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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻4号

2023年04月発行

雑誌目次

特集 All About Epilepsy

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ページ範囲:P.289 - P.289

てんかん治療の基本は薬物療法であるが,20〜40%の割合で存在するとされる薬剤抵抗例では外科治療が必要になる場合もある。また小児や高齢者のてんかんでは成人例と臨床的特徴が異なる点も多い。このようにてんかんの病態は多様であり,診断の多くは問診を手がかりとしているため,正確な診断や分類は容易ではない。そうしたことから,てんかん診療には脳神経内科-脳神経外科-精神科-小児科を横断した学際的な知見が求められる。てんかん診療のエッセンスを凝縮した本特集で包括的な視点をアップデートしてほしい。

てんかんの診断・分類—てんかん診療における思考過程

著者: 川口典彦 ,   寺田清人

ページ範囲:P.291 - P.296

てんかんは発作を繰り返す慢性疾患であり,大脳の神経細胞が過剰に興奮するために発作性の症状が生じると定義される。その病因(原因)はさまざまで,多彩な併存症を有する。本論では,てんかんの診断と分類,てんかん症候群についてILAEの診断基準に基づいて解説する。また,具体例を挙げて,てんかんの診断プロセスについて解説する。てんかん発作では脳機能の一過性の変容が生じており,その診断や焦点推定においては脳機能局在やてんかん性活動の伝播様式などの知識に基づいて病歴聴取を行い,発作症候を解釈することが重要である。てんかん診療に際して,薬物や外科治療のみならず,てんかんの正確な診断においても高い診療能力・問診力が求められる。

小児のてんかん

著者: 小國弘量

ページ範囲:P.297 - P.301

小児てんかんの特徴は,発達年齢ごとに特異なてんかん症候群が存在することである。この「年齢依存性」てんかん症候群の中でも,有病率の高い自然終息性てんかん群と,有病率は低いが予後不良である薬剤抵抗性てんかん群の存在が特徴的である。後者の多くは乳児期早期よりてんかんを発症し,発達性てんかん性脳症へ進展するとともに知的・運動能力障害を併存する。また軽快することなく成人期へ移行し,包括的な診療が必要となる。

てんかんをもつ女性の妊娠・出産

著者: 田久保陽司 ,   根本隆洋 ,   渡辺雅子

ページ範囲:P.303 - P.306

てんかんをもつ女性は妊娠可能年齢をむかえるにあたり,抗発作薬による催奇形性や子どもの神経発達症に与える影響を考慮し,安全で効果的な治療をしなくてはならない。さらに,妊娠前から産後にかけて切れ目のないケアを実現するためには多機関,多職種における協働が必要となる。多職種の専門知識を活用していくとともに,診療ガイドを用いて基本的知識を共有し,妊娠前からプレコンセプションケアを行うことが重要である。

自動車運転とてんかん

著者: 渡邊さつき ,   松尾幸治

ページ範囲:P.307 - P.310

てんかんのある人にとって自動車運転の可否は重要な問題である。医師は道路交通法を理解し,適切な助言や運転指導を行う必要がある。患者の運転適性は,意識障害や運動障害を伴う発作が2年以上ないことが求められる。初回の非誘発性発作の場合は法的な規定はないが,6カ月間を目安として経過観察をする。てんかん発作があり,運転しないよう指示を受けたにもかかわらず患者が自動車運転を続けた場合,医師は任意の届け出が可能で,それは守秘義務違反とならない。

高齢者のてんかん—臨床と最近の知見

著者: 曽根大地

ページ範囲:P.311 - P.315

超高齢社会へ突入した本邦において,適切な高齢者医療・福祉の提供は喫緊の課題である。本論では,高齢者てんかんの臨床と最近の知見を概説する。高齢者てんかんでは,軽微な発作症状や脳波所見に注意が必要で,鑑別も多岐にわたる。治療は薬物療法が中心で,比較的発作抑制が得られやすい。原因は認知症や脳血管障害などが挙げられるが,明らかな原因が不明な例も多い。運転免許やスティグマなどの心理社会的問題も重要課題である。

症候性てんかん

著者: 齋藤正範

ページ範囲:P.317 - P.321

症候性てんかんの概念を歴史的に通覧し,構造的,感染性,代謝性,免疫性の原因があるてんかんを症候性てんかんとして取り上げる。構造的病因としては脳血管障害,脳変性疾患(海馬硬化を含む),腫瘍,外傷が挙げられる。原因別分類上,世界において患者数が最も多いのは感染性てんかんである。代謝性てんかんは年齢により原因が異なる。免疫性てんかんの原因となる自己抗体が近年相次いで発見されている。

てんかん性健忘

著者: 鵜飼克行

ページ範囲:P.323 - P.327

「てんかん性健忘」の範疇で,認知症高齢者の増加に伴い重要な病態と認識されつつある「一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia:TEA)」,それに高率で合併する「accelerated long-term forgetting(加速的長期健忘)」,「autobiographical amnesia(自伝的健忘)」,さらにTEA症候群の概念を拡張した「一過性てんかん性健忘複合症候群(TEA complex syndrome:TEACS)」の定義やその意義,もう1つの重要な病態である「アルツハイマー病類似てんかん性認知障害(epileptic cognitive impairment resembling Alzheimer disease:ECI-A)」について,自験例を挙げて解説した。

一般診療における心因性非てんかん発作

著者: 尾久守侑

ページ範囲:P.329 - P.333

心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizures:PNES)はてんかん「じゃないほう」というニュアンスから定位される疾患概念である。脳波だけではてんかんかPNESかはっきりしない症例の場合,発作様式や経過から「てんかんらしくない」と見積もったとしても,診療に習熟していない場合はわずかな「てんかんらしさ」を不安に思い,診療の方向性がぶれやすくなる。そのぶれやすさを患者本人の心理力動との相互作用の産物と考えることが治療においては重要である。

てんかん原性脳病変の外科病理—皮質異形成と腫瘍

著者: 柿田明美

ページ範囲:P.335 - P.339

てんかん外科の対象となる脳病変として皮質異形成と腫瘍の頻度が高い。限局性皮質異形成II型は,神経細胞の配列が顕著に乱れ異型細胞を伴う。mTOR情報伝達系分子の体細胞変異が知られている。腫瘍の代表的組織型は,膠神経細胞および神経細胞系腫瘍である。胚芽異形成性神経上皮腫瘍や神経節膠腫など多くの組織型が認識されている。近年,各組織型を特徴付ける分子病理学的知見が報告されている。

難治性てんかんとその対応

著者: 岩崎真樹

ページ範囲:P.341 - P.345

2種類以上の抗てんかん薬(抗発作薬)を十分に用いてもてんかん発作が1年以上抑制されないときは薬剤抵抗性てんかんと判断し,てんかんセンターへの連携を検討する。てんかんセンターの重要な診療機能には長時間ビデオ脳波モニタリングとてんかん外科があり,てんかん診断の見直しや外科適応の検討が行われる。わが国は,人口あたりのてんかん外科実施件数が米国の約40%にとどまっており,てんかんの診療連携推進が望まれる。

てんかんの薬物療法

著者: 神一敬

ページ範囲:P.347 - P.351

てんかん治療の基本は薬物療法であるが,焦点発作・焦点てんかんと全般発作・全般てんかんでは薬剤選択が異なる。実臨床では発作型および病型を考慮し,診療ガイドラインやエキスパートオピニオンを参考にして,治療薬が選択される。近年,忍容性が高い点,薬物相互作用が少ない点で優れているレベチラセタム,ラモトリギンが第一選択薬として推奨されている。ラコサミド,ペランパネルが選択される機会も増えてきている。

てんかんに対する外科的アプローチ

著者: 井林賢志 ,   川合謙介

ページ範囲:P.353 - P.357

てんかんに対する外科的治療は,特に薬剤抵抗性てんかんにおいてその有効性を支持するエビデンスが確立している。近年は検査手法の進歩や治療モダリティの増加により,欧米を中心に治療選択肢も増えてきた。これらの一部は本邦未導入であるが,てんかんに対する外科治療の恩恵を享受する患者が1人でも増えることを念頭に,現状のてんかん外科治療の選択肢の概要とこれまで蓄積しているエビデンスを整理しアップデートする。

てんかん患者とその家族が日常生活において求めること

著者: 林泰臣

ページ範囲:P.359 - P.363

てんかん患者は,運転免許や仕事,妊娠や出産,薬の副作用などさまざまな悩みを抱えているが,発作の程度が軽減されることを強く望んでいる。抗てんかん薬による発作の程度の軽減は社会生活を営むうえでとても重要である。そのためには,てんかんのある人のQOLの向上を考えるうえでも正確な発作管理が求められる。その課題解決の一助とすべく,てんかん発作をその場で簡単に記録するスマートフォンアプリ「nanacara(ナナカラ)」を作り上げた。

総説

高次脳機能の理解に向けた次世代ケモジェネティクス法の開発

著者: 松岡佑真 ,   柏俊太朗 ,   堂浦智裕 ,   清中茂樹

ページ範囲:P.367 - P.374

高次脳機能の理解に向けて,動物個体レベルで特定の神経細胞の活動を制御可能なケモジェネティクスなどの細胞操作技術が注目されている。しかし,既存法では神経細胞に存在しない人工受容体を用いるため,神経細胞が有する本来の機能を観察できていない可能性がある。本論では,筆者らの研究を中心に,特定の神経細胞に内在する標的受容体の制御を可能とする「分子標的ケモジェネティクス」に向けた最新の細胞操作技術を述べる。

てんかん患者の精神症状とその対応—新規抗てんかん発作薬の有害事象としての精神症状の特徴

著者: 兼本浩祐 ,   西田拓司 ,   長谷川直哉

ページ範囲:P.375 - P.389

てんかん患者の診療では,さまざまな要因による精神症状の発症にしばしば遭遇する。新規抗てんかん発作薬(antiseizure medication:ASM)のうち,ペランパネル(perampanel:PER),レベチラセタム(levetiracetam:LEV),トピラマート(topiramate:TPM)は,有害事象としての精神症状の頻度が比較的高いことが報告されている。しかし,その精神症状は同一ではなく,PERおよびLEVはいらいら・攻撃性などの精神症状に特徴があり,TPMはうつ病や統合失調症などの症状を発症する。てんかん治療においては,これらの特徴を理解したうえで,適切に対応する必要がある。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・4

境界性パーソナリティ障害

著者: 白波瀬丈一郎

ページ範囲:P.391 - P.394

25歳の女性。異性関係や職場の人間関係のトラブルがあるたびにリストカットを繰り返すため,母親に伴われて精神科を受診した。本人はイライラ感と不眠の治療のために来院したという。最近まで勤めていた職場は,複数の男性同僚と性的関係をもっていたことが明らかとなり,居づらくなって退職した。親しい友人や元上司に深夜に何度も電話をかけるなどの行動があり,それを注意されると,怒鳴り散らす,相手を罵倒するなどの過激な反応がみられた。相手があきれて疎遠になると,SNSで自殺をほのめかし,自ら救急車を呼ぶなどした。一方,機嫌がよいと好意を持っている相手にプレゼントしたり,親密なメールを何度も出したりするなど感情の起伏が激しい。

この患者にみられることが予想される特徴はどれか。

a 繰り返し嘘をつく。

b 第六感やジンクスにこだわる。

c 慢性的な空虚感を抱えている。

d 完全癖のため物事を終了できない。

e 自分が注目の的になっていることを求める。

(第115回D28)

書評

「トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法」—向川原 充,金城光代【著】 フリーアクセス

著者: 廣澤孝信

ページ範囲:P.365 - P.365

 臨床のベッドサイドにはさまざまな学びがあります。しかし多くの場合,日常診療の多忙さから学術的なアウトプットとしての集合知よりも,無意識も含む現場レベルの経験として蓄積される場合が多いのではないでしょうか。ケースレポート(症例報告)のエビデンスレベルは必ずしも高くはありません。また,多忙な臨床業務の合間にアウトプットとして形にするのは決して容易なことではないでしょう。しかし本書でも述べられている通り,ケースレポートには執筆を通じて疾患の理解を深め,自らの臨床能力を高められる意義があります。アクセプトされれば学びを読者と共有でき,報告した症例の重要性を再認識させてくれることでしょう。

 私は,大学の総合診療科に所属する医師として,医学生から後輩,同僚までさまざまなレベルの方々の相談を受けたり指導したりする立場にあり,ケースレポートの執筆や発表もコラボレーションしてきました。こうした経験から,ケースレポートを書くための着想を得る時点から,執筆,投稿,受理までの全体の流れを示して伝える難しさを感じていました。その全体像を見事に示してくれるのが本書です。例えば,臨床経験と執筆経験を「2×2」で図式化して,執筆スケジュールを例示した図をはじめ,数々の掲載図によって,頭で漠然と考えている内容が明快に図式化・言語化されるので,とても役に立ちます。

「末梢神経障害—解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで」—神田 隆【編】 フリーアクセス

著者: 井上聖啓

ページ範囲:P.366 - P.366

 多くの方々にとって,末梢神経と中枢神経の区別は必ずしも正確に認識されていないのではないでしょうか。私が講義などでまず学生に言うことにしているのは,末梢神経系とはシュワン細胞,結合組織が神経細胞を包囲している箇所で,一方,中枢神経系とはオリゴデンドロサイト,アストロサイトが周りにある部分と教えています。

 この定義に従えば,ニューロンの中には,中枢神経系の部分もあれば,同時に末梢神経系に属する部分もあることになります。例えば第1次感覚ニューロン,第2次運動ニューロン,自律神経節前線維などはそれにあたります。末梢神経というと“末梢の部分”という先入観でうやむやにされたり,二義的にとらえられたりしがちなのは残念なことであると同時に,神経系の理解を不十分なものとするゆえんでもあります。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.287 - P.287

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.288 - P.288

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.401 - P.401

あとがき フリーアクセス

著者: 虫明元

ページ範囲:P.402 - P.402

 てんかんの特集号ということで,以前に「芸術家と神経学」の特集(2021年12月号)でドストエフスキー(Фёдор Михáйлович Достоéвский;1821-1881)とてんかんを取り上げて解説したことを思い出した。当時は,神経疾患としてのてんかんとドストエフスキーの作品に見られる特徴をポリフォニーとして,両者を結びつけて解説した。またその中では,てんかん発作の原因にヒステリーと考えたフロイト(Sigmund Freud;1856-1939)の説は否定されているとも述べた。その後,解離性障害などに関して学ぶ機会があり,もしヒステリーの症状を解離性の症状として捉えてみると,ドストエフスキーの発作も心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)と関連した身体表現性障害や解離性障害の1つと想定してできるのかもしれないと思われてきた。

 ドストエフスキーの生涯をたどってみると,幼少時から青年期にいたるまでさまざまな心的外傷ストレスを繰り返し経験している。その意味では,PTSDというより複雑性PTSDの状態に陥っていたのではないかと考えられる。精神的外傷による解離は古くはジャネ(Pierre Janet;1859-1947)が提唱した。しかし当時の論敵でもあったフロイトは欲動理論において幼児期の性的体験などを基盤にしたヒステリー論で,ジャネの心的外傷後の解離の概念を否定していた。しかし,その後の歴史の展開をみると,むしろジャネこそが正しく捉えていたと考えられる。その点では,やはりフロイトのヒステリー説は,欲動理論の範疇にあり,その点でドストエフスキーを捉えててんかん発作の原因を議論するなら否定されるべき説だったかもしれない。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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