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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩74巻11号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 RFC1遺伝子関連スペクトラム障害

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ページ範囲:P.1235 - P.1235

RFC1遺伝子のAAGGG反復配列の伸長に伴う疾患は,小脳性運動失調症,ニューロパチー,前庭機能障害を呈するCANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)のほか,このうちのいずれかの表現型を呈し,多系統萎縮症や感覚性ニューロパチー,運動ニューロン疾患との鑑別を要する症例も報告され,スペクトラム障害として考えられるようになった。さらに自律神経障害や慢性咳嗽を呈することもある。本邦でも報告例が徐々に増加している。最新の報告から臨床像および病態について現時点の知見をまとめ,適切な診断につなげることを目的とする。

RFC1遺伝子関連スペクトラム障害—疾患概念の確立の経緯と臨床的多様性

著者: 吉田邦広

ページ範囲:P.1237 - P.1246

CANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)は小脳失調,感覚性ニューロ(ノ)パチー,両側前庭障害を3徴とする多系統障害型の運動失調症候群である。本症の原因として,RFC1内の(AAGGG)反復配列の伸長が同定されて以降,3徴以外の臨床的多様性が認識されるようになり,現在ではRFC1関連スペクトラム障害と捉えられている。

RFC1遺伝子の機能と変異

著者: 宮武聡子 ,   松本直通

ページ範囲:P.1247 - P.1256

CANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)の原因として,RFC1遺伝子のイントロン領域に存在するリピート配列の両アレル性伸長が報告された。2種の異常リピート配列伸長による異なるアレルの組合せにバリエーションがあり遺伝型-表現型連関も示唆されるが,その病態は不明である。

Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)の神経病理所見

著者: 山田光則

ページ範囲:P.1257 - P.1260

CANVAS(cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)の中枢神経系ではプルキンエ細胞の脱落と脊髄後索の変性が特徴であり,末梢神経系では後根神経節,前庭神経節などにおける神経節細胞の脱落が主体となる。症例により,下オリーブ核,皮質脊髄路,顔面神経節などにも変性が見られる。病変分布の差が遺伝子異常の違いやその組合せの違いによるのか,今後の解析が必要である。本疾患に特徴的な異常蛋白質の凝集体(核内封入体など)は現時点で見つかっていない。

前庭機能障害

著者: 青木光広 ,   丸田恭子 ,   アルマンスール亜千夢

ページ範囲:P.1261 - P.1266

Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome(CANVAS)を代表としたreplication factor C subunit 1遺伝子(RFC1)関連スペクトラム障害では90%以上に両側前庭機能障害を認める。本論で提示するCANVAS症例では,RFC1のイントロン領域におけるAAGGGのリピート延長を認めるとともに,温度刺激検査,video Head Impulse Test(vHIT),回転検査および前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential:VEMP)にて両側前庭機能障害を認めた。Visually enhanced vestibulo-ocular reflex(VVOR)検査で異常を認め,前庭核を含む脳幹と小脳の複合病変の存在が示唆された。

*本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,関連する動画を視聴することができます(公開期間:2025年11月30日まで)。

慢性咳嗽と機序

著者: 土井宏 ,   田中章景

ページ範囲:P.1267 - P.1271

CANVAS(Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)に代表される,RFC1遺伝子関連スペクトラム障害の患者の少なくとも6割以上に,発作性の乾性咳嗽が認められることが判明し,慢性咳嗽は本疾患の診断のキーポイントとなる重要な所見として認識されるようになった。咳嗽は初発症状となることが多く,症例によっては失調症状や感覚障害などの神経症状に30年以上先行する。病態機序は不明な点も多いが,咳嗽反射の求心路である迷走神経の障害,あるいは小脳障害が咳嗽発症に寄与している可能性がある。

RFC1遺伝子関連スペクトラム障害と小脳性運動失調

著者: 安藤匡宏 ,   髙嶋博

ページ範囲:P.1273 - P.1279

RFC1遺伝子関連スペクトラム障害は小脳性運動失調や感覚ニューロパチー,前庭神経障害を含めた多彩な障害が単独ないし多様な組合せをもって出現し得る疾患である。臨床症状や画像所見から多系統萎縮症との鑑別にも重要な疾患となる。本論では小脳性運動失調症におけるRFC1遺伝子関連スペクトラム障害の頻度や遺伝学的特徴,画像所見について詳述する。

ニューロパチーからみたRFC1遺伝子関連スペクトラム障害

著者: 大崎裕亮 ,   和泉唯信

ページ範囲:P.1281 - P.1286

小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群(CANVAS)の原因としてRFC1遺伝子のイントロン領域での両アレル性5塩基リピート伸長が報告された。この症候群内においてニューロパチーは最も高頻度に見られる症候であり,慢性特発性軸索性ポリニューロパチー症例の一部でこの変異を認めることもわかってきた。本論ではこのニューロパチーの臨床的特徴について概説する。

RFC1遺伝子関連スペクトラム障害における運動ニューロン障害

著者: 宮地洋輔 ,   土井宏 ,   田中章景

ページ範囲:P.1287 - P.1291

CANVAS(Cerebellar ataxia with neuropathy and vestibular areflexia syndrome)の3徴は,小脳性運動失調,両側前庭障害,感覚性ニューロパチーである。当初CANVASにおいて,運動系の障害は乏しいと考えられていた。しかしRFC1遺伝子での5塩基反復配列の伸長が病因として判明するとともに,運動ニューロン障害も含めさまざまな臨床像が報告されてきている。本論では,RFC1遺伝子関連スペクトラム障害における運動ニューロン障害について述べる。

総説

脳磁計開発の黎明期—超伝導センサから室温センサへ

著者: 中里信和

ページ範囲:P.1295 - P.1301

非侵襲的脳機能検査では,脳波と脳磁図だけがミリ秒単位の時間解像度を持つ。原理的には空間解像度で脳磁図が勝る。ただし脳磁図の検出には液体ヘリウム下で稼動する超伝導センサを要する。センサを体表に接触できないために空間解像度は理想に達せず,コストも高いという問題があった。最近,室温稼動の磁気センサが登場し超伝導センサを凌駕する可能性が出てきた。本論では脳磁計開発の歴史を振り返りつつ今後について展望する。

レム睡眠の開始機構—睡眠周期の生成に関するドーパミンと扁桃体の新たな役割

著者: 長谷川恵美

ページ範囲:P.1303 - P.1308

睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返すという特徴的なパターンを示すが,このような睡眠サイクルがどのように作られているかは不明であった。筆者らは扁桃体におけるノンレム睡眠中の一時的なドーパミン濃度の上昇が,レム睡眠の開始に不可欠であることを見出した。さらに,睡眠障害・ナルコレプシー症状の1つであるレム睡眠関連症状とされるカタプレキシー発作についても同様のシステムを使っていることがわかった。

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・15

大学間連携によるオンライン臨床実習の試み

著者: 吉倉延亮 ,   原一洋 ,   橋詰淳 ,   坪井崇 ,   下畑享良 ,   勝野雅央

ページ範囲:P.1309 - P.1312

はじめに

 COVID-19パンデミックは人類と社会に大きなインパクトを与えたが,パンデミック前と比べた最も大きな変化の1つが,オンライン会議システムの普及と活用である。その影響を受けているのは医学も例外ではなく,オンライン診療と並んでオンライン教育の試みも進んでいる1-3)。本稿では,東海国立大学機構(名古屋大学と岐阜大学)における脳神経内科領域の合同オンライン臨床実習の試みを紹介する。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・21

「神経学用語集」の改訂(第2版)を理事長に進言—ブーメランの如く委員長を命ぜられる

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.1314 - P.1315

 日本神経学会は昭和35年(1960)に発足したが,「神経学用語集」の初版が刊行されたのは15年後の昭和50年(1975)であった。その語数は1209語で,実用に足る語数ではなかったが,とにもかくにも形が整えられたことは重要なことであった。しかし,その後,進展はなく,時が過ぎた。

書評

「トラブルを未然に防ぐカルテの書き方」—𠮷村長久,山崎祥光【編】 フリーアクセス

著者: 川崎誠治

ページ範囲:P.1293 - P.1293

 本書は,北野病院の𠮷村長久院長と山崎祥光弁護士の編集で上梓されたものである。適切なカルテ記載の重要性を認識し,もともと関心を持っていらっしゃった𠮷村院長が,医師の資格もあり臨床経験もお持ちの山崎弁護士にカルテ記載に関する講演を数多く依頼してきた。その講演の内容が土台となったのが本書である。このお二人の組み合わせこそが,独特の視点を持つ本書の出版を可能にしたといえる。北野病院医療安全管理室の先生方と山崎弁護士が中心になり著述されているが,本書を読むと,「カルテ記載のない事柄はなかったことになる」ということがあらためて強く認識される。その他に, 何となくそうではないか,あるいはぼんやりとどうなのだろう,と思っていたいくつかのことが明瞭に説明・記述されており,大変参考になる。以下に例を挙げる。

「—検査値と画像データから読み解く—薬効・副作用評価マニュアル」—吉村知哲,岩本卓也【編】 フリーアクセス

著者: 池田龍二

ページ範囲:P.1294 - P.1294

 くすりの専門家である薬剤師は,医薬品に関する医療安全を担保しながら薬の治療効果および副作用を適切に評価し治療継続につなげる役割がある。そのためには,薬の治療効果および副作用を正しく評価し,的確に対処することが求められる。しかしながら,悪性新生物,虚血性心疾患,糖尿病,精神疾患など疾患が多岐にわたり,科学の進歩で薬物療法も多様化・複雑化する中で,薬の治療効果や副作用を臨床検査値や画像データと関連させ適切に評価することは容易なことではない。

 本書は,「薬の治療効果と副作用の評価項目」と「臨床検査・画像検査の評価ポイント」の2部構成となっており,医薬品を評価する上で必要な臨床検査値や画像検査を医薬品の有効性と安全性の観点から関連付けてわかりやすく解説している。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1233 - P.1233

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1234 - P.1234

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1321 - P.1321

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.1322 - P.1322

 企画をさせていただいた連載「脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて」が,来月の第16回をもって終了となる。医学教育学がなぜ必要か? これまで現場の医師は,学生や若手医師を教えるための技術や理論を学ぶ機会をほとんど与えられず,突然,上司から指導や講義を任され戸惑いながら行ってきた。頼りは自身の過去の学習体験になるが,学習者のタイプもさまざまであるため,自身の経験が必ずしも学習者に役に立つわけではないことに思い至る。つまり指導医は自己流の指導法に頼る状況を脱却する必要があり,そのために医学教育学を学ぶことが必要なのである。

 しかし脳神経内科領域の教育は難しい。理由として,第1に神経解剖学/神経科学が複雑で,臨床科目にたどり着く前に苦手意識を持つ者が多いこと,第2に教える側も広範な領域を限られた時間で,いかに何を教えるかという難しい問題を抱えていること,第3に問診や診察が重要な診療科であるにもかかわらず,コロナ禍の対面教育が困難な状況の影響が直撃していることが挙げられる。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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