎・馬尾障害の診断にはMRIが広く用いられているが,その特異度には問題がある。電気生理学的検査は一般に特異度が高いので,腰椎疾患の診断に有用であり不要な手術を防ぐのに役立つ。針筋電図では髄節性の変化の証明がキーとなる。筋萎縮性側索硬化症,絞扼・圧迫性ニューロパチーなどの末梢神経障害,機能性神経障害などとの鑑別にも臨床症候と並んで電気生理学的検査が役立つ。

総説

てんかんの画像診断

著者: 木村有喜男 ,   千葉英美子 ,   重本蓉子 ,   佐藤典子

ページ範囲:P.725 - P.730

画像診断はてんかん診療において必要不可欠である。手術前の画像でてんかん原性病変が特定された場合,術後の良好な結果が得られる可能性が高い。術前の焦点決定に使用される画像検査には,CT,MRIなどの形態画像やPET,SPECTなどの機能画像がある。てんかんの画像診断において重要なことは,適切なプロトコールでの撮影と総合的に判断する幅広い知識である。本論では外科治療の対象となる疾患を中心に画像を多数用いて概説する。

PETによる抗うつ薬のモノアミントランスポーター占有率に関する研究—セロトニン/ノルエピネフリントランスポーターを中心に

著者: 松山敏 ,   荒川亮介 ,   浅見優子

ページ範囲:P.731 - P.736

ポジトロンエミッション断層撮影法(PET)により,抗うつ薬の脳内モノアミントランスポーター占有率を測定できる。従来,臨床的に抗うつ効果を得るために必要なセロトニントランスポーター(SERT)占有率は80%とされてきた。一方,ノルエピネフリントランスポーター(NET)占有率の報告は増えているものの,抗うつ効果を得るためのNET占有率を単独で推定することは難しい。 今後,理想的なSERTとNETの占有率の比率やNET阻害の意義についての研究が求められる。

症例報告

後頸部へのトリガーポイント注射後に細菌性髄膜炎,化膿性血栓性静脈炎を発症した1例

著者: 塩見悠真 ,   藤原悟 ,   森久芳樹 ,   片上隆史 ,   川本未知 ,   幸原伸夫

ページ範囲:P.737 - P.740

症例は未治療糖尿病がある73歳女性。運動後の右肩痛に対して胸鎖乳突筋と僧帽筋にトリガーポイント注射を受けた後から,発熱と頭痛が出現した。脳脊髄液検査で多形核球優位の細胞数上昇,蛋白上昇および糖の低下,頸部造影MRIでは右後頸筋〜C5,C6レベルの右椎弓や椎間孔に広範な炎症所見を認め,後頸部の静脈には造影欠損が見られた。細菌性髄膜炎,化膿性血栓性静脈炎として広域抗菌薬を開始すると症状はすみやかに改善し無症状で自宅退院した。トリガーポイント注射は安全な手技として汎用されるが,稀に中枢神経感染症を合併し得ることは知っておくべきと考えたため報告する。

連載 臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・4

CharcotシャルコーのSalpêtrièreサルペトリエール病院での「神経学講義」は2つある—金曜講義と火曜講義

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.742 - P.743

 二つの書名(表題)を先ず示しておこう。

(1) 金曜講義:Leçons sur les maladies du système nerveux faîtes à la Salpêtrière1).

(2) 火曜講義:Leçons du mardi à la Salpêtrière. Policliniques2).

書評

「みんなの研究倫理入門—臨床研究になぜこんな面倒な手続きが必要なのか」—田代志門【著】 フリーアクセス

著者: 森下典子

ページ範囲:P.741 - P.741

 臨床研究はよりよい治療法を開発するために欠くことができないプロセスであり,どうしても患者さんの協力を必要とするからこそ,研究を実施する際には倫理的配慮が求められます。しかし研究者の中には,「どうしてこんなに面倒な手続きが必要なんだろう」と考える人もいるでしょうし,倫理審査委員会事務局(以下,事務局)では「この研究って,まるで日常診療の中で実施するみたいに書いてあるし,よい面ばかり強調しているけど,患者さんを参加させても大丈夫なのかな?」などと,もやもやすることもよくあることです。

 そんなとき,自信を持ってお薦めしたいのが本書です。本書は,臨床研究に携わる人なら誰もが迷い込みやすい「研究と診療の区別」「インフォームド・コンセント」「リスク・ベネフィット評価」「研究対象者の公正な選択」の4つのトピックスから構成されており,日常業務の中で研究倫理が問題となる「ある,ある」とうなずくエピソードが満載です。3人の魅力的なキャラクターの会話をとおして,私たちを正しい方向に導いてくれたり,道に迷わないようにするための術(考え方)を教えてくれたりしています。

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ページ範囲:P.655 - P.655

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.656 - P.656

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.749 - P.749

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.750 - P.750

 2019年3月号において好評を博した特集「Spine Neurology」の続編とも言える「Lower Spine Neurology」が満を持して発刊された。私自身も非常に楽しみにしていた特集である。「Spine Neurology」のあとがきで,企画をされた桑原聡先生は「各論文に共通するコンセプトは,脊椎疾患の診療・研究には脳神経内科医が積極的に関与すべきであり,あくまでも正確な神経学的所見を核として画像診断との一致や乖離を解釈するという点である」と述べておられるが,正鵠を射るコメントであり,本号でもあらためてその大切さを確認できる。

 「正確な神経学的所見」を取るトレーニングを若い医師や学生に行うことは非常に大切である。しかしそれは現在,極めて困難を伴うものになってしまった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が状況を大きく変化させた。医学教育が専門の先生方と議論をしても,COVID-19で最も大きな影響を受けたのは神経診察の教育ではないかと異口同音に述べておられた。まず脳神経内科において極めて重要な問診のトレーニングが,患者さんとの対面が制限されているため困難となっている。さらに一定時間,密な接触を要する神経診察もまったく困難である。慌てて神経診察用シミュレーターが世の中に出回っていないか探してみたものの一切なく,臨床実習でできることは動画を見てもらうことや,神経所見をもとに解剖学的診断を考えるトレーニングが中心となる。この非人間的な教育状況はneurophobia(神経恐怖症)を助長する可能性がある。コロナ禍において私どもの教室で行った教育の工夫は,リモートでの学生参加を意識したカンファレンス,抄読会のライブラリー化,反転授業などで学生と医師のつながりの強化を図ったものであるが,対面による問診と神経診察のトレーニングは何もできないままである。ただし学生にはワクチン接種が済んで免疫が備わればあらためて実習の補修をしたいと話している。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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