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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻8号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 アルツハイマー病は本当に早期発見できるのか

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ページ範囲:P.903 - P.903

アルツハイマー病の疾患修飾薬であるaducanumabとlecanemabが相次いで米国食品医薬品局(FDA)に迅速承認され,後者は本年7月に正式承認された。しかし,アミロイドβを標的とした薬物の有効性は疾患初期に限定されることが徐々に明らかにされ,アルツハイマー病の“早期診断”の重要性は,単なる掛け声ではなく喫緊の課題と言える。本特集では,アルツハイマー病の“早期診断”は本当に可能か,どこに解決すべき問題点が残されているかをテーマに,それぞれのエキスパートに現時点での知見を述べていただいた。アルツハイマー病治療の新時代が始まろうとするなかで,適切な対策を模索することが求められている。

病歴聴取と身体診察だけで前臨床期のアルツハイマー病をどれほど疑えるか

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.905 - P.914

前臨床期アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)を発見するための臨床的バイオマーカーは脳脊髄液やPETなどのバイオマーカーに比してまだまだ研究が遅れている。現在までのAD早期発見のチェックリストは前臨床期ADの発見には概してあまり役立たない。むしろ日常生活活動や言語能力を評価することが推奨される。さらに,AD発症のリスクとされている因子(独居・社会的孤立や難聴,嗅覚低下,歯の喪失,体重変化,アパシー/抑うつ,これらの組合せ)に着眼する。

血液/脳脊髄液マーカーはどれくらい役に立つか

著者: 徳田隆彦

ページ範囲:P.915 - P.921

アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の早期診断には客観的なバイオマーカー(biomarker:BM)が不可欠である。脳のアミロイド・タウ病理の確定診断がPET検査によって可能になっており,スクリーニング検査に最適な血液BMが求められている。ADの脳病理を反映するATN-BMについては,血液中のAβ42/40比(A-BM),p-tau(T),NfL(N)が早期診断に有用であるが,単独でAD診断に使用するにはさらなる検討が必要である。

脳MRIはどれくらい役に立つか

著者: 安池政志 ,   赤澤健太郎 ,   山田惠

ページ範囲:P.923 - P.932

アルツハイマー病のMRI画像診断では,構造的MRIでの視覚評価に加え,定量的画像統計解析が行われる。Advanced MRI techniqueである拡散MRI,機能的MRI,arterial spin labeling,MR spectroscopyなども有力な画像バイオマーカーの候補であり,これらの手法を用いたアルツハイマー病の早期診断の現状を概説する。

核医学診断法はどれくらい役に立つか

著者: 石井賢二

ページ範囲:P.933 - P.941

アミロイドPETやタウPETなどの病態特異的な検査手段の登場により,アルツハイマー病は早期診断さらには発症前診断(発症予測)が可能になりつつある。アルツハイマー病の病態理解と疾患修飾薬開発を加速するうえで核医学画像バイオマーカー検査は中核的な役割を果たしている。アルツハイマー病の早期発見による病態進行遅延や予防を視野に入れた核医学診断法の現状と展望について述べる。

嗅覚検査はどれくらい役に立つか

著者: 武田篤

ページ範囲:P.943 - P.948

嗅覚障害は認知機能障害と密接に関連しており,認知症発症のリスク要因としても知られている。しかし病理学的な検討からアルツハイマー型病理変化の重症度とはあまり関係せず,むしろレビー小体病理の程度と密接に関連することがわかってきた。臨床的にアルツハイマー型認知症と診断された症例の半数以上にレビー小体病理が随伴することが知られており,嗅覚低下はそれを示唆する重要な症候である可能性がある。

神経心理学的検査はどれくらい役に立つか

著者: 緑川晶

ページ範囲:P.949 - P.955

認知症を発症する以前から実施されている神経心理学的検査の縦断的な検討からは,記憶や遂行機能を中心に,診断よりも数年から長いもので20年ほど前より変化が生じることが確認されている。このことからも,神経心理学的検査はアルツハイマー病の早期発見に有効な手法の1つであると言える。ただし,一般的に用いられるようなスクリーニング検査だけでは検出に不十分であるため,検査の適切な選択が不可欠である。

総説

オキシトシン可視化手法の開発と動態解析—オキシトシンの「見える化」とそこから見えてきたこと

著者: 塗谷睦生

ページ範囲:P.957 - P.963

オキシトシンは脳内で働き社会性などを司る非常に強力な生理活性を持つペプチド性生理活性物質であるが,サイズが小さいことから蛍光標識ができず,これまで脳内分布や動態が謎に包まれてきた。われわれは新たな可視化法としてアルキンを付加するアルキンタギング法を開発し,それを適用することで,オキシトシンの「見える化」に成功した。これにより,オキシトシンの脳内での作用部位や動態などが明らかにされようとしている。

パーキンソン病の病態進展と甲状腺

著者: 斉木臣二

ページ範囲:P.965 - P.970

甲状腺ホルモンの分泌異常は認知機能,情動,運動機能など神経系に多くの影響を及ぼす。甲状腺機能は視床下部-下垂体という高位中枢によって厳密に制御されているものの,部分的に自律神経(中頸神経節・星状神経節からの節後神経線維支配)による血流変化の影響を受けるとされる。本論では,全身性疾患であるパーキンソン病について,甲状腺への自律神経障害に起因する甲状腺機能変化とその影響についてまとめる。

症例報告

脊髄空洞症を呈したCurrarino症候群の一手術例

著者: 根本卓也 ,   落合淳一郎 ,   奥真一朗 ,   山本悠介 ,   平出智裕 ,   金井理恵 ,   日髙敏和 ,   堀江信貴 ,   赤井卓也 ,   井川房夫

ページ範囲:P.971 - P.976

Currarino症候群は直腸肛門奇形,仙骨奇形,仙骨前腫瘤を三徴とする希少疾患である。今回,脊髄空洞症を呈したCurrarino症候群の一手術例を報告する。症例は2歳2カ月の女児。4カ月検診で殿部のdimpleの精査の結果,仙骨奇形,脊髄前髄膜瘤を認め,Currarino症候群と診断した。2歳1カ月時に著明な便秘,慢性膀胱炎,下肢の脱力が見られ,脊髄前髄膜瘤の直腸圧迫と脊髄空洞症に伴う症状と判断し,髄膜瘤基部の離断と脊髄係留の解除術を実施した。術後1週間で下肢の脱力,便秘は改善した。Currarino症候群は診断時の症状は軽度だが,画像や神経症状の有無をフォローし適切な時期に手術する必要がある。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・8

抗うつ薬の情動面での副作用

著者: 菊地俊暁

ページ範囲:P.977 - P.980

患者の訴えのうち,抑うつ状態を最も疑わせるのはどれか。

a 「すぐにかっとなってしまいます」

b 「何をするのも億劫で仕方ありません」

c 「なんとなく落ち着かない気持ちになります」

d 「昼間にうとうとすることが多くなりました」

e 「外に出ると誰かに見られているような気がします」

(第112回E8)

お知らせ

「公益財団法人日本脳神経財団2023年度寺岡賞」募集 フリーアクセス

ページ範囲:P.976 - P.976

 公益財団法人日本脳神経財団では下記の通り,寺岡賞の募集を行います。財団のHP(https://jbf.or.jp)の「各種助成申請のご案内」で要項をご確認のうえ,申請してください。

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ページ範囲:P.901 - P.901

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ページ範囲:P.902 - P.902

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.987 - P.987

あとがき フリーアクセス

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.988 - P.988

 皆さま,お元気でお過ごしのことと存じます。本号をお手に取られているころは,例年どおりとても暑い日々が続いているのでしょう。

 今月はアルツハイマー病の特集です。アルツハイマー病という言葉を聞かない日はないですね。私自身が発病から最期まで看取ったアルツハイマー病の患者さんのことを思い出しました。当初,物忘れを自覚して受診されましたが,検査的に異常を指摘できませんでした。1年ほどしてから再度検査をしたところ認知機能検査の数値低下があり,10数年診療を継続して最終的には高度の認知症となり在宅で看取らせていただきました。本号のテーマと関連しますが,物忘れを主訴に受診され,通常の検査で異常が指摘できない場合にどうすればよいのであろうと思うことがあります。そういった方はどうなっていくのだろうかと不安になることもあります。アルツハイマー病の治療については大きな変化が始まりつつあります。そのような観点からも,早期診断は本当に重要なテーマであると思います。じっくりとお読みいただければ幸いです。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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