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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩73巻9号

2021年09月発行

雑誌目次

特集 脳卒中治療に必要な基礎知識

フリーアクセス

ページ範囲:P.963 - P.963

脳卒中の治療は大きく変貌を遂げている。特に,虚血性脳血管障害におけるカテーテルを中心とした治療と,その適応範囲の拡大は著しい。疫学的なデータをもとに,エビデンスとしての有効性が多く示されているが,その科学的な機序や根拠などに関しては,あまり語られることがない。しかしながら言うまでもなく,病態学的に治療根拠を理解することは重要である。本特集は,単なるエビデンスデータのまとめではなく,基礎的な背景も踏まえて治療の意義を理解できるよう,各方面のエキスパートにご執筆いただいた。ぜひ日々の診療に活用されたい。

脳梗塞の血管・血栓病理と血栓の形成機序

著者: 山下篤 ,   浅田祐士郎

ページ範囲:P.965 - P.974

アテローム血栓症ではプラーク破綻の程度やプラークの血栓性が血栓サイズを規定する。血液凝固の組織因子は血栓の組成に,フォン・ヴィレブランド因子は血栓形成の初期から閉塞に至るまで関与する。心房細動では心房内膜の血栓性の増加,血流のうっ滞,心房内血液の変化の複合的要因が絡んでいる。血液凝固Ⅺ因子は血栓の成長過程に重要で止血への関与は少なく,出血性合併症の少ない抗血栓薬の標的として注目されている。

抗血小板薬と抗凝固薬

著者: 北川一夫

ページ範囲:P.975 - P.982

脳梗塞では再発予防に抗血栓療法は必須である。心原性脳塞栓症では抗凝固薬,非心原性脳梗塞では抗血小板薬がガイドラインでも推奨され広く普及している。非弁膜症性心房細動を基盤とした心原性脳塞栓症では,出血リスク,特に脳出血リスクの少ない直接経口抗凝固薬が用いられている。一方で腎機能障害を有する心房細動患者,人工弁,心臓弁膜症,心筋症などからの塞栓症予防にはワルファリンが使用される。非心原性脳梗塞では,アスピリン,クロピドグレル,シロスタゾールの抗血小板薬が選択される。急性期は特に再発リスクが高く,抗血小板薬2剤,特にアスピリンとクロピドグレルの併用を行うことが推奨される。一方慢性期では脳出血リスクを回避するため原則として抗血小板薬単剤使用が勧められている。

脳浮腫時における水分子の循環とアクアポリン4

著者: 石川智愛 ,   安井正人

ページ範囲:P.983 - P.989

脳浮腫は脳卒中や外傷性脳損傷による死亡の主要な原因となっているが,その治療法はいまだ限られており,根治療法は存在しない。脳内の主要な水チャネルであるアクアポリン4(AQP4)は脳水循環や浮腫の制御に重要な役割を果たすと考えられている。そのため,AQP4の発現や機能を制御することで浮腫を制御する試みが進んでいる。AQP4の特性や機能の詳細な理解により,AQP4をターゲットとした浮腫治療システムの構築が期待される。

ラクナ梗塞の再考—フィッシャーの呪縛を超えて

著者: 小野寺理 ,   上村昌寛 ,   安藤昭一朗 ,   林秀樹 ,   金澤雅人

ページ範囲:P.991 - P.998

ラクナ梗塞は,穿通枝領域の小梗塞で,高血圧によるリポヒアリノーシスを特徴としてフィッシャーにより提唱された。降圧薬の普及した現在は,主に,アテロームによる機序と,アテロームがない機序による。後者は,深部白質障害を合併する。また白質障害を伴うラクナ梗塞群では,細胞外基質などに関与するリスク遺伝子群が見出された。これらの事実は,白質障害を伴うラクナ梗塞に,高血圧以外の特殊性が存在することを示唆する。

大規模臨床試験を理解するうえで必要な統計的基礎知識

著者: 新谷歩

ページ範囲:P.999 - P.1006

臨床試験のエビデンスを理解するためには,統計学の知識が不可欠である。本論では,盲検化,FAS-ITTの原則,事前に指定されたエンドポイント,サブグループ解析,欠損値の扱い方,サンプルサイズの計算,グローバルスタディの適用性,非劣性試験,メタアナリシスについて説明する。また,最近行われたアルツハイマー病治療薬としてのaducanumabの大規模臨床試験の統計的側面についても解説する。

カテーテル治療に関わる新たな合併症とその機序

著者: 秋山武紀

ページ範囲:P.1007 - P.1012

脳血管障害に対するカテーテル治療(脳血管内治療)は一般的な治療法として,日常臨床の中で広く行われるようになってきている。血管損傷,血栓塞栓症,造影剤による副作用など一般的な合併症はよく知られているが,最近になり新たに注目されるようになってきた合併症も存在する。本論では一般的な教科書にはあまり記載されていないが,重要と考えられる合併症を紹介し,その機序について解説する。

脳動脈瘤治療の新しい展開と基礎研究

著者: 佐藤大樹 ,   栗田浩樹

ページ範囲:P.1013 - P.1018

脳動脈瘤の破裂はくも膜下出血を引き起こし,重篤な後遺症を残すだけでなく,約4割の症例で30日以内に死に至ることが知られている。脳動脈瘤に対する治療法には脳血管内治療と開頭クリッピング手術があり,本論ではそれぞれの治療法の基本事項および新しい展開について述べる。また,脳動脈瘤に対する基礎研究に用いられているモデル動物を概説し,脳動脈瘤の薬理学的治療を目標とした,最新の基礎研究も交えて紹介する。

総説

FTLD疾患スペクトラムに共通する病態としてのFUS機能不全

著者: 石垣診祐

ページ範囲:P.1021 - P.1028

広義前頭側頭葉変性症(FTLD)疾患スペクトラム(筋萎縮性側索硬化症,FTLD,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症)の神経細胞においてFUSとSFPQの核内での会合異常と,これらが制御するタウアイソフォームのバランス異常を見出した。こうした変化はアルツハイマー病やピック病では存在せず,広義FTLD疾患スペクトラム共通の病態であることが示唆された。

司法神経科学

著者: 村松太郎

ページ範囲:P.1029 - P.1036

法はすべて,人は意思を持ち,意思に従った行動を取ることを大前提として構築されている。意思がニューロサイエンスの射程に入ってきた現在,法へのニューロサイエンスの導入が急激に進行し,neurolawという学問分野が生まれ,刑事裁判の法廷はそれを応用するnatural experimentの場面になった。医と法は,しかし,いわば異界同士であるからすれ違いが多々あり,医と法の緊密な対話が強く求められている。

症例報告

筋萎縮性側索硬化症との鑑別を要したヒトTリンパ球向性ウイルス脊髄症(HAM)の1例

著者: 伏屋公晴 ,   吉倉延亮 ,   加藤雅彦 ,   林祐一 ,   木村暁夫 ,   下畑享良

ページ範囲:P.1037 - P.1040

緩徐進行性の下肢の痙性麻痺と有痛性筋痙攣を主訴とした72歳女性を経験した。痙性麻痺は左下肢から始まり,4カ月後に右下肢に拡大した。左優位の両下肢痙性麻痺,線維束性収縮,四肢腱反射亢進,病的反射陽性から筋萎縮性側索硬化症(ALS)を考えた。しかし,脳脊髄液検査にて細胞数増多と蛋白上昇を認め,血清ラインブロット法および脳脊髄液中のHTLV-1がCLIA法で陽性であることを確認し,ヒトTリンパ球向性ウイルス脊髄症(HAM)と診断した。ステロイドにて治療を行い,症状は改善している。HAMは片側の痙性麻痺で発症し,かつ線維束性収縮を伴い得ることから,ALSとの鑑別が困難な場合があり,注意を要する。

現代神経科学の源流・14

ノーム・チョムスキー【Ⅱ】

著者: 福井直樹 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.1041 - P.1045

チョムスキーと物理学

酒井 チョムスキーは大学で,最初から言語学を専攻したのですか。

福井 いえ,最初は一般教養みたいな,いろいろな科目を取っていたらしいです。しかし高校の延長のためか,1,2年で嫌になってしまった。それでイスラエルへ行って反国家主義的なキブツに住んだり,そこにコミューンみたいなものをつくったりしていたみたいです。

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・1【新連載】

脳神経内科領域における医学教育の難しさと課題

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.1047 - P.1049

はじめに

 脳神経内科学の教育には,他の診療科の教育とは異なる難しさが学ぶ側,教える側のいずれにもあるように思います。まず学ぶ側には「脳神経系は難しい」という苦手意識を持つ者が多いですし,教える側も脳神経内科学という広範な領域を限られた時間の中で「いかに教えるか,何を教えるか(how to teach,what to teach)」は非常に難しく,その教育を担当することに戸惑いを覚える医師も多いように思います。しかし,もし臨床現場で教育を担当する医師と基礎の神経科学教育を担う教官,さらに最新の臨床教育の理論や方法を研究する医学教育のエキスパートが,より密接に連携すれば,その教育効果は非常に大きなものになるのではないでしょうか。

 こうした背景を踏まえつつ,神経科学の基礎・臨床教育において,学ぶ側,教える側にどのような特殊性があるのか,これからどのような教育を行っていくべきかを議論することを目的として,本連載を企画しました。連載開始にあたり本稿ではまず脳神経内科学教育を困難にしている学ぶ側の要因を検討し,本連載で取り上げるべき教育課題について議論したいと思います。

スペシャリストが薦める読んでおくべき名著—ニューロサイエンスを志す人のために・1【新連載】

脳神経内科医としての進路に大きな影響を与えた2冊の書籍

著者: 楠進

ページ範囲:P.1050 - P.1051

 人が自らの進む道を決める場合に,さまざまなものが影響を与え得るのであるが,書籍もその1つである。本稿では,私自身の専門分野や研究の方向性を決める際の手がかりとなった2冊の書籍を紹介したい。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・7

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の学位研究をめぐって② 内包後脚の体性機能局在(新説):大径有髄線維の存在

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 本シリーズ第3回で触れたが,冲中重雄教授(東京大学第3内科)から学位研究テーマとしてALSを与えられた。暗中模索の中でCharcotの原著1)を読んだ。本症の病像を詳しく知ることはできたものの,研究課題を見出すことはできなかった。手探りとして始めた1つが冲中内科に保存されていたALS剖検脳の病理標本を先ず1例で作製することにした。

 出来上がった髄鞘染色標本で予期しない所見がいくつか見つかった2)。即ち,(1)錐体路変性が(Charcotは脊髄から橋の高さまでしか追えないとしていたが),内包でも認められる。(2)内包での変性部位は内包後脚の錐体路領域の全域ではなく後端部(淡蒼球の後端部に相当)に限局している。(3)中脳(大脳脚)でも錐体路領域の外側端に限局している。(4)橋,延髄ではこのような局在性はない。(5)変性の主体は錐体路中の大径有髄線維の脱落である。(6)大脳運動野全域(顔部,上肢,下肢)でBetz巨大錐体細胞の脱落が認められる。(7)更に3),脂肪染色で内包病変部から運動野皮質直下まで病変を追跡し得た4)

書評

「内科医の私と患者さんの物語—血液診療のサイエンスとアート」—岡田 定【著】 フリーアクセス

著者: 宮崎仁

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 「物語能力(narrative competence)」は,臨床に携わる医師や看護師にとって大切なものです。しかし,どうしたらその能力を身につけることができるのかは,誰も教えてくれませんでした。

 物語能力とは,「患者の病気の背後に隠れた物語(ナラティブ)を感受し,その物語に心を動かされて,患者のために何かをなすような関係を作っていくための能力」であると,ナラティブ・メディスンの提唱者であるリタ・シャロンは定義しています。

「総合内科マニュアル 第2版」—八重樫牧人,佐藤暁幸【監修】 亀田総合病院【編】 フリーアクセス

著者: 矢野晴美

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 現在,日本では,内科系診療の「コア」の部分を担当する専門診療科である「総合内科」または「総合診療科」のさらなる普及と確立が望まれている。総合内科は学会でもコンセプトの普及に尽力し,入院診療では病院総合内科,外来診療ではかかりつけ医としての役割などにおいても日本の実情に合わせた実働がなされつつある。総合診療科も,臓器横断的かつ体系性を持つ専門診療科として,少しずつ設置され普及してきている。本書は,総合内科・総合診療科が重要視され始めた2011年に初版が刊行された。その後10年を経過した2021年に,その改訂版が出されたことは,診療現場にとって朗報である。

 本書は,亀田総合病院で総合内科部長を務める八重樫牧人先生,佐藤暁幸先生が監修し,歴代の素晴らしい研修医,指導医の先生方がその力と思いを結集して編さんされたポケットマニュアルである。研修病院の有数の老舗の優秀な若手医師,国内外で活躍した指導医が共著で執筆されている。世界で共有される良質な科学的なエビデンスと国内事情を加味した使いやすさが特徴である。特に注目したのは,「患者ケアの目標設定」,私の専門領域の「感染症」,「高齢者医療の原則」「疼痛緩和の原則」「ヘルスメンテナンス(健康増進)と予防」である。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.959 - P.959

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.961 - P.961

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1059 - P.1059

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.1060 - P.1060

 7月末の段階でこの原稿を書いています。中止か強行か,議論の絶えなかったオリンピックがいつの間にか始まり,いつになくたくさんの金メダルが日本選手の頭上に輝いています。私自身は前回1964年の東京オリンピックを鮮明に覚えていて,日本全国がオリンピック一色に染められたワクワクするイベントだったのに比べると,開会までの今回の盛り上がりのなさは何だろうと思っていましたが,いざ始まってみると,エアコンの効いた大画面で見る鍛え抜かれた肉体の美しさにほれぼれとするばかりです。

 この一方で,今日も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が東京で4,000人超,全国で12,000人を超えたというニュースです。「オリンピックなんぞ見ている場合ではない」とお𠮟りを受けそうですが,第一線でCOVID-19の治療にあたっておられる先生方には心から敬意を表したいと存じます。医療従事者の感染や高齢者の死亡がめっきり減っているのはおそらくワクチンの効果と思いますが,一方で,ワクチン後の副作用の可能性が否定できない神経症候を呈する患者についての論文・論考が少しずつ視野に入るようになっています。つい最近も私の施設にワクチン後に発症したギラン・バレー症候群(GBS)症例が入院しました。2009年に豚インフルエンザのパンデミックがあって,そのときのインフルエンザワクチンがGBSをきたす危険性について各方面から指摘があり,私も厚生労働省の委員として霞が関に足繫く通っておりましたが,幸い有意なGBS患者の増加はないという結論に至ってほっとしたのをいま思い出しています。読者の先生方は既に本誌の昨年10月号でCOVID-19の神経合併症特集はお読みになったことと存じますが,この分野の知見はその後もどんどん蓄積されています。ワクチンの神経学的副作用の存否も含め,近日中に第2弾のCOVID-19特集を出版したいと考えています。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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