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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩74巻6号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 脳神経内科医に求められる移行医療

フリーアクセス

ページ範囲:P.733 - P.733

移行医療とは,小児期発症の疾患を有する患者が成人期に向かう際,それまでの小児期医療から個々の患者に必要な成人期医療への橋渡しを行う医療を指す。成人期特有の症状に対する適切な医療の提供とともに,患者自身が自らの疾患と向き合い,管理するヘルスリテラシーの獲得を目指すものである。

スムースな移行のためには,病態への理解はもちろん,小児科と成人診療科のみならず多職種間での連携が求められ,持続可能な体制づくりも課題である。また,保護者・患者の不安を和らげる丁寧な説明が不可欠で,小児科と成人診療科を併診しながら移行することが有効な場合もある。

本特集では,移行医療に取り組む医師たちの活動を紹介するとともに,小児疾患における移行の実践例や診療のポイントを解説した。移行医療への理解をいっそう深め,その実現に寄与していただくことを願っている。

オーバービュー

著者: 望月秀樹

ページ範囲:P.735 - P.739

医療の進歩に伴い,重症小児神経疾患患者においても成人を迎えることが可能となり,小児期から成人期に移行する際の支援体制が必要となった。日本神経学会においてもこのような現状に対応できるように,2020年に小児-成人移行医療対策特別委員会を日本小児神経学会からもメンバーを募り設置した。脳神経内科医が考慮すべき小児-成人移行医療の課題と,日本神経学会小児-成人移行医療対策特別委員会の現在の活動状況を概説する。

移行医療の現状と課題—脳神経内科の立場から

著者: 望月葉子

ページ範囲:P.741 - P.746

当院は障害児・者に対する総合医療療育施設で,脳神経内科医と小児科医とで移行医療に取り組んでいる。移行チェックリストと移行カンファレンスを利用し,多職種の協力も得て,患者に適切な診療と地域医療連携,福祉サービス利用を推進している。さらに,患者・家族のセルフマネジメントの向上,患者の最善の利益を考えた協働意思決定にも努めている。近年,移行医療支援体制の中で脳神経内科医の必要性が高まっている。

移行医療の現状と課題—小児神経科の立場から

著者: 藤井達哉

ページ範囲:P.747 - P.751

小児期発症の神経・筋疾患患者を脳神経内科へ医療移行することは容易ではない。その原因は患者側の問題と移行システムの問題に分けられる。これらを解決するためには,①小児期から患者・患者家族に将来の移行についての理解を進めること,②移行支援部門を設置して受け入れ可能医療機関の情報収集とコーディネートをすること,そして何よりも③脳神経内科医と小児神経科医との密なる情報交換が重要である。

移行医療の外来診療

著者: 﨑山快夫

ページ範囲:P.753 - P.757

われわれの施設は救命センターを有する地域の基幹病院であるが,近隣の小児医療センターの移転に伴い多くの移行症例が脳神経内科に紹介された。てんかんを有し,発作抑制が困難な症例や医療的ケアを要する重症心身障害児(者)に相当する症例が大半であった。移行にあたっては医療相談室を中心に多職種の連携を行った。移行後は痙攣発作や肺炎などの感染症での救急搬送が多かった。移行教育,人生会議,地域連携が課題であった。

千葉県移行期医療支援センターにおける取り組み

著者: 桑原聡

ページ範囲:P.759 - P.762

小児期発症の慢性疾患の予後向上を受けて,厚生労働省は各都道府県における中核拠点となるべき移行期医療支援センターの設置を求めており,2019年以降7都府県において同センターが設置された。本論では医療体制・ネットワーク構築と自立(自律)支援の観点から千葉県移行期医療支援センターの現状,取り組み,将来像について概説する。移行医療の対象となる患者は多くの小児発症慢性疾患で増加し続けており,個人レベルでの対応は難しいため,各地域の移行期医療支援センターを核として多職種連携による医療連携・ネットワーク構築,行政への働きかけが求められている。

移行医療の支援体制

著者: 掛江直子

ページ範囲:P.763 - P.770

小児期発症の慢性疾患を有する児童の多くが,近年の医学の進歩,医療技術の発展により,慢性疾患を抱えつつ成人できるようになった。そのため,小児期発症慢性疾患を有する成人患者に対する適切かつ継続的な医療の提供や成人移行支援が新たな課題となっている。厚生労働省では,小児慢性特定疾病対策および難病対策において移行医療施策を打ち出し,これらの制度の連携により,移行支援体制の構築を進めている。

脳性麻痺

著者: 荒井洋

ページ範囲:P.771 - P.776

移行期にさしかかる年代における脳性麻痺の有病率は0.2%程度と考えられ,比較的多い中枢神経疾患である。運動障害以外にもさまざまな障害を合わせ持つため,その病態を理解したうえで包括的な医療を提供する必要がある。周産期医療の飛躍的な進歩に伴って病態は年々変化しており,今後は2000年以降に出現した超早産児型脳病変への理解が求められる。生活習慣病や精神疾患のリスクにも注意した内科的管理が必要である。

小児期発症てんかん患者の移行医療

著者: 阿部裕一

ページ範囲:P.777 - P.782

脳神経内科医が成人移行で紹介の小児期発症てんかん患者の診療を行う場合,発症年齢別のてんかん症候群分類や病因を理解することが重要である。成人移行の段階で発作がコントロールされていない場合には,抗てんかん薬の見直し,整理,および治療目標を再確認することが重要である。また基礎疾患および併存症の診療が難しい場合には,総合内科医や在宅往診医との協力体制のもとでてんかんの診療を行うことも必要である。

子どもの権利擁護に根差した移行医療—発達障害を中心に

著者: 田中恭子

ページ範囲:P.783 - P.787

移行医療実践において,重要で忘れてはならないことは,“移行医療は医療機関の都合のために存在するのではなく,大人になりゆく患者の最善の医療のために存在している”,ということである。そしてそのためには,子どもの自立に向けた家族の関係性や役割機能を変化させていくことも必要となる。どの領域においても,よりよい移行医療を実現していくために必要となる概念を,本論で触れてみたい。

運動異常症を主体とした神経難病

著者: 佐々木征行

ページ範囲:P.789 - P.793

小児期発症の運動異常症を主体とする神経難病の一部を概説した。患者ニーズに合わせて多職種連携で移行医療を提供することが勧められる。移行を考慮する患者に対しては担当小児科医が主体となり,医療的な選択肢のメリット・デメリットについてアドバイスを行いながら,患者自身と家族・保護者の自己決定権を尊重して納得のいく選択ができるようにすべきである。移行困難の要因となる問題点などについて簡単に触れた。

筋ジストロフィー

著者: 松村剛 ,   齊藤利雄

ページ範囲:P.795 - P.799

本邦の筋ジストロフィー医療は,専門医療機関による集学的医療で発展し,生命予後の著しい延長をもたらした。患者の生活の場は施設から地域へ移行し,受診機関も多様化した。筋ジストロフィー患者は神経発達症候群など中枢神経障害を抱えることも多く,移行医療の時期は身体的・精神的に不安定なことが多いため,早期からリハビリテーションなどで専門機関の受診機会を持つ,一定の併診期間を設定するなどの工夫が望ましい。

総説

WHO脳腫瘍分類2021第5版—主な変更点

著者: 小森隆司

ページ範囲:P.803 - P.809

WHO脳腫瘍分類2021第5版では組織発生分類から分子分類への移行がさらに推し進められ,悪性度分類にも導入された。定義が曖昧であった腫瘍を整理した結果,浸潤性グリオーマは成人型と小児型に分離,腫瘍型の数は110余りに減り,22の新規腫瘍型が採択された。病理診断に際して,組織所見のみならず,発生部位,遺伝子情報,悪性度を統合的に勘案して最終的な診断を決定する統合診断が採用された。本論では重要な変更点について概説した。

症例報告

高血圧による一過性の神経血管圧迫症候群をきたした遺残性三叉動脈と遺残性舌下動脈の併存例

著者: 朝山康祐 ,   林健太郎 ,   金井由貴枝 ,   田原奈生 ,   加藤芳恵 ,   安部哲史 ,   三瀧真悟 ,   長井篤

ページ範囲:P.811 - P.816

急性発症の右眼窩部痛と複視で来院した70歳女性。高血圧を認め,神経学的に右眼球下転制限を認めた。CT angiographyとMRIにて内側型右遺残性三叉動脈,右遺残性舌下動脈,bovine型大動脈弓を認めた。眼球下転制限と右眼窩部痛の原因として右内頸動脈の内側型右遺残性三叉動脈分岐による海綿静脈洞内での外側偏奇による動眼神経・滑車神経,三叉神経第1枝の圧迫が疑われた。血圧の正常化ともに症状は改善した。発生学的原因として,右後交通動脈と両側椎骨動脈は無〜低形成であったことから,胎児期に後方循環系への十分な血流の供給路として複数の原始血管吻合が遺残し,一過性高血圧による神経血管圧迫症候群への関与が考えられた。

神経画像アトラス

特徴的なMRI所見で診断した無症候性multinodular and vacuolating neuronal tumor(MVNT)の1例

著者: 本郷卓 ,   中島英樹 ,   岸崎穂高 ,   高崎盛生 ,   岡田務 ,   藤本康裕

ページ範囲:P.817 - P.818

Ⅰ.症例提示

〈症 例〉 39歳,男性。

 既往歴 熱性痙攣。

 現病歴 頭痛の精査のため他院で頭部MRI検査を受け,右後頭葉皮質下白質に最長径20mm大の腫瘍病変を指摘され当院へ紹介された。

連載 脳神経内科領域における医学教育の展望—Post/withコロナ時代を見据えて・10

DX時代の病院と臨床教育の実践

著者: 黄世捷 ,   伊佐早健司

ページ範囲:P.819 - P.821

はじめに

 本論のテーマであるDigital Transformationは2004年にスウェーデンのウメオ大学情報学教授であったエリック・ストルターマンが提唱した概念であり,DxまたはDXと略される。原著1)では“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.”と述べられ,「デジタル技術の浸透が,人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」概念と訳すことができる。

 本論ではDXについて理解するうえで前提となる「デジタル化の段階」について概説したうえで,医療に導入されているデジタルテクノロジーを紹介し,脳神経領域における活用や研修への応用について述べる。

臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・16

Cluster headacheは群発頭痛と訳されるが,「head」は頸より上全体を指す「首」である—病名呼称の難しさ

著者: 平山惠造

ページ範囲:P.822 - P.823

 Cluster headacheの歴史は古く,19世紀中頃から始まり,且つその呼称は表現の難しさから20世紀に入ってからも十指に余るほどのものがある〔拙著1)参照〕。それらの中でKunkleら(1952)2),Mathew(1992)3)が用いたのがcluster headacheである。本症は一時期,頭痛の国際分類(1962)に入れられたが,その後(1988)には頭痛から切り離された。当時のその事情を知らないが,それはそれとして,ここで取り上げる問題は「head」(英)と日本語の「頭」とは範囲が相違する,ということである。

LETTERS

脳をみる「窓」としての網膜の可能性

著者: 森望

ページ範囲:P.824 - P.825

 2021年11月号の特集『「目」の神経学』は錯視や幻視など興味深い話題も多く,楽しませていただいた。私たちは「目」でものを見ているというより「脳」で見ているといったほうが正しい場合もある。そのことをつくづくと感じさせてくれた。

 特集の中に『眼は「脳」の窓となり得るか?』という総説がある1)。眼底検査に汎用される光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCT angiography:OCTA)で高齢者での認知機能変化の初期症状を捉えられるか? という視点から現状での研究状況について詳述されており,とても参考になった。結論からすると,このような装置の進展により微細な変化を捉えられるようになりはしたが,単独の検査でアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)などの認知症の診断に使うには,現状ではまだ難しいとのことである。この総説の最後にハイパースペクトルイメージング(hyperspectral imaging:HSI)カメラによる認知症検出への可能性に言及している。米国のKoronyoら2)とオーストラリアのHadouxら3)の研究を紹介しているが,実はそれに先んじて,米国のミネソタ大学のRobert Vinceらの研究がある4,5)

書評

「がんCT画像読影のひきだし」—稲葉吉隆,女屋博昭,清水淳市,前田章光【編】 フリーアクセス

著者: 青山剛

ページ範囲:P.801 - P.801

 このたび,『がんCT画像読影のひきだし』が出版された。『がん薬物療法のひきだし』(2020年),『医薬品情報のひきだし』(2020年)に続く,「ひきだし」シリーズの第3弾である。今回の『がんCT画像読影のひきだし』は,CT画像について「何を考えながら」「どのように」読影すべきか,そのポイントをわかりやすく解説した入門書である。まず驚くのは,医師と共に薬剤師も編集に加わっている点である。評者の薬剤師としてのキャリアは20年になるが,学生時代に画像について学んだことはなかった。画像読影がテーマの本で薬剤師が中心メンバーとしてかかわっていることに,評者も少なからず刺激を受けたのだ。

 本書は「初心者が画像読影のスキルを伸ばし,症例検討会の議論やカルテの記載内容の理解を深め,結果的に患者の病態をより深く把握できるようになる」ことを目的に刊行されたという。本書には多数のCT画像が掲載され,丁寧な解説も加えられており,これからこのテーマについて学びたい若手医師や,薬剤師,看護師が理解しやすいように工夫されている。冒頭の「総論」以降の目次は,「正常画像」「治療効果の判定」「腫瘍の見落としを防ぐ」と続き,以降は本書のキモともいえる「臓器別,臨床課題別のがんCT画像読影のポイント」に本書全体の7割のボリュームが割かれている。

「救急外来,ここだけの話」—坂本 壮,田中竜馬【編】 フリーアクセス

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.802 - P.802

◆Controversyは159個

 救急外来はギモンでごった返している。

 ・「敗血症性AKIを併発している患者への造影CTは?」

 ・「ビタミンB1はどの程度投与すればいいのか?」

 ・「急性虫垂炎と診断したら,抗菌薬投与で一晩経過をみてもよいか?」

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.731 - P.731

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.732 - P.732

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.831 - P.831

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.832 - P.832

 特集「脳神経内科医に求められる移行医療」を企画させていただいた。移行医療は重要な課題ながら,脳神経内科医の中ではまだ十分な議論ができておらず,残念に思っていた。かくいう私も数年前に2つの出来事を経験するまで,移行医療を実現する大切さを理解していなかった。1つは地域のてんかん研究会で,小児科医から,小児期に発症し成人後も小児科で治療を継続する,いわゆるキャリーオーバーの問題に取り組むべきという発表があり,その重要性を教えていただいたことである。発表後,小児科医から活発な意見があったのに対し,脳神経内科医からはほとんど意見がなく,対照的であった。岐阜大学小児科深尾敏幸前教授より「患者さんの希望を叶えるため,まず私たちが連携を深めましょう」と声をかけていただいた。深尾教授は残念なことにその後,急逝されたが,てんかんの移行医療の実現は,託された宿題のように感じている。

 もう1つの出来事は,重症心身障害児や小児神経難病の患者さんが多数入院する病院を毎週回診する機会をいただき,脳性麻痺は定義上,非進行性の疾患のはずなのに,実はさまざまな進行性の変化を認めることを理解したことである。成人脳性麻痺では健常者と比較して,脳卒中のハザード比は2倍,脊髄症に至っては8倍,さらに認知症,てんかん,睡眠障害,精神疾患の頻度も高い(Smith SE, et al. Ann Neurol 2021; 89: 860-871)。その機序は不明であるものの,成人の脳性麻痺患者さんの診療に成人科医師による治療やケアが不可欠であることを痛感した。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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