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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 慢性疼痛

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ページ範囲:P.195 - P.195

痛みは患者のQOLやADLに大きく関わり,各科の医師が診療にあたる機会は多い。しかし,漫然と鎮痛薬の投与などが継続され,必ずしも適切な治療がなされていないことも多いのではないか。そのような問題意識のもとに企画した本特集では,内科治療やペインクリニックでの診療の実際,近年病態が解明されつつある筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と痛みとの関連など,臨床家による解説から,疼痛の病態生理,心理的な機序など基礎分野の話題まで幅広く取り上げた。国内には2000万人を超える慢性疼痛患者が存在するとされる。慢性疼痛対策を喫緊の課題として受け止め,明日からの臨床・研究につなげてほしい。

イントロダクション—痛みの理解を深めるために

著者: 野口光一

ページ範囲:P.197 - P.200

痛みは多くの疾患に伴い時には疾患と関係なしに現れ,多くの臨床家が日常的に対処しているにもかかわらず,種々の慢性化した疼痛はその病態が多くは不明で,画一的な対処法では対応は難しい。痛みを理解することはその対処への第一歩であり,長年にわたり基礎研究,臨床研究により多くの知見が積み重ねられてきた。今後とも,「痛み」をよく知るための努力を継続することで,医療の原点である「痛みからの解放」を目指していきたい。

慢性疼痛とそれをとりまく痛みの歴史や概念・定義

著者: 牛田享宏

ページ範囲:P.201 - P.205

慢性疼痛を考える際には痛みとは何かを理解する必要がある。われわれがしばしば経験する痛みについて,国際疼痛学会(IASP)では痛みが個人的な経験であり,生物学的,心理的,社会的要因によってさまざまな程度で影響を受けることや必ずしも適応的な役割を果たさず,身体的・社会的・心理的な健康に悪影響を及ぼすことに言及している。このような複雑な要因によって発症・維持されている慢性疼痛を分類するためにIASPでは,ICD-11の中で器質的な要因が明確な慢性二次性疼痛と器質的な面だけからは説明が困難な慢性一次性疼痛を中心としたコーディングシステムを作成した。また,慢性疼痛を含めた痛みの治療を考えるにあたっては侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛に加えて神経系の感作から痛みを強く感じる痛覚変調性疼痛という3つの痛みのメカニズムなどが病態にあることを考えながら進める必要がある。

慢性疼痛とシナプス再編—グリア細胞制御による治療法を目指して

著者: 鍋倉淳一 ,   竹田育子

ページ範囲:P.207 - P.216

慢性疼痛は,痛覚過敏など体性感覚ばかりでなく,不安など多くの脳機能の異常を伴う。その病態メカニズムとして関連する脳部位の神経回路の長期変化が挙げられる。本論では,痛覚過敏を引き起こす病的回路構築へのグリア細胞の関与,および,異常感覚に関連する回路の可塑性を操作し,病的回路の修復と異常痛覚の除去の試みと臨床応用への期待について解説する。

慢性疼痛と筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群

著者: 佐藤和貴郎

ページ範囲:P.217 - P.225

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)は全身倦怠感や睡眠障害,認知機能障害,起立不耐を中核症状とする後天性疾患で,感染症などを契機に発症する。頭痛や筋痛・関節痛などの慢性疼痛は頻度の高い症状であり線維筋痛症と重複する症状も多い。しかしME/CFSは身体的・認知的・感情的な労作ののちに極端かつ遷延する症状の悪化すなわち「労作後の消耗」に留意した治療アプローチが必要で,線維筋痛症とは区別が必要である。本論では疾患概念や診断,最近の研究成果について紹介する。

慢性疼痛の内科治療

著者: 野寺裕之

ページ範囲:P.227 - P.234

神経障害性慢性疼痛に対して国内10学会が協力した『慢性疼痛診療ガイドライン』が2021年に発表された。Ca2+チャネルα2δリガンド(プレガバリン・ガバペンチン・ミロガバリン)とデュロキセチンが使用を強く推奨される。三環系抗うつ薬を加えた3薬剤クラスは有痛性糖尿病性神経障害で鎮痛効果が同等であり,併用でさらに強い効果が期待できる。副作用や患者個別の状況を理解したうえでの治療戦略が重要である。

慢性疼痛診療におけるペインクリニックの役割

著者: 北原雅樹

ページ範囲:P.235 - P.241

ペインクリニックとは痛み治療の高次専門医療機関であり,神経ブロック療法だけを行っているのではない。ペインクリニックでは,痛みの生物心理社会モデルに基づいて痛みの原因を診断し,治療のゴールを設定し,そのゴール達成のために適切な治療法を選択し実施する。治療の目的は鎮痛ではなく,患者のADL/QOLを向上させることが第一目標であり,そのためにも集学的なアプローチが必要となる。

心理的な痛みの機序

著者: 梅田聡

ページ範囲:P.243 - P.252

本論では,まず主観的感覚である心理的痛みを測定する方法について述べ,その神経メカニズムについて概説する。特に,島皮質および帯状皮質から構成されるセイリエンスネットワークを中心とした神経基盤の関与について,内受容感覚との関連性に着目しながら述べる。次に,心理的痛みを病態として捉える疾患概念に焦点を当て,身体症状症などに関する研究成果を概観し,心理的痛みの緩和および今後の研究の方向性について考察する。

Review

Allesthesia

著者:

ページ範囲:P.255 - P.261

Allesthesia is a peculiar symptom in which sensory stimulation to one side of the body is perceived on the opposite side. This was first described by Obersteiner1) in patients with spinal cord lesions in 1881. Thereafter, it has occasionally been reported for brain lesions and was classified into higher cortical dysfunction as a right parietal lobe symptom. No detailed studies on this symptom have long been reported in association with lesions of either the brain or spinal cord, partly because of difficulties in its pathological evaluation. Being scarcely mentioned in recent books on neurology, allesthesia has virtually become a forgotten neural symptom. The author identified allesthesia in some patients with hypertensive intracerebral hemorrhage and three patients with spinal cord lesions, and studied its clinical signs and mechanism of pathogenesis2). The following sections discuss allesthesia in light of its definition, cases and responsible lesions, clinical signs, and mechanism of pathogenesis.

総説

社会的孤立・孤独と親和性社会行動の神経基盤

著者: 福光甘斎 ,   黒田公美

ページ範囲:P.263 - P.268

孤独が長期間に及ぶと喫煙に匹敵するほどの健康被害をもたらすことが広く知られており,解決すべき社会問題として各国が対策に乗り出している。孤独が心身の健康に与える影響を本質的に明らかにするためには動物モデルでの研究が重要である。本論では,主にげっ歯類を用いた研究で明らかになってきた孤独認知および慢性的孤独の神経基盤について概説するとともに,孤独認知機構の進化的発達についても考察する。

症例報告

延髄梗塞を合併した帯状疱疹性脊髄炎の1例

著者: 星野俊 ,   伊藤葵 ,   清水高弘 ,   秋山久尚 ,   山野嘉久

ページ範囲:P.269 - P.273

左側胸部の帯状疱疹治療中に,左側優位の対麻痺と膀胱直腸障害を呈した62歳女性を経験した。頭部MRI検査では,延髄左側にDWI(diffusion-weighted image)高信号,ADC(apparent diffusion coefficient)低下の急性期脳梗塞所見を認めた。脊髄MRI検査では,頸髄左側と胸髄左側にT2強調画像で高信号所見を認め,脊髄炎が示唆された。脳脊髄液検査で水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)-DNA PCR法陽性であったため,延髄梗塞を合併した帯状疱疹性脊髄炎と診断した。早期からの抗ウイルス治療とステロイドパルス療法の併用により症状の軽快を得られた。帯状疱疹性脊髄炎では,皮疹から離れた領域の病変評価も必要であり,また早期から積極的に治療を開始することが重要である。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・3

依存症とは何か—身体依存と精神依存

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.275 - P.278

身体依存が形成される薬物はどれか。2つ選べ。

a 大麻

b コカイン

c モルヒネ

d メタンフェタミン

e フェノバルビタール

(第115回A15)

書評

「がん診療レジデントマニュアル 第9版」—国立がん研究センター内科レジデント【編】 フリーアクセス

著者: 石岡千加史

ページ範囲:P.253 - P.253

 高度化する今日の日本のがん医療には,質の高い医療提供体制が必要であり,その要となるのはがん専門医療従事者です。がん対策基本法の施行(平成19年4月)後,専門医を含むがん専門医療従事者の育成の必要性が社会や国に認識されるようになり,がん薬物療法専門医,放射線治療専門医,緩和医療専門医など学会が主導するがん治療に特化した専門医制度が確立しました。また,がん看護専門看護師やがん関連の認定看護師制度などの専門性の高いメディカルスタッフの育成体制もおおむね確立し,がん専門医療従事者の養成は少しずつ進んできました。しかし,いまだにがん専門医療従事者の配置は地域間格差や医療機関間格差が明らかで,高度化するがん医療と相まって医療水準の質の格差の原因となっています。このため,同法に掲げられる「がん医療の均てん化の促進」は,いまだに解決すべき重要な課題です。

 本書は現場ですぐに役に立つマニュアルとして版を重ね,四半世紀が経ちました。この間,コンパクトながら系統的にまとめられた内容が好評で,主に腫瘍内科をめざす若い研修医やがん薬物療法専門医をめざすレジデントに愛読されてきました。がん専門医療者に求められる知識は,各臓器別,治療法別の知識にとどまらず,がんの疫学,臨床試験,がん薬物療法の基礎知識,集学的がん治療,がんゲノム医療,緩和医療など臨床腫瘍学の幅広い領域にわたります。今回の第9版は,前版までの読みやすくかつ系統的な内容・書式を継承しつつも,疫学データ,標準治療などを最新の内容にアップデートし,さらにがんゲノム医療を新たに章立てしたもので,腫瘍内科医はもとより,がん診療に携わる全ての医師,メディカルスタッフの入門書として大変有用だと思います。さらに若い医療者や学生を育成する指導者のための参考書としても役に立つはずです。

「子どもの「痛み」がわかる本—はじめて学ぶ慢性痛診療」—加藤 実【著】 フリーアクセス

著者: 余谷暢之

ページ範囲:P.254 - P.254

 子どもの痛みは歴史的に過小評価されてきました。その中で,多くの研究者たちが子どもの痛みについてのエビデンスを積み重ね,「子どもはむしろ痛みを感じやすい」ことが明らかになりました。その結果,諸外国では子どもへの痛みの対応が丁寧に実践されていますが,わが国においては十分に対処されているとは言えない状況があります。著者である加藤実先生は子どもの痛みに真摯に向き合い,丁寧に臨床を重ねられ,さまざまな学会でその重要性を訴えてこられました。その集大成が本書であると思います。

 本書で紹介されている慢性痛は,急性痛とは異なるアプローチが必要となりますが,そもそも小児領域では急性痛,慢性痛という概念すら十分に浸透していない状況です。慢性痛は心理的苦痛や社会的影響を伴い,子どもたちの生活の質に深刻な影響を及ぼす可能性があり,生物心理社会的(biopsychosocial)アプローチが必要となります。3〜4人に1人が経験するとされ決して稀でない慢性痛は,小児プライマリケア診療においても重要な領域ですが,体系立って学ぶ機会が少なく,本書の役割は大きいと言えます。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.193 - P.193

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.194 - P.194

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.285 - P.285

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.286 - P.286

 今年の冬は寒いですね。この厳寒の中,電気の供給を断たれたウクライナの人々の苦境はいかばかりでしょうか。寒さに加えてコロナ,円安,物価高と景気のいい話は全然聞こえてきませんが,少なくとも暖かい家と食べ物があって,砲弾が飛んでこない日本にいる幸せを噛みしめたいと思います。こういう時期こそ映画鑑賞,ということで昨年12月号のクリスマス特集でしたが,皆さまお読みいただけましたでしょうか。ざっと目次を見ただけでも,実に多種多彩な神経・精神疾患が映画の題材になっていることに驚かされます。神経系イコール人間そのものであると考えれば当たり前のことかもしれませんね。

 映画と言えば,昨年11月に映画監督の大森一樹さんが逝去されました。彼は私の4つ年上で同じ大阪市の出身,京都府立医科大学の卒業生ということでずっと親近感を抱いていましたが,何といっても『ヒポクラテスたち』ですね。先生方はもうこの映画はご覧になりましたでしょうか。臨床実習に励む医学部6年生の日常をテーマとした青春グラフィティと呼べる内容で,医師であれば一度は観ておくべき,とてもいい映画だと思います。封切りがちょうど私が医学部卒業前後の時期と重なったこともあって,いろんなことを甘酸っぱい想い出とともに思い起こさせてくれる映画でもあります。特定の神経疾患を扱った映画ではないので12月の特集号には取り上げませんでしたが,終章近くで古尾谷雅人演じる主役の医学生が精神に異常をきたすシーンなど,三村先生にご解説いただけたらよかったかなと少し残念に思っています。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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