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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻2号

2023年02月発行

雑誌目次

特集 多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療

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ページ範囲:P.99 - P.99

多系統萎縮症の診断は,2008年に発表されたGilman分類second consensus statementを用いて行われてきた。しかしその後の研究の進歩により,正確さや早期診断の感度における課題が明らかになり,2022年に新たな診断基準であるThe Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophyが提示された。本特集ではGilman分類の問題点を総括するとともに,本邦から新診断基準の作成に参画した委員による解説を含め,新診断基準のねらいや使用にあたっての留意点を示す。さらに日常診療や臨床試験における活用法,疾患修飾療法開発の展望について学ぶことを目的とする。

Gilman分類second consensus statementの問題点

著者: 渡辺宏久 ,   長尾龍之介 ,   水谷泰彰 ,   伊藤瑞規

ページ範囲:P.101 - P.108

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の診断に関する第2回合意声明は,MSAの概念を統一するとともに,臨床研究や創薬研究を大きく前に進めてきた。しかし,その後の研究の進歩により,さまざまな課題が明らかとなった。ここでは,第2回合意声明の有していた問題点について,診断感度,起立性低血圧の取扱い,診断カテゴリー,除外基準(高齢発症,家族歴,認知症),進行性核上性麻痺との鑑別,画像所見の問題を中心に整理したい。

Movement Disorder Societyによる多系統萎縮症診断基準—改訂のポイントと注意点

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.109 - P.116

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の新しい診断基準が作成された。この診断基準は臨床試験への患者登録の向上につながる病初期の診断精度の向上を目標としている。その特徴は,診断の確実性を4つのレベルに分けて定義したことである。本論は本診断基準において,これまで使用してきたGilman分類第2次コンセンサス基準との相違点を説明するとともに,使用するうえでの注意点を示したい。

New MDS criteriaの注目点—全体像および遺伝学的観点から

著者: 辻省次

ページ範囲:P.117 - P.121

多系統萎縮症の診断基準としては,2008年に発表された診断基準が幅広く用いられてきたが,早期に信頼性の高い診断を可能にすることを目的として,新診断基準が提案され,“clinically established MSA”,“clinically probable MSA”,“possible prodromal MSA” という新たなカテゴリーが設定され,実用性の高いものとなっている。一方,遺伝学の点からは,家族性MSAへの積極的な言及が含まれておらず,課題となっている。

New MDS criteriaの注目点—自律神経障害の観点から

著者: 榊原隆次 ,   澤井摂 ,   尾形剛

ページ範囲:P.123 - P.132

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の自律神経障害について,新診断基準に触れながら述べた。MSAは,自律神経障害と運動障害(小脳性運動失調,パーキンソン症候)をきたす代表的な神経変性疾患である。MSAの自律神経障害は,泌尿器科,循環器内科,消化器内科,耳鼻科・呼吸器内科などと,脳神経内科がオーバーラップする領域であるので,本疾患をよく知り,各臓器科と協力し,患者の治療・ケアに当たる必要がある。また,脳神経内科医も,エコー残尿測定を行ってみることが勧められる。MSAは根治が難しい難病であるが,それぞれの症状に対して適切な治療・ケアがあるので,積極的な治療介入が望まれる。

New MDS criteriaの注目点—病理学の観点から

著者: 三木康生 ,   若林孝一

ページ範囲:P.133 - P.141

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の臨床診断基準が2008年に発表されて以来,いくつかの改善すべき点が明らかとなった。つまり,MSAと臨床診断された患者にはパーキンソン病や進行性核上性麻痺など他の病態(MSA look-alike)が混入している可能性があること,MSAの治療にはMSAを病早期に高い精度で診断する必要性があること,などである。本論では,今回改訂された新臨床診断基準を臨床病理学的な立場から解説する。

New MDS criteriaの日常診療・臨床試験における使用方法

著者: 松島理明 ,   矢部一郎

ページ範囲:P.143 - P.147

新たに改訂された多系統萎縮症の診断基準は,従来の診断基準と比較して,起立性低血圧の基準が緩和されたところがある一方で,MRIや残尿測定などの検査を要する項目も設定された。従来は診断確度の低いpossibleであった例が,新診断基準ではより診断確度の高いclinically establishedの判定になることがある。ただし,自験コホートの検討においては,診断に必要な症候や検査項目が未確認の場合は診断基準に当てはめられない事例があった。臨床試験に関して,介入研究の場合はclinically establishedまたはclinically probableが対象となり,観察研究ではpossible prodromalの重要性が増してくると考えられる。今後は病理学的に診断精度を確認するとともに,支持的バイオマーカーとして挙げられている諸検査のエビデンスを蓄積して,より有用な診断基準としてブラッシュアップしていくことが求められる。

New MDS criteria時代の新しい治療

著者: 長谷川隆文

ページ範囲:P.149 - P.156

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の病態理解が進む中,疾患修飾療法開発に努力が注がれている。これまでにαシヌクレイン蛋白の凝集抑制,神経炎症,栄養因子低下を是正する複数の疾患修飾薬開発が試みられてきたが,ほとんどは失敗に終わっている。この度MSA診断基準が改訂され,より早期に信頼性の高い診断が可能となるとともに,新たに前駆期MSAの基準が制定され,トランスレーショナルギャップの縮小が期待されている。

総説

カルシウムイメージングによる神経活動の計測

著者: 坂本雅行

ページ範囲:P.159 - P.165

カルシウムイメージングは現在,ニューロンの発火を計測するイメージング手法として広く用いられている。近年では,高感度かつ高速な遺伝子にコードされたカルシウムセンサーが数多く開発され,多光子励起顕微鏡や内視鏡型顕微鏡を使用することで生体脳においてもニューロンの電気的活動を1細胞レベルの解像度で複数同時に計測することが可能となった。本論では,蛍光カルシウムプローブの特徴や生体脳への応用について紹介する。

神経系における幹細胞治療

著者: 新妻邦泰

ページ範囲:P.167 - P.172

近年,傷害されたり失われたりした体の組織を,元に戻したり補ったりするような,再生医療に注目が集まっている。再生医療の1つである幹細胞治療とは,体内に幹細胞を投与することで臓器を保護したり,修復したりする治療法である。神経系疾患に対する臨床応用が試みられ,有意な治療効果も得られ始めているが,いまだ確立された治療法には至っていない。本論では,その中でも一番研究が盛んである脳梗塞に焦点を当てて概説する。

原著

マンガの文脈に基づいて色を想起する際の脳活動

著者: 室谷悠斗 ,   酒井邦嘉

ページ範囲:P.173 - P.182

左右の紡錘状回に色覚中枢があるが,色の想起過程は不明である。ストーリーを伴うマンガと共感課題を用いてこの領域の活動をfMRIで調べたところ,馴化効果は不自然な反転色を含む条件に限られ,モノクロでもカラーバーの反応レベルを維持した。また,1ページで十分な文脈を伴うマンガをモノクロで先に提示すると,カラー提示と同等の反応が見られ,共感度と合致した。以上の結果は,文脈に基づいて色が想起されたことを示唆する。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・2

せん妄へのアプローチ

著者: 金井光康

ページ範囲:P.183 - P.185

83歳の女性。右大腿骨頸部骨折のため手術を受けた。手術当日の夜は意識清明であったが,手術翌日の夜間に,実際は死別しているにもかかわらず「夫の食事を作るために帰宅したい」などと,つじつまの合わない言動が出現した。これまで認知症症状を指摘されたことはない。

この病態について誤っているのはどれか。

a 幻視を伴う。

b 日中にも起こる。

c 身体疾患が原因となる。

d 意識レベルが短時間で変動する。

e ベンゾジアゼピン系薬剤が有効である。

(第115回E31)

書評

「末梢神経障害—解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで」—神田 隆【編】 フリーアクセス

著者: 三苫博

ページ範囲:P.157 - P.157

 神田隆先生(山口大学神経・筋難病治療学講座特命教授)が編集された本書は,末梢神経障害を,病態生理学を踏まえて包括的に理解し,実践の診療の役に立てることができるという点で,この分野のマイルストーンとなる成書です。神田教授の構想に従い,全国のエキスパートの先生方が分担執筆されています。

 末梢神経疾患は,約1000万人の患者さんがいると推定され,日常高頻度で遭遇するcommon diseaseの一つです。common diseaseといえば,典型的な症状,明解な検査所見から,診断が比較的しやすいというイメージがあるかと思います。しかしながら,末梢神経障害は,診断,治療のアプローチが大変に難しい疾患です。神田教授は,「末梢神経障害は,AがあればBの診断,そして治療Cの実施という一直線の思考では対処できないためである」と,その特徴を喝破しています。

「《ジェネラリストBOOKS》高齢者診療の極意」—木村 琢磨【著】 フリーアクセス

著者: 松村真司

ページ範囲:P.158 - P.158

 「お前は日本人なのに,クロサワを観たことがないのか?」

 留学先の大学院の教室の片隅で,アジアの小国からやってきた友人に当時私が言われた言葉である。動画配信など,ない時代。レンタルビデオ屋から代表作を借り,週末ごとに観た。『用心棒』『七人の侍』『天国と地獄』。衝撃的な面白さであった。いや,面白いだけではない。「生きるとは」「人間とは」といった私たちの根源的な問いに向き合った作品。黒澤映画の偉大さを教えてくれたその友人に後日感謝の念を伝えると,彼は続けてこう言った。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.97 - P.97

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.98 - P.98

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.191 - P.191

あとがき フリーアクセス

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.192 - P.192

 今月は多系統萎縮症が特集されました。若い先生と話をしていると,オリーブ橋小脳萎縮症,線条体黒質変性症,シャイ・ドレーガー症候群から多系統萎縮症への流れを知らない方がいることに驚きました。そんなことは,どうでもいいことかもしれませんが,発症から最期まで自ら診療をして病理解剖もさせていただいていると,3つの疾患はやっぱり違うのではないかと思ってしまうこともあります。患者さんによって症状も経過もずいぶん違います。本号を熟読して多系統萎縮症の理解を深めてみたいと思います。

 多系統萎縮症と関係ありませんが,岩波文庫の『読書について—他二篇』(ショウペンハウエル)を読みました。3つの話が入っていますが,どれも私には衝撃でした。あえて簡単にまとめると,本の読み方が書いているのではありません。要はつまらない本は読むな,本を読むことは思考の停止だといった刺激的な内容です。文章を書くということの心構えと言えるものもあります。このあとがきのように,PCを使ってちょこちょこ書くことなどは許されない感じです。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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