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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 Antibody Update 2023 Part1 中枢編

フリーアクセス

ページ範囲:P.685 - P.685

 疾患特異的自己抗体の発見は脳神経内科の臨床を大きく変えている。また,自己抗体の知見は脳神経内科疾患だけではなく,精神科領域の疾患にまで広がりを見せている。

 本誌では2013年4月号で「Antibody Update」と銘打った特集を組み,大きな反響をいただいた。最新の知見を読者に届けるべく,2018年に「Antibody Update 2018」を刊行し,さらに5年を経た今回,Part1中枢編,Part2末梢編として2号にわたって特集する。

 各疾患ではどのような抗体が明らかになっているのか,その抗体はpathogenicなものか,あるいは疾患マーカーとしての役割にとどまるのか,陽性所見の解釈のポイントはどこかなどを,臨床像や治療法とともに論じていただいた。“自己抗体の現在地”を感じていただければ幸いである。

神経系自己抗体産生のメカニズムとその病的意義

著者: 松尾欣哉 ,   竹下幸男

ページ範囲:P.687 - P.693

自己抗体の産生メカニズムは疾患ごとに異なるが,多くの自己抗体産生に共通する機序として,免疫寛容システムの機能不全が注目されている。産生された自己抗体が中枢神経内へ到達するためには血液脳関門をはじめとした種々の生体関門を通過しなければならない。さらに自己抗体の標的抗原への直接的な作用は抗体ごとに大きく異なっている。自己抗体産生とその作用機序の解明はより根本的かつ効果的な治療法の開発につながる。

神経細胞表面抗体と自己免疫性脳炎Update

著者: 原誠 ,   中嶋秀人

ページ範囲:P.695 - P.703

神経細胞のシナプス受容体や膜蛋白に対する自己抗体(神経細胞表面抗体;antineuronal surface antibody:NSA)群の関与する脳炎の臨床像や病態への理解が進み,自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis:AE)の診療にパラダイムシフトを起こした。そして近年,NSA関連AEの臨床スペクトラム拡大に伴い既存の診断指針で診断されない一群の存在が明らかになり,またactive immunizationを含む新たな病態モデルの登場により詳細な病態形成メカニズムの解明が進んでいる。さらに現在,質の高いエビデンスを有する治療法の確立に向けた国際的臨床試験が進行中であり,AE診療を加速的に向上させる次なるパラダイムシフトの幕開けを迎えている。

視神経脊髄炎関連疾患

著者: 飯田紘太郎 ,   磯部紀子

ページ範囲:P.705 - P.710

視神経脊髄炎関連疾患は主に視神経炎,脊髄炎をきたす中枢性自己免疫性疾患であり,その病態生理にアクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体が関わっている。AQP4抗体は補体や細胞性免疫の活性化によりアストロサイトの傷害や二次的な脱髄,神経障害をきたす。従来はステロイド中心の治療であったが,特に再発予防治療において有効性の高い生物学的製剤が登場した。ステロイド治療による副作用の軽減や患者QOLの向上が期待される。

MOG抗体関連疾患

著者: 三須建郎

ページ範囲:P.711 - P.719

ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)抗体関連疾患(MOG antibody associated disorders:MOGAD)は,視神経炎や脊髄炎,急性散在性脳脊髄炎などの臨床病型をとる疾患群として見出された比較的新しい疾患概念である。MOGADは多様な臨床的特徴を有することが明らかになり,MOG抗体陽性例の多くは視神経炎で発症し,単発性の経過をとることが多い。特に皮質性脳炎や腫瘍様脱髄性疾患などの特徴的な急性脳炎症状を呈することが知られ,急性期には意識障害や痙攣発作などを呈することも稀ではない。末梢組織中の形質細胞から自己抗体が産生されること,血液脳関門を超える何らかの免疫機構が働いた際にMOG抗体によって脱髄が生じることが考えられ,その発症病態をどのように抑えるかが課題であり,近年は免疫グロブリンの維持療法の有効性が注目されている。本論では近年明らかにされてきたMOGADについて,その特徴や課題について述べる。

VGKC複合体関連疾患—抗LGI1脳炎,抗Caspr2脳炎

著者: 渡邊修

ページ範囲:P.721 - P.727

電位依存性カリウムチャネル(VGKC)と複合体を形成するLGI1とCaspr2に対する自己抗体が辺縁系脳炎を引き起こす。抗LGI1脳炎は,特異な不随意運動が先行し,亜急性の経過で記憶障害,見当識障害,てんかん発作が進行する。抗Caspr2脳炎は辺縁系の症状に加え,重篤な自律神経障害と末梢神経の過剰興奮による筋けいれんや焼け付くような四肢の疼痛を伴う。悪性腫瘍を合併することがあり,検索が必要である。

自己免疫性パーキンソニズムおよび関連疾患

著者: 木村暁夫 ,   大野陽哉 ,   下畑享良

ページ範囲:P.729 - P.735

免疫介在性中枢神経疾患の中に,不随意運動・運動緩慢・筋強剛など錐体外路徴候を主症状とする症例が存在する。錐体外路徴候以外の神経症候を合併することも稀ではない。時に,神経変性疾患に類似する神経症候を呈する緩徐進行例も存在する。患者の血清・脳脊髄液中において,大脳基底核あるいは関連部位を標的とする特異的な自己抗体が検出されることがあり,診断マーカーとして重要である。

自己免疫性小脳性運動失調症

著者: 三苫博

ページ範囲:P.737 - P.747

自己免疫性小脳性運動失調症は,グルテン失調症,感染後小脳炎,傍腫瘍性小脳変性症(paraneoplastic cerebellar degeneration:PCD),抗グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:GAD)抗体関連小脳失調症などいくつかの病型からなり,従来考えられていたよりその頻度が高い。また,これらの既知の病型に合致しない一群もあり,これらはprimary autoimmune cerebellar ataxiaとして分類されている。診断は他の原因を否定し,自己免疫的な機序で小脳失調が惹起されていることを証明することで確定されるが,診断が困難なことも多い。自己抗体は意義が不明なものも多く,その解釈には注意を要する。PCDは細胞性免疫による機序が考えられている一方,抗GAD抗体関連小脳失調症では自己抗体によるγ-アミノ酪酸放出の障害が原因とされている。このような多様な病態を反映して,免疫療法による効果も病型によってさまざまである。小脳予備能が維持されている早期に治療介入を行うことが必要である。

スティッフパーソン症候群

著者: 松井尚子 ,   田中惠子 ,   和泉唯信

ページ範囲:P.749 - P.754

スティッフパーソン症候群は体幹を主部位として,間歇的に筋硬直や筋攣縮が発生し,さらには全身へと症状が進行する自己免疫疾患である。病因としてグルタミン酸脱炭酸酵素抗体,amphiphysin抗体,グリシン受容体に対する抗体が重要視されている。免疫療法に反応するが,突然死することもあり,診断と治療アルゴリズムの確立が必要である。

傍腫瘍性神経症候群

著者: 田中惠子

ページ範囲:P.755 - P.762

傍腫瘍性神経症候群は,悪性腫瘍に対する免疫寛容の破綻が,共通抗原を有する神経組織の攻撃要因になるために生じると考えられ,多様な神経症候群を呈する。一般に急性経過で高度の神経症候を生じ,腫瘍の発見は遅れることが多い。病型,腫瘍,自己抗体の組合せに一定の特徴があり,抗体種によって病態への関与,検出方法,治療法や治療反応性が異なる。抗体による腫瘍合併頻度を踏まえて分類される。

統合失調症における自己抗体病態

著者: 塩飽裕紀 ,   髙橋英彦

ページ範囲:P.763 - P.767

脳炎患者からシナプス自己抗体が発見されてきたのを背景に,それらの自己抗体を病態とし,精神病症状を主症状とした急性の脳症である自己免疫性精神病が提唱されている。これに関連して,統合失調症でも自己抗体を背景にした病態が提唱されている。本論では,統合失調症と自己免疫性精神病の関係を概説し,これまでに知られているシナプス自己抗体と統合失調症の関係と,われわれが報告した抗NCAM1自己抗体と統合失調症について解説する。

総説

慢性外傷性脳症の生前画像診断に向けての取組み

著者: 宮田真里 ,   高畑圭輔

ページ範囲:P.769 - P.778

脳震盪や頭部への打撃を繰り返し負ったスポーツ選手において,数年から数十年の月日を経た後,記憶障害や抑うつ症状,パーキンソン症状などの神経精神症状や運動障害が出現することがある。その発症機序として,慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy:CTE)の関与が知られている。本論ではCTEを中心に頭部外傷の遅発性脳障害に関する臨床的・神経病理学的特徴を紹介し,タウPETやMRIによる生前診断法の確立に向けたわれわれの取組みについて紹介する。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・6

レム睡眠行動異常症とレビー小体型認知症

著者: 長田高志

ページ範囲:P.779 - P.782

80歳の男性。夜間に大声をあげることを主訴に来院した。約10年前から時々はっきりした夢をみて,夜中に大声をあげるようになった。1年前から動作がのろくなり,歩行時に歩幅が小刻みとなって,つまずくことが増えてきた。2か月前から,カーテンが人の姿に見えることがあったという。さらに,夜中に大声をあげて手足を動かしてベッド周囲の物を落とすことが増えてきたため,心配した妻に勧められて受診した。既往歴に特記すべきことはなく,常用薬はない。頭部MRIでは軽度の脳萎縮以外に異常は認めない。

診断に有用な検査はどれか。3つ選べ。


a 脳脊髄液検査

b 末梢神経伝導検査

c ポリソムノグラフィ

d MIBG 心筋シンチグラフィ

e ドパミントランスポーターSPECT

 (第114回A75)

書評

「神経症状の診かた・考えかた 第3版—General Neurologyのすすめ」—福武敏夫【著】 フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.783 - P.783

 著者の福武敏夫先生は脳神経内科領域のオーソリティとして,誰もが認める存在である。私は先生と本書の大ファンで,本書は初版から繰り返し読み続けている。病歴聴取と神経診察の実例を通して,一貫したエキスパートの診かた・考えかたを学ばせていただいた。まさに第2版の帯に書かれていた「傍らに上級医がいる」ような感覚になるテキストである。関心のある項目から読み始めてもよいが,本書を持ち歩き,私のように繰り返し読むことをお勧めしたい。きっと先生方の血肉になると思う。

 内容は第Ⅰ編では日常的によく遭遇する症状(頭痛,めまい,しびれ,パーキンソン病,震え,物忘れ,脊髄症状など)を,第Ⅱ編では緊急処置が必要な病態(けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞)を,そして第Ⅲ編では神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールを,いずれも具体的な実例を基に解説されている。私は「どうしたらこれほど具体的で豊富な事例を記載できるのですか?」と尋ねたことがあるが,福武先生は「一日の終わりに診療した患者のことを思い出し,ノートにつけて勉強している」と答えられ,合点がいくと同時に先生の不断の努力に改めて尊敬の念を抱いた。

「脳波で診る救命救急—意識障害を読み解くための脳波ガイドブック」—Suzette M. LaRoche, Hiba Arif Haider【原著】吉野相英【訳】 フリーアクセス

著者: 久保田有一

ページ範囲:P.784 - P.784

 待ちに待っていた一冊が出た。神経救急や神経集中治療を行う者にとっては,バイブルの一冊である。私は2009〜2011年の米国クリーブランドクリニックてんかんセンター留学中に多くのICU脳波を判読していた。このころは,米国においてICU脳波モニタリングが爆発的に広がっているときであった。そのときには教科書もなく,意識障害の患者の脳波が多様で判読に難渋していた。帰国後の2012年に『Handbook of ICU EEG Monitoring』の初版が発売となった。本邦でまだ一般的でなかったICU脳波モニタリングを実施する必要性に迫られた私にとっては,求めていた全てのことがこの一冊に書かれていた。この本には「ACNS Standardized Critical Care EEG terminology 2012」が引用され,ICU脳波モニタリングにおける代表的な波形パターンが紹介されており,ようやく救急脳波の分類化が始まったことを感じさせた。その後,さらなるICU脳波モニタリングのエビデンスがさまざまな施設から発表され,2018年に第2版が出版された。本書は,この第2版の日本語訳版である。しかも本書を手に取ってみると,なんと2021年にACNSから出された「ACNS Standardized Critical Care EEG terminology 2021」までもが本書の最後に附録として含まれている。本書を全て読むことで,ICU脳波モニタリングを全て学習することが可能である。

 訳者の吉野相英先生は,防衛医大の精神科学の教授である。精神科の教授でありながら,救命救急の本を訳されたというのも大変驚きである。一見そう感じる読者もおられると思うが,至極当然で,吉野先生はてんかん・脳波については大変造詣が深く,すでにそれらに関する著書も執筆されている。また,訳者まえがきにあるように,精神科医として薬物中毒の患者に伴うNCSE(非けいれん性てんかん重積状態)など多くの意識障害の患者の診療に当たっており,脳波を積極的に施行し判読されてこられた。われわれからみても,吉野先生が本書を日本語訳されるに最も適している先生であろうと思う。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.683 - P.683

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.684 - P.684

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.791 - P.791

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.792 - P.792

 今月は自己抗体の最新情報がテーマです。代表的疾患の1つである自己免疫性脳炎は,近年,増加の一途をたどっています。PubMedにてキーワード検索すると,10年ほど前までは稀であったものが,2012年頃より急激に増加し,その増加傾向は近年ますます顕著となっています。その主な理由としては,培養細胞を用いたcell-based assay(CBA)が導入され,細胞表面抗原を認識する自己抗体を検出することができるようになったことが挙げられます。そして今後,さらに多くの自己抗体が発見されるものと推測されます。ちょうど私が大学院生であった頃,神経変性疾患の原因遺伝子が次々と明らかにされ,非常に興奮した時期を彷彿とさせます。これからの脳神経内科診療は,CBAにより多くの自己抗体が確認でき,また全ゲノム解析により原因遺伝子が確認できる時代に突入することになるわけです。

 ではこのような時代の診療に大切なものは何でしょうか? 昨年9月,マドリードで開催されたパーキンソン病・運動障害疾患コングレスにて,Stanley Fahn Lectureship Awardを受賞されたK. Bhatia教授(Queen Square, London)による講演は示唆に富むものでした。講演タイトルは「Is the Clinical Phenomenologist Obsolete?(神経症候学を大切にする臨床家は時代遅れか?)」というものでした。Bhatia教授による答えはNoであり,むしろ神経症候学の役割は益々重要になるという主旨でした。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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