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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩74巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 中枢性自律神経障害update

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ページ範囲:P.213 - P.213

自律神経障害は,さまざまな神経疾患に伴う病態であり,治療対象となるばかりでなく鑑別診断を行う際の1つの根拠ともなり得る。本特集では中枢性に絞り,自律神経そのものの解剖や機能に加え,脳血管障害,神経変性疾患,頭痛,てんかん,睡眠障害における自律神経障害の病理,鑑別診断,治療をまとめた。中枢性自律神経障害の最新情報をアップデートし,また,俯瞰的に捉えることで,本病態に対する診療をブラッシュアップしていただきたい。

中枢自律神経線維網の形態と機能に関する最近の知見

著者: 山元敏正

ページ範囲:P.215 - P.221

近年の脳機能画像研究により,中枢自律神経線維網(CAN)を構成する領域は大脳皮質から脊髄まで広範囲でかつ機能的連絡が強く,またCANが自律神経機能を包括的に制御していることが明らかになってきた。そしてCANの機能は自律神経機能検査により評価することが可能である。CANの機能を明らかにすることは,急性脳血管疾患や神経変性疾患だけでなく,精神的脆弱性を伴う体位性頻脈症候群や一部の精神疾患の病態を理解するうえでも重要である。

脳血管障害と自律神経障害

著者: 伊藤義彰

ページ範囲:P.223 - P.229

脳血管には自律神経として交感神経と副交感神経が分布しており,三叉神経による逆行性伝導とともに脳血流を調整している。脳血管の神経性調節は,脳機能が活性化した際に血流増加をもたらすカップリング機構,血圧変動に対する血流の自動調節能など生理機能に関わる。また血管狭窄病変の末梢で生じる血管の拡張,血行再建時の過灌流,可逆性脳血管攣縮症候群,片頭痛など,さまざまな疾患の病態に関わる。

純粋自律神経不全症の病理

著者: 村山繁雄 ,   齊藤祐子

ページ範囲:P.231 - P.240

純粋自律神経不全症は,レビー小体病の一型で,末梢自律神経系を病変の首座とする。診断には,多系統萎縮症,アミロイドーシスを中心とする末梢神経障害の除外が必要で,前者にはMRI,後者には神経伝導速度検査,腓腹神経生検が有用である。MIBG心筋シンチグラフィ陽性,発汗障害をもとに行った皮膚生検でレビー小体病理を高率に認めた。長期経過においては認知症状が加わることが多く,小阪憲司博士が提唱したびまん性レビー小体病の病理像に合致する。末梢性の要素に加え,中枢性要素との複合が特徴的であり,進行が緩徐であるため両者への配慮が必要である点において,脳神経内科の関与が重要な疾患領域である。

レヴィ小体病の自律神経障害

著者: 中村友彦

ページ範囲:P.241 - P.248

レヴィ小体病はパーキンソン病,レヴィ小体型認知症,レヴィ小体を伴う純粋自律神経不全症を含む概念であり,いずれもさまざまな自律神経障害をきたすことが特徴である。動物実験でαシヌクレインの自律神経を介した末梢から中枢への進展が証明され,自律神経はレヴィ小体病研究において重要な役割を果たしている。本論では代表的な自律神経障害について,その病態,特徴,治療を概説する。

多系統萎縮症と自律神経障害

著者: 榊原隆次

ページ範囲:P.249 - P.255

シャイ・ドレーガー症候群は1960年に報告され,その後,線条体黒質変性症およびオリーブ橋小脳萎縮症と病理学的に同一の疾患であることがわかり,1997年から多系統萎縮症(MSA)と呼ばれるようになった。MSAは,さまざまな自律神経障害と運動障害を呈する難病であり,その症状の多様さから診療科を越えた連携が重要である。本論では,主にMSAの自律神経障害の鑑別点について詳述する。

タウオパチーにおける自律神経障害の捉え方

著者: 古賀俊輔 ,   饗場郁子

ページ範囲:P.257 - P.262

進行性核上性麻痺(PSP)と大脳皮質基底核変性症(CBD)は非定型パーキンソン症状を呈するタウオパチーである。PSPでは排尿障害や便秘は頻繁に認められ,生命予後に影響することが明らかになった。一方,起立性低血圧はPSPでは稀で,多系統萎縮症やレビー小体病との鑑別に有用である。CBDでも排尿障害が頻繁に見られ,尿失禁はCBDの臨床病型であるPSP症候群の診断基準に含まれているものの,さらなる検証が必要である。

三叉神経・自律神経性頭痛

著者: 古和久典

ページ範囲:P.263 - P.270

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の特徴は,一側性であることと,頭痛と同側に顕著な頭部副交感神経系の自律神経症状を呈することである。『頭痛の診療ガイドライン2021』が診断,治療の一助となる。TACsの病態において,視床下部の活性化,三叉神経-自律神経反射の活性化,内頸動脈拡張やニューロペプチドのいずれもが相応に関与していると考えられているが,不明な点も多く今後のさらなる検討がまたれる。

てんかんと自律神経

著者: 川合謙介

ページ範囲:P.271 - P.277

てんかん発作では,自律神経中枢へのてんかん活動の波及によりさまざまな自律神経症状が出現する。一部の症状はてんかん焦点の部位や左右側の同定の助けとなる。自律神経は大脳活動を調節しており,迷走神経刺激はさまざまな精神神経疾患の治療として注目されている。てんかん治療に用いられる迷走神経刺激療法は,上行性伝導により脳幹から視床を経て大脳皮質を広汎に安定化し異常興奮性を抑制すると想定される。

睡眠障害と自律神経障害

著者: 角幸頼 ,   角谷寛

ページ範囲:P.279 - P.282

ノンレム睡眠中は副交感神経が優位となり,レム睡眠中は交感神経が優位となる。自律神経系のバランスの変化により,ノンレム睡眠中は心拍数と血圧が低下し,レム睡眠および覚醒中には上昇する。非侵襲的な自律神経解析手法である心拍変動解析は,閉塞性睡眠時無呼吸のスクリーニングや,レム睡眠行動障害に合併する自律神経障害により生じる起立性低血圧の予測において,有用である可能性がある。

総説

国際脳ヒト脳MRI研究プロジェクトによる精神疾患の病態解明

著者: 小池進介 ,   田中沙織 ,   林拓也

ページ範囲:P.285 - P.290

日本医療研究開発機構戦略的国際脳科学研究推進プログラム(国際脳)は,精神神経疾患の大規模MRI脳画像研究による病態解明やバイオマーカー開発を目標とする。高分解能MRIデータを多施設で取得する新規プロトコルを策定し,参画13施設でトラベリングサブジェクト計測を行い,データハーモナイズが進行中である。本プログラムにより,国内の精神疾患の脳画像研究が飛躍的に進展し,国際連携と標準化の促進が期待される。

Case Report

Gastric Ulcer Caused by Contact with a Bumper Type Gastrostomy Tube in Amyotrophic Lateral Sclerosis: A Case Report

著者: ,   ,   ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.291 - P.294

Abstract: An 86-year-old man was diagnosed with bulbar type of amyotrophic lateral sclerosis (ALS). He underwent a bumper-tube type of gastrostomy due to dysphagia 16 months after the onset of ALS. Twenty months after the onset, he developed dyspnea due to anemia. Upper gastrointestinal endoscopy showed a gastric ulcer contralateral to the gastrostomy site with bumper indentation from the gastrostomy tube. Patients with ALS might develop gastric ulceration due to mechanical stimulation with a percutaneous endoscopic gastrostomy tube.

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・7

オンライン臨床推論指導

著者: 鋪野紀好 ,   塚本知子 ,   笠井大 ,   生坂政臣

ページ範囲:P.296 - P.299

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)のパンデミックは,世界的に医学生の臨床実習に大きな打撃を与えた。米国医科大学協会(Association of American Medical Colleges)では,COVID-19流行下における医学生の参加型臨床実習のあり方について検討がなされ,一次的に対面診察への参加が中止となった1)。わが国でも,COVID-19の流行状況によって,医学生の臨床実習への参加可否は大きく左右されてきた。このような状況下で,医学生に対して持続的な学習の機会を提供できる体制の構築が急務となった。その方略の1つとして臨床実習メディア授業(オンライン臨床実習)が着目されている。

 本稿では,オンライン臨床実習のうち,特に臨床推論の学習方略にフォーカスをして述べる。

スペシャリストが薦める読んでおくべき名著—ニューロサイエンスを志す人のために・4

神経心理学を志す人に薦めたい名著—平山惠造著『神経症候学』

著者: 河村満

ページ範囲:P.300 - P.301

はじめに

私は脳神経内科医で,多くの時間を臨床医として過ごしてきました。一方神経学者でもあり,いくつかの大学・大学院で教えた経験もあります。医学部以外の,心理学,言語学,脳科学など広い領域でも講義を行ってきました。また,学会や研究会で行う講演に必要な略歴には,長い間,専門領域として神経心理学,神経症候学と記載してきました。このような立場の神経心理学者として,私がいま最も興味を持っているのは時間認知の脳内機構です。2021年10月に開催された第45回日本神経心理学会学術集会では,「記憶と時間」のシンポジウムで司会を務め,共同演者として講演にも参加しました。また,本誌の特集(73巻12号)では,マルセル・プルースト著の『失われた時を求めて』を題材に,記憶・時間の神経学の誕生について記載しました1)

 これらの研究でも示されているように,私の立場は患者さんの症候を詳しく診る臨床医の観点であり,研究手法は大脳病変の神経症候学の追究です。

 このスタンスから読者にお薦めしたいのは平山惠造先生が執筆なさった『神経症候学』です。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・13

脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)〔成人,非遺伝性〕と脊髄性筋萎縮症(SMA)〔小児・青年,遺伝性〕の歴史的プロムナード:呼称の類似が誤解を産む

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.302 - P.305

 両者は時として混同され,誤解を産む。この2つの病名SPMA(spinal progressive muscular atrophy)とSMA(spinal muscular atrophy)は進行性progressiveの「ある」「なし」の違いに過ぎないが,歴史的経緯も病名の意味するところも全く異なる。前者SPMAは特定の疾患を示す固有疾患名であり,後者SMAは小児・青年期に筋萎縮を来たす疾患群を束ねる概念的疾患名である。このような病名の使い方はいろいろな場合にみられる。例えば,筋萎縮性側索硬化症(ALS)は固有疾患名であるが,運動ニューロン疾患motor neuron disease(s)(MND)はALSを初め運動ニューロンが障害される諸疾患を包含する概念的疾患名である。概念的疾患名は教科書や単行書などでの疾病分類(項目)などで用いられることが多い。類例として「多系統萎縮症」などがある(別著参照)1)。従って概念的疾患名は時代の推移などで扱いが変ることがある。前置きはこの程度にして本論に入ることにしよう。

書評

「精神科シンプトマトロジー—症状学入門 心の形をどう捉え,どう理解するか」—内海 健,兼本浩祐【編】 フリーアクセス

著者: 渡邉博幸

ページ範囲:P.283 - P.283

 本書は,病者との丹念で真摯なやり取りによって,その苦悩に輪郭を与え,丁寧な支援の足がかりとすることを長年大切に実践してきた治療者たちが,源流に遡った「精神症状」の解説だけでなく,彼らの臨床の心構えや大切な視点も交えて,わかりやすく説き起こし,多くの医療に関わる人たちと共有することを願って編まれています。

 「症状学(シンプトマトロジー)」と聞いて,皆さんは何を連想しますか。昔話で恐縮ですが,精神科では,週に1回,Terminologie(テルミノロギー)という研修医向けの講義がありました。用語のみならず,その説明文までドイツ語でしたので,翻訳するのに精一杯,もちろん,入局1カ月ほどの青二才で,実際診療として経験していないものですから,訳してもちんぷんかんぷんで,そのときの講義内容をよく覚えておりません。しかし,講義が終わると,先輩や同僚合わせて8名ぐらいで一緒に夕飯となるのですが,普段近寄りがたい先輩方がとても冗舌になり,さっきのいかめしくゴツゴツしたドイツ語の塊を砕いて,「十八番」の苦労話や自慢話を交えて話し出し,その楽しさやワクワクした感じだけがいまなお心に残っています。

「—こころとからだにチームでのぞむ—慢性疼痛ケースブック」—明智龍男,杉浦健之【編著】 フリーアクセス

著者: 矢吹省司

ページ範囲:P.284 - P.284

 本書は,慢性疼痛患者を診療する医療者が参考にできる事例集が中心となっている。8章から成っており,1章:慢性痛を知る,2章:慢性痛をどう評価するか,3章:慢性痛の臨床—エビデンスと治療の原則,そして4〜8章:ケースブック,という構成である。

 まず,慢性痛を理解し,どのように評価し,そしてどのような治療があるのかを1〜3章で知ることができる。これらの章の各項目には,「Point」があり,その項目のまとめが記載されている。そこを読んでいくだけでも内容をある程度理解できるようになっている。そして4章:ICD-11分類に基づく慢性痛,5章:精神疾患と併発する慢性痛,6章:ライフステージと慢性痛,7章:臨床で気をつけたい慢性痛,および8章:慢性痛診療のアプローチで,具体的に事例を挙げて病態の評価の結果とそれをもとにどのような治療方針を立てるかについて記載されている。共通していることは,①一医師だけでの評価や治療では限界がある,②多くの専門家がそれぞれの視点で評価し,それをカンファレンスでディスカッションすることで的確な治療方針が見えてくる,そして③多面的に治療することで複雑な慢性痛であっても改善(痛みの程度そのものに変化がなくてもADLやQOLは改善)できる可能性がある,ということである。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.211 - P.211

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.212 - P.212

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.311 - P.311

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.312 - P.312

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第6波のさなかに書いています。昨年暮れにはようやく日常が戻ってくるかと思った矢先でしたが,世界中をオミクロン株が席巻している中で日本だけ例外,と言うわけにはやはりいかなかったですね。先生方のお膝元の状況はいかがでしょうか。私の勤務する山口県は全国に先駆けてまん延防止等重点措置が敷かれました。対象区域はこの文章を書いている2022年1月28日の時点で34都道府県に拡がり,留まるところがありません。

 今度の株は伝染力は猛烈に強いものの基本的に軽症で,大学病院の重症病棟がパンクするというような状況にはなっていないのが不幸中の幸いですが,授業はすべてリモート,学生の病院内立入りは全面禁止となっています。私は聴衆の表情や反応,理解度が読み取れないリモートの講義や講演がいつになっても好きになれません。この様な状況が1日も早く解消されることを願わずにはいられませんし,おそらく教員も学生も皆,同じように思っているだろうと考えていました。しかし,マスクで堂々と顔を隠すことができて,しかも教官や患者との1対1の関係を築かないで済むいまのCOVID-19状況下の臨床実習を歓迎している,好ましく思っている学生が一定数いることに最近気が付き始めました。こういう感覚は私だけが持っているのか,日頃学生に接することの多い読者の先生に是非お聞きしたいと思っていますが,COVID-19パンデミックを契機としたこのような学生マインドの変化があるとすれば,収束後もずっと引き継がれるものかもしれませんね。さすがにそういう学生でも,患者を手ずから診察できない脳神経内科実習にはフラストレーションが溜まるようです。私は実地の神経診察の機会こそが学生を神経学に引き込む最大の機会と考えていますので,一刻も早く日常に復する日が来ることを願わずにはいられません。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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