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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩75巻9号

2023年09月発行

雑誌目次

特集 妊娠と神経疾患

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ページ範囲:P.991 - P.991

妊娠中には神経疾患の病態の変動が生じるだけではなく,治療薬の選択,変更など医療者が注意を払わなければならない問題が多くある。本特集では主な神経疾患を中心に,プレコンセプション・ケアの進め方,妊娠における病態変化,治療薬の選択や投与を踏まえたマネジメントにおける注意点などをまとめていただいた。また,向精神薬を服用する妊産婦への対応,重要な課題となりつつある着床前診断についても取り上げている。産婦人科との連携を図りながら,妊娠・出産という大きなライフイベントに寄り添いたい。

妊娠・授乳中の薬剤動態と安全性評価

著者: 藤岡泉 ,   村島温子

ページ範囲:P.993 - P.998

妊娠中・授乳中であっても薬剤を投与するか否かは,リスク(副作用)とベネフィット(効果)のバランスをみて判断される。当該領域ではリスクばかりが強調されがちだが,慢性疾患合併妊娠では,疫学研究で安全性が評価されている薬剤,薬剤の特性からリスクが考えにくい薬剤を使用し,原病がしっかりコントロールされている状態で妊娠することが良好な妊娠転帰を得るための必要条件である。基本的考え方を中心に解説する。

妊娠とてんかん

著者: 木村唯子 ,   岩崎真樹

ページ範囲:P.999 - P.1003

女性のてんかん患者では,妊娠前から内服調整や葉酸の補充が求められる。催奇形リスクの低い抗てんかん薬を選択し,発作のコントロールに必要な最小限の投与量を目指す。また,妊娠に伴って発作頻度が変わる可能性や自然分娩に向けた対応,抗てんかん薬の内服下でも授乳が可能であることなど,適切な情報提供も重要である。産科や精神科など必要な診療科と連携し,安心した環境で妊娠・出産が迎えられるよう調整を図る。

妊娠と脱髄疾患およびその類似疾患

著者: 清水優子

ページ範囲:P.1005 - P.1014

代表的な自己免疫性脱髄性疾患である多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)と鑑別疾患である視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder:NMOSD)は,女性が多く罹患し,妊娠可能な年代に発症する。妊娠可能年齢の患者では妊娠を念頭に置き,プレコンセプションケアと母胎への影響を考慮し,治療を選択しなければならない。本論では,MSとNMOSDの妊娠合併の特徴,疾患修飾薬およびB細胞治療をはじめとする生物学的製剤に関する最新情報の概要を述べる。

妊娠と脳血管疾患

著者: 平野照之

ページ範囲:P.1015 - P.1022

妊娠は,凝固異常,妊娠関連ホルモン,母体の血行動態,血管壁の変化から脳血管疾患のリスクとなる。脳血管障害は妊産婦死亡原因の14%を占める。日本産科婦人科学会の調査では,脳出血,くも膜下出血,脳梗塞,脳静脈血栓症,子癇・高血圧性脳症が多く渉猟された。妊婦では可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)や後方可逆性脳症症候群(PRES)を発症することがあり,両者の合併も多い。妊婦の破裂脳動脈瘤は早期の外科的治療が望ましい。

妊娠と頭痛

著者: 清水利彦

ページ範囲:P.1023 - P.1033

前兆のない片頭痛は妊娠期間において改善する。これは内因性エストロゲンの持続的上昇と変動の欠如によるとされている。一方,前兆のある片頭痛では視覚症状などの前兆が出現することが報告されている。片頭痛患者では,妊娠中に妊娠高血圧や子癇前症を生じるリスクは健常者と比較し有意に高い。このため頭痛診療において片頭痛を有する妊婦は心血管系疾患発症の高リスクであることを認識する必要があると考えられる。

妊娠と神経筋疾患

著者: 水地智基 ,   三澤園子

ページ範囲:P.1035 - P.1042

免疫性または遺伝性神経筋疾患を有する女性が妊娠をすることがしばしばある。免疫性疾患,遺伝性疾患ともに妊娠中に増悪する可能性がある。妊娠中の疾患活動性コントロールは,妊娠転帰に関わる重要な要素であり,リスク・ベネフィットを勘案して症例ごとに治療薬を検討する。近年,生物学的製剤や核酸医薬品などの新規治療薬が次々と開発され,多くの患者が恩恵を受けているが,妊婦に対する安全性のエビデンス集積が課題となる。

妊産婦と向精神薬

著者: 寺嶋彰子 ,   小笠原一能 ,   尾崎紀夫

ページ範囲:P.1043 - P.1049

妊娠を希望する女性に対しては,将来の妊娠に向けて事前に薬剤調整を行うことが望ましい。妊娠判明時に向精神薬を内服していた場合,一部に重篤な催奇形性などの影響が指摘されている薬剤もあるが,急激な中止は精神症状の悪化を招く可能性が高く,深刻な結果をもたらすこともある。このため患者・家族と双方向的な情報共有を重視しながら,慎重に減薬・変薬を行い,精神症状を注意深く観察することが必要である。

着床前診断と脳神経疾患

著者: 山田晋一郎 ,   勝野雅央

ページ範囲:P.1051 - P.1056

新しい重篤性の定義の下に,単一遺伝子の変異を原因とする遺伝的素因がある夫婦に対して罹患児の妊娠を回避する目的で行われる重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(preimplantation genetic testing for monogenic disorder/single gene defect:PGT-M)の申請および審査が開始された。PGT-Mの対象となり得る神経筋疾患においては,近年急速に治療薬開発が進んでいることから,その適応をめぐっては技術的・社会的・倫理的観点から十分な議論が必要であると同時に,脳神経内科医が主体的に関わっていくべき課題である。

総説

「社会的苦しみ」としての戦争トラウマ

著者: 中村江里

ページ範囲:P.1059 - P.1064

戦中・戦後の日本社会では,公的な領域でのトラウマの抑圧と否認が長期にわたって続いてきたが,近年復員兵の子ども世代の活動などにより,戦争トラウマと彼らの「社会的苦しみ」が可視化されるようになってきた。また,戦闘や軍隊で生じる苦痛は,恐怖を核とする心的外傷後ストレス症(PTSD)モデルだけでは捉えきれず,道徳規範の侵害に関わる「モラル・インジャリー」と,その長期にわたる破壊的影響についても今後考察を深める必要がある。

未診断疾患イニシアチブのこれまでの成果と将来像

著者: 鈴木寿人

ページ範囲:P.1065 - P.1070

未診断疾患イニシアチブは,さまざまな検査を実施しても診断がつかない未診断疾患患者を対象とした研究として開始された。本研究は,希少疾患の診断をつけるという臨床的側面と,新しい疾患を確立するという研究的側面の両面を有するプロジェクトである。2015年より開始され,診断率は40〜50%であり,30以上の新規疾患を確立することができた。本論では,未診断疾患イニシアチブが臨床に与えた影響,研究的成果,および将来像について記述する。

症例報告

高齢者キアリⅠ型奇形の1手術例

著者: 佐竹洸亮 ,   伊藤美以子 ,   本間博 ,   園田順彦

ページ範囲:P.1071 - P.1075

キアリⅠ型奇形は小脳・脳幹の一部が大後頭孔を越えて脊柱管内に陥入する病態で,大部分の症例は無症候性であるが,さまざまな症状を呈する場合がある。症候性の場合,小児・中高年の二峰性分布を示し,高齢者には稀とされている。われわれは60歳を越えてから発症し,手術によって良好な転帰が得られたキアリⅠ型奇形の1例を経験し,高齢で発症する機序について文献的考察を加え報告する。

連載 医師国家試験から語る精神・神経疾患・9

フィッシャー症候群の診断根拠を述べることはできますか?

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.1077 - P.1080

48歳の女性。ふらつきと複視を主訴に来院した。10日前に38℃の発熱と咽頭痛が出現したため自宅近くの診療所を受診し,感冒として投薬を受け,7日前に症状が軽快した。2日前からテレビの画面が二重に見えることに気付いた。昨日から,歩行時にふらついて転びそうになることが増えてきた。これらの症状が徐々に進行してきたため受診した。意識は清明。体温36.5℃。脈拍68/分,整。血圧120/68mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。神経診察では,両眼とも垂直,水平方向の眼球運動制限を認め,正面視以外で複視を自覚する。眼振は認めない。四肢筋力は正常だが,四肢腱反射はすべて消失している。Babinski徴候は陰性。膝踵試験は両側とも拙劣で,歩行は可能だが歩隔は広く不安定である。感覚障害は認めない。尿所見,血液所見に異常を認めない。

この患者と同様の発症機序と考えられるのはどれか。


a 重症筋無力症

b 多発性硬化症

c 進行性核上性麻痺

d 筋萎縮性側索硬化症

e Guillain-Barré症候群

 (第115回A39)

書評

「筋疾患の骨格筋画像アトラス」—久留聡【編】 フリーアクセス

著者: 青木正志

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 筋疾患はどれも頻度が低い希少疾患に分類されます。しかしながら時々臨床現場で遭遇し,すぐに診断して治療を改善することで,治療効果が期待できる多発筋炎などの炎症性筋疾患と遺伝性筋疾患を見分けることはとても重要です。

 私たち脳神経内科医はまず,患者さんから詳しく病歴を聞き,神経診察を行います。筋疾患では全身の筋の筋力を徒手筋力テストなどで確認し,それと同時に筋萎縮の有無を確認していきます。最も重要なのは近位筋優位か遠位筋優位かですが,どこの筋が萎縮しているかの「罹患筋分布」を確認するだけで例えば筋緊張性ジストロフィーや封入体筋炎はすぐに診断ができるようになります。この罹患筋分布の確認に筋CTあるいはMRIを用いることは,有力な手段となります。このテキストはその標準撮像法(ルチン撮像法)の読影の仕方から始まっています。カラーでそれぞれの筋を示した模式図はとてもわかりやすいです。

「弱さの倫理学—不完全な存在である私たちについて」—宮坂道夫【著】 フリーアクセス

著者: 山内志朗

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 著者は倫理を次のように宣言する。倫理とは,「弱い存在を前にした人間が,自らの振る舞いについて考えるもの」であると。

 倫理学は正義とは何か,善とは何か,幸せとは何か,そういったことを考える学問だと考えられている。ただ,そういった問題設定は強い者目線での思考に染まりがちだ。強さは戦いを招き寄せる。だからこそ,世界的な宗教は,キリスト教も仏教も徹底的に弱者の地平から人間の救済を考えてきた。本質的に人間は弱く不完全であり,不完全なまま生き続けるものであるという事態を前にして,私たちは絶望に陥らず希望を語ることが求められている。

お知らせ

「公益財団法人日本脳神経財団2023年度一般研究助成」募集 フリーアクセス

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 公益財団法人日本脳神経財団では下記の通り,一般研究助成の募集を行います。財団のHP(https://jbf.or.jp)の「各種助成申請のご案内」で要項をご確認の上,申請してください。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.989 - P.989

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.990 - P.990

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1087 - P.1087

あとがき フリーアクセス

著者: 虫明元

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 今月号には戦争トラウマに関する総説が掲載されている。タイトルから近年の海外でのさまざまな戦争に関したトラウマかと思って読んでみると,アジア・太平洋戦争という1941年から1945年にかけて大日本帝国が遂行した戦争に関するトラウマの論文であった。しかも戦争トラウマとは戦争に参加した兵士たちのトラウマであった。特に兵士側に起こる倫理的な心的外傷という概念は新鮮であった。

 私は最近では,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の孤立・孤独防止事業の一環として,学生の孤独・孤立に対して演劇手法によりコミュニケーションを育み,さらにはコミュニティの共感性を醸成する活動を行っている。参加者が語った物語を即興で演じるというプレイバックシアターでは,さまざまな経験が語られるが,時々その人にとってはトラウマになるような経験談も出てくることがある。個人の胸に封印しておくことも可能ではあるのだが,ふと語りたいと思うときに語りを受け止めてくれる人がいることはその人の孤独感に大きく影響する。たとえ多くの人に囲まれていても,話せないことを胸にして,心の表層だけを語り合うことはある意味で孤独に感じるものである。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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