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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻7号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 Antibody Update 2023 Part2 末梢編

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ページ範囲:P.795 - P.795

前号「Part1 中枢編」に続いて“自己抗体の今”を取り上げる。鼎談ではアクアポリン4抗体やガングリオシド抗体発見の経緯から,自己抗体測定法の進歩,測定結果を解釈するうえでの注意点まで,示唆に富む議論が交わされた。各論文では,それぞれの疾患で現在明らかになっている自己抗体や臨床的特徴,抗体の病原性,治療法などを網羅的に解説している。「中枢編」と合わせて読むことで,自己抗体に関する知見をいっそう確かなものとし,患者さんへの治療に還元してほしい。

【鼎談】Antibody Update 10年—自己抗体は脳神経内科の臨床をどのように変えたか

著者: 藤原一男 ,   海田賢一 ,   神田隆

ページ範囲:P.797 - P.805

神田 自己免疫性炎症性神経疾患と自己抗体の関係についての研究は,1970年代後半から行われてきました。1982年にはコロンビア大学のNorman Latov1)がミエリン関連糖蛋白(myelin-associated glycoprotein:MAG)抗体を発見しています。私は1981年の卒業なので,疾患に直接的に結びつくMAG抗体の発見は日本でも大きな話題になっていたことを記憶しています。ただ,当時の脳神経内科診療において自己抗体はそれほど大きなウェイトを占めてはいなかったように思います。ところが最近では,中枢神経疾患,神経・筋疾患を問わず,自己免疫性炎症性神経疾患における自己抗体の重要性は不動のものになっています。

 本誌では10年前に「Antibody Update」(2013年4月号)という特集を組み,その5年後に「Antibody Update 2018」(2018年4月号),そしてこの度第3弾を出すことになりました。本日は藤原先生,海田先生をお迎えして,自己抗体の発展が脳神経内科の臨床をどのように変えたのか,自己抗体の測定方法を知ることの意義,自己抗体をどのように臨床に生かすのかなどについて,お話しいただくこととしました。

ギラン・バレー症候群—日常診療での自己抗体の意義

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.807 - P.812

自己抗体の測定は,ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré Syndrome:GBS)やフィッシャー症候群の診療に欠かせない検査となった。しかし,実際に測定される抗体は種類が非常に多く,感度や特異度は必ずしも十分ではない。さらに検出される抗体の意義は抗体ごとに異なっている。特に脱髄型GBSでは診断マーカーとして確立した自己抗体は未同定であり,検査の限界を理解していないと,検査結果が診断をミスリードしかねないことに留意すべきである。

慢性自己免疫性脱髄性ニューロパチー

著者: 緒方英紀

ページ範囲:P.813 - P.819

過去10年でランヴィエ絞輪部,傍絞輪部に局在する膜蛋白に対する自己抗体の存在が明らかとなり,自己免疫性ノドパチーの概念が提唱された。免疫グロブリンM(immunoglobulin M:IgM)単クローン血症に伴うミエリン関連糖蛋白質抗体は難治性脱髄性ニューロパチーを引き起こす。ジシアロシル基を有するガングリオシドに対するIgM自己抗体,IgM GM1抗体,IgG LM1抗体も各種慢性自己免疫性脱髄性ニューロパチーの診断・治療方針決定に役立つ。

自己免疫性自律神経節障害—「10の課題」を解くために

著者: 中根俊成

ページ範囲:P.821 - P.829

自己免疫性自律神経節障害(autoimmune autonomic ganglionopathy:AAG)患者血清からはニコチン性自律神経節アセチルコリン受容体(ganglionic acetylcholine receptor:gAChR)に対する自己抗体が検出される。gAChR抗体は病原性を有し,自律神経節におけるシナプス伝達を障害することから自律神経障害を引き起こすことが知られている。近年,AAGの臨床像に関する報告のほか,1)新しいgAChR抗体測定法,2)免疫治療の有用性,3)新規動物モデル,4)新型コロナウイルス感染症とそのワクチン接種と自律神経障害の関連,5)がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連副作用として自律神経障害,などが注目されている。筆者らは以前にAAGの病態や実際の診療上の問題を理解していくための臨床と研究における「10の課題」を設定した。本論では最近5年間の研究の動向を織り込みつつ,「10の課題」の1つひとつに関する研究の現況を解説する。

重症筋無力症と自己抗体

著者: 鵜沢顕之

ページ範囲:P.831 - P.835

重症筋無力症は自己抗体が病態の中心にある代表的な自己抗体介在性免疫疾患である。重症筋無力症の病原性自己抗体としてAChR抗体,MuSK抗体,Lrp4抗体が知られているが,Lrp抗体に関しては疾患特異性などの観点から病原性自己抗体として十分確立しているとは言えない。これら自己抗体の神経筋接合部における標的,抗体陽性の意義,臨床像と治療,予後の差異などに関して概説する。

ランバート・イートン筋無力症候群—病原性自己抗体の臨床的意義

著者: 本村政勝 ,   入岡隆

ページ範囲:P.837 - P.845

ランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)の約90%はP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(P/Q-VGCCs)抗体が陽性で,小細胞肺がんなどのがんを合併する傍腫瘍性と非傍腫瘍性に分類される。本邦の診断基準では,筋力低下に加えて電気生理の異常が必須である。一方,自己抗体は病因診断に有用であり,治療方針を左右する。われわれは,重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022に基づいて網羅的にレビューし,さらに,P/Q-VGCCs抗体が陽性であったPCD without LEMSの1症例を提示し,自己抗体の臨床的意義を検討した。

—筋炎関連自己抗体(1)—皮膚筋炎

著者: 藤本学

ページ範囲:P.847 - P.854

皮膚筋炎は多様な疾患であり,その診療にはより均質なサブセットに分けて考えることが必要である。自己抗体は臨床所見と強く相関するため,このようなサブセットに分類するうえで有用なツールとなる。皮膚筋炎では,これまでに5つの自己抗体が特異的自己抗体としてその臨床的意義が確立している。その他にも,さまざまな自己抗体が報告されており,病因や病態を考えるうえでも興味深いものがある。

—筋炎関連自己抗体(2)—免疫介在性壊死性ミオパチー

著者: 冨滿弘之

ページ範囲:P.855 - P.861

免疫介在性壊死性ミオパチー(immune-mediated necrotizing myopathy:IMNM)は筋病理学的な根拠から2004年に多発筋炎から独立した疾患群である。典型例では亜急性に進行する近位筋優位の筋力低下と,筋線維壊死を反映した血清クレアチンキナーゼの著明な上昇を認める。さまざまな病態が原因と考えられるが,SRP抗体あるいはHMGCR抗体を伴う症例が多く,これらの抗体が病態に関与していることが証明されてきている。筋炎同様に免疫治療を行うものの,ステロイド治療抵抗性の症例も多く,集約的な治療を必要とすることが多い。

—筋炎関連自己抗体(3)—抗合成酵素症候群関連筋炎

著者: 漆葉章典

ページ範囲:P.863 - P.868

抗合成酵素症候群関連筋炎は自己免疫性筋炎の主要病型の1つで,抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体の存在により定義される。骨格筋に加えて肺,関節,皮膚などが障害される。抗体のサブタイプにより症状の程度に違いがあり,抗OJ抗体では筋症状が重篤化しやすい。筋病理では筋束辺縁部壊死など筋束辺縁部から筋周鞘にかけての変化が目立つ。同部では形質細胞に有利な微小環境が生じており,病態理解のうえで注目される。

—筋炎関連自己抗体(4)—封入体筋炎

著者: 山下賢

ページ範囲:P.869 - P.874

封入体筋炎は,嚥下障害や手指・手関節屈筋群,大腿四頭筋の筋力低下と筋萎縮が緩徐に進行する難治性筋疾患である。診断には侵襲を伴う筋生検が不可欠である。約半数の患者血中に細胞質5'-ヌクレオチダーゼ1A抗体が検出されるが,本抗体の診断的意義については肯定的な意見がある一方,有用性には限界があるとの見解もある。病因的意義を支持する能動免疫の結果が示されているが,今後より詳細な検証が必要である。

総説

組織学的アプローチからのALS診断バイオマーカー—筋病理と筋内神経束へのリン酸化TDP-43発現

著者: 倉重毅志

ページ範囲:P.877 - P.887

TDP-43(transacting response DNA-binding protein of 43kDa)の発見以来,血液や髄液などさまざまなバイオマーカーが報告されたが疾患特異性が不十分である。剖検症例・筋生検症例の骨格筋内に含まれる筋内神経束でのリン酸化TDP-43発現が筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)に特異的組織所見であることを報告した。現在のALS診断基準では診断できない初期から確認可能で,ALSの生検病理診断に有用な末梢組織病理所見である可能性を示している。ALSの診断特異的バイオマーカー確立と下位運動ニューロン障害への治療ターゲット解明を目指している。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・7

双極性障害を診わける

著者: 澤田恭助

ページ範囲:P.889 - P.892

43歳の男性。自営業。すぐに機嫌を損ねて怒鳴るようになったため,妻と母親に説得されて来院した。3か月前に父親が急逝してからしばらくの間,元気がなく,家族と話さなくなった。1か月前から店で必要以上にたくさん仕入れをするようになり,従業員に対して大声で怒鳴りつけるようになった。商品陳列の場所を何度も変え,始終移動させているようになった。元来ほとんど飲酒をしなかったが,毎晩飲酒をするようになったという。多弁で,感情の動きが激しく表出され,話題が際限なく広がる。本人は受診について不満であり,精神的なストレスで悲観的な考えに陥っている家族の方に治療を受けさせたいと述べている。これまでに発達上の問題はなかった。血液検査,頭部MRI及び脳波検査に異常を認めない。

この患者にみられる症状はどれか。2つ選べ。


a 感覚失語

b 観念奔逸

c 行為心迫

d 連合弛緩

e 小動物幻視

(第114回C57)

書評

「医療者のスライドデザイン—プレゼンテーションを進化させる,デザインの教科書」—小林 啓【著】 フリーアクセス

著者: 吉橋昭夫

ページ範囲:P.875 - P.875

 本書は,プレゼンテーションを効果的に行うためのデザイン手法を誰にでもわかりやすく紹介したものである。プレゼンテーションは受け手と知見を共有し新たな行動を促すものであり,そのためには適切なデザインが必要である。私は「情報デザイン」の分野で長く教育研究に携わってきたが,本書は情報デザインのエッセンスを凝縮してスライドデザインに投入したものであり,伝えたいメッセージや情報をスライドとして具体化するために必要な内容が存分に盛り込まれている。

 以下は,各Chapterの概要である。

「慢性痛のサイエンス 第2版—脳からみた痛みの機序と治療戦略」—半場道子【著】 フリーアクセス

著者: 山下敏彦

ページ範囲:P.876 - P.876

 本書『慢性痛のサイエンス』は,私にとって,慢性痛を考え,理解する上での「バイブル」的書籍である。このたび,内容がアップデートされ,ボリュームアップした第2版が出版されたことを大変うれしく思う。

 近年,慢性痛の発生や持続には,単に組織の損傷や脊髄・末梢神経の障害だけではなく,脳の機能不全が深く関与していることが神経科学的研究により明らかにされているが,臨床家にとってそのメカニズムを理解することは決して容易ではない。しかし,本書では,中脳辺縁ドパミン系(mesolimbic dopamine system)や下行性疼痛抑制系といった複雑な神経メカニズムを,明快な図とともに,読みやすい文章で順序立てて解説されており,読み進めるうちに自然と理解が深まってくる。

お知らせ

「公益財団法人日本脳神経財団2023年度寺岡賞」募集 フリーアクセス

ページ範囲:P.812 - P.812

 公益財団法人日本脳神経財団では下記の通り,寺岡賞の募集を行います。財団のHP(https://jbf.or.jp)の「各種助成申請のご案内」で要項をご確認のうえ,申請してください。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.793 - P.793

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.794 - P.794

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.899 - P.899

あとがき フリーアクセス

著者: 三村將

ページ範囲:P.900 - P.900

 本年6月に慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授,神経内科の中原仁教授らの研究グループが筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者にロピニロールを投与する医師主導治験であるROPALS試験の安全性と有効性を報告し(Morimoto S, et al. Cell Stem Cell, 2023),関連したプレスリリース記事も発出された(https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/6/2/28-138679/)。本治験の特筆すべきところは,参加患者さんからiPS細胞を作製し,ロピニロールを患者分化細胞に投与することで,薬剤の効果予測を行うことができる点である。さらに,ロピニロールが神経細胞内のコレステロール合成を制御することによって抗ALS作用を発揮していることもわかってきた。今回の研究からはiPS細胞創薬の有用性が示され,有効な治療法に乏しいALSという神経難病への新たな治療選択肢の可能性が開かれた。

 さて,本号ではALSの診断バイオマーカーとしての組織学的アプローチに関する優れた総説が掲載されている。また,特集は「Antibody Update 2023 Part2 末梢編」である。疾患特異的自己抗体の発見は神経系疾患の臨床を大きく変えてきており,本誌で最初にこのテーマを取り上げた2013年から,5年後の2018年,そして今回の2023年と,5年ごとに次々と新知見が登場してきて,日進月歩の感がある。これらの免疫学的発見やバイオマーカー,神経画像の進歩はさまざまなトランスレーショナル研究やリバーストランスレーショナル研究を推し進め,治験の仕組み自体にも大きな変革をもたらしてきている。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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