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雑誌目次

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

特集 新時代の重症筋無力症と関連疾患の診療

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ページ範囲:P.5 - P.5

近年,重症筋無力症治療は大きな進歩を遂げ,新時代とも呼べる変革期を迎えている。かつての治療の中心は胸腺摘除術と高用量経口ステロイドであったが,2014年版のガイドラインでは治療目標として「MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下)」が提唱され,2022年版では漸増・漸減による高用量経口ステロイドを「推奨しない」と明言された。また,2017年には分子標的薬のエクリズマブが適応拡大され,2022年以降も相次いで新薬が登場している。その一方で,ランバート・イートン筋無力症候群に対する治療薬は限定的であり,保険適用もなされておらず,今後の課題と言える。本特集では2022年版ガイドラインを概観するとともに,各テーマで診療の最前線を論じていただいた。現状と課題への認識を新たにし,診療・研究に役立てていただきたい。

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022 overview

著者: 村井弘之

ページ範囲:P.7 - P.12

『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』について解説を加えた。ポイントは,(1)わが国の診療ガイドラインとして初めてランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)を取り上げた,(2)重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)とLEMSの新しい診断基準を提示した,(3)漸増・漸減による高用量経口ステロイド投与を推奨しないと明言した,(4)難治性MGを定義した,(5)分子標的薬として補体阻害薬を取り上げた,(6)MGの新しい分類を示した,(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した,などである。

成人重症筋無力症の診療

著者: 鵜沢顕之

ページ範囲:P.13 - P.18

重症筋無力症は神経筋接合部に存在する自己抗体が産生されることで神経筋伝導が障害され,全身の筋力低下をきたす難病である。ステロイドや免疫抑制薬での治療が中心に行われるが寛解状態は得がたい。早期速効性治療戦略により予後の改善は得られているものの,治療目標の達成率は十分とは言えず,新規分子標的薬の開発が盛んに行われている。治療法の多様化や発症年齢の高齢化などに伴い,重症筋無力症診療を取り巻く状況は大きく変化しており,本論では成人重症筋無力症の診療について概説する。

小児重症筋無力症の診療

著者: 石垣景子

ページ範囲:P.21 - P.26

小児発症重症筋無力症の病態は成人発症と変わらないが,眼筋型が主体,低い抗体陽性率,低い胸腺腫合併率,高い寛解率などの点で成人発症例と大きく異なる。成人の治療方針である低用量ステロイド,非経口速効性治療戦略のエビデンスは小児において十分でなく,免疫抑制薬の安全性も確立していない。むしろ,十分な量のステロイド使用により,寛解率が高いことが報告されているため,成人の治療方針との乖離が生じている。

irAEとして発症する重症筋無力症の臨床像

著者: 鈴木重明

ページ範囲:P.27 - P.32

免疫チェックポイント阻害薬に関連した免疫関連有害事象として発症する神経・筋障害は多彩である。特に重要なのが,重症筋無力症(irAE-MG)であり投与早期に発症し,頻度は1%程度である。急速に進行し球症状やクリーゼを伴う重症例が多く,血清クレアチンキナーゼが高値であり筋炎の特徴を併せ持つ。致死的な心筋炎を合併する場合があり,Kv1.4抗体がバイオマーカーとなる。ステロイドなど免疫療法が有効で,早急に開始する必要がある。

ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)の診療

著者: 北之園寛子 ,   吉村俊祐 ,   白石裕一 ,   本村政勝

ページ範囲:P.33 - P.40

ランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)患者の約90%がP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(VGCCs)抗体陽性であり,臨床的に特に小細胞肺がんを伴う傍腫瘍型とがんを伴わない非腫瘍型に大別される。2022年5月に重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022として本邦初のLEMS診療ガイドラインが作成された。本論では,疫学・症状,診断・検査,および,治療・予後についてガイドラインを引用しながら解説する。

先天性筋無力症候群の診療

著者: 大野欽司

ページ範囲:P.41 - P.45

先天性筋無力症候群(congenital myasthenic syndromes:CMS)は神経筋接合部信号伝達が先天的に障害される疾患群であり,神経筋接合部に発現する36種類の遺伝子において病的バリアントが同定されてきた。CMSは筋無力症状が必発ではなく先天性筋症を含む幅広い疾患との鑑別が重要である。2歳以下発症の筋力低下に対する低頻度ならびに高頻度反復神経刺激検査が必要である。多くの病型において病態に応じた治療法が存在し,遺伝子解析による診断が重要である。

MuSK抗体陽性重症筋無力症の病態

著者: 重本和宏

ページ範囲:P.47 - P.53

重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)の長期的な寛解は稀で患者のhealthy-related QOLは健常者に比べて低い。MG患者の約5%は筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase:MuSK)抗体が陽性のMGで,全般的に症状が重く難治例や筋萎縮が残存するなど予後不良例がある。最近,MuSK抗体陽性MGの発症メカニズムの研究から難治性の原因が明らかになりつつある。本論で最新の知見を概説する。

臨床で遭遇するdouble seronegative重症筋無力症—実態と病態を考察する

著者: 近藤誉之

ページ範囲:P.55 - P.60

アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)抗体,筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase:MuSK)抗体が既存法で陰性の重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は,DNMG(double seronegative MG)とされる。Cell-based assayでAChR抗体,MuSK抗体の関与が証明される症例もある。検査上,AChR抗体の検出されないAChR抗体関与症例は多く,両抗体の関与しない重症DNMG例も存在すると推測される。

神経筋接合部(NMJ)の形成・維持シグナルとNMJ標的治療の開発

著者: 山内(井上)茜 ,   山梨裕司

ページ範囲:P.61 - P.67

骨格筋は個体の運動機能,認知機能や多様な臓器の健全性に必須の器官であり,骨格筋機能を支える筋収縮は運動神経による厳密な制御を受ける。運動神経軸索末端と筋管(筋線維)を結ぶ神経筋接合部(neuromuscular junction:NMJ)は骨格筋収縮の運動神経支配に必須の化学シナプスであり,その異常は筋力低下を含む多様な骨格筋機能の異常を引き起こす。本稿では骨格筋におけるNMJ形成・維持シグナルの理解とNMJ標的治療開発の概要を紹介する。

Fc融合蛋白を用いたAChR抗体中和・選択的B細胞抑制療法

著者: 鵜沢顕之 ,   山下潤二 ,   桑原聡

ページ範囲:P.69 - P.72

重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は主にアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)に対する自己抗体によって神経筋伝導が障害される疾患である。ステロイドを中心とした既存治療による寛解率は低く,また長期免疫抑制による有害事象のリスクも無視できない。われわれは「正常免疫を抑制せず,病原性抗体・細胞を選択的に除去する」というコンセプトのもとAChR構造に免疫グロブリンG1のFc部位を結合させた融合蛋白AChR-Fcによる新規治療の開発を進めている。この融合蛋白はAChR抗体の中和活性と病原性B細胞に対する細胞傷害活性という2つの作用機序を有し,MGの克服につながる新規治療シーズである。

総説

てんかんの発生を時間的・空間的にピンポイントで抑える治療法の開発

著者: 宮川尚久 ,   南本敬史

ページ範囲:P.73 - P.79

近年,遺伝子操作で導入した人工受容体とそれにのみ作用する人工薬剤を用いて神経活動を操作する化学遺伝学と呼ばれる手法を応用することで,てんかんを時間的・空間的にピンポイントで抑える治療法の開発が進められている。本論では,化学遺伝学による神経活動操作のしくみについて概説した後,てんかん抑制の有効性をサルで確認した最近の研究について紹介する。また今後の臨床応用に向けた展開についても言及する。

薬物依存症のサイエンス

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.81 - P.87

人が薬物依存症になる原因には不明な点が多い。覚醒剤やヘロインといった強力な依存性薬物の使用を経験した人のうち,依存症に罹患するのは一部にすぎないことがわかっている。また,薬物依存症者における嗜好薬物の選択は,薬理学的依存性の強弱以外の基準にしたがって主体的に行われていることを示唆する研究もある。このような問題意識を踏まえ,本論では,Khantzianらの「自己治療仮説」を中心に薬物依存症の発症機序を論じた。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・予告【新連載】

易転倒性で発症し,経過5年で死亡した76歳男性例

著者: 佐野輝典 ,   川添僚也 ,   佐藤典子 ,   髙尾昌樹

ページ範囲:P.88 - P.89

〔現病歴〕72歳時,立位,歩行時のバランスが悪くなり,後方に転倒するようになり,屋外で杖,自宅で手すりを要した。73歳時,飲水でむせる嚥下障害を生じた。週に数回転倒し,強く後頭部を打撲することもあった。四点杖,歩行器を使い始めた。当院脳神経内科外来を受診,神経学的所見「顕著な後方突進・姿勢反射障害,左上肢に寡動,左優位のすり足,小刻み歩行,嚥下障害,L-ドパ反応性はなし」。

 74歳時,毎日転ぶようになった。症状は進行性に悪化し,75歳時,車いす移動になり,食事でむせるようになった。高次脳検査でMini Mental State Examination 30/30点,Frontal Assessment Battery 16/18点で,認知機能検査は正常範囲内だが,語の流暢性低下を認めた。失行を認めず,眼球運動制限は明らかではなく,不随意運動を認めなかった。

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ページ範囲:P.95 - P.95

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著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.96 - P.96

 先月号の特集,「アガサ・クリスティーと神経毒」の企画を担当した。私は少年時代からミステリーが大好きで,特に「刑事コロンボ」の影響が大きかった。クリスティーを本格的に読み始めたのは大学院生のころで,意表を突くプロットの数々に傾倒していった。最近は謎解きで味わう意外性はもちろん,人がなぜ嘘をつくのかに興味を持っている。

 ミステリー作家である道尾秀介さんの講演を聞いたことがあるが,ページをめくったときに「あっ」と言わせるように,見開きページの中で文章の長さを調整しているそうだ。その趣向の極みが,『いけない』(文藝春秋,2019)という作品である。各章の最後のページをめくったところに,一枚の写真が挿入されている。それを見たとたん,「はっ」と想定外の真相に気づくだろう。私の場合,話によっては多少時間を要するものもあったが,書かれていない結末を自分で推理して頭の中に話を再構築したほうが,読後感が格段に強まると感じた。この読書体験は新鮮かつ強烈なもので,ストーリーの細部に至るまで,容易には忘れそうにない。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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